2018年7月1日日曜日

【余命一月の勇者様】第30話 王都・シュウエン〈2〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/10/09に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第30話


カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/21392

第30話 王都・シュウエン〈2〉


「かぁーっ! うめえ! こんなうめえご飯食べるの、俺初めてだぜ!」

シュウエンの飲食店が立ち並ぶ街路の一角で、大きな飯店に入った四人は朝飯に定食を頼んで空腹を満たしていた。
まだ夜明けを迎えてから一時間も経っていないのに店に入ったのは、単純に昨夜の名残で、空腹で目覚めた四人はこの時間でも空いている店を探した結果、ここに辿り着いたのだ。
木目調の床と壁、温かなランプの灯りが橙色に染め上げる店内には、四人以外の客は殆どが甲冑を纏った男女ばかりだった。
一目見て分かる。このシュウエンを守護する騎士達だ。一般の客は数えるほどしかいないが、その一般の客と雑談に興じる騎士達の姿も見受けられた。
四人は豚肉と根菜を炒めた料理が添えられた定食をのんびり食しながら、周りに佇む騎士に視線を向ける。
「騎士って、こんなにたくさんいるものなのね」根菜を飲み下しながら、ぽつりと呟くレン。「今から任務なのかしら?」
「これだけ大きな都市って事は、それだけ警備しなければならない場所が多くなるから、俺達の村で言う所の見回りがたくさん必要なんだろうな」ご飯の茶碗を盆に戻しながら応じるミコト。「今、他国のお姫様が来てるって話らしいし、問題が起こったら大変だしな」
「問題って何だ?」もごもごと口の中の肉を咀嚼しながらミコトを箸で指差すマナカ。「お姫様が、何か悪い事でもするのか?」
「お姫様“に”、悪い事をする奴らがいるかも知れない」盆の上に置かれた味噌汁を啜るミコト。「ほら、昔、ヒネモスのお偉いさんに悪い事をした奴がいただろ? 商売をしたいのに、させてくれなかったからって、お偉いさんの家を襲った奴」
「あぁ~、あったなぁ」もごもごと応じるマナカ。
「そういう事を、……つまり、王様や、この都市を襲う奴らがいたら困るから、たくさんの見回りを準備しているんだろう」
「なるほどなぁ。流石ミコトだぜ!」
「流石なのはミコトじゃなくて王様だからね?」思わずツッコミを入れるレン。「確かに騎士がたくさんいる事は知ってたし、前に来た時も見たけど、一ヶ所にこれだけ集まると、壮観って言いたかったのよ」
「皆、お揃いだね!」口元にご飯粒を付けながら、クルガが瞳を輝かせる。「皆、仲良しさんなのかな?」
「そうだ、皆仲良しさんだから、同じ格好をしてるんだ」と言ってクルガの口元に付いたご飯粒を取り、自分の口に運ぶミコト。「この都市を守ってくれる、凄い奴らだからな」
クルガとミコトの言葉に何か感じる所が有ったのか、周りで食事をしていた騎士達が目を見合わせては、微苦笑を浮かべ合ったり、肩を抱き合ったり、小さな笑声を上げたりし始めた。
その様子を、レンは微笑ましい想いを懐きながら、恥ずかしそうにご飯をパクつくのだった。
「あれ、よく見たら、昨日の冒険者じゃん」
不意に声を掛けられ、四人が顔を上げた先には、茶髪を後頭部で束ねて後ろに垂らした――つまり総髪の、緩んだ微笑を浮かべる十代後半と思しき男が、盆を携えて佇んでいた。
四人は顔を見合わせて「誰だ?」と頭の上に疑問符を浮かべる。
「あー、あん時俺、兜してたから分かんないかなぁ。俺だよ俺、昨日櫓門で検問してた騎士よ」と緩んだ微笑を浮かべて自分を指差す男。「席埋まってっからさ、相席いい?」
「昨日の騎士か」ようやく記憶の声と一致したミコトは、頷いて男が入るスペースを作る。「いいぜ」
「あんがとな~」四人用のテーブルに無理矢理自分の盆を下ろすと、「いっただっきまーす」と丼ぶり一杯の肉飯を食べ始める。「おたくら、こんな朝の早い時間に飯屋来るって、珍しいね? 今の時間帯さ、殆ど騎士しかいないから、ビックリしたっしょ?」と箸でミコトを指差しながら呟き始めた。
「何で騎士しかいないんだ?」不思議そうに男を見やるミコト。
「騎士は今の時間帯が勤務交代の時間な訳。これから警備の任務に就く奴と、今から家に帰って寝る奴のね」ガツガツと肉を食べながら、合間に箸をタクトのように振るう男。「だから、シュウエンの人間はあんまりこの時間帯に飯屋来る事無い訳よ。騎士に目ぇ付けられたくないからさぁ」
「騎士って、目ん玉を人に付けるのか!?」思わずご飯を噴き出しながら喚くマナカ。「騎士って、目ん玉どんだけ持ってるんだ??」
「いやいや、目ぇ付けるってそういう意味じゃねーっしょ」思わず噎せそうになる男。「睨まれたくないって事だよ。騎士っておっかねぇからさ」
「そうなのか?」不思議そうに小首を傾げるミコト。「別にお前を見ても、怖いって感じねえけど」
「そりゃー俺ってば住民に愛されるタイプの騎士だからなぁ」きしし、と楽しそうに頬を緩める男。「でも、騎士が皆、俺みたいな奴じゃねえってこったよ。規律を重んじ、礼節を重んじ、忠義を重んじ、って奴。悪い事は言わねえから、あんまり騎士に係わんねえ方がいいぜぇ」
四人の視線を受けながら、モリモリ肉飯を食べていた男だったが、やがて「あっ、そう言えば名乗り忘れてたわ」と空になった丼ぶりを置きながら、小さく満足気な息を吐き出した。
「俺、オルナ。弐式(ニシキ)オルナ。見ての通り、騎士って奴」親指で自分を示す男――オルナ。「困った事が有ったら何でも聞いてくれよ。俺ってばアレ、騎士の中でも規律とか礼節とか忠義とか、重んじないタイプだから」
「変わった騎士ね……」戸惑いの視線を向けるレン。「困った騎士と言うか……」
「俺はミコト。咲原ミコトだ。こっちの大きいのがマナカ。小さいのがクルガ。そして嫁のレン」視線を次々に向けながら紹介するミコト。
「おう! 俺はマナカ! 追瀬マナカだ! 宜しくな!」グッと自分を親指で示すマナカ。
「嫁!? お前今、嫁って言った!?」マナカを無視して、飲んでいたお冷を噴き出しそうになるオルナ。「お前、俺と同い年に見えるのに、もう嫁とかいんの!? しかもこんなクッソ可愛い娘が!? 嘘でしょ!?」
「ちょっと、メチャクチャ恥ずかしいんだけど……」赤面して縮こまってしまうレン。
「あっ、ごめんごめん、思わず大声上げちまったな、すまーん」パンっと手を合わせて頭を下げるオルナ。「いやでも、すげーなおたく。歳幾つよ?」
「俺か? 十九だな」
「や、やっぱり同い年だった……」深刻な表情で俯くオルナ。「やべーな、ちょっとちょっと~馴れ初め聞いてもいい? どこで出逢ったん? 決め手は何よ?」
「グイグイ来るな」思わず苦笑を浮かべるミコト。「騎士には係わるなって言った割には、騎士の方からガンガン絡んでくるぞ」
「ん? あぁ、俺は騎士だけど、騎士の側には立たない騎士だから」ふふん、と胸を張るオルナ。「住民とか、旅客との交流を最優先する、騎士の中でも特殊な騎士なのよ俺。まぁぶっちゃけて言えば、最強的な所有るから俺」
「こんな軽い騎士、あたし初めてだわ……」思わず視線を逸らしてしまうレン。「騎士って、もっとお堅い人間がやってるものだと思ってた……」
「基本はそーよ、お堅くて、大真面目で、自分が偉い事を知ってる人間が、騎士だもん」改めて水を飲み下したオルナは、ヘラヘラした表情を崩さずに立ち上がった。「さて、じゃあ行きますか!」
「行くって、どこに?」不思議そうにオルナを見上げるクルガ。
「決まってるっしょ、王城じゃん!」
四人は再び顔を見合わせ、不思議そうに小首を傾げるのだった。

◇◆◇◆◇

「オルナ。あんたもしかして、暇なのか?」
騎士の恰好ではない、ラフなシャツにジーンズ姿のオルナの隣を歩きながら、ミコトは単刀直入に尋ねた。
オルナは「んー?」と生返事をしながら、ポケットにしまっていた煙草を引き抜くと、口に銜えながら「俺はいつだって忙しいよぅ、今も迷える旅客を王城に案内してるしぃ」と応じ、一緒に取り出したマッチで火を点けた。
「俺達は助かるけど、オルナは今から寝るんじゃないのか?」
朝の業務を始めた商人達が行き交う大きな路地を、五人はのんびりと歩いている。立ち並ぶ商店は暖簾を上げ始め、綺麗に整備された石畳の上を冒険者と思しき軽装の男女が話しながら通り過ぎていく。
街路樹から落ちた枯葉を箒で掃く者、街路を彩る花壇に植えられた紫色の花弁を有する名も知らない花に水をやる者、運動のためなのか訓練の一環なのか薄着でジョギングしている者。様々な人間が朝の日課を、いつも通りの仕草で行っている。
その光景の中に紛れ込む騎士の姿の多さは、王城に近づくに連れて増えていく。四辻に立っている者、馬車の通行を制限している者、住人と連れ立って歩く者、店の前に立つ者と、同じ格好でありながら、様々な場所で、様々な仕事を請け負っているように見える。
騎士の恰好こそしていないが、オルナもその一人だ。その人格・仕草から、騎士だと即座に見抜ける者はいないのではないかと思える程に、レンが懐く騎士の象徴から程遠いが。
「俺は今日非番なの」ふぅ、と紫煙を吐き出して緩んだ微笑を浮かべるオルナ。「それにさ、たぶん俺がいた方が話が早いと思ってよ」
「話が早い?」不思議そうに小首を傾げるミコト。
「まぁまぁ、行けば分かるって」ヘラヘラと笑いながらはぐらかすオルナ。「ところで、えーと、ミコトだっけ?」ミコトが頷くのを確認すると、オルナは煙草の先でミコトを示した。「ミコトはさ、何だって迷宮なんつーやべえ所に行こうとしてる訳? やっぱアレ? 名声的な?」
「いや、死ぬ前に一度、迷宮に挑んでおきたかったんだ」
「あー、記念にって事? 変わってるねぇ。迷宮って言えばお前、命が幾つ有っても足りないような、危険と危険を合わせて二倍にしたようなやべー所なのにさ、よくそんな場所に行きたいなんて思うよねおたくも」
おどけた仕草で煙を吸っていたオルナだったが、不意に小さく目礼を見せた。
「いやあのさ、気ぃ悪くしたならごめんな? 俺は別に、ミコトが迷宮に挑む事を止めたくてこんな事言ってんじゃねえのよ。何つうかその、さっきも言ったけどよ、迷宮って、やべー場所なんだよ、ガチで。だからこそ、国王様が管理して、誰も入れないように騎士に見張らせてるんだからさ。だからよ……」
「もしかして、心配してくれてるのか?」苦笑を浮かべてしまうミコト。「ありがとな、でも俺は、どうしても迷宮に挑みたいんだ」
「……そっか」微苦笑を浮かべて、煙草を銜えるオルナ。「聞きてえんだけどさ、死ぬ前に迷宮に挑みたいって、おたく、もしかして病気でも患ってんの? そんな風には見えねえけど」
「あと二十一日で、死ぬんだ俺」
背後でマナカとクルガとレンが、楽しげに商店を指差しては何事か感想を付けて笑い合っている声が聞こえる。
その先を歩くミコトとオルナの間に、不意に沈黙が下りた。
「……そんなにやべぇ病気なの? おたく」心配そうな、オルナの潜めた声。
「いや、寿命が無いんだ」
「……よく分かんねえけど、何と無く分かった。時間が、ねえんだな?」
煙草を口から離して、神妙に告げるオルナに、ミコトは「そうなるな」と小さく顎を引いた。
「だったら、やっぱり俺がいねえとダメっしょ」にへら、と緩んだ微笑を浮かべて振り向くオルナ。「良かったー付いて来てー」
「俺達だけじゃ、ダメなのか?」疑念を表情に載せるミコト。
「ダメっしょ。こういう時に必要なのは、俺みたいなゆる~い、あま~い騎士様よ。まぁ見てれば分かるってぇ」
「???」
イマイチ理解に辿り着かないミコトに、オルナは得意気に微笑むだけで、それ以上の回答は無かった。

【後書】
と言う訳で新キャラ、オルナの登場です!
登場自体は前回のお話で済ませていたのですが、今回から本格参入と言う事で、前回の後書で触れていた次第です。
騎士なのに、騎士じゃないような人物像のオルナ。わたくしこういう、「〇〇なのに、〇〇らしくないキャラ」と言うのが堪らなく好きでしてな~w そういう一癖も二癖も有るキャラってのは総じて面白いものです、うんうん(自分で納得している)。
いよいよ大台の30話に到達しまして、話数で言えばやっと折り返し……かな? 予定では50話で完結するつもりでしたが、現在の進捗を鑑みて、この話でやっと折り返しのような感覚です。まだまだ先は長いぞ~!w
そして今回は断さんに更新告知イラストを描いて頂きました! マナカ君カッコいいよ~!! 有り難う、そして有り難う……!
さてさて次回、第31話「王都・シュウエン〈3〉」……さぁ参ろうか王城へ! 次回もお楽しみに~!

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