2018年7月8日日曜日

【余命一月の勇者様】第32話 王都・シュウエン〈4〉【オリジナル小説】

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/11/06に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第32話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/24722

第32話 王都・シュウエン〈4〉


「父上~話終わったか~?」

突然謁見の間の扉が開いたかと思いきや、豪奢な格好を纏った、十代半ばと思しき少年が入室し、ミコト達を見やって怪訝な表情を覗かせた。
目つきの鋭い、苛立ちを表情に塗布した男は、ミコトを数瞬睨み据えた後、国王陛下に視線を転ずる。
「何こいつ? 庶民の分際で謁見の間に来るとか身の程を弁えろよ」
「マシタ! 非礼が過ぎるぞ、謝りなさい!」思わずと言った様子で声を荒げるマツゴ。
「ハァ!? 何でこんな薄汚いドブネズミに、次期国王の俺様が謝らないといけない訳ぇ!? 冗談も過ぎるぜ父上!」ペッと吐き捨てる少年――マシタ。「ほら、帰れ帰れドブネズミ共。ここは卑しいお前らがいていい場所じゃねーの、ほら俺様が消えろって言ってんだ! 消えろよ!」
「――ミコト」「あぁ、一発だけな」
目の色を変えたマナカの肩を、ポンと叩くミコト。
その仕草を見て、レンが「ちょちょちょちょっとミコト!? マナカ!?」と慌てふためいた様子で手をこまねくも、その間にマナカはずんずんと歩を進め、マシタの眼前に立ち塞がった。
「な、何だお前? 俺様の前に立つんじゃねえよ!! 無礼者がァ!!」ローキックをマナカの脛に叩き込むマシタ。「早くッ、消えろッ、つってんだろッ!」
――次の瞬間、マシタの体が宙を舞っていた。
ドシャッ、と音を立てて背中から着地したマシタを見下ろしているマナカの拳は、突き出された形で止まっていた。
『マシタ様!?』騎士達の唱和が鳴り響いた。
動揺を隠し切れない様子の騎士達が慌てふためいた様子でマシタに駆け寄り、「ご無事ですか!?」「大丈夫ですか!?」と銘々に声を掛け始めた。
「お前が誰だか知らねえけどな、ミコトをバカにする奴は許さねえぞ」呆然自失の態で倒れているマシタを指差して警告するマナカ。「分かったか?」
「き、き、きき、貴様ァ!!」金切声を奏でるマシタ。「分かってるんだろうな!? 次期国王の俺様を、貴様は殴ったんだぞ!? 極刑だ!! 即処刑してやる!! おい!! あいつをひっ捕らえろ!! 牢獄に叩き込んで、拷問に掛けろ!! 今まで生きてきた事を後悔するまで地獄を味わわせてやれ!!」
「マ、マシタ様落ち着いてください、彼らは……」騎士の一人が恐る恐ると言った様子で声を掛ける。
「俺様の言う事が聞けない訳ぇ!? 早くしろって言ってんだよ薄のろがァ! あのゴミムシをとっとと膾切りにしろって言ってんのぉ!! 次期国王に手ェ上げたんだぞ!?」喚き声を張り上げるマシタ。「何呆っとしてんだよ!? 薄のろ共が本当に使えねえなァッ!! もういい剣を貸せ! 俺様が直々に手ェ下してやるからよォ!!」
騎士に手を貸して貰って起き上がりながら、勝手に騎士の剣を奪い取り、何の躊躇も無くマナカに斬りかかるマシタ。
その様子を見たレンが思わず恐ろしい瞬間が現出しそうで、顔を手で覆ってしまう。
だが、現実にはマナカが両断される事にはならず、剣を持つマシタの手を蹴り飛ばしたマナカによって、マシタは再び転倒する事態に落ち着いた。
「いってェ!! 何だよチクショウッ、いってェ!! 次期国王を、あのドブネズミッ、蹴りやがったぞ!? チクショウッ、チクショウッ、チクショウがァァァァッッ!!」右手を押さえながら怒号を張り上げるマシタ。「おいボケナス騎士共、見てねえで早くあいつを殺せよ!! 反逆罪なんだぞ!! 早くしろって言ってんだよォ!!」
「何なんだあいつ?」マナカが呆れ果てた様子でミコトの元に戻ってくる。「馬鹿なのか?」
「馬鹿なんだろうな」素っ気無く応じるミコト。「王様、あいつは何なんだ?」
「敬語を使え虫けら共ォ!!」顔を真っ赤にして怒鳴り散らすマシタ。「父上に向かって何だその口の利き方はァ!! 不敬罪だ!! 極刑に処してやるからなァ!!」
「マシタ、いい加減にしなさい!」杖で床を叩いて、マツゴが声を荒らげた。「彼らは客人です。お前の方が口を慎みなさい!」
「ハァ!? ハァァァァ!?」大声を張り上げるマシタ。「客人だろうが何だろうが知らねえけどな、こいつは次期国王に手ェ上げたんだぜ!? 反逆罪だろうが!! 父上が何て言おうが、俺はこいつを殺すぞ!!」マナカを指差して囂々と吠え続けるマシタ。
「マシタ!!」応じるように大声を上げるマツゴ。「シュン、マシタを下がらせなさい」
「ハッ」シュンと呼ばれた、マツゴの背後に控えていた大柄な騎士が、素早く洗練された動きでマシタの元に駆け寄ると、暴れちぎる彼を引き摺って謁見の間を出て行く。「失礼致します」と扉を閉める前に頭を下げると、マシタの怒号も徐々に遠ざかって行った。
「いや、大変見苦しいものを見せてしまいましたな」段の上で、マツゴが疲れ切った様子で椅子に腰掛け直す姿が見えた。「不肖の息子でしてな、唯一の世継ぎであると甘やかして育ててしまい……面目次第も無い」
「じゃあアレが第三王子のマシタって奴なのか」ミコトがもう一度扉を振り返ってから呟く。「あいつが次期国王って、大丈夫なのか?」
「ちょっとちょっと、マシタ様の肩を持つ訳じゃないけどさ、ミコトそれ不敬罪で牢獄に叩き込まれても仕方ない言い方よ?」ひそひそとミコトに耳打ちするオルナ。「確かに俺も、それに騎士達も同じ事を思ってるけど、言っちゃダメだからそれ、禁句禁句」
「正直に申し上げると、余も不安が付きません」はぁ、と辛そうに溜め息を落とすマツゴ。「ところで、そちらの方……名前を窺っておりませんでしたが、お聞かせ願えますかな?」
マツゴの視線の先には、マナカの姿が有った。
「俺か? 俺はマナカ! 追瀬マナカだ! 宜しくな!」グッと歯を見せて笑うマナカ。
「マナカ様、と、仰るのですね」マツゴは驚きに目を瞠り、マナカではない、別の誰かに想いを馳せるように、ゆっくりと口を開いた。「余の、今は亡き息子……第二王子の名も、マナカ、と、申しましてな。運命を感じてしまいますな」
「そうなのか?」よく分かってない様子で小首を傾げるマナカ。「でも俺、あいつの兄ちゃんにはなりたくねえなあ」と言って苦笑を浮かべる。
「マナカくぅん? それもだいぶ不敬罪だから、ほんとまじお願いだから思った事をポンポン口に出すのやめてぇ? 俺そろそろ神経持たないからね?」ひそひそとマナカに耳打ちするオルナ。「減俸どころじゃ済まないレヴェルだからね?」
「あたしはもう緊張で心臓が破れそうよ……」オルナの肩を叩いて、真っ青な顔を見せるレン。
「ぼ、僕も……」オルナの袖を引っ張って、真っ青な顔を見せるクルガ。
「どうしたんだ? 体調悪いのか?」不思議そうに三人を見やるミコト。「済まん王様、ちょっと休憩させてくれ。皆、体調が悪そうなんだ」
「ああ、構いませんよ。オルナ、彼らを客室まで案内してあげなさい」おっとりと微笑んで頷くマツゴ。「是非、夕食をご一緒して頂きたいのですが、宜しいですかな?」
「ああ、いいぜ」コックリ頷くミコト。「皆もいいか?」
「俺も構わないぜ!」グッと親指を立てるマナカ。「ミコトが行くなら、僕も行く!」コクコク頷くクルガ。「あたしも行かないと不味いでしょ……何やらかすか分からないし……」ゲッソリした様子で視線を逸らすレン。
「何つうか、おたくらメチャクチャ苦労してんのね」苦笑を禁じ得ない様子のオルナ。「では陛下、彼らをお連れ致します」不意に表情を改めて敬礼すると、「さっ、行こうぜ」と四人を先導して謁見の間を後にした。

◇◆◇◆◇

「フカフカだーっ!」
客室のベッドにダイビングするマナカを見やりながら、ミコトはその部屋の広さに驚いていた。
ヒネモスの街の上質な宿屋の客室の三倍は有ろうかと言う広さにも拘らず、ベッドの数は四つだけ。何れも天蓋付きのベッドで、部屋の窓からはシュウエンの都市が一望できる。絨毯は塵一つ無く綺麗に清掃され、天井には清潔に磨かれたシャンデリアが下がり、温かな色調の傷一つ無い壁紙が張られている。
部屋の隅には大きな水槽が置かれ、中には観賞用の小魚がゆらゆらと遊泳している。大きなテーブルの上には様々な茶菓子が用意され、ソファの上には大きなクッションやヌイグルミまで常備されている。
「何か、あたし、眩暈がしそう……」
レンが吐き気に襲われているのか、気持ち悪そうにソファに座り込み、はぁーっと重たい溜め息を吐き出して、ふわふわの絨毯を見下ろす。
今まで盗賊として、人族の中でも底辺の生活をしてきたレンにとってここは、雲上人の世界だ。一生係わる事の無かったであろう、縁も所縁も無い、裕福な人族が住まう世界。
そんな世界に己がいると言う感覚が、リアルな感覚を持って体感できないのだ。まるで夢でも見ているかのような想いで、ここに座り込んでいる。
「まぁ、普通はそうなるわな」レンの隣に腰掛けたのは、ここまで案内してくれたオルナだった。「一介の冒険者が入れるような所じゃないからなぁ。緊張もするっしょ。寧ろ君の反応がこの中では一番相応しいと思うぜ俺は」
「……ありがと、そう言ってくれると、少しは気持ちも軽くなるわ」微苦笑を浮かべてオルナを見やるレン。「てか、オルナ、あんた一体何者なの……? 今までずっと黙ってたけど、何で一介の騎士が、王様に口利きとか出来る訳?」
それはレンだけではない、ミコトも疑問に思っていた事だった。
第三王子のマシタの反応が極端であるのは理解できるが、それでも一介の冒険者の持つ書簡を、王様に直接手渡せる騎士と言うのは、一体どういう存在なのか。
騎士が如何に庶民や冒険者を無碍に扱っているか、門番の応対で何と無く理解できてはいても、オルナのような人物が王様と直接話が出来る、且つお願いを聞ける立場にいると言う事実が、上手く消化できない。
ミコトも興味深そうに、オルナの反対側のソファに腰掛けて無言で話を促すと、オルナは特段気にした様子も無く、「あぁ、それね」と煙草を銜えながら適当な調子で応じた。
「俺さ、騎士の中でも割と発言力が有る騎士なのよ」煙草にマッチで火を点け、美味しそうに紫煙を楽しむオルナ。「陛下の側近的な? まぁアレよ、騎士の中で一番偉い、近衛騎士様だから俺ってば」
「こ、近衛騎士!?」思わずと言った様子で声を上げてしまうレン。「し、信じられない……」
「にへへ、俺が近衛騎士って知った奴は大体そう言うんだよなぁ」煙草を上下に揺らしながら笑うオルナ。「陛下に臣民の窮状を知って貰うには、俺みたいな騎士が絶対的に必要なのよ。今日だって、俺がいなかったらおたくら、諦めて日を改めようとしてたっしょ? 日を改めても無理無理、あの頭のお固い騎士達に何度お願いしても時間の無駄よ。困った臣民を助けるのが騎士様なのにねぇ、騎士様は自分の事しか考えてないから、こんな困った事になってんだけどねぇ」言いながら、ソファに体を預けて天井を仰ぐ。「そんでそれが回り回って、マシタ様みたいな困ったちゃんを生み出してるんだけど、こればっかりは俺にも止めらんなくてなぁ。あの場ではああ言ったけど、俺はさ、マナカが一発殴ってくれたの、最高に痺れたぜ? お前最高かよって」
「それ、絶対に他の騎士に聞かせられない台詞ね……」青褪めた表情で呟くレン。「でも……あたしも同じよ。マナカがやってくれたお陰で、あたしもスッキリしたわ。ありがとね、マナカ」
「おう?」ベッドの上でフカフカ感を堪能していたマナカが、レンの視線に気づいて顔を上げた。「何か知らねえけど、どういたしましてだな! ナハハハ!」
「あの能天気さ、見習いてえわぁ」ケラケラと笑うオルナ。「まぁそれはそれとして、マナカ。お前たぶん、目ぇ付けられたと思うから、気を付けろよな」
「マジで!? 俺のどこに目ぇ付いてる!? ミコトぉ~! 取ってくれよぉ~!」ドタバタと体をねじり回しながらミコトの前にやってくるマナカ。
「だからそういう意味じゃねーっての」苦笑を禁じ得ないオルナ。「マナカ、お前、あのマシタ様を怒らせたんだ、今後は注意しねえと、とんでもねえ事になると思うぜ」
「おう? あいつ怒らせたら不味かったのか?」腕を組んで、不思議そうに小首を傾げるマナカ。「寧ろあいつが俺を怒らせたんだけどなぁ」
「くふっ、確かにな」笑いを堪えきれない様子のオルナ。「まぁそういう訳だからよ、ミコト、レン、あとクルガだっけ? お前らも、マナカの事、気ぃ付けて見てやってくれよ。あの第三王子は、本当に手が付けられねえ馬鹿王子だからよ、事が起きてからじゃ、俺も対応できねえし」
本気で心配してくれているのだろう、オルナの瞳は普段のからかいの色が消え、真剣にミコトの顔を射抜いていた。
ミコトは「分かった、俺も気を付ける」と頷き返し、「初めて逢った騎士がオルナで良かった。安心して話が出来るしな」と微笑を見せた。
「にへへ、そうだろそうだろ? 何せ俺は――」『地上最強の騎士だもんね?』四人の声が、オルナの言葉尻を奪った。
「分かってんじゃん!」とサムズアップするオルナに、四人は笑い声を上げるのだった。

【後書】
と言う訳で第三王子・マシタ様……様付けるのアレなんで、マシタ君の登場でした!
大問題の塊なのですが、彼もこの物語でだいぶ大事な……ってこの物語に登場する人物は全員重要でしたね! 問題児故にこそ、この物語には必要な火種なのです。
そして最強騎士・オルナの正体も明るみに出ましたが、彼には今後も胃をキリキリする事態が巻き起こりまくるので、是非一緒に胃痛を愉しんで頂けたらと思います(笑)。
ここで残念なお知らせが。今回から暫く断さんの更新告知イラストが掲載できないと思います、申し訳ないです。今のお絵描き環境が整ったらまた描いてくれる……“かも知れない”ので、それまで気長にお待ち頂けたらと思います。
さてさて次回、第33話「迷走の夜想曲〈1〉」……長い長い王城での夜が始まります。お楽しみに!

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