2018年7月20日金曜日

【滅びの王】36頁■鈴懸麗子の書1『《救いの勇者》』【オリジナル小説】

■あらすじ
一九九九年夏。或る予言者が告げた世界の滅亡は訪れなかった。併しその予言は外れてはいなかった。この世ではない、夢の中に存在する異世界で確かに生まれていた! 恐怖の大王――《滅びの王》神門練磨の不思議な旅が今、始まる!
※注意※2007/10/13に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

■第37話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/

36頁■鈴懸麗子の書1『《救いの勇者》』


「――……んじゃまぁ、お前ら全員、地獄逝きは覚悟しとけよ?」
 その少年が現れたのは、練磨君が倒れて動かなくなった直後だった。
 靄の中で鈍色に輝く長刀を携え、虚無僧の一人――練磨君を滅多打ちにしていた虚無僧の体を袈裟懸けにすると、返り血を浴びないまま、刃に付いた血糊を振り払わずに、次の獲物――二人目の虚無僧に視線を向けつつ、長刀を構え直す。
 少年剣士の動きは洗練されているようには見えず、寧ろ無駄が多い剣捌きをしていた。無駄に振り回して、無意味に構え直す。振り回さずとも構え直せるし、やろうと思えば、既に二人目の虚無僧に斬りかかれただろう。ただ、その無駄な動きに隙は無く、見ていると『面倒そう』な動きに映る。
「……何者だ、貴様。名乗れ」
「オレは名乗る程の者じゃねえんだ。……特に、あんたには名乗りたくねえな、気分で」
 少年剣士は長刀を地面に突き刺すと、柄に両手を置いて、その上に顎を載せる。刀が長いためか、少年の身長がそう高くないためか、……多分どちらも含まれて、その姿勢には無理が有った。身長は練磨君と同じ程だろうか。刀は、長刀と呼べるだけあって、少年剣士の身長を超える程の長さを有している。長刀は斜めに倒してあるから、何とか顎が載せられるみたいだった。
 虚無僧を束ねる男は無言のまま少年剣士を睨みつけ、――残った三人の虚無僧に端的な伝令を飛ばす。
「――往け」
「殺してもいーんだろー、スイカー」
 少年剣士が妙に間延びした声で呼びかけると、遠くから少女の声。
「えとえとー、悪そうだったら、良いよー」
「――よっしゃ。んじゃま、お前から逝こうか?」
 急接近した虚無僧に向かって、少年剣士は面倒そうに長刀を振り上げ、――砲丸投げのように長刀をぐるりと振るい、虚無僧の胴を薙いだ。動きに無駄こそ有ったが、速度は虚無僧が反応できる次元ではなく、気づくと胴体と泣き別れになっていた。
 虚無僧が動かなくなると、その隙に残った二人の虚無僧が錫杖を振り上げつつ跳躍する。二箇所からの打撃に、少年剣士は振り切った長刀を構え直し、――前後に斬りかかってきた虚無僧の錫杖を、横に倒した長刀で二つ同時に受け止めた。
「二人掛かりかぁ、ちょっち辛いかも」
 長刀を回し、二人の虚無僧の錫杖の力の向きを強引に変えると、一人が着地する寸前に長刀を振り切り、その足を薙ぐ――! 足を斬られた虚無僧は着地に失敗した。もう一人は着地に成功したが、それを確認する間も無く首が胴から飛び跳ねる。――速過ぎて確認できなかったけれど、少年剣士は足を薙いだ序でにもう一人の首を刎ねたようだった。
 着地に失敗した虚無僧の脳天に長刀を刺し込むと、抜き様に血糊を振り払い――、先程と同じ体勢……長刀を地面に突き刺して、柄の上に手を置き、その上に顎を載せて、動きを止めた。
「……さて、おっさん。まだやるなら……面倒だから相手するのやだな。帰れよ」
「……貴様、我らに盾突く心算か? 邪魔立てするなら――」
「人殺しを見て見ぬ振りできる程、オレは人間辞めたつもりねえから。……とは言うものの、オレだってさっきからしてるの、殺人以外の何物でもねえんだけどな。まあそれはそれ、コレはコレだ」
 意味の分からない言い訳を、男の言葉を遮ってまで言う少年剣士。
 ……全く以て理解できない。この強さに、あの言動……私の想像範囲を軽く凌駕してる。コレじゃまるで……。
「……名を名乗れ、小僧」
「人の話を聞けよ、ったく……オレはテメエに名乗りたくねえ。名乗った所で、……まあ意味は有るかもだけど、嫌なモンは嫌なんだ。あんた、好きになれそうにねえし」
「……良かろう。だが、次に逢った時は、覚えておれよ……?」
 靄に沈むように消える男……元から気配の無い男だったため、消えても何の不思議も感じなかった。
 少年剣士の溜め息が聞こえ、――靄が晴れてきた。
「あんた……無事か?」
「え? ……ええ、大丈夫。それよりも、その子をっ」
 私は〈杖〉の〈附石〉を元の石の姿に戻すと、練磨君へと駆け寄った。少年剣士は長刀を鞘に納めて、背後からやって来る少女に声を掛けた。
「おーい、スイカー。怪我人出たぞー」
「もー! 怪我人は出さないようにって言ってるのにぃ~!」
 スイカ、と呼ばれた少女が駆けて来て、練磨君の前で立ち止まる。
 白い修道服を着た、少年剣士と同い年に見える少女は、武器も持たずに、練磨君の傍らに膝を突き、――顔を驚愕に歪ませた。
「練磨っ!?」
「え――――っ?」
 何故、この女の子が練磨君の事を……?
 不思議そうに見ていたが、やがて女の子はハッと我に返って、即座に練磨くんに手を添える。
「――〈いたいのいたいの、とんでけー〉」
 ――〈魔法〉だ。それも教会に属する者が扱えるという、〈魔法〉の一種だった。
 ぱぁ――っ、と体に添えた手が輝き出し、練磨君を包み込むように光が走ると、光に包まれた箇所から、傷口が消えていった。
〈治癒〉の〈魔法〉……見た所、女の子は僧侶のようだ。覚えていても不思議ではない。
 徐々に癒えていく練磨君を見て、私はひとまず安堵した。
 ……何故だろう。この少年が助かった事に安堵してはいけないのに。
 練磨君は……《滅びの王》だ。世界を終わらせてしまう存在……なのに、私はそれを、今は信じる事が出来なかった。こんな気の良い少年が、本当に世界を終わらせてしまうのか……疑惑を覚えてしまう。そして、願ってしまう。――彼が、練磨君が《滅びの王》なんかであってほしくない――と。
 ……願ってしまう程に、今の私は練磨くんを信じてる……? ……馬鹿らしい。そんな感情、有っても無意味なのに。信じる事がどれだけ愚かな事か、自分が一番よく知ってる筈なのに。
「これで……大丈夫、だよね……、練磨……?」
〈治癒魔法〉を使い、女の子はその場にへたり込んだ。……〈治癒魔法〉とは言え、力を多く使うのだろう。女の子の息は上がっていた。
「スイカ? そいつが……お前の言う、《滅びの王》……なのか?」
「!」
「うん……そう、だけど……」
 少年剣士も、練磨君が《滅びの王》と知ってる……?
 今現在、世界に《滅びの王》に関する情報は飛び交っている。だが、内実は全く形を成さないモノばかりで、情報とも言えない程、曖昧模糊なモノばかりだった。とにかく《滅びの王》に関する情報は、表には殆ど出ていない。そんな存在が生まれたのかどうかすら分かっていない状態で、《滅びの王》が少年だとか、男の子だとか、そんな事は分からない筈なのだ。
 にも拘らず、二人の少年少女は練磨君を一瞬で《滅びの王》だと看破した。そんな事は有り得ない筈なのだが、実際こうして二人は《滅びの王》だと確信している……どういう絡繰りが有るのか分からなかったけれど、二人は恐らく私と同じ特殊な環境下に有るんだろうと、考えた。
「君達は……?」
「あー……っと、お姉さんはこいつの保護者?」
「え? ……ええ、まあそんなところね」
「ふぅん……まあいいや。オレは矛槍(むやり)玲穏(れおん)。んで、こっちが――」
「えとえと、間儀(まぎ)崇華(すうか)、です……あのあの、『スイカ』じゃないですよ、『すうか』、ですからっ」
「スイカ~、誰も間違えねえよ、そんな事」
「言ってる本人が間違えてるんだもんっ!」
 ……ふざけているのか、場を和ませているのか、判断に困る会話だった。
 だが、その時点で気づけた事が有る。
 矛槍玲穏。彼の名前には聞き覚えが有った。それは……
「……《救いの勇者》」
「あんたも知ってるのか、オレの事」
「有名だもの……まさか、こんな所でお目に掛かれるとは思わなかったけれど……」
《救いの勇者》と名付けられたのは、そう昔の話じゃない。偶然にも事件に遭遇して、その犯人を勝手に倒してしまう……ちょっと悪く言ってしまったけれど、彼は色んな事件に巻き込まれるようで、その度に被害者のために加害者を倒す……要は殺している、酷く言えば殺人者だ。殺す相手が偶然にも凶悪犯だからこそ許される所業であり、本来ならば指名手配されていてもおかしくない人物だ。
 それがいつの間にか、世界に仇なす人は倒したとかあって、《救いの勇者》と呼ばれるようになったと聞いていたけれど……思うに、この玲穏くんも、
「……《滅びの王》を倒しに来た……のかしら?」
「まあ、そんなトコ。……倒すっつーか、もう倒れてるしな、こいつ」
 玲穏君が練磨君を見下ろして、指でその額を突く。
 崇華ちゃんが慌てて止める。
「やっ、止めてよぅ! 練磨を突かないでよぅ!」
「突いても減るモンじゃねえだろー? ……あー、それで、姉さんは……いいや。めんどい。おーい、スイカー。こいつどうするんだー? 旅籠まで運ぶのかー?」
「おーいって、わたし目の前にいるのに、どうしてそんな声出すかな……うん、運ぼっ? 湖太郎(こたろう)くん、呼んでくるね~」
 と言って、崇華ちゃんが街道を駆けて行く。
 その間、倒れて動かなくなった練磨君と、玲穏君、そして私が取り残された。
「……玲穏君は、どうするつもりなの?」
 訊いてどうなる話でもない。それより今は、彼に話を伝えるのが先決だった。……今この時点で応援が来たら、最悪戦闘になるかも知れない……相手が《救いの勇者》なら、勝っても負けても後味が悪過ぎる。戦闘……敵対する事だけは避けたい。
 玲穏君……《救いの勇者》は、世界にとって平和の象徴である。そんな彼を敵に回せば、必然的に自分は『悪』と見做される。それが彼の厄介な点だ。下手に手を出すと、世界中を敵に回す事になってしまう。
 ……まあ、結局の所、私の立場ってそんなモノかも知れないけれど。
 玲穏君は、あばら屋に入ると、何も言わずに寝転がった。私と練磨君を街道近くの野原に置き去りにして。
「……玲穏君?」
「あー……どうする、っつわれてもなぁ……別に、そんな奴、殺しても何にもならない気がするしなぁ。寧ろさっきの奴をぶっ飛ばした方が、余程しっくりくるぜ」
 玲穏君はそう言うと、寝返りを打って私に向き直った。肘を立てて、手の上に頭を載せる格好で、私と練磨君を見据える。
「そいつが終わりを齎す奴たぁ、オレにはどうも思えねえんだけどよ。あんたはどう思う? そいつ、本当に世界を滅ぼしちまいそうな奴か?」
「…………」
 問われて、応えられない自分がいた。
 練磨君は……《滅びの王》なんかじゃないと、『信じたい』。普通の人であってほしいと、私は願っている。何故か。……きっと、練磨君がとても人間らしく見えたせいだろうし、《滅びの王》らしからぬ行動や言動、そして態度に性格と、全てが《滅びの王》を連想できない。そういう化けの皮を被っているんだとも考えられるけど、この純粋そうな少年からは、どうしても考え付かないのだ。
 私が練磨君を騙していた……練磨君に黙っていた事が有ったと知った時だって、彼がそれを理由に私を信じなくなる事は、実際無かった。そんな事が遭っても尚、彼は私を信じようとしていた。そんな少年が《滅びの王》だなんて、未だに信じ難い。だが、彼は自分で名乗ったのだ。《滅びの王》だと。
「……私は、そうは思わない。思いたくない、と言った方が正しいかしら」
「ふぅん……まっ、そういう事でオレ達の意見は一致した訳だ」
 玲穏君は寝転んだ格好のまま、私に見せつけるように大きな欠伸を浮かべる。本気で眠そうに見えた。
「じゃ、ま、そっちの仲間に入れて貰って良いかな? オレ、ちょっとあんたらに興味有るし」
「……断ったら、どうするつもりなの?」
「そん時はそん時。――で、返答は如何に?」
 ……きっと、練磨君に逢ってなかったら、こんな事、言わなかったでしょうね。
「私の一存じゃ決められないわ。……練磨君が起きたら、直接訊いてみて。私は、練磨君の意志を尊重したいの」
「ふぅん……じゃあまあ、今は仮仲間、で良いかな? よく分かんねえけど、近くの町まで連れてかせて貰うぜ? ここにこいつを寝かせたままにしとけねーし」
「……良いわ。それに、練磨君自身、王都へ向かってたみたいだし」
「んじゃ、ま、決まりだな」
「おーい、ミャリー! 湖太郎くん、連れて来たよぅ~!」
 丁度都合良く、崇華ちゃんが水色の大きな虎――恐らくは走平虎(そうへいこ)の一種だろう――に跨ってこっちに向かって来ていた。
「……玲穏君。君は……私の名前を訊かないのかしら?」
 走平虎の湖太郎くんを見つめながら、そう問いかけると、背後で起き上がるような音が聞こえた。
「ん~……別に、無理に訊きたくねえし。聞かせて貰えるなら、聞くけど?」
「……仲間なのに名乗らないなんて、ちょっと無礼よね?」
「そーでもねーと思うけど」
「――私は鈴懸麗子。……練磨君には、もう仲間扱いされないかも知れないけど、彼が起きるまでは仲間と思って欲しいわ」
 ……いつまでもここにいる事は出来ないでしょうね。でも、私は練磨君を信じてみたくなった。
《滅びの王》じゃないって、信じてみたい……
 とても私らしくないって、今更気づいた。

【後書】
 予想されていた方もいらっしゃると思いますが、初めての麗子さん視点のお話でした。
 そして遂に夢の世界の崇華ちゃん登場に加えて新キャラ「ミャリ」君! 「矛槍」と書いて「むやり」と言うのですが、むやりむやりと言っている内に次第にみゃりみゃりと…ならない? そう…
 と言う訳で麗子さんなのですが、どうにも生粋の悪人と言う訳ではなさそうな雰囲気を醸し出しつつも、何やら裏が有りそうな雰囲気を漂わせているミステリアスガールと言った所です。アレですね、当時のわたくしの思考を辿るに、「謎多き女性は魅力的!」とでも思っていたんじゃないでしょうか。今もそう思います(笑)。
 さてさて次回は誰の書が始まるのか…? お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    予想通りでしたv
    崇華ちゃんの登場の仕方もピタリ!
    シンクロ率高めなわたしですw

    やっぱりというか、ほんとに悪い人ではなさそうな鈴懸さん。
    きっと練磨君の純粋さが心をかえさせたのか?
    《滅びの王》
    もしかしたらそういうのを…おっとここまでw
    妄想、妄想w

    今回てんこ盛りすぎっすよ先生w

    疑問はすべて継続中!(気持ちよくなってきた←謎w

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ピタリでしたか! さすとみ~!! しゅごすぎるぅ~!!ヾ(≧▽≦)ノ

      そういう妄想を待ってましたー!w そうそう、そうなんですよ、もしかしたら《滅びの王》の滅びとは…って考えちゃいますよね!w
      《滅びの王》の純粋な心が鈴懸さんの心を変えたのだとすれば、何を以て“滅び”となるのか…とかわっちも妄想膨らませてしまいますな!w (*´σー`)エヘヘ

      今回詰め込み過ぎちゃいましたね!w 偶にはてんこ盛りでお送りしちゃうのですっ!w

      疑問が解決しないなりの快楽を体得した…!?ww 妄想を膨らませる余地があるって、こういう時愉しくなってきますよね♪(´▽`*)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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