2018年6月8日金曜日

【神否荘の困った悪党たち】第25話 メイと映画。【オリジナル小説】

■タイトル
神否荘の困った悪党たち

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。
※注意※2017/06/12に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
日常 コメディ ギャグ ほのぼの ライトノベル 現代 男主人公

■第25話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881797954
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9982

第25話 メイと映画。


「亞贄様。本日はメイと共に映画“キミの名は。”を観覧して頂けませんか」

 もう夢の中でさえ“キミの名は。”が上映されるくらいに頭の中が“キミの名は。”で一杯だったけれど、メイちゃんの、無表情の中に隠れている訴えを見逃さなかった俺は、寝起きの頭のまま「いいお」と呟き返した。
「有り難う御座います、亞贄様。この御恩は決して、未来永劫忘れません。例えこの身が尽きようとも、亞贄様の御恩を」「重過ぎるぅー」思わず遮ってしまったよ。
 起き上がって、ふわわ、と欠伸を浮かべる。メイちゃんはいつものメイド服姿で俺を見つめていた。
「えーと、その格好で行くの?」流石に目立ちそうだ。
「はい。メイの正装ですから」静々と頭を下げるメイちゃん。「それとも、亞贄様は、この正装でメイが遠征する事が不快ですか?」
「不快じゃないです」しゅごい言葉遣いだと改めて思いながら、ベッドを這い出る。
「可愛いですか?」
「可愛いです」コックリ頷く。
「亞贄様はメイド服が可愛いと認識されるお方であると入力致しました」やめてほしいですね?
「えーと、映画館って、アレかな、商店街の」
「神否荘から最短距離で到達できる映画館は真雲商店街が該当致します」
「まぐも商店街」そんな名前なのか。
「ご不満ですか?」小首を傾げるメイちゃん。
「ご不満じゃないです」ふるふると頭を振る。
「では参りましょう。メイが案内致します。どうぞこちらへ」と言って静々と歩き始めた。
 そんなメイちゃんをとっとこ追い駆けて、日差しの強い昼間の街路を、のんびり歩く。
 メイド服のメイちゃんが汗一つ掻かず、音も立てずに歩いている姿を見て、俺は「そう言えばこの子オートマタだった」と思い出していた。
「亞贄様、もしかしてメイの汗をお飲みになりたいのですか?」不思議そうにメイちゃんが尋ねてきた。
「メイちゃんの発言は外でするにはあまりにもやばみを感じるものが多いよね」冷や汗ものだ。「飲みたくないお」
「そうですか……」何で残念そうなんだよぉ。
 商店街に辿り着いた時に、アーケードの上の方に垂れ下がってる看板を改めて見ると、確かに“真雲商店街”と記されていた。
 階段を下りて行くと、初散さんが俺を見上げて真顔になった。
「お兄さん……まさか、今日も見るの? 嘘でしょ? もう四日連続だよ? そんなにハマっちゃったの?」何か恐ろしいモノを見る目つきで俺を見上げる初散さん。「今日もまた違う女の子連れてくるし……」
「誤解してると思うけど、これ違うんです、映画を見たいって子が次々に俺に押し寄せてきて」最早説明も訳が分からない感じだ。
「てかお兄さん、もしかしてお金持ちのお坊ちゃんなんですか?」ひそひそと声を掛けてくる初散さん。「メイドさんなんかに手ぇ出したらダメですってー」
「どこから誤解を解けばいいのか分からないけど、何もかも違いますからね?」何をどう説明したらいいんだ。
「えっ、じゃあこのメイドさんは何なんですか?」
「友達……かな」
「メイはマナ様、及び亞贄様にお仕えするメイドです。お間違え無きよう」キリッと告げるメイちゃん。
「メイドさん、妹だったんですね……」初散さんの真顔度がどんどん上がっていく。
「お兄様じゃないです、亞贄様です」もう訂正する力も無くなってきた。
「亞贄様はお兄様では有りません。お仕えするご主人様です」スッと一礼するメイちゃん。
「えっとー、じゃあ、どうぞー」何かを諦めて悟った顔をしてる初散さん。
「あれ、料金は」「もうタダでいいですー、何かもう、ご馳走様ですー」「あっ、はい」
 重厚な扉を開けて映画館に入ると、そのまま昇天しそうなくらいドッと疲れた。
「亞贄様? メイに何か落ち度が有りましたでしょうか?」柳眉を顰めて顔を寄せてくるメイちゃん。
「うん、何て言うかアレだよね、もうたぶん俺の知名度がひゃんぱない感じに上がってると思うよ」
「亞贄様は有名になって然るべきです。神否荘の住人を管理されるお方ですから、世界に名が轟いて然るべきだと、メイは所感を懐きます」
「そうかなぁ」
「ご不快ですか?」
「ご不快じゃないよ」
「では、映画の観覧に移りましょう。メイの初めてを、亞贄様に捧げます」スッと一礼するメイちゃん。
「今日思い知ったけど、メイちゃんの発言はシンさんよりやばみを感じるね」絶対に誰かに聞かれたらいけない台詞のオンパレードだ。

◇◆◇◆◇

 上映が終わり、メイちゃんに視線を移すと、メイちゃんは俺を見上げて「終了致しましたね」と立ち上がった。
「面白かった?」と尋ねてみる。
「肯定。しかしながら、この物語にはいくつも科学的に説明できない要素が有りました」
「まぁ、ファンタジーだからね」
「まず、人間の精神が何の予兆も無く入れ替わる現象ですが……」
 そこから延々と科学的に立証できないうんたらかんたら、ここのシーンはこういう意図があってどうのこうの、つまり監督はこういう事を伝えたくてこんな題材にしたやらどうやら、映画館の中で夜を迎えるまでメイちゃんの語りは終わらなかった。
 そして俺は“キミの名は。”を四度見て、その晩も“キミの名は”の夢を、今度はメイちゃんの解説付きで見る事になったのだけれど……それはまた別の話……
 あと初散さんにしゅごい目で見られて帰ったのも、話さなくていいよね……

【後書】
 亞贄君の噂が広がりまくっていくのが最高に愉しいですね!
 メイちゃんも神否荘には欠かせない住人の一人ですから、亞贄君とデートさせたくてな……。これで四日連続で同じ映画を観ている訳ですが、いよいよ夢に出てくるレヴェルですw
 次回で映画編も遂に五日目に突入です! 次回「愛火と映画。」……初散さんの誤解が最高潮に深まるお話、どうかお楽しみに!

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