2018年5月8日火曜日

【余命一月の勇者様】第15話 彼の成したい事、彼女の成したい事〈2〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/02/01に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第15話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9103

第15話 彼の成したい事、彼女の成したい事〈2〉


「――ミコト。ミコトは、あと一ヶ月で、死んじゃうんだよね?」

 日が暮れ、焚き火の輝きと、夜空から降り注ぐ月光だけが頼りの青白い世界で、クルガの呟きが三人の耳朶を打った。
 残り少なくなった干し飯を食みながら、ミコトはクルガに向き直る。彼は自分の手に持つ干し飯に視線を落としたまま、ミコトを見ようとはしなかった。
「ぼ、僕ね。早く一人前にならなくちゃって、思ったんだけど、でもね、今日一日考えて、今、違う事考えてるの」干し飯を握り締めたまま、クルガはゆっくりと視線を上げ、ミコトを正視する。「僕、ミコトと一緒にいたい。ミコトがダメって言っても、僕、ミコトと一緒にいたい。ずっと、ずっと一緒に……」
 そこまで言って、ポロポロと涙が零れてきたクルガを見て、ミコトは歩み寄り、彼の涙を拭う。クルガは涙を零しながらも、ミコトから視線を逸らす事は無かった。
「ミコト……僕ね、ミコトがいなくなるの、凄く嫌だ……」喉を震わせながら、ミコトを見据え続けるクルガ。「でも、ミコト、死んじゃうんでしょ? だから僕、それまで一人前になりたくない……ミコトがいなくなるまで、ずっと一緒にいたい、だから……っ」
「クルガが一人前になったらすぐにお別れするなんて、俺だって嫌さ」クルガを抱き締めて、ポンポンと背中を撫でるミコト。「……確かに俺は一ヶ月したらいなくなる。だけど、クルガはそれから先もこの世界で生活しなきゃならない。だから、そのために出来る事を、俺はしたいんだ」
「あうぅ……」ミコトを抱き締め返して、嗚咽を漏らすクルガ。「僕に出来るかな……僕、役立たずなのに、ゴミなのに、一人前になれるかな……」
「クルガは役立たずじゃないし、ゴミなんかでもない」顔を離し、目と目を合わせるミコト。「前にも言ったろ? クルガは俺達の家族だ。俺達家族に役立たずもゴミもいない。だからクルガも、役立たずじゃないしゴミじゃない。そうだろ?」
「でも……っ、ミコトがいなくなったら僕……っ、あうぅ……っ」再びミコトの胸に顔を埋めるクルガ。「僕、ミコトがいなくなるの嫌だ……っ、ミコトのお陰で、僕、やっと頑張れるって思ったから……っ、だから、ミコトがいなくなるの、嫌だ……っ」
「そうだな、まずはその泣き虫を治さなきゃな」ポンポンと背中を撫でて、ミコトは微笑を浮かべる。「クルガは俺達よりよっぽど凄い力を持ってるんだから、泣き虫さえ治せれば、お前は凄い奴になるぞ」
「あうぅ……本当……?」上目遣いにミコトを見上げるクルガ。
「本当さ。クルガがいてくれたお陰で、オワリグマを殺さなくて済んだし、ネイジェと逢う事も出来たんだぞ? クルガがいなければどちらも出来なかった事だ。だからクルガは、凄い奴さ」
 柔らかな微笑を浮かべるミコトに、クルガはやっと落ち着いたのか、涙をもう一度拭うと、ミコトに向かってはにかみ笑いを見せた。
「ミコトだけだ、そんなに僕の事、認めてくれるの」ミコトから少し離れ、大きな石の上に腰掛けるクルガ。「僕、とても嬉しいし、心が、ポカポカする」
「その気持ちを忘れるなよ?」干し飯でクルガを指差すミコト。「クルガも、誰かにそんな気持ちを分け与えるんだ。俺に感じた恩義は、俺に返さなくても良い。クルガが、頑張ってるな、と思ってる人や、応援したいと思ってる人に、恩義を分け与えてくれれば、俺は嬉しいぞ」
「……分かった。僕、いつか、ミコトみたいな人になる!」拳を固めて、ミコトを確りと見据えるクルガ。「あ、僕のやりたい事、決まった! ミコトみたいになる事だ!」
「クルガがミコトになるのか!?」干し飯を貪り食っていたマナカが頓狂な声を上げる。「つまりミコトが二人になるって事か!? ど、どっちがミコトか分からなくなるな!?」
「マナカが区別できなかったら、誰も分からないだろうな」小さく笑声を落として、干し飯を齧るミコト。
「いや分かるでしょ流石に……」思わずツッコミの手を入れるレン。
「僕、なれるかな? ミコトみたいな人に」俯いて干し飯を齧り始めるクルガ。
「なれるさ。クルガが頑張るなら、俺は応援するぜ?」
「俺も応援するぜクルガ! ミコトが増えるって、最高だもんな!」
「あたしも、クルガが頑張りたいって思うなら、応援するわ」
 三人の温かな眼差しを受けて、クルガは嬉しげに笑むと、干し飯を握り締めたまま、三人を見返す。
「皆、有り難う! 僕、頑張る! ミコトみたいになれるように、頑張る!」
「おうよ!」バンッ、とクルガの背中を叩いて励ますマナカ。「俺もよ、今日一日考えて、決めたぜ! やりたい事!」
「お前もか。どうしたんだ急に」不思議そうにマナカを見やるミコト。「やりたい事が決まる時期なのか?」
「どんな時期よそれ……」おいおい、とツッコミの手を入れるレン。「今朝ね、ミコトが起きる前に、皆で話し合ったのよ。ミコトには、寿命が尽きる前にやりたい事が五つ有るって、昨日話してたじゃない? だったらあたし達も、その一ヶ月間でやりたい事を見つけて、成し遂げたい、って思ったのよ」
「そういう事だったのか」微苦笑を浮かべて干し飯を齧るミコト。「それで? マナカは何を成し遂げたいんだ?」
「ふふふ、聞いて驚けよ?」自信満々に前のめりになるマナカ。「寿命が尽きても、ミコトと一緒にいる! それが俺のやりたい事だ!」
「俺の死体と一緒にいたいのか?」怪訝な表情で小首を傾げるミコト。
「狂気の沙汰なんだけど」青褪めた表情でマナカから距離を取るレン。
「マナカ、怖い……」レンの元に縋り寄るクルガ。
「違うって! 誤解だって! 俺はアレだよ、そう! ミコトの寿命が尽きても、ミコトと一緒にいたいんだって!」
 マナカは何とか説明をしようとするも、三人は理解に苦しんでる様子だった。
「……つまり、アレか? 俺の寿命が尽きないようにしたいのか? もしかして」何とかマナカの伝えたい内容を推察するミコト。
「そうだ! それを言いたかったんだよ俺は! さっすがミコト! 俺の相棒だぜぇ~!」ミコトと肩を組んで大笑するマナカ。
「マナカの言葉を理解できるのは、確かにミコトぐらいしかいなさそうね……」苦笑を浮かべて二人を眺めるレン。「マナカも中々良い事思いつくじゃない。そうよね、ミコトの寿命が尽きないようにするって、名案だと思うわ」
「へへへ! それにな! 俺にはもうその暗い餡も思いついてる!」
 間。
「……暗い餡って何?」レンが挙手して尋ねた。
「あれ? 違ったか? えーと、ほら、暗い的な、餡だよ」
「具体案だな、たぶん」ミコトがポツリと漏らした。
「それだーっ!」ビシィッとミコトを指差すマナカ。
「マナカ翻訳機ね、完全に」呆れた様子でミコトを見やるレン。
「で? 具体案ってのは、どんなもんなんだ?」
「それはだな……俺さ、聞いちまったんだよ。これから向かう場所にいるドラゴンは、一つだけ願いを叶えてくれるって!」
 マナカの膝を打ちながら告げられた宣言に、レンとクルガは瞠目した。
「そ、そうなのミコト?」「ドラゴン、凄いね!」
「ああ、そうらしい」隠す事でもないため、ミコトはあっさり白状した。「マナカ、起きてたならそう言えよ」
「へ? 何の事だ?」不思議そうにミコトを見やるマナカ。
「ん? いや、ネイジェの話だろ?」不思議そうにマナカを見やるミコト。
「違うぞ。俺は夢の話をしてる!」腕を組んで踏ん反り返るマナカ。「夢の中の、何かすげー奴がさ、そんな事を話してたんだ! だから俺、そうか、すげーな! って思ってよ!」
「……つまり、マナカは寝惚けてネイジェが話してた内容を夢で見たって事で良い?」マナカから視線を逸らしてミコトに向き直るレン。
「たぶんそういう事だろうな」苦笑を滲ませるミコト。「丁度良いから、今後の予定に就いて話すぞ」手を叩き、三人に注目させる。「俺達はこれからヒネモスの街に戻った後、準備を整えてから、オワリの国の都・シュウエンに向かう。そこで国王と謁見する」
「国王と?」驚きに目を瞠るレン。「そんな事出来るの?」
「何でも、ネイジェ=ドラグレイの遣いだと言えば通してくれるらしい」レンに向き直って肩を竦めるミコト。「そこで国王の許可を得て、オワリの国の地に在る迷宮の探索に向かう」
「遂に迷宮に行くんだな!? 楽しみだなぁ! どんなところなんだろうなぁ!?」胸が躍るのを抑えきれない様子で瞳を輝かせるマナカ。
「その迷宮の最奥に、エンドラゴンと言うドラゴンがいるらしい」三人を代わる代わる見据え、続けるミコト。「そのドラゴンが、気分が良ければ願いを一つだけ叶えてくれると、ネイジェは話していた」
「願いを一つだけ……じゃあ、ミコトの寿命を延ばして、って言えば……」顔を華やがせてミコトを見やるクルガ。
「俺の寿命が延びるかも知れないな」小さく顎を引くミコト。
「ミコトのやりたい事が二つも叶う上に、寿命まで延びるなんて、願ったり叶ったりじゃない!」思わず立ち上がって手を合わせるレン。「良かったぁ……これでミコトが一ヶ月で死なずに済むって事ね……!」
「そうだな。何もかも上手く事が運べば、俺は一ヶ月で死んでしまう所を、一ヶ月以上生き延びられるかも知れない」神妙に頷くミコト。
「何かも上手く事が運べば、か」
 ミコトの呟きを反芻するレン。
 ミコトの寿命を延ばすために必要な工程は、とても長い。
 まず、迷宮を攻略できる否か分からない事。国が統治下に置く迷宮である、国の偉い人や学者、研究者が何度も足を運んだであろうその場所を、一介の冒険者であるミコトやマナカ、更に盗賊見習いのレンと、幼い亜人族のクルガの四人だけで攻略できるのかと問われたら、小首を傾げざるを得ないのが実情だ。
 更に迷宮の最奥にいると言うドラゴンの“気分次第”で願いを叶えられるか否かが左右されると言う点も、この工程の難度の高さを物語っている。流石にミコト達の実力がどれだけ凄くても、ドラゴンの気分まではどうにも出来ない筈だからだ。
 幾つもの難題を突破して、初めて“ミコトの寿命を延ばす”と言う願いが叶えられるか否かの難題に辿り着く。もしかしたら如何なドラゴンでも寿命を延ばすと言う願いは叶えられないかも知れない可能性は否定できない。
 ドラゴンに逢えた時点で、ミコトの願いは二つ叶う事になるが、ミコトの寿命が延びるか否かは不確定要素に包まれたままなのだ。ミコト以外の三人にとって、そここそが一番大事な点なのだが、そこだけがどうしても見通せない部分でも有る。
「――そうだ、」神妙な沈黙が降りた場の中心で、ミコトがポン、と手を打つ。「俺にもやりたい事が一つ有るんだ」
「お、何だ何だ?」マナカが興味津々と言った態で身を乗り出す。
「やりたい事って言うか、クルガと約束した事を、俺はちゃんと果たしたいんだ」と言ってクルガに向き直るミコト。
「僕と、約束した事……?」きょとん、と瞬きするクルガ。
「この四人で、焉桜のお花見をしよう!」
 ミコトの朗らかな笑顔を見て、三人は一瞬惚けた表情を浮かべ「「「あ」」」と同時に思い出した。
 ヨモスガラの山林に向かう途中で見た、焉桜。そこで休憩を取った時に、確かにミコトは口にしていた。
 ――この依頼が終わったら花見でもするか
「ヒネモスの街に戻ったら、俺達の依頼は正式に終了するだろ? だったら、シュウエンに行く前に、花見をして依頼の疲れを癒さないか?」
 ミコトの提案に、マナカが「いいなぁ! 依頼が終わればお金が入るしな! そのお金でパァーッと肉買おうぜ肉! 花見にはやっぱ肉だろ!」と早くも涎を垂らし始めている。
「ちょっとちょっと! その金はどこから出てくるのよ!? 依頼は失敗したんじゃないの!?」思わずと言った様子で声を荒らげるレン。「依頼はオワリグマの討伐だったんじゃないの!?」
「あうぅ……ご、ごめんなさい……」フサフサの耳を押さえて蹲るクルガ。
「あぁっ!? 違うのクルガを責めてる訳じゃないのよ!? えぇと、つまりね……!」説明に窮するレン。「そ、そうよ! 依頼は失敗してるかも知れないけど、ミコトにはアレが有るじゃない! 火の花!」
「あぁ、これか?」と言って小さな鞄の中から火の花を取り出すミコト。「これ、出来れば売りたくないんだ」
「ぇえ!? ど、どうして……?」訳が分からないと言った様子のレン。「あんた、それ売らないともうお金が底を着いちゃうんじゃないの……?」
「そうだけど、これはいつか、レンが盗賊になる時のために取っておきたいんだ」と言って鞄の中に火の花を戻すミコト。「今は盗賊になる事よりもやりたい事が有るって言ってたけど、俺がもしこのまま寿命を迎えたら、これを土産に盗賊になってくれよ」
「……あ、あんたねぇ……!」もどかしそうに拳を固めてプルプル震え出すレン。「お人好しにも程が有るわよ! 今の状況考えなさいよ! あたしの未来より、あたし“達”の今の方が大事でしょ!?」
 レンが吼える姿を、ミコトは驚いた様子で見つめる。
「あんたがあたしの未来を心配してくれるのは、とても嬉しいわよ! でも、それで今のミコトが大変な目に遭うのは、おかしいじゃない! あたし言ったわよね!? ミコトを幸せにするのが、あたしのやりたい事だって! だったら、火の花は売り払って、花見の足しにしなさい! それが、あんたの取るべき選択よ!」
 肺腑の中身を全て吐き出したのだろうか、レンは疲れ果てた様子で大きな石に座り込み、ぜぃぜぃと呼吸を整え始めた。
 ミコトはそれを黙って見つめていたが、やがて「……そうだな」と小さく肯定の声を漏らした。
「レンがそこまで俺達の事を考えてくれてるのなら、俺だってそれに応えたい」レンを見つめたまま、静かに言葉を紡ぐミコト。「ヒネモスの街に戻って、冒険者ギルドに報告したら、火の花を売りに行く。それで皆が幸せになるなら、俺は迷わずそうする」
「えぇ、そうしなさい。それなら、あたしも一緒に花見が出来て、あたしも幸せになるし、ミコトも、……幸せに、なる……?」不安そうにミコトの顔を覗き込むレン。
「あぁ、俺も幸せだ」コックリ頷くミコト。「決まりだな」
「よっしゃー! 花見だ花見だ! 肉をたんまり食うぜ俺は! クルガにもたっぷり食わせてやるからな、肉!」クルガの両手を掴んで万歳させるマナカ。
「わーい!」マナカに万歳させられるクルガ。
「レンが盗賊になったら、姐御って言われそうだな」笑いを堪えきれない様子で呟くミコト。
「どういう意味よ?」ジト目でミコトを見やるレン。
「すげーカッコいいって事さ」
 ミコトの朗らかな笑みを見て、レンは気まずそうに「……もう」とそっぽを向くのだった。

【後書】
 自作の物語は大抵暗かったり惨かったりするのですが、この物語はその中でもだいぶ異質と言っても過言ではない程に、希望と光に満ちている、と自負しております。
「魔王様がんばって!」も似たような想いを懐かれる作品だと思うのですが、今まで「神戯」や「戦戯」のような殺戮劇場を綴り続けていた反動なのか、心がポカポカする物語を潜在的に求めているのかも知れません。
 次回、彼の成したい事、彼女の成したい事〈3〉……新キャラ登場で、更にあの人がしゅごい事が判ります。お楽しみに!

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