2018年7月15日日曜日

【余命一月の勇者様】第34話 迷走の夜想曲〈2〉【オリジナル小説】

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/12/04に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第34話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/27971

第34話 迷走の夜想曲〈2〉


「き、緊急事態です! 急ぎご報告申し上げたき儀が御座います!」

 慌てふためいた様子でホールに飛び込んできたのは、銀色の兜の上からでも焦燥感で汗だくになっているのが分かる騎士だった。
 五人の騎士が冷静さを欠いた様子でマツゴの前に転がり込んで来ると、国王陛下は「どうしましたか?」と驚きに目を瞠ってそっと最前列の騎士の肩を叩いた。
「ハッ! たった今――」報告を大声でしていた騎士だったが、不意に間近にミコトがいる事に気づいて声を潜めようとしたが、その前にマツゴが「構いませんよ」と柔らかく微笑んだ。
「で、では……今し方警備の騎士から報告を受けたのですが、現在王城に滞在中の、ソウセイの国の姫君、創木(ツクリギ)ミツネ様が、何者かに攫われたと……」
「何ですと!?」思わず悲鳴を上げたマツゴだったが、咳払いして、蒼白になっていく顔を騎士に見せる。「その話は……」
「拉致を目視した騎士には箝口令(かんこうれい)を敷きましたが、目撃情報があまりに多過ぎるため、周知は時間の問題かと……」騎士の声は明らかに震えていた。「姫君を拉致した男は、マシタ様にも暴行した形跡も有りまして、現在マシタ様の意識が回復するのを待っている状態であります」
「何と……」最早意識を失いかけているマツゴに、オルナが咄嗟に脇から入って体を支える。
「陛下、どうかお気を確かに!」オルナの声にも切羽詰まった色が見え隠れしていた。「済まねえミコト、ちょっとガチでやべぇ事になっちまったみてぇだ。晩餐会はここでお開きにして、お前らは部屋に戻っててくれよ!」と言って、マツゴを支えてゆっくりとホールを出て行く。
「何々? 何が遭ったのミコト?」
 料理を盛っていた皿をテーブルに戻して、不安そうな面持ちでレンが尋ねる。隣ではクルガが「何か怖いよ、ミコト……」とレンと同じように、怯えた感情を表出させてミコトを見上げていた。
「姫様が攫われちまったらしい」ミコトは困った表情で呟いた後、「それより、マナカが戻ってこないのが気掛かりだ。ちょっと探しに行ってくる」と言ってホールを抜け出して行く。
 胸騒ぎが納まらなかった。嫌な予感がする。ミコトはその直感を頼りに、王城を駆け抜けて行く。
 夜気に沈んだ城内は静かで、不気味な闇を湛えていた。

◇◆◇◆◇

「お城の外に出たけどよ、どこまで行けばいいんだ?」
 お姫様抱っこしたまま城門を飛び出し、夜に満ちた城下町を駆け抜けて行くマナカに、腕の中の少女は「と、取り敢えずワシを下ろしてくれぬか? 話はそれからじゃ」と相変わらず頬を紅潮させてジタバタしていた。
「下ろせばいいのか?」と言って優しく少女を地面に立たせると、マナカは遠くに見える王城を見上げて、「おー、だいぶ遠くまで来ちまったな」と額に手の甲を当てて呟くと、「それで、どこまで送ればいいんだ?」と少女に向き直った。
 少女は動悸が鳴り止まない様子で、走った訳でもないのに呼気を整えた後、徐にマナカを見上げた。
「お主、もう一度問うが、ワシの事を知らんのか?」
「知らねえって言っただろ?」不思議そうに小首を傾げるマナカ。「俺、前にお前と逢った事有ったっけ?」
「いや、無いが」
「逢った事無い奴は知らねえなぁ」
「そうか……では名乗ろうかの」大きく深呼吸した後、少女はマナカを正面から見据えて告げた。「ワシの名はミツネ。創木ミツネじゃ」
「ミツネって言うのか! 俺はマナカ! 追瀬マナカだ! 宜しくな!」と言って笑顔で手を差し出すマナカ。
「よ、宜しくのう」再び握手を交わす少女――ミツネ。「えっ、ワシ今名乗ったよの?」
「おう? 名乗ったな」コックリ頷くマナカ。
「な、何かその……気づかん?」恐る恐る尋ねるミツネ。
「何がだ?」きょとんとした様子のマナカ。
「えぇと……ほら! 何か高貴な気がする~とか! そう、何かこう、ひ……姫様っぽいな~、とか!」人差し指を立てて、明後日の方向を向くミツネ。「い、いや、今のは聞かなかった事にしてくれ……」
「お前まさか……姫様なのか!?」驚きに目を瞠るマナカ。「初めて見たぜ~!」感心した様子で何度も頷くマナカ。「それで、お前どこまで送ればいいんだ?」
「ワシが姫と分かってなおその態度なのかお主!?」思わずツッコミの声を張り上げるミツネ。
「おう? 何かやべぇのか?」不思議そうに腕を組んで小首を傾げるマナカ。「それより、お前どこまで送ればいいんだ?」
「……」盛大に溜め息を吐き出すミツネ。「てか何でワシをそんなに送り届けたがっとるんじゃお主?」
「だってお前、急いでるんだろ? 早くお城の外へ連れてけって言ってたじゃねーか。早く急がねえとやべぇんだろ?」頭の上で疑問符が踊っているマナカ。「早く行こうぜ! ほら、また抱っこしてやっからよ!」
「いやいい! それはいい!」お姫様抱っこをしようとするマナカを、赤面しながら全力で制止するミツネ。「えぇと、えぇと……も、もう急がなくて良くなったんじゃ! もう大丈夫じゃ!」
「もう大丈夫なのか? じゃあ俺帰っていいか?」と言って王城を指差すマナカ。
「待たんか待たんか! 姫を一人にして帰る阿呆がどこにおる!」歩き出そうとするマナカの腕を引っ張るミツネ。「お主奔放過ぎじゃろ!? そして人を疑わなさ過ぎじゃろ!? 阿呆なのか!? 本物の阿呆なのか!?」
「困った奴だな」やれやれとミツネに向き直るマナカ。「俺は一体どうしたらいいんだ?」困り果てた様子でミツネを見つめる。
「どうしたらいいじゃと……?」マナカから視線を逸らして、唇を尖らせるミツネ。「そんなの、ワシが聞きたいわい……」
 涙目になってしまったミツネを見下ろして、マナカは今更のように慌てだした。
「おおお!? おいおい! 泣くなよ!? 頼むよ泣かないでくれよ!? 俺が悪かったからよ、頼むから泣かないでくれよ頼むよ!!」と言って即座に土下座の体勢に入るマナカ。「ごめんな!? 俺が悪かった! だから泣かないでくれ頼む!!」
「な、何じゃお主……」思わず涙が引っ込んでいくミツネ。「いきなりどうしたんじゃ……?」
「泣かないか?」土下座したまま頭を上げようとしないマナカ。
「な、泣いてなどおらぬわ! 阿呆!!」ぺしりと力のこもってない手でマナカの頭を叩くミツネ。「じゃからとっとと頭を上げい! 目立って仕方ないわ!」
「お、おう、分かった」即座に頭を上げてミツネを見下ろすマナカ。「良かった、泣いてねえな」
「泣いておらぬと言うとろうが!」ぺしりとマナカの腕を弱々しく叩くミツネ。「突然何なんじゃ? 態度急変し過ぎじゃろお主……」訝しげにマナカを見上げる。「やっとワシが姫である事を自覚したのか……?」
「絶対に女の子は泣かせるなってミコトに言われてっからよ、泣かせちまったらもう謝るしかねえだろ?」申し訳なさそうに眉をハの字にするマナカ。「でも良かったぜ、ミツネ泣いてねーんだな?」
「三度は言わぬぞ!? ワシは泣いてなどおらぬ!」喚声を上げた後、完全に注目の的になっている事に気づいたミツネは、「マ、マナカよ、ちと移動しよう、恥ずかしくて敵わん……」とマナカを引っ張って歩き出した。
「おう? 何かよく分かんねえけど、そっちに行けばいいんだな?」とミツネに引っ張られるまま移動するマナカ。

◇◆◇◆◇

 暫く無言で夜道を歩いた後、ミツネは改めてマナカを横目で見上げた。
 大柄な男だ。初めは騎士の一人かと勘繰ったが、どうやらあの王城の関係者ではないように思える。
 何者なのか判然としないが、悪人でない事は、何と無く分かる。正義感が強いとかでもなく、ただ頭が足りない若者、と言う認識が強い。
「ん? 俺の顔に何か付いてるか?」ミツネの視線に気づき、顔をぺたぺた触り始めるマナカ。
「……お主が何者か知らぬが、礼を言おう」マナカの眼前に立ち塞がり、深々とお辞儀をするミツネ。「お主がいなければ、ワシは……今頃、あの下種の慰み者になっておった」
 思い出して、再び涙が込み上げてきた。
 涙が一筋、零れる。
 その瞬間マナカが、「おおお!? 何で泣いてんだお前!? 俺また何かやらかしちまったか!?」と慌てふためいた様子でまた土下座をしようとしたので、ミツネは「す、済まぬ、お主のせいではない」と涙を拭って、マナカを見上げた。
「俺のせいじゃない? じゃあ、ミツネは誰かに泣かされたのか?」そう告げた瞬間、マナカの瞳にぎらついた炎が点ったのが、ミツネにも分かった。「教えてくれ、そいつ今からぶっ飛ばしてくるからよ」
「ちょちょちょっ、待たんか待たんか!」拳を固めるマナカに手を添えて、ミツネは制止の声を上げる。「相手は次期国王じゃぞ!? お主が手を挙げれば――」そこで蘇る、マナカと遭遇した時の映像。「……そうじゃった、此奴、既にもう……」血の気がどんどん引いていく。
「おう? どうした? 顔色悪いぞ? お腹空いたのか?」ミツネの顔を覗き込むマナカ。「おっ、そうだ! これ食うか? 干し飯ってんだけど」と言って腰の袋から齧りかけの干し飯を取り出して、ニカッと笑いかける。「美味いんだぜこれ!」
「……何か、マナカを見とると、考えるのが阿呆らしくなってくるのう」苦笑を禁じ得ないミツネ。「……なぁ、マナカ。ちと、ワシの話を聞いてくれんか?」
「おう? いいぜ! でも俺、ミコトほど聞き上手じゃねえんだ、それでもいいか?」言いながらマナカはきょろきょろと辺りを見回し、「あそこに座る所在るな! あそこに行こうぜ!」と団子屋の椅子を指差して歩き出した。
 ミツネはそれに続き、閉店している団子屋の、灯りの落ちた椅子に腰掛ける。マナカはその隣にどっかりと腰を下ろした。
「……オワリの国の次期国王と婚姻を結ぶために姫が滞在しとると言う話は、知っとるじゃろ?」前方の暗がりに視線を落としながら、ミツネは話を紡ぎ始めた。「その姫が、ワシじゃよ」
「おう? コインって、あの金貨の事だろ? あのマシタに、金貨を結ぶって、出来るのか?」理解が追い付いていない様子のマナカ。
「……えぇと、マシタと結婚するんじゃよ、ワシ」何とか判り易く説明しようと手振りを交えて告げるミツネ。「隣国……えぇと、リンゴの句じゃないぞ? マシタは、隣の国の姫と結婚するんじゃが、その姫が、ワシなんじゃ」
「お前あいつと結婚するのか!?」驚きに頓狂な声を上げるマナカ。「物好きだなぁ……」感心するようにうんうん頷き始めた。
「……ワシだって、そう思う。じゃが……仕方ないんじゃ」沈鬱に、ミツネは呟いた。「ワシがあの下種に嫁がねば、隣の国……ソウセイの国は、もう滅んでしまうんじゃ」
「おう? それはあれか? あのマシタって奴が、ミツネと結婚しないと、ソウセイの国って奴を、滅ぼしちまうぞ、って脅してるって事か?」眉間に皺が寄るマナカ。「度し難ぇ野郎だな」
「ちょっと違う」マナカが持ち上げた拳を、ミツネがそっと下ろさせる。「ソウセイの国は、何年も前から旱魃(かんばつ)が続いておっての。作物がダメになってしもうて、食料をよその国から譲って貰わねば、臣民が飢え死にしてしまう……そんな時、マシタが言うたのよ。“我に嫁げば、臣民を飢えから救うぞ”……とな。ワシ一人が、奴の毒牙に掛かる事で、臣民が助かるならばと思ったが……」再び涙が込み上げてくるミツネ。「ワシは、怖くて仕方ないんじゃ。あんな下種の慰み者になるのが、怖くて怖くて仕方ないんじゃ……」
 嗚咽交じりに、それ以上言葉を発せられなくなったミツネの頭に、マナカはポン、と手を置いた。
 ミツネが泣き顔を上げる前に、ぐしゃぐしゃとその頭を撫で回す。
「な、何をす――」「ミツネは、何も悪くねえじゃんか」
 マナカは、ミツネに向かって、とびっきりの笑顔を見せた。
「ミツネ、よく頑張ったな! そんなやりたくもねえ事、そんなに無理して頑張ってたんだな! だったらもう、頑張らなくていいぜ!」すっくと立ち上がるマナカの背には、殺気立った気配が、ありありと浮かんでいた。「ミツネを困らせてる奴を、ぶっ飛ばしてくる。ミツネは、泣かなくていいんだ」
「……どうすると言うんじゃ」途方に暮れた様子で、マナカを見上げるミツネ。「お主が暴力に出ても、何も解決せぬよ。ワシが犠牲になる事でしか、誰も救われん」
「ミツネの国の住民が救われても、ミツネが救われないなら、俺は認めねえ」振り返り、ミツネに真剣な眼差しを注ぐマナカ。「ミツネは、悪い事してねえのに、やりたくもねえ事なのに、やろうとしてるだろ? ミツネがもし、あのマシタって奴が好きだって言うのなら、俺は止めねえし、応援する。ミツネが嫌だって言ってる事を、どうしてやれって言えるんだ? 何で誰も止めねえんだ?」ミツネに歩み寄り、改めて彼女の頭をポン、と、分厚い拳で撫でるマナカ。「誰も止めねえなら、俺が止めるぜ!」
「マナカ……っ」再び、涙が込み上げてくるミツネ。
「取り敢えずあのマシタって奴をぶっ飛ばせばいいんだろ?」
 ニカッと、屈託無く微笑むマナカを見上げて、この男に任せたら更に大変な事になるのではなかろうか……? と不安で頭が一杯になっていくミツネなのだった。

【後書】
 マナカ君の暴走が止まらない!w
「マナカならこうするだろうな」って想いをそのまま綴っているので、暴走特急感が半端無い感じです。
 ところでお姫様の喋り方、とみちゃんの感想を見て気づきましたが、「夢幻神戯」のロア君そっくりですね!?ww 確かにロア君だって言われても納得してしまうレヴェルww
 何と言いますか、最近わたくしの中でこういう年寄り臭い喋り方がトレンドでしてな! 若い子がこういう年寄り臭い口調で喋るの良くない? 良いんじゃよ!!(ごり押し)
 と言う訳で次回、第35話「迷走の夜想曲〈3〉」……ミコト君とマナカ君が離れ離れの夜はまだまだ続きます。お楽しみに!

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