2018年1月16日火曜日

【ベルの狩猟日記】019.半人前の行商人として【モンハン二次小説】

■タイトル
ベルの狩猟日記

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【鎖錠の楼閣】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G



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ハーメルン版■https://syosetu.org/novel/135726/



 昼下がり。ラウト村の酒場に、一人の青年が風呂敷を包み直す姿が有った。
 何故か青年――ウェズは泣いていた。しくしく、と涙を流しながら荷物を纏めている。
「ぐす……また原価割れで素材を買われてしまった……酷いよぅ……」
「なに泣いてんのよ、原価割れなんていつもの事じゃない」
「だから泣いてんだよ!? もう完全に日常茶飯事にされてるから泣いてんだよ!?」
 酒場の隅で絶叫を走らせるウェズを平然と見返すのは、大量の道具や素材を手に酒場を後にしようとしていた少女、――言わずもがなベルだった。キノコ類やビン類を大量に腕に抱え、落とさないように気を遣いながらウェズを見やり、表情同様、声音も平素そのもので応じる。
「? あんた何言ってんの? 逢う時はいつもこうだったじゃない」
 ベルが特に感慨らしい感慨も浮かべないまま立ち去る姿を、その場で四つん這いになって絶望を感じて見送るウェズ。まるで彼の頭上に暗雲が立ち込めているように、その周囲だけがやたらと憂鬱な闇に閉ざされている。
 そんな様子を苦笑しながら見つめるのはフォアンだった。彼もウェズからは幾つかの種類の道具を購入したのだが、既に家と言う名の小屋に運んだ後だった。
「ウェズも大変だな。まさかベルがここまで値切るとは思わなかった。流石にピッケルが十zを切った時はどうしようかと思ったぜ」
「……結局、奴は七zで十個も買っていったけどな……僕が思うに、ベルの買物は、まさしく狩りだよ。奴は僕からピッケルを狩っていったのさ!」
 よく分からない例えに、誰もが小首を傾げていたが、それには気づかない様子で荷物を纏め終えたウェズが風呂敷を担いで立ち上がった。
「――ウェズさん、もう別の街へ?」
 思わず立ち上がって悲しそうな眼差しを向ける白皙の村長――コニカ。
「折角なんですから、もう暫らく滞在していかれたらどうですか? 宿もこちらで用意しますし……」
 仔犬を連想させる、潤んだ瞳で見つめる美貌の女性に、ウェズは頬を赤らめながらも、首を振って断った。
「僕としてもここに留まって、コニカさんと色々な話をしたかったんですが……ここのように、専属の道具屋がいない村を回らないといけないので、今日はこれにて失礼させて頂きます。他の村でも、ここのように僕の到着を心待ちにしている筈ですから」
 恥ずかしそうに、と言うよりは幾分の誇称が入っていたように思えるが、取り敢えずこの場にはそれを見透かせる者はおらず、ティアリィを除く皆が、感嘆の吐息を漏らしていた。
 コニカは残念そうに、でもそれをできる限り表情に出さないようにしているのか、微苦笑をウェズに向けた。
「そうですね、この村以外にも、皆さんがウェズさんを待っているんですものね。無理に引き留めてはいけませんね。あまりおもてなしも出来ませんでしたが、またいらっしゃって下さいね♪」
 最後は満面の笑顔を浮かべたコニカに、ウェズは心を射抜かれたように「ふぐっ」と胸を押さえてたじろいだが、すぐに我に返って、「では!」と大きな声を上げ、片手を挙げて酒場を後にした。
「――で、次はどこの狩場で素材収集に走るのかしら?」
「うぉっ!? べ、ベル!? いたのか!?」
 酒場の入口の壁に凭れかかるようにしていたベルが、半眼でウェズを見やり、冷ややかな声を浴びせた瞬間、彼の背筋が震え上がってしゃんと伸びる。条件反射と言っても差し支えない動きだった。
 ベルは道具を既に小屋に運び終えた後らしく、両腕を胸の前で組んで、ウェズを見据えていた。冷えてはいたが、苦笑のような色も滲んだ、温かくは無いが冷たくも無い眼差しをウェズに注いでいた。
 ウェズはばつが悪そうに後頭部を掻いていたが、彼女に敵わない事は自明なので、早々に白状する。
「……この村の北に在る、雪山だよ。あそこはまだ、ティガレックスやラージャンみたいな、凶暴なモンスターが現れたって話を聞いてないし、安全な今の内に素材を集めておきたいんだよ」
「やっぱり……」はぁ、と重たい嘆息を零すベル。やれやれ、と両掌を上に向けて、首を小さく振る。「あんた、あんな事言っといて、やっぱり素材集めに走るのね……さっきの忠告、もう忘れたの?」
「いや、その……あは、あはは、あは…………」
 引き攣った苦笑を張りつけて、何とかこの場をごまかそうとするウェズだったが、じとーっと見つめられて結局失敗に終わる。はぁ、と諦めの嘆息を零すと、悄然した顔で頬を掻き、ベルの無言の重圧に、呟くような声量で応じる。
「……僕はさ、行商人としてはまだ半人前だ。素材や道具の独自ルートを持っていないから、素材は現地調達しかないんだよ……新鮮だし、何よりタダだし。……偶に街の方で見かけるんだよね、養殖物や紛い物、酷い時は贋物を販売する輩が。ああいう輩を見ると、どうしても思うんだ。僕は出来る限りハンターに近い位置で商売がしたいって。そのためには……危険だと分かってても、狩場に入って行かないと……」
 後半は尻すぼみになって、消え入りそうな声量だったため、ベルの大きく苛立ちの含んだ溜め息で掻き消されてしまった。ベルが睨みあげてきたのを見て、ウェズは身を縮こまらせるが、視線だけは根性で逸らさない。
 ベルは少し怒気の含んだ顔でウェズを見つめていたが、――やがて表情を和らげ、出来の悪い息子を見る母親のような顔で、小さく吐息を漏らした。
「……ま、あんたが言う事が分からない訳じゃないし、何よりあたしが言った所であんたが言う事を聞かないのは、長年付き合っていれば流石に分かるわ。あんたには、あんたの世界が有るんだものね。……ま、精々死なないように気を付けなさい」
 理解はしていない。納得もしていない。でも、自分が何を言った所で、彼の道を妨げる事は出来ない。自分の手で止める事が出来ない、と言う点では、身近に二名ほど似た連中がいるので、彼らが影響して順応できてきた面も若干、自覚していた。
 ウェズを止める事を諦めたベルだったが、彼を突き放すだけで別れる程、彼女は狭量ではなかった。人差し指を立て、「でもね、」と前置きして、告げる。
「――いいこと? あたしが死ぬまで、あんたは死んじゃダメなんだからね?」
 ぴ、とウェズの顔を、立てた人差し指で指差すベル。その顔には不敵な笑みが浮かび上がっていた。その憎らしい程に素敵な笑顔が、まさにウェズの中に有る、昔からのベルの象徴のような気がして、釣られるように苦笑を浮かべてしまう。
「……やっぱり、ベルは変わらないな」
「何か言った?」険を眉に込めるベル。
「何でもないっす! ……じゃ、またな」
 手を振って、ラウト村を出て行くウェズ。
 その後ろ姿を見送ったベルは、懐かしさと共に、忘れていた何かを思い出したような、そんな気がして、後ろ髪を引かれるような思いで、ウェズが消えた門の先を、誰もいないその場所を、暫らく呆、と見つめるのだった。

【後書】
 守銭奴が値切りを使わない訳が無い!(挨拶)
 お金を貯めるのが目的のベルですからね、こういうシーンは絶対に綴りたかったと言う側面は有りますw「ベルは買い物がしっかりしてる気がする」って当時から言われてました(笑)。
 そしてウェズ君の行商人としての在り方も、どうしても触れておきたかった内容になります。何でも買える環境だからと言って、それが正規のルートで入手されたものかどうかって、購入者には分からなくても、販売者の視点から見ると分かるものも有る…と言った事を言いたかったのでしょう、タブンw
 ウェズ君は惨たらしい目に遭うのがデフォルトのキャラクターですが、その実、行商人としては誠実そのものですし、商売もしっかり行える人物なので、ベル以外にはすんごい評価が高い人なんですが、どうしてこうなった!(笑)
 と言う訳で次回、第2章第7話にして、通算第20話!「音信不通常習犯」…不穏が始まります。お楽しみに!

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