2018年5月14日月曜日

【余命一月の勇者様】第21話 友達として、相棒として、家族として【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/03/21に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第21話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9188

第21話 友達として、相棒として、家族として


「では、安静にしてくださいね?」

 パタン、と障子戸が閉められ、レンとクルガが盛大に溜め息を吐き出した。
「だから心配無いって言っただろ?」苦笑を浮かべて起き上がろうとするミコト。
「心配するわよ! あんな血塗れで、立てなくなってたのよ!? 嫁いだ瞬間に未亡人になるとか嫌よあたし!」顔を真っ赤にして怒鳴り散らすレン。
「お前、さっきと言ってた事が違わないか?」
「違わない!!」
「そ、そうか」
 レンの激しい剣幕に然しものミコトも返答に困っていた。
 場所は昨夜宿泊した宿屋の客室。そこに再び足を運び、医者を呼んで診て貰ったのだ。
 診察の結果、ミコトもマナカも命に別状は無いと言われたが、これだけ傷を負って致命傷が一つも無いなんて有り得ないと医者が驚いていたのが、レンとクルガにとって一番心臓に悪い発言だった。
 下手したらあの時に二人は死んでいたかも知れないと考えるだけで、精神的な疲労が心臓を押し潰そうとする。
 更に言うと、動けなくなったミコトに対して行ったマナカの処置が適切であった事を医者は褒めちぎっていた。ここまで完璧に熟されると、自分が何のためにここに来たのか分からないと苦笑いされる程だ。
 結局医者はミコトとマナカに新しい包帯や傷に良いと言う薬草を新たに処方し、一日は絶対に安静にしろと釘を刺して帰って行った。
 全身を包帯や湿布で覆い尽くされたミコトは、よっぽど疲れたのか、レンに反応した後、すぐに静かな寝息を立て始めた。
「……」そんなミコトの寝顔を見下ろして、レンは不貞腐れたように鼻の頭を指で小突く。「……本当に、ミコトみたいな奇跡的な男、初めてよ」
「へへっ、ミコトが光みたいな奴って言われて、俺は嬉しいぜ」ミコトの隣で寝そべっていたマナカが不意に笑声を零した。
「マナカ、寝なくて良いの?」クルガがマナカの枕元に這い寄り、顔を覗き込む。「痛くない?」
「このぐらいの傷、何て事ねーよ!」起き上がり、ゴキゴキッと首の骨を鳴らすマナカ。「レン、ありがとな」
「な、何よ急に。あたし、あんたに何もしてないわよ……?」怪訝な面持ちでマナカを振り返るレン。「魔法も使ってないからね?」
「ミコトの事だよ」マナカの表情はいつに無く真剣で、静かな色を刷いていた。「ミコトの事を想ってくれて、ありがとな。俺、すげー嬉しいんだ。ミコトの幸せを願ってくれる奴が、お嫁さんになりたいって言ってくれて」
「……な、何よ、改まって言われると、凄い恥ずかしいんだけど……」赤面して俯くレン。
「俺もさ、レンと同じ気持ちだったんだよ」ぽり、と頬を掻くマナカ。「ミコトの寿命があと一ヶ月しかないって言われた時、どうしてミコトが!? こんな頑張ってるミコトが、どうして死ななきゃならねえんだ!? って、すげー思ったよ。だから、そんな俺と同じ気持ちを懐いてくれたレンが、ミコトのお嫁さんになってくれるのなら、俺はもう何も心配いらねえなって、すげー思ってさ」
「……そっか。マナカは、あたし達よりミコトといる時間が長いものね」赤面していた表情を潜めて、レンはマナカを見据えた。「あんた、いつもバカみたいな事言ってるけど、ミコトの事はちゃんと考えてるものね」
「へへっ、だって、俺にとってもミコトは光みたいな奴だからなっ」鼻の下を擦り、はにかみ笑いを浮かべるマナカ。「だから、レンの気持ちが、すげー分かるんだ。ミコトの傍にいたいって、叶うならずっと一緒にいたいって気持ちが、すげー分かるんだよ」
 静かな寝息を立てるミコトを見つめて、マナカは優しげな表情を覗かせる。
 そんなマナカの傍に寄り、ジッと顔を見上げるクルガ。
「マナカ。僕、マナカの話も聞きたい」マナカの膝の上に座り、顎を上げて彼の顔を見上げるクルガ。「ミコトと出逢った時の話とか、聞いてみたい」
「確かに、あたしも聞いてみたいわ」マナカを前に膝を崩して、穏やかな表情を浮かべるレン。「ミコトの事も聞きたいけど、あたしはマナカの事も聞きたかったの。あんたもその……大切な、家族だから」赤面してぼそぼそと呟く。
「俺とミコトの話だな! 良いぜ、聞いてくれよ!」快活な笑顔を覗かせて膝を打つマナカ。「俺さ、元々捨て子だったんだよ」
 レンとクルガが息を呑む気配を感じつつ、マナカは腕を組んで続きを口にする。
「イトフユの村の入り口に捨てられてたんだってよ、俺。でさ、じっちゃん……俺の育ての親なんだけど、サヱって爺さん家に拾われたんだ」懐かしむように、マナカは瞑目して話を続ける。「小さい頃にさ、俺、捨て子だったから、苛められてたんだよ。やーい、親無しー、とか言われてさ。俺それがすげー嫌でさ、言われたらすぐにぶん殴って、で、じっちゃんにその度に怒られてたんだ」苦笑を浮かべ、頭を掻く。「お前は捨て子なんだから、苛められるのは当たり前だろ、ってさ。俺もそれは分かってたけど、頭に血が上ったらすぐ手が出ちまうからさ、それでいっつも怒られてたんだ」
 マナカは苦笑を浮かべているが、レンとクルガはその様子を辛そうに見つめていた。仔細は異なるが、身に覚えの有る、辛い思い出を想起させる内容だったからかも知れない。
 そんな二人の様子に気づかず、マナカは虚空を見つめながら口を動かし続けた。
「そんな時に、ミコトに出逢ったんだ。捨て子だー、って言われたからムカついて苛めっ子に殴りかかった時だったかな。ミコトがさ、苛めっ子に言うんだよ。“お前、何でこいつが捨て子だからって苛めるんだ?”って。苛めっ子もそうだけど、俺も固まっちまったんだ。何言ってんだこいつ? ってさ」苦笑を通り越して噴き出してしまうマナカ。「捨て子は苛められるもんだろ? って返す訳だよ、苛めっ子も俺も。それが当たり前だろ? って。でも、ミコトはこう言うんだ。“捨て子だからって苛めて良い理由にはならねえだろ”――ってさ」
「……ミコトらしいわね」思わず噴き出してしまうレン。
「俺その時思ったよ、あ、こいつ、俺以上のバカだ、ってさ」ケラケラ笑っていたが、そこで笑みを潜めるマナカ。「俺も苛めっ子もそう思ったからさ、ミコトを無視して喧嘩を始めたんだ。そしたらミコトの奴、俺の味方してくれてさ。俺が邪魔だ! って殴りつけても、ずっと俺の味方してくれたんだ。おかしな奴だろ?」
「……ミコトだって、すぐに分かるね」微笑を浮かべるクルガ。
「それから、俺が捨て子だーって苛められる度に現れては、俺と一緒に暴れてくれたんだ。俺さ、聞いたんだよ。捨て子の俺に何でそんな事するんだ? って。そしたらミコトの奴、何て返したと思う?」
 二人の顔を見やって尋ねるマナカに、二人は黙って先を促す。
「“捨て子は関係無いだろ。お前が頑張ってるから、俺は応援したくなったんだ”ってさ。俺さ、言ってる意味が分からなくて、言ってやったんだよ。捨て子の味方なんかしてたら、お前も友達できなくなるぞって。そしたらミコトの奴、こう言ったんだ。“お前と友達になれない方が、嫌だな”……ってさ」
 レンとクルガが微笑を隠し切れない様子でマナカを見据える。マナカも嬉しげに口唇が釣り上がっていた。
「でも俺は結局ミコトに友達になろうって言わなかったんだ。こんな変な奴に味方されても全然嬉しくねーし、って、ずっと突っ撥ねてたんだ。今思うと、俺バカだなーって、すげー思うよ」苦笑を浮かべるマナカ。「なのにミコトの奴、俺が喧嘩する度に駆けつけてさ、一緒に暴れてくれたんだ」
「……マナカが羨ましい」ポツリと呟くレン。「そんな小さい頃にミコトに出逢えてる事が、何か狡い」
「……僕も、同じ事考えてた」唇を尖らせて、マナカの太ももを叩くクルガ。「マナカ、狡い」
「へへっ、良いだろ良いだろ?」クルガの肩を叩きながら笑うマナカ。「でさ、俺が十歳の時に、じっちゃんが死んだんだ。老衰だったんだと。俺さ、すげー悲しくて、ずっと家の中で泣いてたんだ。そしたら、家の前にミコトがやって来てさ、あいつ家の前に座って、俺に話しかけてくるんだ。今日はこんな事が有ったんだぜ、とか、母さんがこんな事を言ってたぜ、とかさ。それも毎日。俺さ、初め、俺が悲しんでるのを知ってて、楽しい事や嬉しい事を聞かせて、嫌がらせしてんじゃねーのかって思ったんだよ。だからいつ来ても帰れ! って大声上げてさ。それなのに、ミコトの奴、懲りずに次の日も、また次の日も来て、楽しい事や嬉しい事を言うんだ」
 クルガの顔を見下ろして、マナカは嬉しそうな、けれどどこか寂しそうな表情を浮かべて、呟く。
「俺さ、我慢できなくて、扉をぶっ飛ばして、ミコトに掴みかかって言ってやったんだ。いい加減にしろよ、俺はお前の話なんて聞いてねーんだよ、帰れ! 二度と来るな! ってさ。そしたらミコトの奴、何て言ったと思う? ――“良かった、やっと元気になってくれたな”ってよ。……俺、どうしたと思う?」
「号泣したんでしょ」「泣いた」レンとクルガが同時に呟く。
「当たり!」レンとクルガを両手で指差すマナカ。「俺すげー泣いちゃってさ。ミコトは、俺の事を心配して来てくれてたんだって思って、すげー嬉しくてさ。俺その時言ったんだよ。こんな俺で良いなら、友達になってくれよって。そしたらミコトの奴、“何言ってんだ? ずっと前から、俺達友達だろ”って言うんだ」
 静かに語り終えたマナカは、清々しい表情でクルガとレンを交互に見やる。
「それから俺は、ああ、こいつはすげー奴だって思ったからさ、ミコトの友達として、相棒として、隣に立てる奴になろうと思って、ずっと一緒にいるんだ」クルガの手を弄びながら微笑むマナカ。「俺、バカだけどさ、ミコトの隣を歩けるような奴でいたいんだ。俺にとってミコトは、一生の宝物だからさ」
「……そうね。あたしも、マナカと同じ想いよ」改めてミコトを振り返り、彼の髪を撫でるレン。「付き合いは短いけど、ミコトはあたしの宝物。隣を歩けるように、あたしも頑張らなくちゃ」
「僕も、ミコトの隣にいても良いのかな」マナカを見上げるクルガ。「僕でも、ミコトの隣を歩けるかな?」
「おう! クルガなら大丈夫だぜ!」クルガを抱き締めて揺さ振るマナカ。「クルガはミコトみたいな奴になるんだろ? だったら、大丈夫だ!」
「……有り難う、マナカ」えへへ、と微笑み、マナカの腕を抱き締めるクルガ。「僕も、頑張る!」
「おう! 頑張るなら、応援するぜ! ミコトだって応援してくれるしな!」快活な笑顔を覗かせ、マナカはレンに向き直る。「レンにだって負けねえぞ! 俺もミコトを幸せにするんだからな!」
「うん、あたしだって負けないわ!」表情を華やがせるレン。「それに、マナカだって幸せにするんだから!」
「僕も、ミコトも、マナカも、レンも、皆幸せに出来るように、頑張る!」笑顔を浮かべ、三人に視線を飛ばすクルガ。
 三人は顔を見合わせて笑い合う。
 自分達を巡り合わせてくれた、導いてくれた、光みたいな人のために。
 自分達を幸せにしてくれた人を、幸せにするために。
 三人は決意を新たに、その日を終えるのだった。

■残りの寿命:24日

【後書】
 この話も、「余命一月の勇者様」と言う物語を綴る上で、綴りたくて仕方なかった話になります。
 ミコト君が光だから、周りの皆も光、と言う訳ではないんです。ミコト君と言う光がいてくれたから、周りの皆も光を目指そうと、光の隣にあろうとしている、と言う景色が、私は見たかったんです。
 次回、「親切の選択〈1〉」……いよいよシュウエンに向けての旅が始まります。お楽しみに!

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