2018年4月28日土曜日

【余命一月の勇者様】第4話 底抜けのバカなのかなって【オリジナル小説】※再掲

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2016/11/04に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第4話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/8900

第4話 底抜けのバカなのかなって


「……ねぇ、あんた、荷物ってそれだけなの?」

ヨモスガラの山林に向かうため、ヒネモスの街の正門を潜ろうとしたミコトに、怪訝な様子でレンが声を掛ける。
ミコトは自分の格好を見下ろすも、普段の皮の防具に、携帯食料として干し飯と塩鮭が入った鞄、、腰に下げている片手剣、極限まで小さく折り畳める寝袋、と言う装備で、言うなれば冒険者としてはスタンダードな格好だ。
マナカもほぼ同じ装備で、唯一違うのは武器が片手剣の代わりに大剣を背負っている事。クルガは装備も何も無く、更に素足と言う野生児そのものの格好。
レンはと言えば、皮の防具に短剣を下げているだけで、冒険者であればかなりの軽装に分類される格好だろう。
「何か問題でも有るか?」不思議そうにレンを見やるミコト。
「いや、ほら、もっと色々有るじゃない? 現地まで移動するための足とかさ、あたしとクルガの寝袋とかさ」怪訝な表情で問い詰めるレン。
「あぁ、今無一文だから足は用意できないし二人の寝袋も用意できないんだ。済まんな」
「無一文!?」
ミコトが他人事のように説明すると、レンが愕然とした様子で口をあんぐり開けた。
「あんた、お金持ちじゃないの!?」
「? お金持ちじゃないと不味いのか?」小首を傾げるミコト。
「だ、だって、あんたその子に七万もの大金をぽーんと……」何かを放り投げる仕草をするレン。
「あぁ、見てたのか」ばつが悪そうに首の後ろを掻くミコト。「自由に生きるって、こういう事かと思ってな」
「え、え、ちょっと待って、それじゃああんた、その子のために全財産投げ打ったって事……!?」
レンが「だとしたら理解不能」と目で訴えかけてくるが、ミコトは「まぁ、そうなるな」とあっけらかんとした態度で応じた。
「あ、分かったわ! 七万もの価値がこの子、クルガには有るんでしょ!? そういう事なんでしょ!?」クルガを指差して吼えるレン。
「七万以上の価値が有るさ、クルガには」頷くミコト。「自由に生きるってのは、金じゃ測れない価値が有るって事だな」
「いやいやちょっと待ちなさいよ」ずんずん詰め寄ってくるレン。「自由に生きる云々は置いといて、クルガに七万以上の価値が有るのよね?」
「人を金で測るなんておこがましいだろ」不思議そうに頭を掻くミコト。「だから俺は全財産を投げた。それでもまだ足りない位だ」
「じゃああんた、まさか衝動で七万もの大金を譲渡したって事……!?」顎が外れそうになっているレン。
「自由に生きるって事は、そういう事だろ?」きょとんとしているミコト。
「嘘でしょ……バカじゃないのこいつ……」呆れ果てて何も言えなくなっているレン。「いやでも待って、もしかしたら大金を持っている事のカモフラージュで嘘を吐いてるのかも……」ブツブツと小声で何事か呟き始めた。
「おーい、置いてくぞー」
ミコト、マナカ、クルガが先に行っているのを見て、「あ、ちょっ、待ちなさいよー!」と慌ててレンが追い駆ける。
「てか、本当に徒(かち)で行くつもりなの!? ヨモスガラ山林まで余裕で一日掛かるわよ!?」四人の先頭を行くミコトの肩を叩くレン。
「一日で着くなら早い方じゃないか? 急ぐ冒険でも無いんだ、のんびり景色でも楽しみながら行こうぜ」気楽に応じるミコト。「お、クルガ。あの花、何て言うか知ってるか?」
「あぅ?」クルガが見上げた先には、淡いピンク色の花弁が咲き乱れていた。「わ、分からない」
「あれは焉桜(エンザクラ)と言ってな、春先に咲く花なんだ」指差して説明するミコト。
「良い匂いがする」くんくん、と鼻を上向けるクルガ。
「香料にも使われる位だからな、近づけばもっと良い匂いがするぞ」そう言いながら街道を逸れて焉桜に近づいて行くミコト。
「ちょっとちょっと、依頼は!? 寄り道して間に合うの!?」思わず呼び止めるレンだが、誰も聞いていない。
「焉桜か? 良い匂いだよなー俺も大好きだぜ! 髪を洗う時に焉桜の石鹸使うと、メチャクチャ良い匂いがするんだよなー」ミコトを追って、漂う臭気を胸一杯に吸い込むマナカ。「でも高いんだよなー」
「良い匂い……」焉桜の根元まで来て、鼻をすんすん言わせるクルガ。「優しい香り……」
「匂いも良いし、綺麗だよな、この花」枝葉を仰いで覗き込むミコト。「この依頼が終わったら花見でもするか」
「お、良いじゃん! 花見良いじゃん!」ミコトを指差して感激の声を上げるマナカ。「肉用意しようぜ肉! 焉桜を見ながら肉食えば、そりゃもう極上の幸せだろ! 天上の世界だろ!」
「花見、楽しそう……」幸せそうに目を細めるクルガ。
「あぁ、楽しいに決まってるさ。だろ? レン」不意にレンに水を向けるミコト。
「あ、あたし?」不意打ちに声を掛けられて戸惑うレン。「た、楽しいんじゃない? 分かんないけど」
「レンもああ言ってるだろ? 楽しみにしとけよ、クルガ」ポン、とクルガの頭を撫でるミコト。
「うん! 楽しみー」
ふさふさの尻尾をぶんぶんと左右に振って喜びを表現するクルガに対抗するように、「俺も俺も! 俺も楽しみだからな!」とミコトの前で飛び跳ね始めるマナカ。
「……」三人を若干離れた場所から眺めるレンの瞳は、若干濁っていた。

◇◆◇◆◇

一頻り焉桜の観賞を楽しんだ四人は、改めてヨモスガラの山林を目指して歩き始めた。
「ちょ……ちょっと休憩……しない……?」
半日近く歩き詰めた結果、レンがふらふらとした足取りで木陰に向かうと、ぺたりと座り込んでしまった。
「俺まだ元気だぜ!」マナカがブリッジをしながらカサカサと動き回る。
「体力バカなんじゃないのあんた!?」即座に元気なツッコミを返すレン。
「そうだな、少し休憩するか。全員レンの近くに集合~」レンを指差して、レンに向かって歩き出すミコト。
「おっしゃー! 俺が一番乗りだぜー!」ブリッジしたままカサカサした動きでレンに駆け寄るマナカ。
「気持ち悪い! そこの体力バカは来なくて良い! あっち行け!」得体の知れない挙動をするマナカを追い払うように手を振るレン。
「わー」両手を挙げてペタペタとレンに駆け寄って来るクルガ。
「クルガはとても可愛いからこっちおいでー」クルガを手招きするレン。
「何この扱いの差! 信じられるかミコト!? 俺カッコいいよな!?」ブリッジしながら飛び跳ねたり回転したりするマナカ。
「マナカはカッコいいんじゃない、バカッコいい、だろ?」ドヤ顔のミコト。
「それだーッ! 俺まじバカッコいいよな!? さっすがミコト! 分かってるぅー!」ブリッジしたままミコトを指差すマナカ。
「絶対に意味分かってないでしょそいつ……」呆れ返った様子のレン。
四人が木陰に入ると、涼しげな風が吹き抜けて行った。
「まだちょっと風が冷たいな。クルガ、寒くないか?」干し飯を手渡しながら尋ねるミコト。
「さ、寒くないよ。僕、丁度」干し飯を両手で受け取り、リスのように小さな口を小刻みに動かして食べ始めるクルガ。「これ、美味しい」
「だよな!? 干し飯って美味しいよな!?」クルガの目の前に身を乗り出し、自分の干し飯を齧るマナカ。「俺もこれ好きでさー、もう何か隙有らば食いたくなるんだよなー! レンもそう思わねえか!?」
「干し飯を美味しく感じた事なんて無かったけど……」不審な目でマナカを見やるレン。「あんた、焼き肉が好きなんじゃないの?」
「焼き肉も好きだけどさー、こう、何て言うの? 干し飯には干し飯の良さが有るじゃん?」干し飯をクルクル回しながら頭を捻るマナカ。「焼き肉はこう、じゅわーって来るけどさ、干し飯はこう、じわーって」
「ごめん、よく分からないわ」干し飯を齧りながらそっぽを向くレン。「ねぇクルガ、干し飯より美味しい物なんてたくさん有るわよ?」
「そ、そうなの……?」小さく分けて干し飯をはむはむするクルガが、レンに視線を向ける。「いつも、草、食べてたから、分かんない」
「え……」言葉を失うレン。
「じゃあこれから色んな物を食べてみようぜ。マナカの言う焼き肉も、美味しいんだ」干し飯を齧りながら告げるミコト。「旅をしながら、色々食べ歩きするのも楽しいかもな」
「うん、楽しみー」
ふさふさの耳をぴょこぴょこ動かし、ふさふさの尻尾をパサパサ振って、楽しげな表情をするクルガ。
それを見て、レンはこっそりとミコトの元に近寄り、耳打ちする。
「その……ごめんなさい。聞いちゃいけない事だったかしら」
「ん? 過ぎ去った事を気にするより、これからどうするかを考えた方が楽しいぜ?」
片眉を持ち上げて笑みを見せるミコトに、レンは「……そうね、ありがと」と安堵の感情を覗かせて、「干し飯、もう一つ貰える?」と尋ねた。
「あいよ」レンに干し飯を手渡すミコト。「まだたくさん有るから、遠慮せず食えよ」
「なぁミコト」干し飯を飲み込んだマナカがミコトに顔を向けた。「俺達はこれから何をするんだ?」
「……は?」思わず受け取った干し飯を落としそうになるレン。「あんた話聞いてないの!? 一緒に依頼受けてたんじゃないの!?」
「俺は依頼を受けてたのか!?」驚きに目を瞠るマナカ。「知らなかったぜ……! じゃあレン、教えてくれ! 俺達はこれから何をするんだ!?」
「…………えぇと……」マナカの熱い視線にたじろぐレン。「……えぇと……ミ、ミコト? あたし達、何の依頼を受けたんだっけ?」
「オワリグマの退治だな」干し飯を飲み下して頷くミコト。「レン、お前、オワリグマに用事が有る訳じゃないのか?」不思議そうにレンを見つめる。
「えっ、あっ、えぇと、その……」まごつきながらあたふたと手と頭を無軌道に振るレン。「そ、そういう事になる、か、な……? えへへ」
「よく分かんねえけど、レンは俺達と一緒にオワリグマ退治したいんだろ? だったら一緒に頑張ろうぜ! な!?」レンの肩を叩くマナカ。
「う、うん、そ、そうね……」視線を逸らし気味のレン。
「マナカもそう言ってる事だし、あんまり気にするなよ」ポン、とレンの頭を撫でるミコト。「俺達は別にお前がどんな目的でここにいるのかなんて気にしちゃいないさ。一緒に付いて来るだけでも、俺は別に構わないしな」
ミコトの顔を不思議そうに見つめるレンに、彼もまた不思議そうに小首を傾げる。
「……何だ?」
「……ううん、あんたってその……底抜けのバカなのかなって」
ポツリと漏れた一言に、ミコトは「ぷふっ」と笑声を漏らした。
「いや、今のあんたが笑う所じゃなかったよね!?」思わずツッコミを入れるレン。「てかごめん! 馬鹿にするつもりじゃなかったのよ!? つい口が勝手に……!」
「ははっ、良いよ、俺もそんな風に言われるのは久し振りだったからさ、ははっ」笑いのツボに入ったのか、苦しげに腹を抱えるミコト。「いつ以来かなぁ、確かお前だったよな言ったの、はははっ」笑いながらマナカの肩を叩き始める。「お前にだけは言われたくないって言い返したよな」
「そんな事有ったかぁ?」よく分かってない様子でミコトに肩を叩かれるマナカ。「でもまぁ、レン、お前の気持ちはよく分かるぜ! こいつバカだよな!」
「いやあんたにだけは言われたくないと思うけど……」真顔でマナカを見据えるレン。
「お前もそう言うのかよぉ!! ひでえ!! 確かに俺もバカだけどさぁ!! え!? じゃあお前もバカなのか!? レン!! お前もバカなのか!?」レンを指差して咆哮を上げるマナカ。
「バカバカ煩い!! あとあたしはバカじゃない!! バカなのはあんたよ!!」マナカを指差して喚き散らすレン。
「あうぅ……」頭上を罵倒が飛び交ったのが怖かったのか、耳を押さえて伏せってしまうクルガ。
「あっ、ごめんね? クルガを怯えさせるつもりは無かったの」咄嗟にクルガの頭を撫で始めるレン。「よしよし」
「あうぅ……?」突然頭を撫で始めたレンを見据えて、きょとんとした表情を浮かべるクルガ。「よしよし……?」
「え? もしかしてよしよしされた事無いの?」クルガの頭を撫でていたレンの顔に驚きが点る。
「う、うん、初めて……」撫でられながら目を細めるクルガ。「凄い……よしよし、凄い……」
「レンのよしよしってそんなに凄いのか!?」マナカが叫び始めた。「レン! 俺にもよしよししてくれよ! 頼む!!」レンの眼前でしゃがみ込む。
「い、嫌に決まってるでしょ!? てか何であんたの頭よしよししなくちゃいけないの!? あんたよしよしされるような事した!?」思わずクルガを抱き締めてマナカに見せないように移動するレン。
「よしよしされるような事って何だ!? 何だよう、俺にもよしよししてくれたって良いじゃんかよう!」悲しげに地団太を踏むマナカ。「俺もよしよしされたかったんだよう!!」
「仕方ないな、代わりに俺がよしよししてやるよ」と言ってマナカの頭を撫で始めるミコト。「よしよし」
「お? おおお?? やったああああっっ!! よしよしされたぞおおおおっっ!!」うおーっ、と雄叫びを上げるマナカ。「やっぱりミコトは最高だな! よしよし最高だぜ!!」
「……それで良いんだ」
レンが呆れ返った声を漏らしたが、誰もツッコミを入れる者はいなかった。

【後書】
分かり易過ぎる位に挙動不審ですが、この世界観ならこれぐらいやってもいいかなーって想いで綴っております。
よしよしは凄いぞよしよしは。

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