2018年7月29日日曜日

【余命一月の勇者様】第38話 台本戦争〈2〉【オリジナル小説】

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/03/26に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第38話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/44948

第38話 台本戦争〈2〉


「おい、シュン! あのゴミクズはどうなったんだ!! 殺したのか!?」

 王城の一角に在る豪奢な部屋の中で、マシタが怒号を張り上げ、インテリアであるクッションを壁に叩きつけたのを見ながら、シュンは「マシタ様、どうかお気を鎮めてください」と微動だにせず冷厳な声を落とした。
「あの愚図は!! 二度も!! この俺様に暴力を!! 振るったんだぞ!? 許される訳が無いよなァ!? 死罪だッ!! どこに逃げたとしてもッ、絶対に見つけ出してぶち殺してやらねえと気が済まねえ!!」天蓋付きのベッドを蹴り飛ばすも、足の方を痛めて蹲ってしまうマシタだったが、「つぅ~ッ、クソッ、クソクソクソッ!! 全部あいつらが悪いんだ……ッ!! あのドブネズミ共がいなけりゃよォ……俺はあの姫をよォ……ッ!」何を想像しているのか、ニタァと下卑た笑みを覗かせて、舌なめずりを始めた。
「マシタ様。他国の姫を慰み者にするのは“構いません”が、お忘れなきよう。彼女には利用価値が有ります」
「わぁーってるよボケ!」透かさずシュンを指差すマシタ。「あの姫を使えば、ソウセイの国も俺のモンに出来るって話だろ? そんな美味い話、忘れる訳ねえだろが、バカか手前は」
「出過ぎた事を言いました」スッと頭を下げるシュン。「現在、騎士総出で城下町の捜索に当たらせておりますが、夜間だった事も有り、且つ姫の情報を下民と共有できていないため、難航しております」
「使えねえ奴らだな、クズが」吐き捨てると、シュンはベッドに腰掛けてサイドテーブルの果実を、シャクリ、と音を立てて齧った。「まぁ? 何にせよあのマナカとか言うゴミクズはこれで死罪に確定したんだよな? 何せ、姫を攫った事にしてあるんだろ? バカがしゃしゃり出るからこうなるんだ、へへっ、いい気味だぜ」
「マシタ様への暴力行為、他国の姫の拉致。これ以上無い大罪です。更に陛下が臥している今、マシタ様が裁定を下せるのですから、マナカとか言う下民の死罪は最早確定事項と言って過言ではないでしょう」ニコリともせずに淡々と告げるシュン。「捜索に当たらせている騎士にも、見つけ次第“嫌疑者が暴れたと銘打って撫で斬りにせよ”と命じております」
「ヒャハッ、流石はシュンだ! 俺のやりてえ事をぜーんぶ分かってる! 本当に有能な騎士だよお前は!」下卑た笑いを浮かべてシュンを指差すマシタ。「あのオルナとか言うカスとは段違いだ。あいつは下民と同じ匂いがするんだよ、臭くて敵わねえ」
「何れマシタ様が即位された時に、オルナにも反逆罪の“濡れ衣を着せて”、私が直々に斬首致します」無感情のまま、シュンはあっさりと言ってのけた。「マシタ様の手は煩わせません。マシタ様の覇道を邪魔する者は私が全て葬り去る。今まで通り、そしてこれからも、マシタ様と私は、そういう関係なのですから」
「フヒッ、ヒヒハハハ! アァそうだ、俺様はシュンのそういう所大好きだぜ? お前こそが騎士の中の騎士、近衛騎士に相応しい男だよ」
「恐悦至極に御座います」スッと頭を下げるシュン。
「マシタ様!」不意に扉をノックする音が部屋に響いた。「ご報告が!」
「何用か」扉を開けたのはシュンで、眼力強く騎士を睨み据える。
「ハッ。たった今、冒険者ギルドの纏め役と名乗る男が、国王陛下への謁見を求めて来城されたのですが……」そこでチラッと顔を上げる騎士。「如何為さいますか?」
「冒険者ギルドの纏め役……?」怪訝な表情を滲ませるシュン。「陛下に謁見とは、一体何用だと?」
「それが、“ネイジェ=ドラグレイに就いて話が有る”……と」
「……!」
 シュンの表情に驚きが混ざり、一瞬騎士から視線を逸らすと、「――陛下には?」と小さく尋ねた。
「いえ、まずは近衛騎士であるシュン様の指示を仰ごうかと思い、ここに参上仕った次第であります」ピシッと直立不動の姿勢を取る騎士。「陛下にお伝え致しますか?」
「――いや、この件は私が処理しよう」スッと手を挙げて制止するシュン。「陛下には伝えるな。内密に済ませたい」
「御意のままに!」キビキビとした動きで敬礼を返す騎士。「では、失礼致します!」
「――待て」踵を返そうとした騎士に手を挙げて制止の声を上げるシュン。「この件、オルナにも伝えるな」
「――心得ております」
 振り返りながら敬礼を返す騎士に、シュンは一瞬口唇に冷酷な笑みを刻むと、「――行け」と小さく告げ、マシタの部屋に戻って行く。
「何だ?」マシタが気だるげに果実を齧りながら尋ねる。
「冒険者ギルドの纏め役が、分を弁えずに国王陛下に謁見を申し出たそうです。私が処理して参りますので、マシタ様はここで――」「あ? 国王陛下に謁見なら、俺が出るべき懸案だろそれ」
 シュンの言葉を遮って告げるマシタに、近衛騎士は誰にも分からない程度に表情を曇らせた。
「――いえ、マシタ様のお手を煩わせる訳には……」「あ? 俺に指図する訳ぇ? 幾らお前でも俺様気分悪くなっちゃうからね? 分かってるよなァ? あ?」
 ベッドから立ち上がってシュンを睨み据えるマシタに、近衛騎士の男は感情を一切表情に出さず、心の中で溜め息を吐き出しながら、「……出過ぎた真似をしてしまい、申し訳有りません」と静かに頭を下げた。
「初めからそうしろっつってんだろ無能が。ほら、行くぞ。その下民に新国王陛下ここに在りって見せつけてやっからよ!」
 能天気に笑いながら通廊に出て行くマシタに、シュンはやはり感情らしい感情を見せず、その後に続くのだった。

◇◆◇◆◇

 謁見の間に入る直前、騎士達がざわめいている様子が部屋の外からでも伝わってきた。
 マシタは「フヒヒッ、俺の威光が既に伝わってるようだな……!」と嬉しそうに扉に近づいて行くと、扉の前で見張りをしていた騎士が思わず、「マ、マシタ様! 大変です!」と慌てた様子で駆け寄ってくる。
「何だ騒々しい。俺の威光に興奮してるのは分かるが――」「“姫様と、大罪人が”!」「――あ?」
 その騎士の言葉で何かを察したのか、シュンが前に出て、自ら扉を押し開けた。
 謁見の間には、確かに冒険者ギルドの纏め役である男が佇んでいた。
 ――ソウセイの国の姫君と、大罪人であるマナカを連れ立って。
「……おや? 国王陛下の姿が見えませんが」冒険者ギルドの纏め役――桶雲サボが振り返りながら微笑を見せた。「次期国王のマシタ様をお呼びした覚えは無いのですが……」
「なっ、なっ、なっ、おまっ、お前ええええ!?」マナカを指差して咆哮を上げるマシタ。「何で手前がここにいるドブネズミィィィィッッ!?」
「おう? 何だあいつ? 何で怒ってんだ?」不思議そうに、隣に佇んでいるミツネに声を掛けるマナカ。「腹減ってんのか?」
「……時々お主が怖いと思う事が有るぞ、マジで」頭痛が始まったのか、頭を押さえて俯くミツネ。「お主が昨晩ぶん殴ったからじゃろ……」
「そうだっけ?」不思議そうに小首を傾げるマナカ。「よう! お前――」「――マナカ君、静かに」大声を上げようとしたマナカの唇に人差し指を添えるサボ。「……約束、忘れたのかな?」「そうだった! 静かにな、静かに!」
 人差し指を口元に当てて、「しぃーっ!」と歯を見せるマナカに、不安を隠し切れない様子のミツネが、「ほ、本当に大丈夫なんじゃろうなぁ……?」とサボに視線を送るも、彼は泰然自若の態でシュンを見据えたままだった。
「僕は、国王陛下にお目通りをお願い申し上げた筈ですが?」
「――陛下は現在臥しておられる。次期国王であるマシタ様が代任される事に異存が有るなら伺おう」
 酷薄な微笑を貼りつけて尋ねるサボに、冷厳な真顔で応じるシュン。
 謁見の間には、大気に亀裂が走っているかのような、緊張感が張り詰められていく。
「おう、ミツネ。何かここ、ヤバくねーか?」ひそひそとミツネに囁きかけるマナカ。
「お主でも気づく程じゃからの、ワシなんか今、緊張で心臓が張り裂けそうじゃわい」マナカに小声で応じるミツネ。
「――マシタ様。どうぞこちらへ」「あ? お、おう」
 激情に駆られてマナカを指差したまま完全に思考が停止していたマシタの肩を叩き、謁見の間の上座へと誘導するシュン。
 王座に腰掛けたマシタは、良い眺めを確認すると、不敵な笑みを覗かせてマナカを指差した。
「そこの下民。死罪」
「ん? お前過眠なのか?」マシタを見上げて小首を傾げるマナカ。「俺過眠の薬持ってねえんだよ、ミコトなら持ってるから、ミコトに言えばきっと出してくれるぞ、過眠の薬!」
「過眠じゃねーよ!! 下民って言ったんだよバカ!! お前まさか下民も知らねえの!? お前みたいなボケナスの民の事だよ!! クズの事だよクズ!!」
 立ち上がって囂々と喚き散らすマシタに、マナカは「茄子の畳……? 美味しいのかそれ?」と頭の上に疑問符を乱舞させ始めた。
「ああああッッ!! ムカつく!! 話が全く通じねえ!!」頭を掻き毟りながら地団太を踏み始めるマシタ。「おいシュン!! もう何でも良いからあのカスをぶち殺せ!! 今すぐ!! ここでだ!!」
「お気を鎮めてください、マシタ様」マシタの隣に立ち、マナカとサボを見下ろすシュン。「そこの下民が人語を解せぬ痴愚である事は自明だが、冒険者ギルドの纏め役。貴様はそこの下民以上には話が通じる事、期待して良いか?」
「乱心されている次期国王様以上には聡明である自負が有りますよ」ニコッと微笑むサボ。
「――言葉には気を付けろ。王族への侮言と見做して即死罪にしても構わんのだぞ?」
「それは失礼。以後気を付けましょう」
 冷酷無比な言葉をぶつけるシュンの言動の端々に混ざり込む憎悪と、ヒラヒラと舞う蝶のように優雅に皮肉をぶつけるサボの言動の端々に混ざり込む余裕。
 互いに相手を油断ならない相手と認識しているが故の、言葉の応酬である事を、この場で理解しているのは両者以外ではミツネだけだった。
 こんなに心臓に悪い謁見は初めてだ、と思いながら、呼気を静めるようにゆっくりと深呼吸して、気を紛らわせる。
「――して、ネイジェ=ドラグレイに就いての話とは、何か。申せ」
 怒りで我を失っているマシタに代わって、シュンが淡々と告げた。
 サボは不思議そうに、――わざとらしさが見え隠れしているが――片眉を持ち上げて、剽げた表情を浮かべると、「申し上げませんでしたか? 僕は、国王陛下への謁見をお願い申し上げました。次期国王でも、近衛騎士である貴方でもない。国王陛下に直接申し上げねばならない仕儀です。ここで申し上げる訳には参りません」と、軽やかに応じた。
「貴様も理解力の乏しい下民のようだな」残念そうに吐き捨てるシュン。「三度は言わんぞ。陛下は臥されておられる。故にマシタ様が代任しここにおられる。王族の貴き時間を浪費するために来たのであれば、度し難き罪であるが?」
「理解力が乏しい、と」意味深に口唇に笑みを刻むサボ。「ならばこう問いましょう。お二方は、ネイジェ=ドラグレイの話を、今、ここで、僕の口から聞かされて、“理解できるのですか?”」
 マシタの顔には苛立ちと、――同時に、焦燥の色が点ったのを、ミツネは、そしてサボは、見逃さなかった。
 シュンの表情には一切の変化が現れなかったが、分が悪い事を理解しているのだろう、即座に言葉を返す事は無かった。
 サボは貼りつけている微笑を崩さぬまま、「僕は、この場でネイジェ=ドラグレイに関するお話を語る事には、異論有りませんよ。ですが、それを理解できぬ者に傾聴して頂いた所で、何の価値も無いお話です。それでも――お聞きになりますか?」
「――俺様を愚弄しているのか手前!!」
 思わず玉座から立ち上がり、サボを指差して咆哮を奏でるマシタ。
 サボは表情筋を一切崩す事無く、「いいえ、滅相も御座いません。“マシタ様ならご理解頂けると分かっているからこその、確認で御座いまして”」と、頭を下げた。
「当たり前だボケカス!! 俺が……その、何だ? ネイ……何とやらの話が分からない訳が無いだろうが!! 話せ!!」
 そう、マシタが告げた瞬間、シュンの表情が初めて、サボとミツネの二人が辛うじて気づける程度に――“歪んだ”。
 それを見て取ったサボは「では――次期国王であるマシタ様の許可も得ましたし、お話し致しましょうか」パンっと手を鳴らして、マシタ――ではなく、シュンを見据えて、揚々と口を開いた。

「“ネイジェ=ドラグレイは、ソウセイの国の姫、ミツネ様に危害を加える者が現れるから対処して欲しいと、冒険者ギルドに依頼を出したのです”」

【後書】
 作品のキャラクターの知能……頭の良さは、作者以上になる事は無い。と言うお話を以前伺いましたが、全くその通りでして、わたくしとしては、こう、頭の良さが爆発した頭脳戦・舌戦を綴っているつもりなのですが、こう、何ですか、大丈夫かなこれ!?!?!
 もっと頭脳を鍛えたいと思いました(笑顔)。
 と言う訳でサボさんが優雅に論破していく展開です。わたくしの中ではもっと優雅な感じで余裕の塊でシュンさんを言葉だけで叩きのめしていく展開を想定していたのですが、うん、まぁ、これがわたくしの限界と言う事で一つ!w
 そんなこったで次回、第39話!「台本戦争〈3〉」…次回で台本戦争編はおしまいです! どんな結末を迎えるのか、ぜひお楽しみに!

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