2018年7月5日木曜日

【余命一月の勇者様】第31話 王都・シュウエン〈3〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/10/23に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第31話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/22924

第31話 王都・シュウエン〈3〉


「王城に何用か」

 大きなお城――王城の前に在る、これまた大きな櫓門を前に、四人は大きな口を開け、その首が痛くなる高さの門を見上げて、「すげー」と言うマナカの感想を聞いていた。
 櫓門の前には無数の騎士の姿が見受けられた。勿論、オルナのようなラフな私服姿ではなく、全身を銀色の甲冑と兜で固めた、正規の騎士だ。
 五人が門に近づいて行くと、警備の任に当たっていた騎士の内の二人が前に出て、大きな槍を交差させて行く手を阻む。
「王様に謁見したいんだ」
 正直に告げるミコトに、騎士の二人は顔を見合わせると、右側に立つ騎士が「謁見の予定は入っていないが、名を聞かせて貰おう」と尊大に応じた。
「ミコト。咲原ミコト。こっちの大きいのがマナカで、小さいのがクルガ、そして嫁のレン」と肩を叩きながら紹介していく。
「宜しくな! 俺はマナカ! 追瀬マナカだ!」グッとサムズアップするマナカ。
「咲原ミコト……聞いた事無い名だが」訝しげな声で応じる右の騎士。「貴族の者か?」
「イトフユの村から来たんだが」
「イトフユ?」右の騎士が言葉の意味を理解していない様子で反芻し、「貴様、庶民の出か」と左の騎士が尊大に告げた。
「庶民って言うか、冒険者だな」よく分かってなさそうに小首を傾げるミコト。
「ったく、無駄に時間を取らせるな、庶民の分際で」やれやれと肩を竦める右の騎士。「帰れ帰れ、庶民の出が陛下に謁見などおこがましいにも程が有るわ。身分を弁えよ」しっしっと手を振って退去を宣告する。
「冒険者は王様と謁見しちゃダメなのか?」不思議そうに頭の上に疑問符を載せるミコト。「てっきり王様ってのは、国民の話を聞いてくれるのかと思ってたけど、違うのか」
「おい貴様! 陛下を愚弄するような言葉を慎まんか!」怒声を張り上げる右の騎士。「疾く去れ!」
「迷宮に挑むには王様の許可がいるんだろ?」言いながら筒袋から手紙を引き抜くミコト。「ネイジェから、これを王様に渡すように言われてるんだが」
「ネイジェって誰だ?」右の騎士が左の騎士に尋ねる。「聞いた事の無い名だが」
「庶民に書簡を渡す時点で碌な貴族ではなかろう」左の騎士が尊大に応じる。「疾く失せよ。これ以上時間を取らせると、牢に叩き込むぞ」
「困ったな」騎士から距離を取るように少し門から離れると、ミコトは四人を振り返った。「王様とは謁見できないらしい」
「ネイジェの名前を出してもダメだったの?」怪訝な表情で尋ねるレン。
「あぁ、聞いた事が無いと言われたな」コックリ頷くミコト。「日を改めるか」
「待て待て待~って!」帰路に就こうとするミコトの前に立ち塞がり、ミコトの体を押し留めるオルナ。「そうなると思ってたからこそ俺が来たんでしょ~?」
「オルナが何とかしてくれるのか?」不思議そうにオルナを見やるマナカ。「何とかなるのか?」
「いやさ、普通に考えてよ、庶民が王様に謁見する事なんて出来ない訳よ、常識的に」やれやれと肩を竦めるオルナ。「王様ってこの国の一番偉い人よ? 田舎者の相手なんかしてくれないのよ普通はね」
「じゃあ、王様とお話し、出来ないの?」眉根を下げて困り顔を浮かべるクルガ。「迷宮に、挑めないの?」
「そこで! 俺の出番って訳じゃん?」自分を親指で示すオルナ。「その、ネイジェって奴からの手紙、俺が王様に直に届けてきてやっからよ、ちょっと待っててくれよ」
「良いのか?」確認しながら、オルナに手紙を手渡すミコト。「王様は冒険者と謁見しないんだろ?」
「あの門番っつーか、騎士様ってぇのは頭が固ぇ生き物なの! ミコトが何言ってもマトモに聞いちゃくれねえのよ、庶民ガー庶民の分際デーって。そこで俺よ。庶民の味方である俺が直接王様に、こんな人が謁見したいって言ってるんですけどぉ、どうっすかぁ? って聞いてくる訳。これでダメなら、おたくらも諦め付くっしょ?」
 ペラペラと流れるように言の葉を連ねていくオルナに、四人は呆気に取られた様子で見つめる事しか出来なかった。
 呆然とした様子で己を見つめる四人に、オルナは意地悪そうに笑みを浮かべて腕を組んだ。
「どーよ? 俺っちを連れて来て正解だったっしょ?」と言ってから、苦笑を浮かべて頬を掻き始めた。「まぁアレよ、もし俺が信頼できねえってんなら、この手紙はミコトに返して、王様に、ネイジェって奴から手紙来てんすけどぉ、読みますぅ? って尋ねてからにすっけどよ。どーよ? 一っ走り行って来ても良いぜ?」
「いや、手紙はオルナに預ける」返そうとしてきた手紙を押し返すミコト。「お前になら、安心して預けられそうだ」と言って微笑を返した。
「そうだろそうだろ? 俺ってば庶民から絶大な支持を受ける、地上最強の騎士様だからな!」ふふん、と胸を張るオルナ。「じゃあそういう訳でさ、ちょっとここで待っててくれよ。王様に直接話してくっからよ」
 一方的に捲くし立てた後、オルナは門番である騎士に何事か声を掛けてから、門の隅に在る、小さな扉から入って見えなくなってしまった。
「中身チャラい人だけど、良い人ね、オルナ」嵐のように過ぎ去ってしまったオルナを見送ったレンが、ボソッと呟いた。「騎士とは思えないほど、チャラいけど……」
「何つーか、カッコいいよなオルナ!」腕を組んでうんうん頷くマナカ。「やっぱ地上最強の騎士は違うな!」
「そうだな、地上最強だもんな」微笑を浮かべて頷くミコト。
「オルナって、凄い人なんだね!」ミコトを見上げて瞳を輝かせるクルガ。
 四人が銘々にオルナを絶賛していると、先刻相手をした二人の門番の元に別の騎士がやって来て、話をし始めた。そしてその三人が慌てふためいた様子でミコト達の元に駆け寄って来た。
「ももも申し訳有りません! どうぞお入りください! 国王陛下が謁見の間でお待ちしております!」と、四人の前で直立不動の姿勢を取って大声を張り上げた。
「ん? 入っても良いのか?」不思議そうに騎士を見上げるミコト。
「はいッ! さ、先程は大変失礼な応対をしてしまいました事、心よりお詫び申し上げます! どうか、お慈悲を……ッ!」騎士が三人揃って深々と頭を下げた。
 四人は顔を見合わせて、改めて騎士に向き直る。騎士は頭を下げたまま、微動だにしない。
「別に気にしてないから顔を上げてくれよ」ポン、と騎士の肩を叩くミコト。「俺達、王様と謁見できればそれで良いんだからさ」
「「「はッ! 恐悦至極に御座います!」」」三人の騎士の声が重なって弾けた。
「何でこいつらこんなに、えーと、賢いってんだ?」小首を傾げるマナカ。
「畏まってる、な」マナカの肩を叩くミコト。「オルナが何かしてくれたんだろう。あいつ、やっぱり凄い奴なんだよ」と言って微笑みかける。
「……たぶん、ネイジェの名前を王様に直接伝えたからじゃないかなー……」
 レンの遠い目をした呟きは、誰にも聞かれる事無く大気に溶けていった。

◇◆◇◆◇

 王城の中は、外見通りの広大さを有し、案内するために戻って来たオルナがいなければ、確実に迷子になっていただろう、と四人は同じ感想を懐きながらオルナの背を追っていた。
「おたくら、マジで何者なの?」王城を先導するオルナが、こそこそとミコトに耳打ちする。「陛下さ、ネイジェって名前出した途端に目の色変えて、早く連れて来い、その客人には絶対に無礼が有ってはならんぞって、すげー形相になったんだけど」そこまで言ってから、手で手紙のジェスチャーをするオルナ。「手紙渡したらさ、何か泣き始めちゃったんだけど、あの沈着冷静な陛下を情緒不安定にする程の手紙って何?」
「何か、伝承に残ってる奴らしい、ネイジェって」声を潜める事も無く、平然と応じるミコト。「俺も詳しくは知らないんだけどな」
「ははぁ……伝承に残ってる奴って、そりゃまたとんでもねえな」よく分かってなさそうに頷くオルナ。「いやー、あんな取り乱した陛下見るの、俺初めてでさ。付いて来て正解だったぜマジで」
 そうこうしている内に大きな扉が見えてきて、大勢の騎士が横に並んでいる場所に辿り着いた。
『お待ちしておりました!』騎士が一斉に剣を掲げ、綺麗な唱和を奏でた。『どうぞお入りください!』
「……言っとくけど、あれ、普通は他国の王様とかにする挨拶だからな?」ひそひそとミコトに耳打ちするオルナ。「おたくら真面目にやべぇ相手だと思われてっから」
「そんなにヤヴァいのか?」不思議そうにオルナを見据えるミコト。
「あぁ、俺の知る限り、おたくらが一番ヤヴァい」コクコク頷くオルナ。
 大きく重厚な扉が、騎士達四人の手によって開かれると、大きな広間の先、段の上に設けられた煌びやかな椅子の上に、白い髭をたくさん蓄えた、六十代と思しき老爺が佇んでいた。
 頭の上には、これまた煌びやかな黄金色の王冠が載せられ、手には宝石があしらわれた杖が握られている。その瞳がミコト達五人を捉えると、大きく見開かれ、思わずと言った様子で腰を浮かせた。
「お待ちしておりましたぞ、ミコト様」朗々とした声で、老爺――オワリの国の国王、終世(シュウセイ)マツゴは腕を広げた。「よくぞ参られました、どうぞこちらへ」
 ミコトがオルナに視線を向けると、彼は得意気な表情で頷き、手で先を示した。
 マツゴの近くまで歩み寄った四人は、両脇を固める騎士の多さにまず驚き、その全員が剣を掲げたまま微動だにしない様子を見て、更に驚きを深めた。
 少なくとも五十人はいるであろう騎士が、まるで彫像のように微動だにしない光景は圧巻だ。
 飾り気の無い乳白色の石柱が立ち並び、謁見の間の両側には歴代の国王であろう人物の巨大な絵画が並んでいる。絵画の上には採光のための大きな窓が設けられ、謁見の間は陽光が煌めいて眩しいと感じる程だった。
 中央には深紅の絨毯が敷かれ、国王が座す段の上まで続いている。高い天井には大きなシャンデリアが下げられ、これだけでもとんでもない財力が使われている事が一目で判った。
 段の前でオルナを含めた五人は立ち止まり、国王陛下を見上げる。
 赤いローブを纏った老爺は、改めてミコトを見下ろすと、満足そうに頷き、浮かせていた腰を豪奢な椅子に戻した。
「ネイジェ=ドラグレイ様からのお手紙、確と拝読させて頂きました。エンドラゴンと逢うために、迷宮の攻略許可を頂きたい、そうでしたな?」おっとりとした語調で、マツゴは尋ねた。
「あぁ、王様の許可が無いと、迷宮には潜れないと聞いてたからな」コックリ頷くミコト。
「ミコトミコト、相手、国王陛下だから、敬語使って敬語」ひそひそと耳打ちするオルナ。「俺の首が飛んじゃう俺の首が」
「そうなのか? 済まん、気を付ける」ポリポリと頭を掻くミコト。
「ただ、迷宮の開放には幾許かの時間を要します。それまで、この王城で寝泊まりされると良いでしょう」穏やかな微笑を浮かべて告げるマツゴ。「客室を提供します。騎士・オルナに案内させますので、ご自由にお使いください」
「お、王城で寝泊まり……!?」あまりの事態に立ち眩みを覚えるレン。
「その代わりに、と言っては何ですが、ネイジェ=ドラグレイ様のお話をお聞かせ頂けませんか?」ミコトの瞳を覗き込むように見据えるマツゴ。「伝承に残る、伝説の半竜半人。彼に逢う事が叶ったミコト様のお話を、余は聞いてみたいのです。宜しいですかな?」
「構わないぜ。……じゃなかった、宜しいですよ。……何か変だな」難しい表情でブツブツ呟くミコト。「オルナ、こういう時はどう言えばいいんだ?」
「えーと、その、何だ」困り果てた様子で頭を掻くオルナ。「もう手遅れっつーか、陛下も気を害してないみたいだし、別にいんじゃね?」
「そうか、何か済まん」小さく頭を下げるミコト。
「へへっ、気にすんなよ。あんなソワソワしてる陛下、そうそう見れたもんじゃないしな」楽しそうに囁くオルナ。「そんな訳だから、陛下に聞かせてやってくれよ、そのネイジェ=ドラグレイとか言う、伝説の人物の話って奴をさ」
「分かった」コクンと頷き、国王陛下に向き直るミコト。
 そうして、ミコトの話は始まった。詳しい場所は言えないが、ヨモスガラの山林でネイジェ=ドラグレイに出逢った事。それは全くの偶然だった事。人族と魔族に就いての関係、この世界の常識を教えて貰った事。エンドラゴンが願いを叶えてくれるかも知れない事。ミコトの寿命が、残り二十一日で尽きる事。
 簡潔に、判り易く、そして丁寧に話し終えたミコトに、マツゴは瞑目すると、大きく鼻息を吐き出した。
「そうでしたか……ネイジェ=ドラグレイは、そんな事を……」感慨深そうに頷くと、ゆっくりとその力強い瞳を開き、ミコトを捉える。「素敵なお話を有り難う御座います、ミコト様。けれど……人族と魔族に関する話は、公言されない方が良いでしょう」
「王様も、魔族を敵視しているのか?」怪訝な表情で問いかけるミコト。
「はい。余だけではありません。オワリの国の臣民全てが、そう考え、思っています」王様は静かに告げる。「ミコト様の考えを否定したい訳ではありません。けれど、民の常識、国の常識、世界の常識は、ミコト様と相反するものでしょう。それは、とても息苦しく、辛い道を歩まれると言う事。故にこそ、ネイジェ=ドラグレイは応えたのだと、余は考えます」
 国王陛下の発言に、周囲に立ち並ぶ騎士の間にも動揺が広がっていた。
 人族は、魔族の敵。魔族は、人族の敵。そういう構図が完成形として存在するこの世界に於いて、ミコトの発想は、思想は、相容れない。反感を持つ者の方が大多数で、認める事すら出来ないのだろう。
“故にこそ”、ネイジェ=ドラグレイは応えた。つまり、伝承に残る、伝説の人物は、現行の常識が間違っていると、そう暗に告げているのだと認識されても不思議ではない。
 その事を、国王自身が認めたのだ。騎士が動揺するのも無理は無かった。
 何かが変わろうとしていると、ミコトは肌で感じ取る。何かは分からない。けれど、何かが変わる兆しを、目には見えなくとも、総身で感じ取る事が出来た。
 それが良い事なのか悪い事なのか分からないまま、少しずつ、少しずつ……世界は、変わろうとしていた。

【後書】
 オルナさん大活躍~♪
 と言う訳で遂に出ました王様! 終世マツゴ国王陛下! この物語を綴る上で、そして、今回のエピソード「マナカ編」で大事なキーパーソンとなるキャラクターなのです。
 騎士連中に関しては言わずもがな、と言いますか、こういう人達がいるからうんたん~と言うお話は、作中で実感して頂けたらもう後書で綴る必要も無いでしょうw
 そして今回の断さんのイラストはクルガちゃんです!! ミコト君の真似してるの可愛過ぎでは???
 遂に謁見が叶い、迷宮挑戦の切符を手に入れた一同に訪れる数奇な運命とは!? 次回、第32話「王都・シュウエン〈4〉」……このまま順風満帆に行く訳が無かった! お楽しみに!

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