2018年5月5日土曜日

【余命一月の勇者様】第11話 深き森の半竜〈2〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2016/12/16に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第11話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9103

第11話 深き森の半竜〈2〉


「と言っても、俺が話すのはこの世界に於ける常識であって、本来この世界に生きる者なら誰もが知っていて当然だと思っている話だ。それを何故俺が今この場を借りて話したいと思ったのかと言えば、魔族の娘に対するお前達の態度が気になったからだ」

 半竜の青年は茶碗をテーブルに戻し、腕を組んでミコトを見やる。ミコトもそれを真剣な表情で見返し、彼の言葉の続きを待つ。
「……この世界では、人族と魔族は相争っている。それは知っているか?」
「そうなのかミコト?」小首を傾げてミコトに振り向くマナカ。
「聞いた事は有る」コックリ頷くミコト。「だが、俺自身は魔族と敵対してないんだから、争いを理由にレンを敵対視する必要なんて無いだろ」
「……そうだな。お前の言う通りだ」苦笑を浮かべて頷く半竜の青年。「だがお前のように考える者は極少数だ。“普通”は、魔族と人族が敵対していると聞けば、“なるほど、じゃあ魔族は敵だ”と考えるんだ」
「そうなのか」関心が無さそうに応じるミコト。
「普通ってよく分からねえな?」不思議そうにミコトを見やるマナカ。
「あうぅ……?」二人を見上げて困惑した表情を覗かせるクルガ。
「……はは、まぁ、お前らにとってはそんな感覚なんだろうな」笑声を押さえきれない様子で腹を押さえる半竜の青年。「俺はそれを悪いとは思ってないし、寧ろとても大事な感覚だと思ってる。お前らにそんなつもりが無くとも、お前らがいるだけで救われる存在がいる事は憶えておいてもいいかもな」
「俺達がいるだけで救われる存在、か」イマイチ納得できてない様子のミコト。「実感が湧かないな」
「そうだろうな」笑みを隠し切れない様子で空咳を挟む半竜の青年。「お前達は魔族って何だと思う?」
「分からん」「魔族って……そう言やなんだろうなミコト?」「あうぅ……」簡潔に無知を提示するミコト、腕を組んで不思議そうな表情を浮かべるマナカ、小首を傾げるクルガと続いた。
「だよな」鼻息を落とし、半竜の青年は近くに落ちていた書物を手に取り、ペラペラとページを捲りながら話を続けた。「魔族とは、魔力を有する種族だ」
「魔力さえあれば魔族になるのか?」要領を掴めない様子のミコト。
「そうだ。魔力の有無だけで魔族か否かが決まる」書物から視線を上げずに続ける半竜の青年。「そこの娘は魔力を有してるから魔族。お前達は魔力を有していないから人族。そっちのおチビは獣の要素を含んでいるから亜人族。簡単だろう?」
「じゃあ話を少し戻すが、魔力を有してるって理由だけで、人族は魔族を敵対視してるのか? 魔力が無いって理由だけで、魔族は人族を敵対視してるのか?」
 ミコトの真剣な眼差しに、半竜の青年は書物から視線を上げ、したり顔で書物を戻した。
「察しが良いな。その通りだ。人族は魔力を有する魔族を嫌い、魔族は魔力を有さない人族を嫌う」
「そんな下らない事で嫌うなんて、損してるな」
 ミコトの残念そうに吐き出された感想に、半竜の青年は堪えきれないという様子で笑声を噴き出した。
「はははは! 確かにな、全くその通りだと俺も思う、ははは!」腹を押さえて呵々大笑する半竜の青年。「ははは、はー……そうだな、その通りだ。魔族も、人族も、損してるよな。でも、それがこの世界では“当たり前”なんだ」
「そうなのか」「変な当たり前だなー?」「あうぅ……?」興味を失ったように座り直すミコト、クルガの手を振り回しながら小首を傾げるマナカ、マナカに手を振り回されながら一緒に小首を傾げるクルガ。
「後、これもお前らは知るまい」深く背凭れに体を預けると、半竜の青年は人差し指を立ててミコトの顔を覗き込んだ。「人族からも、稀に魔族は生まれるんだ」
「……突然変異、って事か?」半竜の青年に怪訝な表情を見せるミコト。
「突然変異、か。そもそもこの世界に存在する三つの種族である、人族、魔族、亜人族、これらは全て元は同じ存在なんだ」両手を広げる仕草をする半竜の青年。「同種であるため、子を成す事も可能だ。だから……そうだな。人族に魔の力と言う“才能”が有れば魔族に、人族に獣の力と言う“才能”が有れば亜人族に、何の才能も無ければ人族に、と言う分類が出来る」
「才能」口の中で反芻するミコト。「その話だと、人族も魔族も亜人族も、単に才能の違いで争ってるだけのように聞こえるが」
「本質的に見ればそうなんだろうな」あっさりと頷く半竜の青年。「お前はこう思うんだろう?“損してるな”――と」ミコトを指差してニヤリと笑む。
「あぁ、そう思うぜ」即座に認めるミコト。「バカな事をしてるんだな、とも思うな」
「だろうな。俺もそう思う。だけど、さっきも言ったが、それがこの世界では当たり前の事なんだ。誰もがお前のように損だと思わない。才能が云々とも考えない。ただ、人族にとって魔族は敵だから憎む。魔族にとって人族は敵だから嫌う。亜人族はどっちでも無いから、どっちにも良いように使われる。これがこの世界の仕組みであり、常識だ」半竜の青年は語り終えると、再び茶碗を手に取りちびりと舐めた。「そこの娘も、起きたのなら話に混ざらないか?」
 半竜の青年の発言を受けて、三人の視線がレンに向く。レンはソファの上でゆっくり上体を起こすと、ばつが悪そうな表情でこちらを見つめてきた。
「気づいてたの……?」
「お前が意識してしまう話をしてしまったようだからな」
「……」
 ぼんやりとした表情ではあったが、困惑と焦燥が顔に浮かんでいるレン。それを見て取ったミコトは「あんた、レンを困らせるような話をしてたのか? だったらやめてくれ。そいつ、今病み上がりなんだから」と警戒心を覗かせた表情で牽制する。
「悪かったよ、俺もそこの娘を困らせるつもりは無いんだ」お手上げだと両手を挙げる半竜の青年。「俺はただ、話し相手が欲しかっただけだ、気を悪くしたのなら謝る。この通りだ」レンに向かって頭を下げる半竜の青年。
「……別に、いいけど」居心地が悪そうにそっぽを向くレン。「……それに、知らない内に世話になったみたいだし……」と言ってタオルを脇にずらす。
「レン~! お前元気になったのか!?」クルガと一緒に立ち上がるマナカ。「良かったな~! お前突然倒れちまってよぉ! すげー心配したんだからな!?」と涙目でレンの元に駆け寄る。
「ご、ごめんって。ちょっと魔力を使い過ぎただけだから……」涙目で見上げてくるマナカの頭にポン、と手を置くレン。「その……心配してくれて、ありがと……」赤面してそっぽを向く。
「へへっ、気にすんなよな! お前が元気になったんならそれでいいんだ! なっ、クルガ!」クルガを抱き上げてレンの膝の上に座らせるマナカ。
「うん、レン、元気になって良かった」えへへ、とはにかみ笑いを浮かべるクルガ。
「……ありがと、クルガ」クルガの頭を小さく撫でるレン。「……ミコトも、ありがとね」
「今マナカが言った通りだ。お前が元気になったのならそれでいいさ」微笑を浮かべて頷くミコト。「あんたのお陰だ、助かったよ。……って、あんたの名前そう言や聞いてなかったな」
「確かに名乗ってなかったな」半竜の青年は茶碗を置いてミコトに向き直った。「俺はネイジェ。ネイジェ=ドラグレイ。灰爪の半竜だ」
「ネイジェか。俺はミコト。咲原ミコトだ。そっちの大きいのが追瀬マナカで、ちっこいのがクルガ、あんたの世話になった娘が夜藤レンだ」
「おう! 宜しくなネイジェ! 俺はマナカ! 追瀬マナカだ!」握手を求めるマナカ。
「あいよ、宜しくな」握手に応じ、改めてレンに視線を投じる半竜の青年――ネイジェ。「レンと言ったか。具合はどうだ?」
「えっと、単に魔力の使い過ぎで倒れただけみたいだし、体調は特に問題無いわ」手を握ったり閉じたりするレン。「まぁ、まだちょっとフラフラするけど……」
「恐らく魔力に引っ張られる形で体力も使い果たしたんだろう。待ってろ、今夕飯をご馳走してやる」ゆっくりと立ち上がるネイジェ。「それが終わったら話の続きだ。いいな?」
「あんたよっぽど話し好きなんだな」苦笑を浮かべるミコト。「いいぜ、夕飯までご馳走になるんだ、どれだけでも付き合ってやるよ」
「夕飯!? お前何か作れるのか!? ドラゴンの作る料理って何だろうな!? 楽しみだぜー!」興奮冷めやらない様子でネイジェの背中を見送るマナカ。
「マナカ、ネイジェはドラゴンじゃないよ……?」恐る恐ると言った様子で訂正を求めるクルガ。
「……また迷惑掛けちゃったみたいね」
 ミコトの隣にやってきて、ぽすんとソファに腰掛けるレンに、彼は「いいや、お前のお陰で夕飯までご馳走になれたんだ、寧ろ感謝したい位だぜ」と彼女の頭を撫でた。
「……あんた、本当に話逸らすの上手いわよね……」
 ジト目でミコトを見上げるレンに、彼は片眉を持ち上げて「そうか?」とおどけた声を上げる。
「……それで、上手く行った……の?」
「ん?」
「オワリグマ。ちゃんと治せてたかなって」
 レンは不安そうに自分の手元を見つめていた。自分の力を過信せず、本当にオワリグマの治療が成功したのか不安になっている、それが見て取れた。
 ミコトはそんなレンの頭をポン、と撫でて、「おう、お礼も言ってたぜ。手を振ってるオワリグマ、お前にも見せてやりたかったよ」と微笑を見せた。
「……そっか。なら、良かったわ……」
 えへへ、とはにかみ笑いを浮かべるレンに、ミコトも「あぁ、お前のお陰だ。ありがとな」と彼女の頭をクシャクシャっと掻き混ぜる。
「ところでよ、クルガってやっぱ凄い奴だったんだよな?」
 不意に対面に腰掛けたマナカが声を掛けてきた。その膝の上にはクルガが座り、不思議そうにマナカの顎を見上げている。
「だってオワリグマと話せたんだぜ? そんな奴、俺ァ初めて見るぞ!」
「……そうよ、クルガって実は凄かったんじゃないって、あたしも言いたかったの」クルガを見据えて指差すレン。「亜人族でも、そんな事が出来る子なんてあたし知らないわ。クルガには特別な才能が有るのよ!」
「あ、えと、その……」困惑した様子であたふたと手をこまねくクルガ。「僕もよく分からないの……何か、急にオワリグマさんの声が聞こえて、話せるようになってて……でもね、きっと、ミコトと、マナカと、レンがいたから、出来た事だと思うんだ」
 三人を代わる代わる見据えて、クルガは真剣な表情で告げる。
 三人は互いに顔を見合わせて、不思議そうに小首を傾げた。
「俺達がいたから、出来た?」三人を代表して尋ねるミコト。
「うん。僕ね、きっと皆から力を分けて貰えたんだって、そう思うんだ」真剣な表情のまま、ミコトを見据えるクルガ。「僕、今まで何も出来なかった。けど、皆、えぇと、ミコトと、マナカと、レンがね、僕の事、役立たずって言わなかったし、嫌な事もしなかったよね。だから僕、ずっと、皆の役に立ちたいって思っててね、それで……」
 どう説明したらいいのかと難儀しているのか、舌足らず故に発声に難儀しているのか、判然としない様子のクルガだったが、誰もそんなクルガを急かそうとも、止めようともしなかった。
 三人とも、クルガが真剣に話そうとしている事を把握しているからこそ、ただ黙って、ジッとクルガが話してくれるタイミングを待つ。
「それで……僕、皆の役に立ちたいって願ったら、何か、ふわぁって、分かるようになったんだ」もどかしそうに手振りを交えて話し続けるクルガ。「僕に出来る事が、何と無くだけど、分かったんだ。そしたら、オワリグマさんの声が聞こえるようになって、オワリグマさんと話せるようになって、……皆の役に立てたかなぁ……?」
「……あぁ、お前のお陰で、オワリグマはご飯を子供達に持って行けたし、俺達は無駄な血を流さずに済んだし、それどころか夕飯はご馳走になれるし、ドラゴンの居場所まで分かりそうになってる。お前がいなければ出来なかった事だ。ありがとな、クルガ」
 身を乗り出してクルガの頭を撫でるミコトに、亜人族の少年は瞳を細めて嬉しげな笑みを返した。
「……お前ら、本当に仲が良いんだな」
 四人が笑い合っている所に、ネイジェが皿を持って現れた。テーブルの上の書物をずらして置かれたのは、根菜の炒め物だった。スパイシーな香りが鼻腔を突き、四人は同時にお腹の虫に鳴かれた。
「さっ、食え食え。お代わりも有るからたんと食え」
「まじかよ!! じゃあ頂こうぜミコト! 俺もう我慢できねえよ!! 食べていいか!?」涎を垂らしながら尋ねるマナカ。
「そうだな、折角だから冷めない内に頂こうぜ」と言って手を合わせるミコト。「ネイジェ、有り難く頂くぜ?」
「あぁ、遠慮せず食ってくれ。代価は話し話され、でな」
「あいよ、楽しみにしとくよ」
 ニヤリと笑んだネイジェに、ミコトは肩を竦めて応じた。
 少し早めの夕食会が始まり、四人は久方振りに腹一杯になれたのだった。

【後書】
 改めて綴りますが、この物語は拙作【魔王様がんばって!】と同じ世界観で綴られております。つまりあの世界の魔族と言うのも……と言うお話です。
 いつか向こうの物語でも明かされる事実ではありますが、先にこちらで魔族や人族の説明が出てしまったのは、ちょっともどかしい所ではありますw
 と言う訳でネイジェさんのお話はまだ続きます。次回、深き森の半竜〈3〉……お楽しみに!

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