2018年2月13日火曜日

【ベルの狩猟日記】023.敗残【モンハン二次小説】

■タイトル
ベルの狩猟日記

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【鎖錠の楼閣】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G




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ハーメルン版■https://syosetu.org/novel/135726/



 雪山の頂上付近に広がる雪原地帯は、地獄絵図と化していた。
 辺りにはフルフルの食い散らかしたガウシカやポポの残骸が散乱し、雪上を薄っすらと赤く化粧したように鮮血で染めていた。
 その中心にいるのは、豪勢な食事を終えて巣穴へ戻ろうとしていたフルフル。だが、その巨躯は今では赤黒く変色した部分が目立ち、足や胴には風穴が開き、首には深く裂傷が走り、鮮血を滴らせ、更に雪原に赤い彩りを加えている。
 そのフルフルから三十メートルほど離れた先に、一人の少年が倒れている。陸に上がった魚のように全身を小刻みに痙攣させ、白い湯気のような蒸気を立ち上らせながら。だがそれ以外の動きを全くしないし、生死も定かではない――寧ろ死んでいると説明された方が納得できる状態で、無造作に転がっていた。
 その両者を繋ぐ間には、巨大な猪と、何もしなくても凍死するのではないかと思える程の軽装に身を包んだ少女が対峙していた。ザレアの視界は大猪ドスファンゴに遮られているようだったが、最悪の事態を想像したのか、幾分その動きが停滞――ではなく、驚く程にアグレッシヴになった。
「退けって、言ってるにゃ!!」
 振り返った大猪へと、自身の身の丈の三倍以上は有ろうかと言う巨大な肉の塊へと、渾身の力を込めた一撃を、一切の容赦も遠慮も手加減も無く、叩きつける。
 その光景を愕然とした面持ちで眺めていたベルには、悪夢がまだ続いているとしか思えなかった。

 ――フォアンが死んだ。

 その事実が、ベルの脳の一番深い場所に、烙印のように刻みつけられた。
 酷い痛みだった。視界が捉える全てが信じられない。脳が受けた視覚に因る暴力が起因し、思考だけが過去へと遡っていく。
 眼前で、何の抵抗も無く、仲間が感電死する悪夢。
 彼の纏う悪臭と、見るに堪えない醜悪な姿に、それ以前の彼の姿を、全く思い出せなくなる悪夢。
 もう二度と、彼と狩猟を行う事も、心を交わす事も、況してや出逢う事も出来なくなったと言う悪夢。
 ――眼前に厳然と佇む現実は、まさに悪夢と呼ぶべき過去の再現そのものだった。
「ベルさんっ!」
 ベルを地獄の淵から呼び覚ます声が、鼓膜まで届いたが、それを脳が認識する事は無い。ベルは今、悪夢と言う名の檻に囲われ、意識を外に向ける事が出来ない状態だった。
 故に、フルフルがこちらを向いて、フォアンを葬った、地を駆ける雷を放とうとしている事に気づかなかった。
「ベルさんっ!」
 フルフルの口に青白く発光する塊が凝集し、射出の準備が整いつつあるのにも、気づけない。
 ベルは、自分が泣いている事にさえ気づかず、ただ茫然自失の態だった。痙攣を繰り返すフォアンを見つめているようで、実は虚空しか見ていない瞳で、涙を零していた。
「ベルさ――」
 紫電が、放たれ――――

 ――――ベルの頬を張り飛ばす、ぱぁ――んっ、と言う、乾いた音が辺りに響いた。

 その直前には、フルフルの口に直接こやし玉が投げ入れられていた。突然口の中に湧いた異物感と異臭に、思わず紫電を見当違いの方向へと吐き出し、苦しそうにその場でもがき始める白い巨体。
 痛みを伴った、痺れるような熱さを頬に感じ、ベルは意識を再び現実へと戻した。
 そこには見知った青年の顔が有った。
「やっぱりベルは、ハンターに向いてないな」
 ウェズが不敵に微笑み、ベルの頬をもう一度張ると、逆にベルに頬を六度張り飛ばされた。
「いでェェェェ!! ちょッおまッやり過ぎだろッ!?」
「あんた、どうして……?」
 正気には戻ったベルだったが、涙の跡に気づかぬまま、まだ頭が覚醒しきっていないような力の無い様子で、呟きを漏らす。
 ウェズは張られたせいで若干赤らみ、先日のように腫れ始めた頬を摩りながらも、真剣に表情を引き締める。
「それより今はここから脱出する方が先決だろ? あのレックスの男の子は死んだ訳じゃない、まだ助けられる余地は有る。――今こそお前の出番だろ? ベル」
 ――死んだ訳じゃない。その単語に反応するように、視線が雪上に伏した少年へと向かう。フォアンは、非常に億劫そうではあったが、確かに立ち上がろうとしていた。

 生きてる。
 死んでなかった。

「――――」
 ベルの瞳に、意志と言う名の力が湧くのを、ウェズは眼前で見つめていた。
 視界の奥――大猪ドスファンゴと一対一で格闘を繰り広げるザレアは、怒りに身を任せてドスファンゴの横っ腹をぶっ飛ばした。砲弾よりも重たい一撃で、フルフル以上の巨体を誇るドスファンゴの巨躯が――宙に浮き上がる。
 横倒しになったドスファンゴは、すぐには立ち上がれそうに無い。フルフルは悪臭と口腔の異物感で、すぐには動けそうに無い。
 狩猟で言えば、好条件が揃っている状況だ。今なら、正常な状態のハンターが挑めば、勝ち目は有るかも知れない。
「――ザレア! フォアンを背負ってこっちに逃げて来て!」
 だが、ベルはその選択をしない。どれだけ狩猟で優位に立っても、退くべき時に退けないハンターの死期は常に身近に用意されている。ベルは、今が退き際だと感じ、それをザレアに叫んで伝える方を優先した。
 ザレアはネコの被り物を大きく頷かせると、恐ろしい速さでフォアンの許へと駆け寄り、自身より少し大きい少年の体をヒョイと担ぎ上げると、ゲリョス顔負けの速さでこちらへ向かって走って来た。
 ベルはその間にウェズに指示を出して、けむり玉を取り出させ、それを使って辺りに煙幕を張った。ドスファンゴが容易に追ってこられないように対策を講じてから、ベルはザレアが追いつくのを待ち、狩場からの遁走を図った。
 生き延びるための敗走に、躊躇いなど微塵も湧かなかった。

【後書】
 このウェズ君のカッコよさと可哀想さの両立は、ウェズ君にしか出せない雰囲気です(笑)。
 と言う訳で感電死したー!? と見せかけてからの辛くも敗走、と言う流れ。瀕死になったハンターが態勢を立て直すべくエリア移動するアレですね! って言うと歯に衣着せない言い方になってしまうのですがw
 ともあれ美味しい所を持って行くウェズ君、ここだけ見ると何れベルちゃんと…って雰囲気まで滲ませつつも…!
 そんなこったで次回、第2章11話にして、第24話!「引き摺る影」…ウェズ君イケメソ回が続きます。そうか、登場した当時はこんなにカッコいいキャラだったんだな…って読み返しながら驚いております(笑)。ではでは、次回もお楽しみに!

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