2018年5月7日月曜日

【神否荘の困った悪党たち】第20話 全世界のクリエイターが切望する異能だ【オリジナル小説】

■タイトル
神否荘の困った悪党たち

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。
※注意※2017/03/14に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
日常 コメディ ギャグ ほのぼの ライトノベル 現代 男主人公

■第20話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881797954
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9189

第20話 全世界のクリエイターが切望する異能だ


「せんぱーい!」

部屋でスマフォを弄っていると、ノックと同時に砂月ちゃんの声が聞こえてきた。
「どうぞー」ベッドの上で起き上がる。
「お邪魔しまーす!」扉を開けたのは、サファリシャツにカーゴパンツ姿の砂月ちゃんだった。「先輩! 同人誌完成したので読んでください!」
「えっ、いいよ」渡された単行本サイズの厚みの冊子に驚く。「えっ、これ何ページあるの?」
「二百ページ有ります!」鼻息荒い砂月ちゃん。
「表紙もしゅごいクオリティだけど、これも砂月ちゃんが描いたの?」書店に売ってそうなクオリティだ。「えっ、てかこれ漫画だ」パラパラとめくると、何か尋常じゃないクオリティの漫画が掲載されてる。
「全部自作です! 思いついたらすぐ同人誌にしちゃうんで!」てへへ、と照れ臭そうに首の後ろを撫でる砂月ちゃん。
「しゅごい才能だなぁ」改めて最初から読み始める。「てかこれ、何か見覚えの有る名前と人なんだけど」アニエ君とアイヒさんがどうとか出てくる。
「いやー、やっぱりアニアイがジャスティスだと思うんですよね! それとも先輩はアイアニ派でしたか!?」ハッと口元に手を添える砂月ちゃん。
「あっ、やっぱりこれ俺とラヴファイヤー君なんだね」納得して、改めて漫画の世界に没入する。
どうやらこの漫画はアニエ君って言うニートさん(男)が、アイヒさんって言うサラリーマン(男)とラヴラヴする話らしい。
甘ったるい少女漫画チックな展開が最初から最後まで貫かれた上に、巻末には“2巻では新キャラが……!?”と締め括られて、後書には“この物語はフィクションです。実在の人物とはうんたらかんたら”と綴られていた。
「どうでした!? どうでしたか先輩!?」ハァハァと息遣いが荒い砂月ちゃんが迫ってくる。「面白かったですか!?」
「予想外に面白かったよ」コックリ頷く。「俺とラヴファイヤー君じゃなかったらもっと楽しめたかも」
「先輩はアニアイ派じゃなかったですかー」漫画を受け取りながら苦笑を浮かべる砂月ちゃん。「じゃあ今度は男体化したシンさんと先輩の絡みに挑戦してみますね!」グッと拳を固め始めたぞ。
「どうしても俺をホモォにさせたいんだね」流石に苦笑を禁じ得ない。「てか、改めて思ったけど、砂月ちゃんの画力って言うか、漫画の技術ドチャクソ高いんだね。こんなしっかりした漫画を自作できるなんて、しゅごいよ」
よく見ると装丁もしっかりしてるし、表紙どころか中身もオールカラーだし、絵柄も綺麗だし、物語も破綻無く丁寧だし、展開も無理無く面白いし、こんな同人誌は生まれて初めて見た。
そう思って感想を呟くと、砂月ちゃんは「そんなに褒められると照れちゃいますよ~!」と気恥ずかしげに頬を掻いた。
「良かったら、同人誌作ってるとこ、観てもいいかな?」しゅごい興味ある。
「えっ、いいですよ!」嬉しげにはにかむ砂月ちゃん。「じゃあ今ここで作りますね! アニシン本!」
「えっ、今ここで?」何の道具も無しに?
不思議そうに見てると、砂月ちゃんは何かを支えるように両手の手のひらを上に向けて、ジッとその上を見つめ始めた。すると瞬きした瞬間に砂月ちゃんの手のひらの上に単行本がぽとっと落ちてきた。
カラーの表紙の、二百ページくらいありそうな、しっかりした装丁の単行本が。
「はい、出来ましたよ!」と言って手渡してくる砂月ちゃん。「出来立てほやほやのアニシン本です!」
「えっ、作り方が魔法」受け取った漫画を開くと、全ページオールカラーの神作画漫画が収録されていた。「どういう原理で出来てるのこれ?」
「自分は無機物を支配できるって前に言いましたよね? その応用で、頭の中に浮かんだネタを、支配した大気に念写すると、こうして自分が妄想した同人誌が完成するんです!」えへへ、と微笑む砂月ちゃん。
「しゅご過ぎる。全世界のクリエイターが切望する異能だ」てか俺も欲しいレヴェルだ。
「自分は元々、この力で世界を滅ぼそうと思ってたんですけど、日色さんに諭されちゃって……」懐かしむように頷く砂月ちゃん。「自分の力は、世界を滅ぼすために使うより、自分の妄想を形にするために使った方が良いって、日色さんが言ってくれて……それから、自分、同人の世界にどっぷりハマっちゃって……」
「まさかの同人の入り口が祖母ちゃん」驚きを隠せない。「それも世界を滅ぼそうとしてた人が今、同人誌を作るのにハマってるって、しゅご過ぎるよね」
「そんな事無いですよ~」手をヘロヘロと振る砂月ちゃん。「魔王が営業の仕事したり、宇宙の支配者がにゃんこだったり、世界最高峰の殺し屋がニートになったり、マッドサイエンティストが処刑装置作ったりする世界なんですから、自分なんて普通ですよ普通!」
「そうだね~って頷きそうになったけど、マッドサイエンティストのくだりだけはやばみを感じるよね」そこだけは間違ってないし正しいからマズいのでは?
「それよりも先輩! 早く読んでみてください! アニシン本! 最高の出来ですから! 先輩でも満足できますから!!」グイグイと漫画を押し当ててくる砂月ちゃん。
「どうしても俺をBL沼に落としたくて仕方ないんだね」何だかんだ言いながらも面白い作品と知ってしまったから、読むのに躊躇は無かった。「じゃあ読ませて貰うよ」
「はいっ!」
爽やかに微笑む砂月ちゃんに見られながら、彼女の作成した、アニエ君がラヴラヴする物語を、一日読み耽る事になるのだった。
面白かったけど、アニエ君が出てこない物語が読みたいなって思ったよ。

【後書】
私もそんな力が欲しい(切望)。
と言う訳で砂月ちゃんの回でした。あらゆるクリエイターが血眼になって探求する力なのではないかと思います。私も欲しい(二回目)。
次回、いよいよ無料配信最後の話になります。21話、「だから俺、こんなにも普通でいられるんだ」……3章最後を飾るのは式子さんです。お楽しみに!

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