2018年6月28日木曜日

【余命一月の勇者様】第29話 王都・シュウエン〈1〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/09/25に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第29話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/19857

第29話 王都・シュウエン〈1〉


「見えてきたな。アレが……オワリの国の都、シュウエン」

 シマイの町から一日歩き詰め、途中で野宿を挟んで更に半日歩いた末に、大きな都が四人の視界に飛び込んできた。
 小高い丘の頂上から見下ろす先に広がるのは、シマイの町やヒネモスの街とは比較にならない規模を誇る、“都”と呼ばれるに相応しい営みが窺える。
 西南にシュウショウ山を望み、東北には立派な外壁を有する、要塞都市とも言われるシュウエン。シュウショウ山と比べてもその規模の大きさが目に見えて分かる程の居城――シュウエン城が、ここからでも望める。
 城下町は夕暮れに沈んだ今、夕餉の支度をしているのか、家々から飯を炊く煙が上がっている。シュウショウ山から吹き下りる風が、空腹を増長させる香りを運んでくる。
「おっきいねぇ……」はわぁ……と大口を開けて目を見開くクルガ。「こんなに大きい街、初めて見る……」
「あたしも、シュウエン以上に大きな都は見た事無いわ」改めてその規模の大きさに感嘆の吐息を漏らすレン。「さっ、早く行きましょ? 日が暮れちゃったら、櫓門が閉まっちゃうのよ」
「ヤグラモンって何だ?」小首を傾げるマナカ。「美味しいのか?」涎が垂れ始めた。
「食べ物じゃないわよ!」ポコッとマナカの頭を叩くレン。「ここからまっすぐ下りたところに、大きな門が見えるでしょ?」小高い丘の先――九十九折になっている坂を下りた先に、巨大な門が見える。今もそこに向かって無数の人間が歩いている姿が窺えた。「あの上に、櫓が有るの。えぇと、アレよ、見張りの人が門の上で見張ってるの。だから、櫓門、って言うの」
「レンは物知りだなぁ」ほへーと分かってなさそうな声を落とすマナカ。「俺さ、もうお腹が減ってペコペコでさ。頭に何も入ってこねえんだこれが」
「マナカが倒れたら大変だからな、急ぐとするか」ポン、とマナカの肩を叩いて、再び歩き始めるミコト。「それにしても、ここまで来ると人の数も随分と増えてきたな」
 ミコトが驚きの声を上げるのも無理は無かった。
 シュウエンの櫓門に向かう道である、九十九折の坂には今、無数の人間が視認できる。行商の人間だったり、旅客だったり、逆にもう間も無く日が暮れるにも拘らず、シュウエンから出て行く者の姿も見える。
 街道はひっきりなしに人や馬車が行き交い、土煙が舞う程に往来が激しかった。
「オワリの国で一番大きな都だからね、名を挙げたい~とか、良い職に就きたい~とか、そう思って訪れる者も多くないわ」
 ミコトの隣に歩み出て、手振りを交えて説明するレンに、レンの反対側に歩み出たマナカが、「名をあげたい? 名前って、誰かにあげられるのか?」と不思議そうに腕を組んだ。
「そうじゃなくて、有名になりたい~って事よ!」マナカを指差すレン。「オワリの国の王様を守護する近衛騎士になれたら、将来安泰、って聞くし」
「このえきし?」今度はクルガがコックリと小首を傾げる番だった。
「王様を守る、騎士の中でも一番偉い騎士の事よ」クルガに歩み寄りながら説明するレン。「一部は世襲制って聞いた事が有るから、代々王様を守っている偉い一族が何人かいるって事なんだけど、一般の人でも、働き次第では近衛騎士になれるって、あたしは聞いてるわ」
 三人が「「「ほぇ~」」」とよく分かってなさそうな返事をするのを見て、レンは呆れた様子で「本当に分かったの……?」と怪訝な眼差しを向ける。
「あの櫓門の上にいる騎士は近衛騎士じゃないけど、騎士って皆給金が良いって聞くから、あの上で見張ってるだけで、お金がたくさん手に入るのよ? 羨ましくない?」と悪戯っぽい微笑を覗かせるレン。
「見張りも中々大変だからな、給金が良くないと割に合わないと思うぜ?」ニヤッと、レンと同じように悪戯っぽい微笑を見せるミコト。「俺でも、きっと途中で昼寝しちまうだろうし」
「俺も俺も! きっと腹減ってすぐに休憩しちまうぜ!」自分を指差して笑いかけるマナカ。
「あんたらねぇ……」呆れた様子で苦笑を浮かべるレン。
「レンは、騎士になりたいの?」レンを見上げて、小首を傾げるクルガ。
「あたしもお断り」ビシッと腕でバッテンを作るレン。「偉い人のご機嫌取りは、もう懲り懲り。あたしは自由気ままに、ミコトの傍にいるわ」と言ってミコトの肩に頭を載せて微笑んだ。
「僕も、騎士より、ミコトの傍がいい!」と言ってミコトの手を取るクルガ。
「俺も俺も! 俺もミコトと一緒だぜ!」と言ってミコトの肩を抱くマナカ。
「俺と一緒は分かったが、動けないから離してくれ」
「「「あ」」」
 三人に纏わりつかれて途方に暮れるミコトの苦言に、三人は思わず笑ってしまうのだった。

◇◆◇◆◇

「そろそろ門限だから、入る者は急げーっ!」
 櫓門の上から、騎士の大声が響き渡った。
 近づけば近づく程、その門の大きさがよく分かる。馬車が優に五台は横に並んで通れる幅。旗持ちが馬に乗って、更に軍旗を掲げて通っても余裕が有る高さ。
 更にその上には櫓が設けられ、常に騎士が監視の目を光らせている。
 鈍色に輝く甲冑を纏う、騎士の群れ。双眼鏡を片手に、櫓門を潜る者に不審者がいないか、絶えず監視している姿は、不審者でなくても緊張せずにはいられない。
 二十人以上の騎士が櫓の上から監視している上に、櫓門の前にも無数の騎士が屯していた。
 大きな詰め所が櫓門の隣に設けられ、ガラス張りであるため、中にも二十人以上の騎士が詰めている事が一目で判る。
 警備は万全。どころか、過剰なまでの警戒態勢、とさえ思える位に、厳重に警戒網を敷いている。
「――ちょいとごめんよ、止まってくれるかい? 身分を証明する物を出してねー」
 ミコト達四人の前に立ち開かったのは、周りを警戒している騎士の一人。鈍色の甲冑に、佩剣。頭は兜をしていて表情は読めない。声で若い男だと分かるが、それ以外の情報は無かった。
「身分を証明する物……冒険者のカードでもいいか?」と言って筒袋から取り出した、小さなカードを手渡すミコト。
「おっ、あんた、冒険者なのか? 若いね~」口笛交じりに受け取ったカードを確認した若い騎士は、丁寧にカードを返してきた。「確かに。悪いね~、ちょっと今シュウエンはアレでゴタゴタしててさ、普段はこんな厳重に確認しないんだけどね、ごめんね?」
「何か遭ったのか?」カードを筒袋に戻しながら尋ねるミコト。
「知らねえの?」驚いた声を上げる騎士。「第三王子のマシタ様と婚約を結びに、隣国、ソウセイの国からお姫様がいらっしゃってんのよ」
「「「お姫様!?」」」同時に驚きの声を上げる、マナカ、クルガ、レン。
「お、おう、そうだけど」思わずたじろぐ騎士。「なになに? おたくらアレかい? お姫様目当てに来た旅客じゃないの? 何しに来たのこんな時期に?」不思議そうにまじまじと見つめてくる。
「王様に謁見をしに来たんだ」あっけらかんと応じるミコト。「迷宮に挑みたくてな」
「迷宮に挑むだぁ!?」素っ頓狂な声を上げる騎士。「そりゃまた……そんな若さで迷宮に挑もうとするもんかね、怖いもん知らずだねぇ……」驚きと呆れで声が掠れている。「つーか、そもそも王様に謁見とか正気で言ってんのおたく? 無理だよ無理無理! 王様それどころじゃないから今! 相手にされないって絶対!」
「そうなのか? それは困るな……」むむむ、と悩み込むミコト。
「まぁ何だ、その、よく分からんけど、おたくら急いだ方がいいよ?」ポンポン、と気さくに肩を叩く騎士。
「ん? あぁ済まん、立ち止まってたら通行の邪魔になるな」と言って歩き出そうとしたミコトに「あぁいや、そうじゃなくて」と思わず声を掛ける騎士。
 ミコトと一緒に三人が振り返ると、騎士は兜の上から頭を掻く仕草をして、一言。
「宿。もう埋まってると思うからさ」

◇◆◇◆◇

「――ここもダメだった」
 シュウエンの都の中に在る、“宿屋通り”と呼ばれるその区画は、名の通り無数の宿屋が犇めき合う、宿屋同士の客の奪い合いが行われる場所なのだが、今は客引きの姿は無く、通りには宿を取り損ねた不運な旅客と行商人が溜め息を吐き出す場と化していた。
 そこにはミコト達四人組の姿も有り、三人は通りに並立している街路樹に凭れ掛かったまま、周囲の人間と同じ溜め息を漏らすのだった。
「今日も野宿かぁ。折角都にいても、宿無しだったらあんまり恩恵感じられないわよね……」はぁーっと重たい溜め息を零すレン。
「腹一杯ご飯食えるかと思ったけど、どの店もこんな早くに店仕舞いされたら、金が有ってもご飯にありつけないなんてなぁ……」はぁーっと重たい溜め息を零すマナカ。
「二人とも、元気無い」レンとマナカを交互に見上げて、一緒になって溜め息を落とすクルガ。「二人とも元気無いと、僕も元気無くなる……」
「元気が無い時はさっさと寝ちまうのが一番だ」そう言ってテキパキと野宿の準備を始めるミコト。人数分の寝袋を用意して、自ら率先して入って行く。「ここなら獣に襲われる心配も無いし、ぐっすり眠れるぞ」
「……そうね、ミコトの前向きな所、見習わなくちゃね!」と言ってミコトの隣の寝袋に納まるレン。「明日こそ、宿を取るわよ!」
「そうだな! さっさと寝ちまって、明日いいもん食おうぜ! 肉とか!」レンの隣の寝袋に納まるマナカ。「肉とか!」
「皆寝るなら僕も寝る!」マナカの隣の寝袋に納まるクルガ。「皆一緒なら大丈夫!」
「よし、皆寝袋に入ったな?」確認の声を上げた後、ミコトは瞼を下ろした。「じゃあ寝るぞー」
「はーい、おやすみ!」
「おう、おやすみだぜ!」
「おやすみなさい!」
「おう、おやすみ」
 そうして、煌々と灯りの点る宿屋通りの一角で、四人は眠りに就くのだった。

◇◆◇◆◇

「……ミコト?」
 深夜。辺りにはミコト達と同じように、街路樹の傍やベンチに寝袋を並べて眠る旅客や行商人の姿が無数に見られた。
 その中でミコトは、一人日記を付けていた。筆を走らせて、文字を綴っていく。今日起きた、楽しかった事、嬉しかった事を、出来る限り克明に、後から見ても鮮明に思い出せるように。
 そのページをめくる音にでも気づいたのか、マナカがもそもそと起きてきて、ミコトの前で胡坐を掻いた。
「日記書いてるのか?」
「あぁ、最近サボり気味だったからな」
「ミコトは真面目だからな、ちょっと不真面目なぐらいが丁度いいぜ」
「かもな」
 マナカの軽口に、ミコトは笑みを刻み、二人して小さく笑い合う。
 夜中であるにも拘らず、焚き火もしていないのに、辺りは煌々とした灯りが路地を明るく映し出している。ヒネモスの街やイトフユの村では、有り得ない光景だった。
 ともすれば幻想的とも思える景色を背景に、ミコトももそもそと寝袋を這い出て、マナカの隣で胡坐を掻く。
「お姫様、いるんだってな」
 先に口を開いたのはマナカだった。
 視線を向けずに呟かれた、嬉しそうで、笑いが込み上げた様子の声に、ミコトは「あぁ、そうだな」と瞑目して、静かに返した。
 野鳥の鳴き声は聞こえない。田舎であるイトフユの村とは異なる、人工的な静寂。
 周りに寝転がる旅客や行商人の寝息があちこちで湧き上がる、まるで雑魚寝の一室を拡張したような景色。
「ミコトがやりたかった事、本当に全部叶うかもな」
 マナカの、心の底からの、歓喜の声。
 ミコトはそれに、「あぁ、かもな」と口唇に喜悦を浮かべて、小さく応じた。
「ミコトはさ、本当にすげー奴さ」マナカは不意に、ミコトの肩を抱いて呟いた。「運も味方に付けてる。最強の相棒だぜ」
「マナカがいたから、俺はここにいる」マナカに体重を預け、ミコトは呟き返した。「マナカがいなけりゃ、俺はここまで来てないさ」
「へへっ、そうだろそうだろ?」鼻の下を擦って、得意気に笑うマナカ。
「あぁ、そうに違いない」コックリ頷くミコト。
 沈黙が、生まれた。
「……ミコト。あと、何日なんだ」
「日付変わっちまったから、もう二十一日だな」
「……そっか」
 マナカは不意にミコトから体を離すと、ミコトの前に向かい合うように座り込んだ。
「――俺、諦めねえからな」真剣な眼差しで、マナカはミコトを見つめる。
「……何をだ?」優しい眼差しで、マナカに問いかけるミコト。
「ミコトは、生きなきゃいけねえ奴だ」
「……そんな大それた奴じゃないよ、俺は」小さく頭を振るミコト。
「だから俺は……諦めねえからな」
 それ以上、マナカは何も言わなかった。
 ミコトもそれ以上、問いかけはしなかった。
 互いに、伝えたい言葉、伝わった言葉を、告げようとはしなかった。
 やがてミコトは微笑を浮かべ、マナカと拳を交わした。
「じゃあ俺も、諦められねえな」
「へへっ、そうこなくっちゃな」
 マナカも嬉しそうに笑い、ミコトと拳を合わせる。
 その時になって、ミコトは気づく。
 己が、二十一日経った後の世界を、諦めていた事に。
 考えないようにしていた。想いを馳せないようにしていた。意図的に、意識的に。
 態度に出ていたとは思わない。感情として発露していたとも、思えない。
 けれどマナカは、きっと気づいたのだ。ミコトが、潜在的に未来を諦めようとしていた事に。
 ミコト自身が気づかない程に、小さな小さな諦めさえも、見逃さないように。
 やがて二人は寝袋に戻り、改めて眠りに就く。
 やりたい事は、ここに全て揃っている。
 ならば、全てやり遂げる。
 やりたい事を全て、そして、己の命運すら、諦めずに。

 その日、ミコトは夢を見た。
 マナカが、遠くに行ってしまう夢を。

■残りの寿命:21日

【後書】
 いよいよ最終章開幕です。
 最後の一文だけでドチャクソ不穏な空気にさせてしまってもうアレですけど、この物語はとかく「日逆孝介の考えるイケメン」と「日逆孝介の考える幸せ」をひたすら追求していく次第なので、この一文がどういう意味合いになっていくのか、それも楽しみに追って頂けたらと思います……!
 次回、遂に大台30話!「王都・シュウエン〈2〉」……新キャラ登場と言いながらも既に登場しているあの人が再び! どうかお楽しみに!

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