2019年3月6日水曜日

【滅びの王】71頁■神門練磨の書19『春原菖蒲』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/11に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第72話

71頁■神門練磨の書19『春原菖蒲』


「……んじゃ、後は任せたからな~」
 目覚めて間も無く、ミャリが湖太郎に跨って去って行ってしまった。
 残されたのはオレと崇華の二人だけ。
「……どうしろと!?」
「えとえと、葛生さんに逢いに行くんじゃ……?」
 そうでした。
 一応指定された場所……つか、いつの間にか麗子さんが決めてくれていて、オレと崇華はそこに向かえばオールオッケー的な流れになっていたりする。
 とは言え、オレは王都に来たのは初めてなんで、崇華に案内を頼んでるから、ただ付いて行けば良いと言う簡単さ! 感動で死にそうだネ!
「それで……王立ちょろり図書館ってのは、どこに在るんだ?」
「王立ち・よ・ろ・ず・図書館! だよっ。……えっとね、こっちこっち」
 崇華が歩き進んで行く道を、オレが苦も無く追って行くと言うこの構図……何だか微妙な感じだな。
 何が微妙って、崇華に頼りっ放しってのがオレの美学に反するっつーか……美学って何? って感じだけど、何だか気分が悪い。ここはオレが先頭切って「崇華、こっちだ!」って感じの光景なら、認める。つか、それで行こう! それ以外有り得ない!
 ……心の中でなら何とでも言えるさ。それが出来ないからこうして困ってるんだろ、オレ!?
 と、胸の内で腐ってると、――不意に既視感を覚えた。
 どこかで見た覚えの有る、……顔。風体も一度見た気がする。でも、どこかは分からない。分からない……分から、な……い?
 パッと振り返り、オレは後ろへ流れていく人物の顔を眼で追った。
 ――傍を抜けていく横顔に、見覚えが、確かに有った!
 機械のような何の表情も浮かんでいない、仮面のようにのっぺりした顔……間違いない!
 こいつは、あの時の……!
 オレは自然と男へ足を向け、その背中を追い始めた。
 オレを殺しそうになった男……そして、殺そうとした虚無僧を束ねていた、リーダー的な存在の男。
 こいつこそが――【世界の終わり】の人間!
 追わずにいられなかった。
 逃がすまいと自らに誓い、息を殺して背中を追い続ける!
 殺したい程に憎くても、狂いそうになる程に我を忘れそうになっても、オレは自我を保ったまま男を追い続けた。
 その背中が、建物の中へと吸い込まれて行く。
 オレは自分の行動に自我の有無を忘れそうになりつつも、追った。
 中にはパーティ会場のような煌びやかな部屋が広がっていた。
 会食が行われ、あちこちから色んな話が聞こえてくる。政治の云々、先日の件の是非、気になる相手の彼是。全てがどうでも良い事だったため、オレは何もかも聞き流した。
 重要なのは、あの男! オレは背中が動きを止めた事に気づいて、こっそりと近くまで接近し、耳を欹てた。
「……には間に合いそうか?」
 男の声。だが、虚無僧を束ねていた男の声とは質が違う。妙に強張った別の男の声だ。
「その件だが……《滅びの王》の訃報を知らせようと思ってな」例の虚無僧を束ねていた男の声!
「何!? ……《滅びの王》を、殺したと言うのかね?」強張った男の声。
「然様。些細な不手際が有ったようでな、手違いで殺害してしまった、と」虚無僧の男。
「……空殻(くうかく)よ。このままでは世界最高執行機関の名に瑕が付くのでは?」強張った声の男。
「それも致し方無いと存ずる。……だが、《贄巫女》の儀式さえ終えれば、事足りる。……何も、《滅びの王》などと言う存在の力を借りずとも、事が成せる事の証明になろうぞ」
 空殻と呼ばれた虚無僧のリーダーが低く笑う声が聞こえてきた。
 ……それにしても、こんな場所でこうも機密事項を述べてしまって良いのか? と思ってしまう程、二人とも警戒感無さ過ぎだ。ここがパーティ会場だと言う事を知らないんじゃないか?
 でも、どうやらこの空殻と言う男、やはり【世界の終わり】の一人に間違いないようだ!
 ……だけど、まだ情報が欲しい。ここで引き下がれば、きっと空殻の居場所が掴めなくなってしまうに違いない! 出来ればこいつの行方が分かれば…… 
 思って立ち聞きしていると、――不意に声を掛けられた。
「あんた、殺されたいの?」
「――――っ」
 驚いて振り返ると、オレの肩の上に腰掛けた咲希が、退屈そうに足をぶらつかせていた。
「このままだと、あんた見つかるわよ?」
「……分かってる。……けど、このまま引き下がれねえだろ? やっと、手掛かりが見つかったかもって時に……もっと有益な情報を手に入れれば、そしたら……!」
「あほくさ」
「なにおう!?」
「ま、あんたが何をしようと勝手だけどね、一言言わせて貰えるなら……その命、大切にしなさいよ? その命のために、色んな奴が身を預けてきてんだから」
 それは……分かってる。鷹定も、麗子さんも、崇華も、ミャリも、八宵も、皆オレを助けようと、必死になって守ってくれた。それは、純粋に嬉しい。
 でも――だからこそ、ここでオレも役立つ事を示したいんだ!
 守られてばっかりじゃなくて、ちゃんとオレだって皆の役に立てる所を見せてやりたいんだ! 皆に、恩を返したいんだ!
「……ま、あんたを諭した所で言う事を聞く訳無いしね」
 咲希は呆れたように溜め息を零し、ふわっと浮かび上がった。
「まっ、精々死なないようにしなさいよっ」
 そう言って咲希が消えると、オレはその事を肝に銘じて、再び空殻の会話を聞こうとして―― 
「――ここに闖入者がいるみたいだが、誰の連れ子だね?」
 眼前にはいつの間にか巌のように大きな男が立っていた! そして背後から空殻と呼ばれていた虚無僧の男が近付いて来る!
 見つかった! その事実に気づいた時には遅過ぎた。
「――ほう? 小僧、生きておったのか」
「……あんた、黒一とも繋がってんのか? 黒一も【世界の終わり】の一人なのか?」
 空殻は驚いたように眉を顰めると、大男に目配せし、再びオレに視線を戻した。
「……何を嗅ぎ回っておるのか存ぜぬが、それを私が教授するとでも思うのか? 私に何の益体も無いのに?」
「テメエ、見てろよ? 絶対にぶん殴ってやっからな!」
「空殻。この餓鬼は何者だ? 随分とでかい口を叩くようだが」
 大男が尋ねると、空殻は皮肉気な笑みを口許に浮かべた。
「皆はお初にお目に掛かるな。彼こそが《滅びの王》だ」
「何と! こんな餓鬼がか? 信じられん……」
 ああそうだろうよ。オレだって未だに信じられねえよ。
 大男が驚いてるのを無視して、オレは道具袋に手を忍ばせ、〈ぶっ飛ばし〉の〈附石〉を握り締めた。
 今度こそこの空殻とか言うバカ野郎をぶん殴ってやる! オレにはそれだけの権利が有る筈だ!
 周りにいる男や女は、空殻を合わせて合計四人。一人は強張った声の大男。一人は赤いドレスを身に纏った厚化粧の女。残りは空殻と、体格の良い、やけに冷えた感じの瞳が特徴的な男が一人。他の男や女はパーティに夢中のようだった。
 この場を脱するとなれば、相当の労力を費やしそうだ。
「……小僧。抵抗しようと想念しているのなら、止めておけ。二度も死にたくないだろう?」
「てめぇ……! 調子に乗ってんじゃねえぞ……?」
「室崎(むろさき)。適当に遊んでやれ」
「言われなくても」
 大男が一歩前進し、オレに掴みかかろうとしてくる――!
 オレは拳を固め、室崎の手を掻い潜り、顔面に拳を叩きつける――!
 ――めぎょッ、と鼻の潰れる感触が伝わって、大男の顔が仰け反り、そのままパーティ会場を横切る形でぶっ飛び、壁面に叩きつけられると、ようやく動かなくなった。
 会場は騒然とし、視線が一気に大男からオレ達へと向けられる。
「……まだ持っておったのか。《背信》め、壊したなどとほざいておったが、また与太話か」
 空殻が分からない事を言って、騒然とする会場の中から姿を消そうとする。
「待ちやがれ!」
「おい餓鬼」
 言われて振り返り、――腹に重い衝撃が走って、体が『く』の字に曲がった。
 あまりに大きな衝撃に立っていられなくなり、腹に入った拳の先に有る腕を掴んで、そのままずるずると地面に倒れ込んでいった…… 
 チクショウ……こんな所で、眠る訳には……いか、ない……の……に……  意識がオレの意志に関係無く、遠ざかっていった…… 
 ……浅い眠りの中、オレは短い会話を聞いた…… 
「……この餓鬼が本当に《滅びの王》だと言うのか? その辺の餓鬼と何が違う?」オレを殴って昏倒させた男の声だ……多分、あの冷えた瞳の男だと思う…… 
「持ってる〈附石〉は特別な物ね。……〈ぶっ飛ばし〉の〈附石〉なんて、見た事無いわ」多分あの赤いドレスの女だ…… 
「……《背信》の言った事が与太ではないとするならば、まず間違いないだろう。一度は死んだ人間、生き返る筈が無かろう?」コレは空殻だ…… 
「この餓鬼は生かしておくのか? 貴殿の話では此奴がいなくとも計画に支障は来たさないようだが」大男……室崎だ…… 
「此奴は隠し玉として匿っておこうではないか。……なに、小僧の力はこの〈附石〉のみ。これさえ取り上げれば、赤子も同然よ。飼い殺しておけば、私の計画に支障を来たさぬばかりか、それ以上の結果をも弾き出せると言うもの」空殻の押し殺した笑声…… 
「匿うと言っても、場所は有るのか? 貴殿の書斎にでも幽閉するつもりか?」室崎の皮肉った声…… 
「牢に閉じ込めておけば、何も出来まい? ……後は頼んだぞ、荻沢(おぎさわ)」空殻が立ち去る気配…… 
「心得た」冷えた瞳の男の名前は荻沢らしい…… 
「此奴、まだ意識が有るみたいだな。……どれ、今一度私が眠らせてやろう」室崎の興奮した声…… 
 ――顔面に衝撃が走ったかと思うと、意識が混濁とした場所へ沈んだ…… 

【後書】
 練磨君はもうちょっと思慮深い行動をですね…!w
 と言う訳でやっと鷹定と逢えるー!? と思った矢先にこれです。崇華ちゃんの苦労が窺えますな…(笑)
 さてさて、遂に敵の名前も明らかになった…? 事ですし、少しずつ闇に足を突っ込んで参りますよ! サブタイ回収も含めて、次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    練磨くん……
    無茶も大概にしないと取り返しの付かないことになっちゃうよー
    って言ったところでですね、聞く訳無いしねぇw(咲希ちゃんvv)
    これはもう崇華ちゃんには頭が上がらないパターンですねw

    禍々しい感じの敵の皆様が続々登場してらっしゃいますが、
    未だにその目的がよくわかりませぬ。
    そもそも《贄巫女》の儀式がなんのために行われるのか?
    徐々に明らかになるであろう今後に+(0゚・∀・) + ワクテカ +です!

    八宵ちゃん大丈夫かなぁ…(一週間ぶり三度目)

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんとそれなんですよねww 絶対に取り返しのつかない事になるのに、聞く訳無いんですよねぇ…w
      崇華ちゃんに頭が上がらないパターン!w そんな未来がありありと浮かびますな!(笑)

      ですです! まだこの段階ではよく分からないままですが、徐々に明らかになって参りますので、その時を楽しみにお待ち頂けたらと思いますです!

      八宵ちゃん完徹フルマラソンして今どこにいるのか…!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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