2018年5月24日木曜日

【余命一月の勇者様】第23話 親切の選択〈2〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/05/30に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第23話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/8884

第23話 親切の選択〈2〉


「酷い雨だったでしょう? どうぞ当宿自慢の温泉にゆっくり浸かって、温まってくださいね」

 日が暮れる前に辿り着いた宿場町・シマイで、温泉宿に宿泊の段取りをつけた四人は、屋内の温泉にじっくり浸かった後、用意された部屋でのんびり寛いでいた。
「女将さん、良い人で良かったわね」浴衣を着こなしているレンが嬉しそうに呟く。「温泉も気持ち良かったし、旅も順調だし」
「料理も美味かったしな!」マナカがフカフカの布団の上で寝転がりながら吼える。「肉な~、あの茹でた肉美味かったよな~、アレまた食いてえなぁ~」
「女将さんはすき焼きって言ってたな」テーブルの上に地図を広げながら応じるミコト。「牛の肉をグツグツ煮込むと、あんなに美味くなるとは思わなかったな」
「甘いタレも美味しかった!」ミコトの前に座り込んでいたクルガが顔を上げる。「卵を、付けて、食べるの、美味しかった!」
「肉だけじゃなくて、豆腐とか、ネギとか、ニンジンとかも美味しかったでしょ?」怪訝な面持ちで三人を見やるレン。「アレは色んな具材が混ざり合ってるから美味しいのよ、たぶん」
「えー? 肉だけで充分だってー」不満そうに唇を尖らせるマナカ。
「あんたは特にダメよ! 野菜を摂りなさい野菜を!」ガーッと吼えるレン。
「本当は駅馬車を使うつもりだったが、」地図と睨めっこしていたミコトが顔を上げてクルガを見やる。「このまま徒歩でシュウエンを目指す事にしよう」
「時間、掛からない?」不安そうに小首を傾げるクルガ。「馬車の方が、早いよ?」
「時間は掛かるが、俺はこの旅を……ドラゴンに逢って、迷宮を探索して、姫様に逢うって冒険を、急いで終わらせたい訳じゃない」クルガの瞳を覗き込んで、ミコトは告げる。「皆と一緒に、色んな思い出を作りたいんだ」
「思い出?」不思議そうにパチパチと瞬きするクルガ。
「そう、思い出だ」柔らかく微笑むミコト。「今日の出来事だってそうさ。クルガが、泥濘に捕まった馬車を見つけて、自分から進んで“助けたい”って言った事。俺はそれがとても嬉しかったし、もっと応援したいな、って思えたんだ」
「それが、思い出?」難しそうに眉根を寄せるクルガ。
「俺が一ヶ月で命を失うまでの間に、そういう、素敵な思い出をたくさん作りたいんだ」静かに頷くミコト。「だから、目的の達成を優先するんじゃなくて、目的を達成するまでの道のりを、皆で楽しみながら、歩きたいんだ」
 ――もし、ドラゴンが“ミコトの寿命を延ばす”と言う願いを叶えてくれなかったら。
 その時、ミコトの命は予定通り、一ヶ月経った時点で、尽きる。それは絶対に忌避しなければならない運命で、覆すためにも迷宮の最奥にいるエンドラゴンに逢わなければならない。
 ……そう、それはあくまで“願望”であり、絶対ではない。だからこそミコトは、マナカと、クルガと、レンとの思い出を作りたいと思い、行動に起こしている。
 希望を捨てている訳ではない。可能性を見限った訳でもない。それでも、その希望・可能性が叶わなかった時を想って行動する。その選択は、決して絶望から来るものではなく、寧ろ希望を見出しているからこそ選んだ道なのでは……ミコトを見て、そんな想いを懐く三人。
「俺は難しい事はよく分かんねえけどよ、」ミコトに向き直り、あぐらを掻いたままマナカは快活に笑いかける。「俺は、ミコトがそうしてえってんなら、俺もそうしてえ! この旅はよ、ミコトの旅なんだからな!」
「僕も、ミコトのやりたい事、応援する! ミコトと一緒に、思い出作る!」鼻息荒くミコトを見上げるクルガ。「ミコトと一緒にいるって、約束したもん!」
「……そういう事よ」ミコトを見上げて、膝を崩すレン。「あたしも二人と同じ意見。ミコトの伴侶として、ミコトのやりたい事を応援するし、一緒に頑張る。そう決めたもの」
「……ありがとな」嬉しそうに微笑むミコト。「俺も、皆がいてくれるから頑張れるんだ。だから、ありがとな」
 四人は顔を見合わせて微笑み合う。
 ミコトは思う。もし一人で、寿命が残り一ヶ月だと宣告されていたら、今のように明るく振る舞えただろうか、と。
 マナカがいてくれたから、寿命が一ヶ月延びた。そのマナカがいてくれたから、今もこうして笑って過ごせるのだと、改めて思える。
 クルガがいてくれたから、彼を一人前にするまで頑張ろうと思えた。自分のためだけに残りの寿命を使うのではなく、クルガの成長のために残りの寿命が有るのだとさえ、想いは強くなった。
 レンがいてくれたから、寿命が一ヶ月で尽きるのが惜しいと感じるようになった。こんなに素敵で、頑張れる娘が、自分の傍にいてくれる、それだけで幸せなのに、もっと一緒にいたいと思えて、初めて“もっと生きたい”と言う想いを懐いた。
 三人がいてくれたから、自分は今ここにいて、幸せを感じて、明日も頑張ろうと言う気にさせてくれる。だから、お礼を言うのは当たり前で、絶対に言わなくてはならなくて……
 夜が更けていく部屋の中でミコトは、三人と談笑しながら、この旅の結末が訪れる日を初めて、怖いな、と感じるのだった。

◇◆◇◆◇

 ――狼の遠吠えが、聞こえる。
 深夜。寝静まった部屋に、雨音が響くと共に、狼の遠吠えが混ざり込む。
 何度も何度も。決して大きい声量ではないのだが、雨音に混ざって胸に刺さるように、悲しげな遠吠えは続く。
「……」
 ミコトがゆっくりと上体を起こすと、隣でクルガが落ち着かない様子で起き上がるのを目にした。
「ミコト……」困った表情を浮かべてミコトの元に這い寄るクルガ。「狼さん、呼んでる……」
「呼んでる?」クルガに向き直るミコト。「何を呼んでるんだ?」
「分かんない……けど、何か呼んでるの」
 要領を得ないクルガの背中を摩りながら、ミコトは狼の遠吠えに耳を傾ける。
 ヨモスガラの山林にも狼は出る。夜中に遠吠えを聞く事も、無かった訳ではない。そのミコトが感覚で知れるのは、今宿場町・シマイに響いている狼の遠吠えは、切なげで、悲しげな音色を含んでいると言う事だけ。
「狼さん、辛そう……」
 苦しげに呟くクルガを見て、ミコトはすっくと立ち上がった。「分からないなら、直接聞きに行くしかないな」
「直接……?」不思議そうにミコトを見上げるクルガ。
「クルガ。この遠吠え、どこから聞こえてくるか分かるか?」
「狼さんに、直接逢いに行くの……?」驚きに目を瞠るクルガ。
「何かを呼んでるんだろ? 何を呼んでるのか直接聞けば、解決するかも知れないしな」と言ってクルガの頭をポン、と撫でるミコト。「クルガ、出来るか?」
「や、やってみる!」コクコクと頷いて、クルガは部屋を出て行く。「こっち!」
「おう、頼むぞクルガ!」クルガを追って部屋を出て行くミコト。
 温泉宿を出て、雨の降り頻る宿場町を駆ける二人の視界に、小規模だが人だかりが見えてきた。
 宿場町の一角、外れに当たる場所に、十人ほどの男達が困った表情で立っている。闇に沈んだ町の外――シュウエンの方角に在る渓流・シュウ川に架かる橋が崩れていた。
 ミコトはクルガと顔を見合わせた後、人だかりに近づいて、その中の一人の肩を叩く。「何が遭ったんだ?」
「見りゃ分かるだろ? 濁流で橋が崩れたんだ」男の指差す先には、黒々とした土石流が今も囂々と音を立てて流れている。「“コウロウ”の仕業だよ、参っちまうな……クソッ」
「コウロウ?」初めて聞く単語に小首を傾げるミコト。
「あぁ、あんたこの辺の土地の人間じゃないのか」男は改めてミコトに向き直ると、驚きに目を瞠った。「お前……」
「あれ、あんた、昼間の」
 泥濘に車輪を取られて困っていた男が、そこに立っていた。
「ちッ……」面倒臭そうに顔を背けて、近くに佇んでいた少年の手を掴んで足早に立ち去って行く。
「あっ、父ちゃん、いいの?」少年は男を見上げて、ミコトとクルガに視線を向けるも、男の「ここにいても仕方ねえだろ、帰んだよ!」と言う怒鳴り声に体を竦ませると、男に手を引かれるまま見えなくなってしまった。
「なぁ、コウロウって何の事だ?」ミコトは隣にいた少女に声を掛ける。
「ん?」十代後半と思しき、暗闇の中でも目立つ青いふわふわした衣装を纏った、頭に狼の耳が生えている亜人族の少女は、ミコトに向き直ると、「えぇとね、コウロウって言うのは、“雨を呼ぶ狼”の事だよ。だから、“呼雨狼”。名の通り、雨を呼ぶの」と微笑を浮かべて応じた。
「雨を呼ぶ」降り頻る雨の元――闇に覆われた曇天を見上げるミコト。「じゃあこの大雨は、そのコウロウの仕業なのか」
「そうみたいだね」コックリ頷く少女。「シュウエンに続く橋も崩れちゃったし、これはいよいよ、コウロウ討伐の依頼が申請されるかもね」
「狼さん、殺されちゃうの?」クルガが心配そうにミコトを見上げる。
「悪さをしているからな、懲らしめなきゃいけない」クルガの頭をポン、と撫でるミコト。
「狼さん、困ってる」ミコトを見上げて、クルガは強い眼差しで告げる。「僕、狼さん、助けたい!」
「コウロウが困ってる?」不思議そうにクルガを見つめる少女。「どうしてそう思うの?」尋ねながら、少女はクルガと目線を合わせるように屈み込んだ。
「狼さん、困ってる声で、鳴いてる。だから、僕、助けたい!」
 クルガの瞳には強い意志の光が宿っていた。それを見つめる少女の瞳が、やがて笑みに和らぐ。
「そっか。じゃあわたしもお手伝いしていいかな?」と言って少女はクルガに手を差し伸べる。「わたし、トワリ。トワリちゃん、って呼んでね♪」
「僕、クルガ!」少女――トワリと握手を交わすクルガ。「この人は、ミコト! 僕の家族!」と言ってミコトを指差す。
「宜しくな、トワリ」と言ってトワリに手を差し出すミコト。
「トワリちゃん、でいいよっ♪」と言ってミコトの手を握り返すトワリ。
「トワリじゃダメか?」不思議そうに小首を傾げるミコト。
「ん~、ダメかな?」楽しそうに微笑むトワリ。
「分かった、じゃあトワリちゃん、宜しくな」と言って微笑み返すミコト。
「うん、宜しくね♪」手を背後に回し、体を前屈みにして微笑むトワリ。「クルガちゃんは狼さん、えぇと、コウロウを助けたいって言うけど、具体的にはどうするのかな?」
「それは……」もどかしそうにトワリを見上げて口元をもごもごさせるクルガ。
「直接逢いに行く」こそこそとクルガに耳打ちするミコト。「だろ?」
「狼さんに、直接、逢いに行く!」ふんふんと鼻息荒く告げるクルガ。
「おお、直接逢いに行くんだ!」驚いた表情を見せるトワリ。「狼さん、怖くないの?」
「狼さん、怖いの?」ミコトを見上げるクルガ。
「いいや、怖くないさ」フッと笑いかけるミコト。
「狼さん、怖くない!」ふんふんと鼻息荒くトワリを見上げるクルガ。
「フフフ、クルガちゃんは可愛いねぇ、よしよししてあげよう」クルガの頭を撫で始めるトワリ。「よしよし♪」
「えへへ……ミコト! よしよしされた!」嬉しそうにミコトを見上げるクルガ。
「やったな!」グッと親指を立てるミコト。
「やったぁ! えぇと、ばんざああああい!」万歳をし始めるクルガ。
「ところで、君達びしょ濡れだけど、大丈夫なの?」
 ざぁざぁと降り注ぐ雨滴に当たりながら、ミコトとクルガは顔を見合わせ、同時に「へっぷし!」とくしゃみをするのだった。

■残りの寿命:23日

【後書】
 名前とその呼び名から「おや?」と思われると思いますが、そうです、本作品を楽しんでおられる彼女を登場させたくて出演して頂きました! 彼女が今後どういう立場でこの物語に係わってくるのかも、また楽しみの一つにして頂けたらと思います!
 雨を呼ぶ狼の物語は斯くして始まりを迎えます。21話までが“レン編”と言う扱いで、これから始まるのは“クルガ編”になります。クルガちゃんの活躍をお楽しみに!
 次回、24話「雨呼びの狼〈1〉」……“君は、運命を愛せる人なんだね”。

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