2018年5月17日木曜日

【余命一月の勇者様】第22話 親切の選択〈1〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/06/04に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第22話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9323

第22話 親切の選択〈1〉


「シュウエンってどんな所なんだろうな~」

 ヒネモスの町を発ち、シュウエンに続いている街道をのんびり歩く四人の姿が有った。
 一日絶対安静と言われたミコトの容態が安定したため、これ以上日程を遅らせる訳にはいかないと、ミコト達ての希望により、朝から旅の準備を始め、昼過ぎからシュウエンに向かって歩き始めたのだ。
 旅費に余裕が有ったので駅馬車を使おうと決めていたが、昼の便を逃し、次の駅馬車の発車は夜になると言われたため、だったら途中まで徒で進み、道中の駅から利用しよう、と言う話で落ち着いた。
 田畑が広がる田園風景を横目に呟きを落としたマナカに、ミコトは「大きな都市って言われてるから、きっとヒネモスよりも広いんじゃないか?」と振り向きながら応じた。
「ヒネモスより広いのか!?」驚きに目を瞠るマナカ。「じゃあ焼肉屋も広いのか!?」
「あぁ、広いだろうな」コックリ頷くミコト。
「まじかよー! あぁ、早く行ってみてえな、シュウエン……!」涎を拭き取りながら呟くマナカ。
「……マナカ、本来の目的忘れてない?」ジト目でマナカを見やるレン。「あたし、シュウエンに行った事有るわよ」
「どんな所だったの?」レンを見上げるクルガ。
「とっても広いし、それに大きなお城が有るのよ」クルガの前で大きく腕を広げるレン。「王様が住んでるお城って、とっても大きいのよ。ヒネモスの街くらい有るかも」
「凄い大きい!」目と口を大きく開けるクルガ。「じゃあ、王様も、大きいのかなぁ?」
「そんなに大きいお城に住んでるんだから、王様もやっぱり大きいんじゃねえか?」腕を組んで小首を傾げるマナカ。「クルガ、王様に踏み潰されないように気を付けないとな!」
「うん! 気を付ける!」コクコクっと頷くクルガ。
「いやいや、王様はあたし達と同じ大きさだから。お城が大きいだけだから」思わずツッコミの手を入れるレン。
 他愛の無い会話を繰り広げつつ、のんびりとしたペースで歩を進めていく四人の頭に、ぽつ、と雨滴が落ちてきた。
 晴れていた天候が崩れ、空には曇天が敷き詰められつつある。雨脚が少しずつ強くなっていくのを感じ、ミコトが「ずぶ濡れになる前に、全員合羽を着るぞ」と背負っていた筒袋から四人分の合羽を取り出し、手渡していく。
「皆、お揃い!」小さな黄色い合羽を纏ったクルガが、その場でくるりと回って、同じ色の大きさが少し大きい合羽を纏った三人を見て、嬉しげに微笑んだ。
「あぁ、お揃いだ。皆似合ってるぜ」ポン、と合羽の上から頭を撫でるミコト。「日が暮れる前に雨宿り出来る場所まで進むぞ」
 雨脚は徐々に強くなり、土砂降りの様相を呈していく。
 街道では、突然の大雨を受けて頭を庇いながら駆けて行く者や、馬を木陰に休ませて馬車で休憩している者など、様々な対応に追われている。
 その道すがら、街道の隅で立ち往生している馬車を発見したクルガは、ちょんちょんとミコトの袖を引っ張った。
「どうした?」ミコトが振り返ってクルガに目線を合わせる。
「あの馬車、動けないみたい」立ち往生している馬車を指差すクルガ。「困ってる。助けないと」
 クルガの視線を追って、街道の隅に佇む馬車を見つけたミコトは、ポン、とクルガの頭を撫でて、「そうだな、助けないとな」と先を行っていたマナカに向かって声を上げる。「マナカ、困ってる奴を見つけた! 行くぞ!」
「おうっ、任せとけ!」走って戻ってきたマナカは、「誰が困ってるんだ!?」とミコトの前でキョロキョロと視線を彷徨わせる。
「あの馬車だ」クルガが先に走って行ってしまった場所を指差し、マナカの肩を叩く。「どうやら泥濘に車輪を取られたみたいだから、俺達の出番だぜ」
「任せとけよ!」ドンッと胸を叩くマナカ。
「本当に、お人好しよねぇ」そんな二人を傍で眺めていたレンが溜息を落とす。「だから好きになったんだけどね」と二人の後を追って駆け足で馬車に向かう。
「あの、その、困って、る……?」
 大きな荷馬車の御者であろう三十代の男は、クルガの声に対して睨み返すと、「ちッ」とこれ見よがしに舌打ちして再び車輪を見て、有ろう事か荷馬車を蹴り飛ばし始めた。
「あ、あう……こ、困ってるなら、助け、る……だから、お、怒らない、で……?」フサフサの耳を伏せて頭を押さえるクルガ。
「おーう、おっさん、困ってるのか?」後から駆けてきたマナカが声を掛ける。「車輪が埋まってんだろ? 俺達が出してやっからよ! 任せとけって!」
「……」男は鬱陶しそうにマナカを睨み据えると、「……あぁそうだよ、車輪が埋まっちまって動かなくなっちまったんだよ。雨が止むまで動けねえだろうから、ほっといてくれ」
「当分止みそうに無さそうだけど」マナカの後からやって来たミコトが声を掛ける。「止むの待ってたら日が暮れちまうだろ? 車輪を出すの、手伝うぜ」
「……何なんだあんたら?」胡散臭そうに表情を歪める男。「謝礼が目当てなら、よそ行ってくれ」
「そ、そんなの求めて――っ」「マナカ、そっちの車輪はどうだ?」「埋まってねえな! そっちの車輪だけだ!」「よし、じゃあマナカ、こっちに来て一緒に押すの手伝ってくれ!」「おうよ! 任せとけ!」
 クルガが泣きそうな表情で否定しようとした瞬間、ミコトとマナカが白雨の雨音に負けない大声を張り上げて合図を出し合い、「「せーのっ!」」と車輪を押し始めた。
 クルガはそんな二人を見て、再び男に視線を向けた。男は怪訝な表情で二人を見やり、手伝おうとはしなかった。
「「せーのっ!」」二人同時に力を込めるも、泥濘に嵌まった車輪は若干動くだけで、抜ける気配は無かった。
「この調子なら、もう少し動かせば何とかなるな。クルガ! 手伝ってくれ!」
「あっ、う、うんっ!」
 ミコトに呼ばれて、男の視線を気にしながらも二人の元に駆け寄るクルガ。マナカが少し移動し、クルガが入れるだけのスペースを空けると、ミコトが車輪の上の荷台を指差す。
「ここを力一杯押してくれ。俺が合図を出すから、その瞬間に、全力でだ。出来るか?」
「う、うん、頑張る!」むんっと拳を固めるクルガ。
「よし、じゃあ行くぞ。せーのっ!」
 ミコトが合図を出した瞬間、マナカが顔を真っ赤にして「んんんっ!」と荷馬車を押し出そうと力を込める。
 ずずず、ずずず、と少しずつ動くも、微々たる進みだった。泥濘から出るには、まだ力が足りない。
「……あんたら馬鹿か? 馬でも出せねえ荷馬車を、人族と亜人族だけの力で動かせる訳ねえだろ」
 呆れ返った様子の男を無視して、ミコトは「ふぅ、あと少しだな。マナカ、もう少し右に……箸を持つ方の手の方に力を込めて貰って良いか? クルガは荷台のこっち側を、全力で押してくれ」テキパキと指示を出し、再び力を込める。「行くぞ! せーのっ!」
 その様子を馬鹿馬鹿しそうに見つめていた男だったが、次の瞬間には瞠目する事になった。
 たった三人の力で、馬の力でも脱出できなかった泥濘から、車輪を押し出す事に成功したのだ。
 マナカはその反動で泥濘に全身を叩きつけ、クルガは躓きそうになり、ミコトはそのクルガを支えてよろめきながらも踏み止まった。
「だ、大丈夫マナカ……?」レンが慌ててマナカの元に駆け寄る。
「ぷぁっ! 泥だらけになっちまったぜ! ナハハハ!」全身泥まみれで大笑するマナカ。「そんな事より車輪抜けたぜ! 良かったなおっさん!」
 男は、「あ、あぁ……」と驚きと呆れの混同した表情を見せていたが、やがてハッと我に返ると、「……ちッ」と居心地悪そうに舌打ちして、御者台に戻り、手綱を引いて何も言わずに立ち去ってしまった。
「なにあれ、感じわるっ」苛立ちを隠そうともしないレン。
「ミコト……ごめん」クルガが泣きそうな表情を浮かべ、ミコトの袖を引っ張った。
「何で謝るんだ?」不思議そうにクルガと目線を合わせるミコト。「クルガは謝るような事をしたのか?」
「あの人、助けようって言ったの、僕だから……助けたのに、嫌な想い、したでしょ……? だから……あうぅ……」フサフサの耳を伏せて、頭を押さえるクルガ。
「クルガ」クルガの頭をポン、と撫でるミコト。「クルガは、あのおっさんに感謝されたくて、助けたのか?」
「え?」涙を浮かべた瞳を、ミコトに向けるクルガ。
「クルガは、どうしてあのおっさんを助けたいと思ったんだ?」
 ミコトは真剣な表情で、クルガの瞳を覗き込む。
 クルガはそんなミコトに向き合って、口唇を引き締めた。
「あの人が、困ってたから、助けたいって、思った」
「だったら謝る事は無いよな? クルガは困ってる人を助けた。俺はそれを手伝いたいと思った。それで困ってた人は助かった。それで、クルガは何を謝るんだ?」
 ポンポン、とクルガの頭を撫でながら、ミコトは優しく続ける。
「感謝されたくてやった訳じゃないのなら、感謝されなくたって気にするな。クルガは、あの人が困ってると思ったから助けた。俺はそれを“頑張ってるな”と思ったから手伝った。それで感謝されなかったとしても、俺はクルガが頑張ってくれた事を知ってるし、クルガは自分が頑張ったって事、自覚してるか?」
「自分が、頑張ったって、事……」
 クルガは、もう白雨の先に消えてしまった荷馬車を追い駆けるように頭を上げ、それから自分の、雨で濡れてしまった両手を見下ろし、最後に三人に視線を向けた。
 三人は優しく微笑んでいて、皆、頷いてクルガの発言を待っていた。
「……僕、困ってる人を、助けられた、の……?」
「あぁそうだ」ポン、とクルガの頭を撫でて微笑むミコト。「クルガは、困ってる人を助けた、凄い奴だ」
「つまりミコトに近づいたって事だな!」快活な笑みを浮かべて、グッと親指を立てるマナカ。「クルガ、お前やるな!」
「そうよ、クルガが助けたいって言って助けたんだから」クルガと目線を合わせて、クシャクシャっと頭を撫でるレン。「それだけで、充分凄い事なのよ?」
「みんな……!」瞳を潤ませていたクルガだが、グシグシと乱暴に袖で拭うと、「有り難う! 僕、頑張れた! 皆のお陰で、頑張れたんだ!」はにかみ笑いを浮かべて拳をブンブン振り回し始めた。
「そうだな、俺達もクルガだから、頑張れるんだ」うんうん頷いて、ミコトはクルガの背を叩いた。
「てかマナカが泥だらけなんだけど、それはいいの?」つんつん、とミコトをつつくレン。
「あぁ、早くどこかで水浴びさせたいんだけど、それまで我慢して貰わねえとな」近くの木陰に入り、筒袋から折り畳んだ地図を取り出すミコト。「もう少し行った先に宿場が有るから、今日はそこで宿を借りよう」
「任せとけ! それまでは俺アレだから! 泥も滴る、良い男……って奴だから! ナハハハ!」呵々大笑し始めるマナカ。
「マナカは凄いね。凄い、強い人だ!」うんうん頷くクルガ。
「そうね、そのメンタルの強さだけは羨ましく感じるわ……」仏のような表情でマナカを見つめるレン。
「よし、マナカが風邪引いて倒れる前に宿場を目指すぞ」地図を折り畳んで筒袋にしまい込むと、街道の先を指差したミコトは「マナカは泥だらけだから、捕まえられる前に走って逃げろーっ!」と言って駆け出した。
「えっ? ちょちょっ、ちょっと待ちなさいよーっ!?」と慌てて駆け出すレン。
「わーっ!」楽しげに駆け出すクルガ。
「これは鬼ごっこ……いや違う、泥ごっこだな!? おらおらーっ! 早く走らないと泥だらけにしちまうぞーっ! おらおらーっ!」
 三人の後を楽しげに追い駆けてくるマナカに、三人は土砂降りの中を笑いながら駆け抜けて行く。
 止まない雨に弾ける笑声は、街道に笑いと活気を与えていくのだった。

【後書】
 今回は「親切」にまつわるお話です。
 親切したからと言って、必ずお礼を言われる訳でも、感謝される訳でもない。
 でも、親切ってそもそも、お礼を言われるために、感謝されるためにやる事なんでしょうか?
 私もミコト君達のように、“強い”人になりたいものです(しみじみ)。
 と言う訳で、次回「親切の選択〈2〉」……お楽しみに!

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