2018年1月23日火曜日

【ベルの狩猟日記】020.音信不通常習犯【モンハン二次小説】

■タイトル
ベルの狩猟日記

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【鎖錠の楼閣】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、ファンティア【日逆孝介の創作空間】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G




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始話(第1話)■

ハーメルン版■https://syosetu.org/novel/135726/



 村に珍客とも呼べる行商人のウェズがやって来てから、更に二週間が経過していた。
 その後もベル達三人のハンターは、森丘で小型モンスターの間引きや、高額で取引されるキノコなどの特産品の収集など、ハンターとしての生活を全うしていた。大変な事には違いないが、毎日がそれなりに充実し、そして危険ながらも平和な日々が続いていた。
 ――そんな折に、その話は舞い込んできた。
「…………またか」
 件の話を耳にした時のベルの反応は、その一言に集約されたと言っても過言ではなかった。ガックリと肩を落とし、顔を覆うように右手を当て、はぁぁぁぁ、と重苦しい嘆息を零すと言う、繰り返される悪事を目の前にしたような、分かり易過ぎる程の落胆ぶりを露呈していた。
 その話を持ち込んできた村長コニカの反応は全く違っていたが。
「大丈夫でしょうかウェズさん……まさか、モンスターに襲われて立ち往生しているとかだったりしたら……!」
 目に見えて狼狽しているコニカ。ただでさえ色白の肌が、蝋のように色素の感じられない白に移ろい、自分に何ら落ち度は無いのに、怯えていると言う表現が似合う程に、露骨に狼狽えていた。
 場所はラウト村の酒場。三人のハンターが小型の猪であるブルファンゴの間引きをし終わった事を報告しにやって来た時に、その話は舞い込んできた。いつもの防具を身に纏った三人は、焦燥に駆られて蒼白になったコニカの話を聞いて、二人は驚き、一人はぐったり項垂れた、と言う状態だった。
「……あのね、村長。ウェズが行方不明って言うか、音信不通になるのは、そりゃもう日常茶飯事で、毎回起こしてるんですよ。……これで大台の五十に到達するんじゃないかと思う程にね……」
 話の内容は至ってシンプルだ。ラウト村の北に聳える雪山を越えた先に構える集落に、ラウト村を出発して二週間が経過した現在に至っても、行商人――つまりウェズが到着していないと言う、それだけの話なのである。
 因みに、ラウト村から雪山の向こうに在る集落までの距離は、大人の足で五日も有れば充分に辿り着ける程で、だからこそベル以外の人間は心配を隠せないのだが……
 ベルが思うに、彼への心配は取り越し苦労でしかないのだ。昔のベルなら、彼らの気持ちに同調していただろうが、何度と無く繰り返されると、最早そういう感覚が磨耗しきってしまった。
「でも、二週間も経ってるんだろ? 流石に不味いんじゃないのか?」
 フォアンが眉を顰めて、いつもより難しそうな顔をしてベルを見つめる。その顔には不安や心配の色を覗かせていたが、ベルの反応が理解できないためか、困惑の色も混在していた。
 ベルは微苦笑を浮かべ、首を小さく横に振った。それは“否”だと。
「ウェズが打ち立てた音信不通の記録は、最長二十七日間。それまで何をしてたか分かる? 素材収集のために、ずっと狩場に不法滞在してたのよ」
 狩場は基本的に長時間の滞在が認可されていない。それは大小を問わず、常にモンスターが徘徊している事も有るが、天然の動植物の宝庫でもあるからだ。無期限に狩場に滞在して採取し続ければ、それだけ動植物が消耗してしまう。それを避けるために、ハンターが狩場に滞在してもいい期間が、最大で十時間と定められているのだ。
 だが、狩場はハンターだけが滞在する訳ではない。行商人や商隊など、村から村へ、街から街へ行き来する者も、どうしても狩場を通行しなければならない時が有る。そういう時は流石に滞在を余儀無くされるが、それにしたって、普通は長期間滞在するような輩はいない。危険なモンスターが棲みつく地帯に、自ら進んで行きたがるような者は、よほど酔狂な人間か、単なる自殺願望者だ。
 その中でも、ウェズは前者に入る希少な人間だった。自ら危険な地帯に足を踏み入れ、素材を収集する、ハンター染みた行商人――それがウェズと言う男である。
 因みに、狩場を横断する時は概ねハンターを雇うのが主流である。モンスターに襲われたら商売どころか命すら危ぶまれるからであり、普通は単独で狩場へ向かうのは、ハンター以外に有り得ない。
「凄いのにゃ……狩場で二十七日も現地調達だけで生き繋ぐ人間にゃんて、まるで師匠みたいにゃ御仁にゃ……」
 ザレアが感嘆の嘆息を零したが、ベルは寧ろその師匠の方が気になった。ハンターでもそんな人種がいるのか、と世界の広さをまた知ってしまうと同時に、
(……ザレアの師匠って、本当にどんなハンターなんだろう……)
 と思わずにいられなかった。
 ――さておき、
「だからさ、ウェズの事は心配しても徒労に終わるだけよ。あいつの事だから、後になってひょっこり村に現れるわよ。悪びれもせずに、ね」
 彼の事を知っているだけに、その結論に行き着くのは必定とも言えた。ベル自身、何度も心配して、その度に平然とした態度で現れる彼を見て、苛立ちを隠せなかった時期も有ったが、それも昔――そんな感覚は、彼に対してのみ、完全に凍結してしまった。
 ――が、そんなベルの思考の氷塊を溶解する言葉が、コニカの口から放たれた。
「そうなんですか……? でも――雪山には今、フルフルが出現したと言う情報が、ギルドの方から発表されたのですけれど……本当に大丈夫なんでしょうか……」
「!」
 フルフル。白いブヨブヨした皮で覆われた、体内に帯電機構を備えた、不気味な体躯を持つ巨大な飛竜。伸縮する首の先にある、顔の無い口だけの先端から吐き出される、地を駆ける電流をマトモに浴びれば、幾らハンターでも一撃で感電死する事が有る。ティガレックスやラージャンとは別種の恐怖を懐く飛竜種。
 一瞬、ベルの脳裏を過ぎったのは、電流が直撃したために致命的な火傷を負って、全身が焼け爛れたように皮膚が変色してしまったハンターの姿。酷い悪臭の許は、全身から湯気とも蒸気とも言える白い煙を立ち上らせて、陸に上がった魚のように痙攣を繰り返す、元はハンターだった人間の成れの果て――――
 何年もハンターとして生計を立ててきたベルだからこそ分かる、モンスターへの恐怖。自分の防具に、フルフルの中でも、亜種である赤いブヨブヨした皮を纏ったフルフルを選んだのも、その時の恐怖を忘れないため。そして同時に、その時に失った仲間を忘れないため……
 思わず生唾が喉をゴロリと嚥下していく。背筋に冷たい棒を突っ込まれたような気分になり、一瞬にして酒場の空気が冷えたような感覚を味わいながらも、それでもベルは、気丈に微苦笑を浮かべてみせた。
「で、でもほら、ウェズの事だし、ゲリョスの猛ダッシュからも逃げられるんだから、きっと大丈夫よ!」
「――ベル」
 フォアンの、どこか硬質な感じを孕む声に、ベルは諫められたかのように、一瞬身を縮こまらせる。
 視線を向けると、フォアンが何もかも見透かしたような、涼しげに澄ました顔で、小さな指摘を口にした。
「――震えてるぞ?」
「っ」
「ベルさん!」
 ベルが気恥ずかしさに紅潮したのを無視して、ザレアが高々に声を張り上げた。思わず素の顔でザレアに視線を向けると、彼女は固めた拳を胸の前で震わせながら、敢然と自分の思いを、――この場に居合わせた全員の思いを、口にした。
「行くしかにゃいにゃ! ウェズさんを助けに行くのにゃ! オイラ達が、やるしかにゃいのにゃ!」
 ――思えば、ベルを取り巻く二人のハンターは、ベルの心底に有る思いを容易く汲み取るような、何もかも見透かしているようで、その実、いつだって自分に忠実なハンターだった。
 彼らの思いは、どこか素っ頓狂で、何かが間違っているような気がするが、反面、ベルの深層心理の断片を呼び覚ましているような気もして……
「……もう、何て言うかさぁ……」
 長い紺色の髪に触りながら俯いて、ばつが悪そうに呟きを漏らすベル。口ごもるようにそこで言葉を一旦区切り、少し間を開けてから、――澄みきった、且つ不敵な微笑を浮かべて、――口を開いた。
「――分かってるわね、皆?」
「了解です、隊長」フォアンが敬礼し、「分かってるのにゃ!」ザレアが片手を挙げる。
 心を満たす返答を脳に納めた後、ベルはよく分かっていない村長へと振り返り、「そんな訳で、」と前置きを告げてから、
「何日か村を空けさせて貰ってもいいかな? 村長」
 拝むように両手を合わせると、ベルは頭をぺこりと下げた。同様に、フォアンとザレアも懇願するようにコニカを見つめる。
 その時点になってようやく事態を呑み込めたらしいコニカは、給仕のティアリィに目配せしてから、コックリと頷いた。

【後書】
 問題児の行商人を心配するのは無駄だーと言いながらも、結局心底では心配しているベル…

 めっちゃ尊くありません!?!?!(挨拶)

 ベルとウェズって腐れ縁的な幼馴染的な要素を出したくて綴ってた気がしますが、今回の物語でその要素をふんだんに活かせた気持ちで一杯です。こう、結局馬鹿を見ると分かっていても心配せずにはいられない仲って、堪りませんよね…!
 今回の話だけ単体で観ると、ベルとウェズってもしかしてそういう仲になる…? って疑いを懐くかも知れませんが、私も懐いてました(笑顔)。ベルの狩猟日記最後のお話の彼の台詞は万感の想いが詰まっておりますので、それまで是非是非モダモダして頂けると幸いです!w
 と言う訳で次回、第21話にして第2章第8話!「沈黙の雪山」…いよいよ狩場へ繰り出す彼らが観たものとは!? お楽しみに!

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