2018年8月15日水曜日

【神否荘の困った悪党たち】番外編01話 ナモの一日【オリジナル小説】

■あらすじ
ナモの一日を追ってみようキャンペーン。

■キーワード
日常 コメディ ギャグ ほのぼの ライトノベル 現代 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881797954

番外編01話 ナモの一日


「亞贄さ~ん」

 扉の隙間からふわりと俺の自室に侵入を果たした式子さんが、俺の眼前にふわふわ浮かんでいる。
 俺は砂月ちゃんが作ったアイ×アニの同人誌を閉じて、「ん?」と顔を上げた。
「どうしたの式子さん」
「あの……亞贄さんのご友人で、ナモさんと言う方がいらっしゃるじゃないですか」言い難そうにへしへし体を折り曲げている式子さん。「何かその……あの方、本当に一般の方、なんですよね……?」
「んん? 意味深過ぎてよく分からないけど、たぶん一般の方だよ、たぶん」他に何が有るんだ感で一杯だ。
「亞贄さんは、ナモさんの日常をご存知ですか……?」
「いやー、言われてみれば知らないなぁ」普段俺引きこもりだったからなぁ。
「では! 今日は一日ナモさんと一緒に過ごされてみてはいかがですか? どんなお仕事をされてるのか、気になってるでしょうし! それが良いです! そうしましょう! 今すぐ行きましょう!!」
「んええ? 今すぐ?」話が急過ぎるよう。

◇◆◇◆◇

「オッスオッス。迎えに来たっぽ」
 神否荘の前にクルマが停車し、中からナモが出てきた。
「ごめんごー、何か急な話で」ナモに向かって手を挙げるよ。「式子さんが、一度ナモの日常を確認した方が良いって」
「あー、あの式神ちゃんの事か? いいけお、俺の日常ってアレだお、あんまりインスタ映えしない奴だっぽ」
「インスタ映えする仕事って何だ……」
「まぁ乗れ乗れ、時間が時間だからまだ仕事なうなんだお、職場までごーいんぐなうしろ話はそれからや」
「お、おう」
 助手席に乗ると、ナモの胸ポケットから式子さんが顔を出してきた。
「お疲れ様です式子さん一号!」ピッと敬礼するナモの式子さん。
 すると俺の胸ポケットから式子さんが顔を出して、ナモの式子さんに敬礼を返した。「ご苦労様です式子さん二号!」
「微笑まスィーン」運転しながら呟くナモ。
「微笑まスィーンだね」コックリ頷くよ。

◇◆◇◆◇

「ここ俺の職場」
 地下の駐車場に入っていく前に見えたのは、何か五十階以上有りそうな高層ビルだった。
「すんごい高いビルなんだけど、どこのフロアなのナモの会社」
「ん? このビル全部俺の会社だけど」
「うせやろ……」
 クルマから降りてエレベーターに向かう。
「ん? 俺の会社って、もしかしてナモ社長なの?」
「いやいや、俺ヒラだよヒラ。受理係って奴」
「受理係?」聞いた事無い役職だ。「何する系なの?」
「まんままんま。受理する仕事」訳が分からない。
 エレベーターが四十八階に辿り着くと、ゴファッ、って音を立てて開いた。
 赤いカーペットが敷かれた廊下を進むと、重厚な自動ドアを抜けた先に、大きなフロアに出た。
 広めのデスクと、その上に山ほど書類が載っている。それ以外に有るのは応接用と思しきソファと脚の低いテーブル、観葉植物が有るだけで、一面ガラス張りで見晴らしが最高の部屋になっている。
「えっ、ここナモの職場なの?」社長室ではなく??
「そうそう。俺ここで働いてんの」と言ってデスクに向かって歩いていくナモ。ゆったりとしたチェアに腰を預けると、「今日の仕事量は普通な感じだから、参考になるかもかも」
「この書類をどうする奴なの?」トコトコついてって書類の山を見上げる。軽く千枚以上有りそうだ。
「えっ? 受理する奴だお」
「受理する奴」訳が分からない。「ちょっと仕事してみてよ」
「ほいほい」
 ナモは書類を一番上から手元に持ってくると、備え付けのハンコを持って、ポン、と判を押した。
「終わり」判を押した書類を隣にずらして俺を見上げた。
「えっ、今何したの」ハンコを押しただけに見えるけど。
「えっ、受理したんだけど」不思議そうに俺を見上げるナモ。
「今文面読んでた??」
「ったりめーだろー。読まずに受理って仕事じゃないやーん」
「さっきの書類、ちょっと見てもいい?」
「いいお。一応機密情報だから。社外秘だから、外でバラしちゃダメだからなー」
「そんなの見てもいいのかよ……」ヤバみマックスハートだぞ……
 と思いながらも書類を手に取って見てみた。

『万引き犯の処遇に就いて。
 懲役五十年とかどうですか?
 はい〇 いいえ×』

『はい』に判が押されてる。
「……んんん? ちょっ、えっ、これ、待って」理解が追い付かない。「これ何?」
「ん? 受理された書類」
「そういう意味じゃなくて……これナモが受理するかしないか決める感じなの?」
「んー、まぁ、そういう仕事だからなぁ」どういう仕事なんだ……「さっき言っただろ? 俺、受理係なんだよ」訳が分からない……
「分かりましたか亞贄さん?」式子さんがふわふわ漂ってきた。「この、一般(株)と言う会社、私が言うのも何ですけれどヤバいです!」
「会社の名前が“一般(株)”って事にも違和感を禁じ得ない奴だ」理解がやってこない。「じゃあナモは一日ここでひたすら受理してるの? この、えーと、」「受理待ちの書類ね」「そう、受理待ちの書類を」自分で言ってて訳が分からないぞ。

◇◆◇◆◇

 その後一時間ほど、ナモは書類に目を通してるのか通してないのか分からない速度で受理しまくって、時刻はやがて午後の三時になりそうだった。
 俺は応接セットのようなところで社員さんのお姉さんが持ってきた紅茶と茶菓子を式子さんと突っつきながら過ごしていたんだけど、不意にナモから「オワター」と伸び伸びした声が聞こえてきた。
「えっ、まだ三時だよ?」念のため部屋の時計で確認してから尋ねる。「もう終わったの?」
「おう、まぁあの量なら一時間も有ればよゆーっしょ」コキコキと肩を回すナモ。「帰って仕事するかなー」
「三時に帰って家で残業する感じなのか??」どんな会社なんだ……
「ん? 家では提督業とマスター業とプロデューサー業だけど」何も持たずに立ち上がり、のんびり出口に向かっていくナモ。「ほら、行くぞー」
「ソシャラーの鑑だなぁ」トコトコついてってエレベーターを降りるよ。「てか今更だけど、ほら、あれは? 退勤とか、出勤とか、そういうの記録しないの?」
「あー、うちはその辺自由だからなぁ。自由に出勤して自由に退勤すればいい感じヨ。ちゃんと仕事が終わってれば誰も咎めないすぃー」
「こんな自由な職場初めて知ったわ」世界って広いな~。
「よし、帰りにちゅんか買うか~。今日はにーさんが職場に来た記念で五万じゃぶろう」どんな記念だ。

◇◆◇◆◇

「着いたお」
 コンビニでちゅんかを買って辿り着いたのは、別の五十階ほどの高層ビルだった。
「あれ? 会社??」地下駐車場に入っていきながら尋ねた。
「のー、俺んち」
 地下駐車場には何か観た事無いクルマがモリモリ停まってる。
「高級そうなクルマばっかりだけど、お金持ちしか住んでないトコなの??」ちょっとドキドキだ。
「ん? アレ全部俺のクルマだけど」なにて??
「えっ、じゃあもしかしてこのビルって……」
「さっき言っただろー。俺んちだお」
 エレベーターに乗って、地上五十階にやってくると、めちゃんこ広い廊下を抜けて、めちゃんこ広い部屋に入って行った。
 映画館のスクリーンみたいな巨大モニター画面一杯にゲーム画面が映ってる。
「好きなとこ掛けてくり~」トコトコ歩いてリモコンのスイッチで何かを起動すると、全方位の壁面にゲーム画面が映った。「ソファなら山ほどあるから」
「お、おう」確かに七十畳近い部屋にソファが乱雑に二十個くらい並んでる。適当に座ると、ナモが杖のような装置を持ってやってきた。「それなに?」
「これ? これパッド」と言って杖の表面をぐりぐり撫でると、部屋中のゲーム画面が同時に動き出した。「提督業とマスター業とプロデューサー業を並列でやるにはこれが一番って気づいたんだよなー」
「やべーな」何かしゅごいサラウンドでゲーム音声が部屋一杯に広がってる。

◇◆◇◆◇

「ナモってさ、今お給料どれくらい貰ってるの?」
 夕飯にしよー、と夜の一時近くまでゲームに没頭してたナモが言い始めて、俺は夜食にしてはやたら豪華なラインナップの料理を口に運びながら尋ねた。
 寿司、ピザ、ハンバーガー、カレーライス、ラーメン、焼き肉エトセトラエトセトラ……部屋中に香ばしい匂いが蔓延してて、それだけで胸焼けしそうマンだった。
「ん?」その料理をモリモリ食べてるナモ。「月七億だったかなぁ」
「ひえぇ」
「いやいやにーさんと比べてもなー。にーさん本気出せば毎週十億ぐらい余裕で稼げるっしょ」
「まぁそうだけども」
「腹立たスィーン」
 モリモリ食べてると、式子さんがクイクイと袖を引っ張り始めた。
「い、今の話、本当ですか……?」恐る恐る尋ねてくる式子さん。
「ん? ナモが月七億稼いでる話?」
「亞贄さんが本気出せば毎週十億ぐらい稼げる話ですよ!」
「あー、うん。まぁ、そうだね」コックリ頷くよ。
「どうして本気を出さないのです? そしたら億万長者も夢じゃないですよ!」鼻息荒く式子さんが詰め寄って来る。
「んー、どうしてだろうね。別に必要としてないからかも」てへへ、と笑っておいた。
「にーさんはアレなんだよ、頑張らない奴なんだよ」ナモがピザを水のように飲みながら呟いた。「何もしないから、欲も無い。悪役が一番扱いが難しいって言うタイプの奴なんだよなぁ」
「そうなんだなぁ」コックリ頷くよ。
「だから俺はにーさん好きなんだなぁ」寿司を水のように飲みながら呟くナモ。「こいつは放っておいたらやべーって分かるからなぁ」
「そうなんだなぁ」コックリ頷くよ。
「……亞贄さんも、ナモさんも、神否荘に相応しい人物だって、今痛感しました……!」瞳がキラキラしてる気がする式子さん。「ナモさんじゃないと、亞贄さんのご友人は務まらない……そう確信しました!」
「おっほ、褒められてるのかな?」「たぶんね」

◇◆◇◆◇

 その後三時までゲームした後、八畳ぐらいのベッドで寝て、五時に叩き起こされた。
「にーさん朝だよーAaaaaaSaaaaaa」
「うわー」鼓膜が複雑骨折するぅ。
「はいおはよう。ご飯だご飯、朝から美味い」
「ふえぇ、テンションが追い付かない……」
 昨日の夜食と同じラインナップの料理群を見て俺は既に胸焼けがオーヴァーヒートしてた。
 そんな俺に構わずナモはモリモリ食べる。七ポンドくらいのステーキを水のように飲んでる。
「……うーん、確かに、式子さんに言われるまで何も思わなかったけれど、」頭がおかしくなりそうになりながら呟くよ。「ナモ、お前やべーな」
「いやいや、にーさんほどじゃないからぁー」
「いやいや、ナモの方がヤバみ溢れ過ぎだからぁ」
「いやいや」「いやいや」
「……どっちもヤバいです!!」
 式子さんが綺麗に纏めてくれた。

【後書】
断さんにナモを描いて頂いたぞーッ!
と言う嬉しさのあまりガリガリ書き殴ったナモさんの短編です。これ本来本編61話辺りに入るお話なのですが、急遽前倒しにして番外編枠にしました。いやー、ナモがこんなにゆるふわ系イケメンとか最高過ぎかよ…(昇天顔)
てかうっかり「毎週何かしら更新する!」って予定表に組み込んでましたけれど、そうやって決め決めにやるからやる気ふにゃーんになってるんじゃないのかてんてーっ! って思ったので自由・イン・ザ・自由で更新して参りますわ…更新したい時に更新したい作品を更新する…これだ…!
まぁ、そんな事を言い始めたらまたBlogの更新がパニックみたいなお祭りになるので、ふんわりふんわり、或る程度は調律の取れた頻度でね、うん。何の話してるんだこれ???
取り敢えずナモは亞贄君の友達にピッタリって事です! 夏だからこれでゆるしてんこ盛り! 次回更新は何かふんわりしまーす! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ナモさん……
    もっもしよろしかったらお付き合いをsihap@aq@

    申し訳ない、連日の暑さでコメントがヤバみw

    やっぱりナモさんも普通ではなかったってことですかw
    ほんとピッタリって感じですw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回もふんわり楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ナモさん、たぶんモテモテになる要素秘めてるのに全然そんな空気出さないの、ほんとしゅごいですよね!www

      いや最高のコメントでしょ!ww そのヤバみこそがわたくしの求める感想…!w

      ですですw ナモさんもやっぱり普通ではなかったのです!w
      亞贄君にピッタリであり、且つ神否荘にもピッタリな感じが伝わっていれば大勝利です!w(*´σー`)エヘヘ

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もふんわりお楽しみに~♪

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