2017年10月2日月曜日

【ベルの狩猟日記】001.森丘を往く者【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G

断さん作
【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/

■第1話

001.森丘を往く者


突き抜けるような澄んだ青色の空の下、森丘と呼ばれる地帯に一陣の風が吹き渡った。
晴れ渡る空に千切れた綿のような雲が散り散りに浮かび、麗らかな陽射しが辺りを包み込んでいる。大地には赤や黄などの色取り取りの花が咲き、生い茂る草葉は風に応えるように手を振っている。空気が透き通っていて、深く吸い込むと肺まで綺麗になるような錯覚を覚える。
晴天の日の下、一人の少女が草の大地を歩いている光景が映る。
歳の頃は十代半ば――十五~六だろうか、幼さの残るあどけない顔立ちをしている。纏っている服――否、鎧のように見える装備は、全身淡い桃色で統一されている。耳に黄色いピアスを付けているだけで、頭を覆う防具は無く、紺色の長髪が風に弄ばれている。瞳は青色で、釣り目気味。背中には何故か大きな魚の骨にしか見えない物を背負っていた。一緒に矢筒も背負っている事から、大きな魚の骨にしか見えない長い棒のような物は、実は弓だったと分かる。
起伏の緩やかな坂道を歩き詰め、少女は小高い丘の上に立った。丘から辺りを見渡すと、遠くに草食竜のアプトノスが草を食んでいる姿が映った。
アプトノスとは、岩石のような色合いをした巨大なモンスターである。比較的温厚な性格をしており、人間が近寄っても突然襲いかかるような事はまず無い。子供なら人間よりも少し大きい程なのだが、大人になると一気に二~三倍程の大きさにまで成長する。アプトノスから取れる生肉は焼くととても香ばしい匂いがするので、ハンターランクの低いハンターから、一般的な食料として、頻繁に狩られている。温厚な性格から、農業に用いたり、荷車を引かせたりする者も少なくない。
少女はその光景を遠めに見つめつつ、腰に携えていたポーチを漁り、中から地図を取り出す。この辺の詳細が記されていた。
「……村はこっちの方角で合ってるのよね……」
ブツブツと呟きながら地図を指でなぞる。一旦地図から目線を上げて辺りを見回しても、ここが本当に地図に載っている場所なのか、よく分からない様子だった。
やがて少女は小さくため息を零すと、地図を折り畳んでポーチの中に仕舞い込み、前方に見えるアプトノスの群れを無視して進み出した。遠方には頂きが白く覆われている山脈が映り、右手には離れた場所に大きな川が流れている。少女は山脈の在る方へと進んで行く。
――と、その足が急に止まる。視線の先にはアプトノスの群れ――ではなく、更にその奥。そこには青い鱗を纏った、二足歩行をする、鳥とトカゲを足して二で割ったような小型のモンスターが姿を現していた。
名をランポスと言い、全身が青い鱗に覆われ、鳥のような鋭角的な顔とクチバシと、発達した後ろ脚に、鋭い爪を持つ前脚を巧みに使って、集団で狩りを行う、鳥竜種に分類されるモンスターである。彼らは集団戦を好み、少なくても二~三匹で行動するのが常だ。
少女から五十メートルほど先に佇むランポスの数は三匹。まだ少女に気づいた様子は無かったが、少女はどうするべきか悩んでいた。
(まだこの辺に来て一度もモンスター狩ってないのよね……ちょっと腕鳴らしでもしてみようかしら?)
思考をすぐに打ち切り、刹那に戦闘体勢へと移る少女。背中に背負っていた大きな魚の骨――カジキマグロの骨を再利用した弓、カジキ弓【姿造】を抜き放ち、矢を番えずに駆け出す。距離が離れ過ぎた場所から射ても、効果が少ないため、出来得る限り接近してから攻撃を開始する。そう作戦を立てた。
やがて距離が三十メートルを切ったその時、ランポスが少女に気づき、「ギュァ、ギャア!」と喚き始めた。一匹が鳴いて警戒したために、残りの二匹も伝播するように視線を少女へと向けてくる。この辺は少女にとっても想定内だった。
少女はその時点になって矢を番え始める。矢を三本纏めて番え、弓を引き絞りながらランポスへと駆ける。その距離、残り二十メートル。
一匹のランポスが屈むように後ろ脚を折ると、次の瞬間には脚をバネのように動かし、大きく跳躍して少女に襲いかかって来た。鋭い爪を使って少女を引き裂く、その寸前に少女は矢を放つ。空中から襲い来るランポスの胴に三本の矢が突き刺さり、中空で体勢を崩したランポスは地面に落とされる。
別の一匹は少女を回り込むようにして走り出し、もう一匹も逆側から少女を挟み込むようにして移動を始める。機敏な動きに、一瞬戸惑う少女だったが、即座に矢を装填し直し、なるべくどちらにも背後を見せないようにして立ち回る。
地面に落とされたランポスが起き上がり、「ギャアァ、ギュアア!」怒りを露にして、先程よりも甲高い喚き声を発した。その光景に少女の口許に皮肉った笑みが浮かぶ。
「流石に一撃では倒れてくれないか……!」
少女は三匹のランポスが連携を為す前に数を減らしてしまおうと考え、三本纏めて矢を番えると、刹那に射った。ランポスは少女の早業を避ける事が叶わず、一匹の頭に三本纏めて突き刺さり、小さな慟哭を漏らすと、仰け反るようにして跳ね、横倒しになった。
残り二匹――そう思ったのも束の間、頭に三本の矢が突き刺さったランポスが軽やかな動きで立ち上がり、先程と同じように怒りの喚声を吐き出した。
「頭に当てたのに、どうして死なないの、こいつ……!?」
つい独り言が漏れる。腹に矢が突き刺さった奴と、頭に矢が突き刺さった奴、そして無傷の奴。いつも狩っていた連中よりしぶといのなら、雑魚のモンスターと言えど、侮ってはいけないようだ。
「ギュア!?」
頭に矢が突き刺さったランポスが体を少し反って高らかに喚声を発すると、大きく跳躍して襲いかかって来た。まだ矢は番えていない。少女はランポスの右側へ向かって前転をして攻撃を躱す。
すると間近に迫っていた腹に矢が刺さったランポスが爪を振り下ろす瞬間に行き当たった。咄嗟に爪を掻い潜るようにしてランポスに体当たりをかまし、体勢を崩しながらも危機を離脱する。ランポスは体当たりを受けた瞬間、若干体勢を崩したが、すぐさま嘴のような形の口で、少女に噛みつこうと迫ってくる。
少女は矢を引き抜いて握り締め、咄嗟にランポスの眼球を貫いた。「ギャアァァ!」と絶叫が迸り、踏鞴を踏んで狼狽えるランポス。右目に矢が突き刺さったまま、その場で何度も足踏みを始めた。短い前脚で矢を取り除こうとするが、眼球に深く突き刺さった矢はそう簡単には抜けそうに無い。
時間稼ぎにはなっただろう、と少女が一息吐く間も無く、無傷のランポスが飛びついて来た。背中から押し倒されるようにその場に転がされ、少女は背中に痛みを感じながらもすぐさま立ち上がると、体勢を立て直しながら矢を番えて引き抜く。背後からは無傷のランポスが迫り来るだけでなく、頭に矢が刺さったランポスが大きく跳躍して襲いかかって来る瞬間だった。
「次から次へと……!」
跳躍攻撃を前転で躱すと、刹那に弓を番え直し、着地した瞬間のランポスに四本纏めての拡散した矢を飛ばす。頭に矢が刺さったランポスの首から尻尾に掛けて矢が全て突き刺さり、横倒しに倒れ込んだ。
その間に無傷のランポスが背後に迫り、爪を振り下ろしてきた。爪が頭に喰い込む直前に気づき、咄嗟に抜いていた矢を逆手に持って、振り返りながらランポスの首元に矢を突き刺すと同時に、ランポスの側面へと体を移動させる。そのままランポスの首に腕を回すようにして背中に飛び乗ると、突然の出来事に混乱しているランポスの後頭部に、零距離で矢を射る少女。流石に零距離だったためか、矢が頭を貫通し、ランポスは呻き声を発する事無く、そのまま倒れ込んだ。
崩れ落ちるランポスから飛び降りた少女は、右目に矢が突き刺さったままのランポスへと矢を放った。的確に三本の矢が頭に突き刺さると、ランポスはようやく動きを止めた。もう周囲に動く気配のするランポスの姿は無かった。
「はぁ、はぁ……これで、終わり、かしら……?」
息が上がったままの少女は、その場に崩れ落ちそうになるのを堪えると、剥ぎ取り用の小さなナイフを取り出し、倒れて動かなくなったランポスの鱗や牙、皮を丁寧に剥ぎ取っていく。
ハンターはこうやって倒したモンスターの皮や鱗などの素材を剥いで、それを街の工房に持って行き、新しい武器や防具を創って貰ったり、持っている武器を強化して貰ったりする。そして再び強大なモンスターを狩りに行くのである。
少女がランポスの素材を剥ぎ取っていると、ランポス達の体が徐々に溶けていくのが見て取れた。
ランポスなどの小型のモンスターや草食竜などは、死ぬとすぐに体の溶解が始まるので、手早く素材を剥ぎ取らねばならない。なので、狩場にモンスターの死体が残っている、なんて事はまず有り得ないのである。因みに剥ぎ取った素材は溶解する事は無く、加工されるまで変化が起こる事はまず無い。
弓使いの少女は剥ぎ取った素材をポーチの中に仕舞うと、目的地である山脈の麓の村へと再び歩みを始めた。が、すぐにその足は止まった。
目的地へと続く道の先に、先程見た影が見えたのである。
ランポスか? ――否、姿こそ同じだが、大きさはランポスの二倍以上有る。それは少女の三倍は有ろうかと言う大きさの、ランポスだった。頭に鮮やかなオレンジ色のトサカが有る事から、先程倒したランポスの親玉でありリーダー格である、ドスランポスだと知れる。
「ギャア、グギャアァ!!」
モンスターとは言え、その感情が手に取るように、少女に分かった。仲間――いや、子分とでも称すべきランポス達が次々に殺されたのだ、それを見て何とも思わない親分がいよう筈も無い。あのドスランポスはこれでもかって言う位に――怒ってる。
少女は自分の実力を鑑みて、ドスランポスなど楽に狩れると考えていた。何より、自身の装備がそれを静かに物語っている。武器こそカジキマグロを釣り上げて造った物なので何とも言えないが、淡い桃色の防具の方は、フルフルと呼ばれる大型の飛竜の素材で造られた物である。ドスランポスなどと比べるまでも無く、モンスターとしての格が違い過ぎる。
にも拘らず、少女には何故か、心に余裕が無かった。そもそもこの森丘に来たのは、この先にある辺鄙な村へ行くためであって、ギルドからの依頼でも何でも無かった。つまり、ここで幾らランポスを狩ろうと、ドスランポスを討伐しようと、褒賞金は一切出ない。一zにもならない仕事ほど嫌いなものは無いと考えている少女である、この戦いは無理にする必要は無いと分かっていた。
更に、寧ろこっちの方が重要なのだが、ランポスが異様に強く感じられた事に、少女は不信感を懐いていた。以前、別の街でモンスター退治の仕事を請け負っていた時は、ここまで強くは感じなかった。それどころか、頭に矢を一発射るだけで即死するような弱さだった。にも拘らず、ここのランポスはあまりにしぶとかった。これが大型のモンスターにも当て嵌まるのなら……何やら危険な匂いを感じずにはいられない。
ドスランポスの素材が欲しい! と思っている訳でもない少女は、逃げの一手を打つ事に決めた。弓を背負い直し、ドスランポスを見つめると、「えーと、さいならっ」と背中を向けてダッシュで逃げ出した。鮮やかなまでの遁走だった。

【後書】
初めての方は初めまして~、お馴染みの方はどうも~、作者の日逆孝介です。
過去「P琢磨」名義で配信していた「ベルの狩猟日記」ですが、二度も作品削除の憂き目に遭いましてな。一度目は「小説家になろう」で二次創作廃止にて、二度目は「ハーメルン」で垢を削除した折にて。
そんな折、先日フォロワーの旋律さんから「また投稿するのでしたら紹介させて欲しい!」と、何とも嬉しい申し出が有りまして、ならばと早速過去のパソ子からサルベージしてきた次第ですよ! 日逆さん仕事早い時は早いんですから!!
と言う訳で三度日の目を見る事になった「ベルの狩猟日記」! 今回配信する際にちょこっと手を加えておりまして、と言っても物語の根幹に係わる修正ではなく、ルビなどを極力排したり、お前キャラブレブレやぞって辺りに手を加えたりした程度なので、本筋そのままと言いますか、たぶん読者様に気づかない程度の誤差的な修正です。たぶん。
ともあれ本日より再々掲になりますが、のんびりと投稿して参りますので、当時閲覧されていた読者様も、「あ~こんなシーン有ったな~」と思い出しながら楽しんで頂けると幸いです。
毎話この後書スペースを使って、実はこんな裏話が有ったんだよ~とか、元々こういう設定で綴ってたんだよ~とか、当時を振り返ったり、今後の展開のネタバレにならない程度の裏事情をお話ししていこうと思います。
そんな訳で、にゃんと執筆開始から9周年を迎える「ベルの狩猟日記」、今後も何かしら動きが有ると思いますので、どうかのんびりお付き合い頂けたら幸いです~! それではまた次回!

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