2018年10月15日月曜日

【余命一月の勇者様】第41話 伝承、再び〈1〉【オリジナル小説】

■あらすじ
伝承、再び。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096

■第41話

第41話 伝承、再び〈1〉


「……トワリちゃん、ですか」

 呼雨狼……もとい、虹狼とトワリの話を語り終えたミコトに、サボは難しい表情で吐息を零した。
 そのサボを見やるミツネの表情は、驚きと喜びの色が綯い交ぜになり、もどかしそうに手振りを交えてあたふたしている。
「ん? ミツネどうしたんだ?」不思議そうにミツネを見やるマナカ。「お腹痛ぇのか?」
「違うわ!!」ペシーンッ、とマナカの肩を叩くミツネ。「トワリ!? トワリじゃと!? まさかその方は――」
「……えぇ、姫様の想像通り、恐らくはトワリ=ネカミチ。ネイジェ=ドラグレイ同様、伝承に残されている人物の一人です」深刻な表情で呟くサボだが、その瞳は好奇心の炎で爛々と輝いていた。「呼雨狼と一緒に現れた、と言うのも伝承通りですから、まず間違いないかと」
「……ちょ、ちょっと、待って……」思わず制止の手を挙げるレン。「ト、トワリちゃんも、ネイジェさんと同じ……伝説の……と言うか、神様、って事……?」
 恐る恐ると言った態でサボに視線を向けるレンに、冒険者ギルドの纏め役は興奮を隠し切れない様子で何度も首肯を返した。
「ホシ、あれを」若干震えながらサボがパキンッと指を鳴らすと、ホシが「どうぞ」と懐に納めていた書類の束を手渡した。
「それは?」不思議そうに問いかけるミコト。
「宿場町・シマイに伝わる伝承・伝説の類いを纏めたモノだ」書類の束を叩いて応じるサボ。「シマイに古くから居を構える住人から聞いた民話や、シマイを訪れる行商人の見聞などを記録したモノなんだが、ここにこういう記述が有る」そこで一旦呼気を整えると、改めて口を開いた。「“人、踏み外す時。身代わり狼、裁定に現れし。虹架からねば、身代わり狼、踏み外せり”。……この“身代わり狼”と言う存在が、我々冒険者ギルドに伝わる伝説の存在、トワリ=ネカミチと呼ばれる、半狼の神だとされているんだ」
「半狼の神様、か……」
 ミコトのぼんやりした呟きに、マナカが「確かに狼っぽかったよな、トワリちゃん」とうんうん頷きを返した。
 実感が湧かない……と言えば嘘だった。あの時、呼雨狼が輪唱してシュウ川に虹の橋を架けた時、それをお願いしたと思しきトワリの様子を見た時、――ネイジェと同じ空気感を有していると気づいた時、もしかしたら、彼女も、そういう……本来ここにいないような、特別な存在だったのではないかと、そういう直感は、確かに働いていた。
 そして、その直感を否定する事は無く、かと言って彼女にそうなのか? と問う事もまた、無かった。
 ネイジェのように、彼女もまた、人伝に語られ、伝承として残されて行く存在なのだろうと、そんな意識がミコトには――否、四人には、宿っていたのだ。
 詮索はしない。無理強いもしない。一緒にいて、話をして、助けたいと思った事物を助ける。ただ、それだけの関係で、ミコト達は充分だった。
 だからこそ、あの場で何も言わず、何も聞かず、ただ一緒にいられた事を感謝して、立ち去ったのだ。
 また逢えると、約束をして。
「やっぱり、マナカ君に手を貸した判断は正しかったね」書類を改めてホシに返すと、サボは満足気に頷いた。「僕はね、君達の力になるのであれば、あらゆる労力を惜しまない。それは勿論、今のように、伝承にしか残されていない人物の話を聞きたい、と言う打算も少なからず、いや、そのためと言っても過言ではないけどね、」両手の指を合わせ、涼しげに微笑むと、ミコトの瞳を正視する。「彼ら……伝承にしか残されていない者が接触した者を無碍に扱うなど、一人の冒険者として、無論冒険者ギルドの長としても、そして何より、君達を友人だと思っている僕には、心情的に、絶対に出来ないんだ」
「友人、か」嬉しそうに微笑を浮かべていたミコトだったが、そこで顔を引き締めると、深々と頭を下げた。「遅くなったが、マナカを救ってくれて、本当に助かった、有り難う。お前がいてくれたから、マナカはマシタに、シュンに、殺されずに済んだんだ。心から、感謝してる」
「ははっ、気にしないでくれ」軽く笑い飛ばすと、サボはパキンッと軽快に指を鳴らした。「僕は冒険者ギルドの纏め役。冒険者の味方をするのは当然の振る舞いだと思わないかい?」
「……サボ、あたしからもお礼を言わせて」レンも、ミコトと同じように頭を下げた。「家族の命の恩人だもの、マナカの事、本当に有り難う」
「サボ、有り難う!」クルガが慌てた様子でレンの隣で頭を下げた。「マナカがいなくなったら、僕、困るから、だから、有り難う!」
「何かよく分かんねえけど、サボが俺の事、助けてくれたんだろ? ありがとな!」グッと親指を立てるマナカ。「やっぱりお前、良い奴じゃん! 馬車に乗せてくれたし!」
「……ワシからも、改めて礼を言わせてくれ、サボ」マナカの隣で頭を下げるミツネ。「ワシの命の恩人であり、ワシの命の恩人の、命の恩人でもある。感謝してもしきれん程じゃ。有り難う」
「俺からもオワリの国の騎士を代表して、感謝の言葉を言わせてくれよ」マナカの肩を叩きながら、サボを見やるオルナ。「お前がいなけりゃ、陛下の客人に最低な裁定を下さなけりゃいけない所だった。マシタの、……いや、シュンの暴走を止めてくれて、本当に助かった。ありがとよ」
「「我らメイドも、ソウセイの国の臣民を代表して、感謝の意を表します。姫君を窮状より救って頂いた事、感謝申し上げます、サボ様」」ニメとサメが一言一句ぴったりと合わせて告げると、全く同じタイミングで頭を下げた。
「……参ったな、ここまで感謝されるとは想定外だったよ」
 照れて頬をポリポリ掻き始めるサボに、ホシが「えぇ、善い人には、善い人が、集まってくるのですね」と穏やかな微笑で囁きかけるのだった。

◇◆◇◆◇

「あっ、ミコト! 聞いてくれよ!」
 話が一段落して皆が安堵の表情を浮かべて寛ごうとした矢先、マナカが喚声を上げた。
「どうした?」ベッドから跳び上がったマナカに向かって、小首を傾げるミコト。
「ミツネ、姫様なんだぜ!?」
 ベッドに腰掛けているミツネを指差して吠えるマナカに、指差された姫は仏のような顔になっていく。
「いや、流石にその説明は今更過ぎるじゃろ……」ツッコミの力が弱いミツネ。「まぁ、改めて自己紹介させて貰おうかの」と言ってベッドから立ち上がり、楚々とした動きで会釈した。「ワシはソウセイの国の第三王女、創木ミツネ。お主が、マナカの言うておった、ミコトじゃな?」
「あぁ、俺はミコト。咲原ミコトだ。こっちが嫁のレンで、小さいのがクルガだ」と言って手で示しながら紹介するミコト。
「俺はマナカ! 追瀬マナカだ! 宜しくな!」とミツネに握手を求めるマナカ。
「お主はもう自己紹介せんでええじゃろ!? 何回自己紹介する気じゃお主は!!」と喚きながらも握手には応じるミツネ。「して、ミコトとやら。お主、姫に逢いたい、と言う願いが有るそうじゃな」
「あぁ、そうだ」コックリ頷くミコト。「だから、その願いはもう叶ったって事だな」
「……お主も、その、何じゃ……」言い難そうに口ごもるミツネ。「その……王族とか関係無しに、誰にでも親しみ易い口調なんじゃな」
「済まん、気に障ったのなら、努力する」申し訳なさそうに頭を掻くミコト。
「そういう訳ではなくての。その……何じゃ。ワシには今まで、そういう風に接してくれる者がおらなくての、新鮮なんじゃ」照れ臭そうに赤面して俯くミツネ。「……良ければ、今後もその接し方を、続けて欲しい」
「あぁ、良いぜ」コックリ頷くミコト。「俺もその方が、気軽に話せて楽だしな」
「それでよミコト! 聞いてくれよ!!」と言ってマナカが突然ミツネの肩を叩いて喚き始めた。「ミツネ、困ってるんだよ! 何とかならねえか!?」
「ミツネ、困ってるの?」不思議そうにミツネを見上げるクルガ。「僕、出来る事、有るなら、助けるよ!」
「クルガ、と言ったか。有り難う」微笑を浮かべて、クルガの頭を優しく撫でるミツネ。「併し、ワシの問題は、そう易々と解決できるものではない」
「そうなの?」しゅーん、と耳と尻尾を伏せて悄然とした表情を浮かべるクルガ。「――でも、僕、頑張るよ! ミコトもいるし、レンもいるから! あと、あと、オルナもいるし! サボもいるよ!」と言って尻尾をパタパタ振りながらミツネを見上げる。
「……有り難う、クルガ」励まされているのが嬉しいのと、クルガの愛らしい仕草に心を奪われているのか、表情筋が緩んで切なそうに胸を押さえるミツネ。「……そうじゃの、話だけでも、させてくれぬか。解決まで到らなくとも、話す事で、諦めも付くかも知れぬ」
 ミツネは真剣な表情でミコトを見つめる。ミコトは応じるように頷き、「あぁ、聞かせてくれ。どんな問題なんだ?」と、座るように手で示し、話を促した。
 ミツネは頷き、改めてマナカの隣、ベッドの端に腰掛けると、小さく吐息を漏らした。
 ミツネが語ったのは、ソウセイの国が今、旱魃に襲われていると言う話から始まった。
 一年以上雨が降らず、干上がった大地は農作物を腐らせてしまい、臣民は飢えと病気で困窮。ソウセイの国は他国との交易……オワリの国とも交易自体は盛んなのだが、輸出できる交易品が果実などが主だったため、輸入品が限られてしまい、民はただ徒に飢え死にしていく状況に陥りつつある現状。
 そんな折に、オワリの国の第三王子であるマシタから、婚儀の申し出が有ったのだ。その内容こそが……
「……ワシに、オワリの国に嫁がせる代価として、食物を譲渡しよう……そういう話じゃった」俯いて、沈鬱に語るミツネには、明らかに覇気が感じられなかった。「ワシは、……断れなかった。臣民を飢え死にさせるぐらいであれば、ワシ一人が、奴の慰み者になれば良いと、奴に襲われる直前まで、疑いもせなんだ……。貞操が奪われる段になって、初めて恐ろしいと感じた……奴は、ワシの事を人だと思ってなどおらぬ。ただ、獣欲を満たせるための道具としか見ておらぬと、その時になってやっと気づけたのじゃ。怖くなり、逃げ出して、このザマじゃ。ワシは、もう臣民に顔向けできぬよ……」
 落涙が、膝の上で固めた拳の上に水溜まりを作るのを見て、マナカはミツネの頭を乱暴に抱き締めて、不器用に頭を撫で始めた。
「ミツネは何も悪くねえ! だから泣くな! 俺が何とかしてやるから!」と力強く吠えた後、ミコトに向き直るマナカ。「ミコトもそう思うだろ!? ミツネ、何も悪くねえよな!?」
「……あぁ、マナカの言う通りだ。ミツネは、何も悪くねえ」コックリ頷くミコト。「ミツネ、安心してくれ。俺達が……いや、マナカが何とかする、してみせる」
「ほ、本当か……?」泣き顔を上げ、マナカを見つめるミツネ。「本当に……何とかなるのか……?」
「あぁ、任せとけよ! 俺にはミコトが、家族が、付いてるからな!」グッと親指を立て、ニカッと快活な笑みを見せるマナカ。
 そんなマナカを見て言葉を失うミツネだったが、やがて恥ずかしそうに泣き顔を服の袖で拭うと、「その言葉、信じるからな……!」と、マナカの服の袖を引っ張って、赤面して呟いた。
「おうよ!」ドンッと胸板を叩いて応じるマナカだったが、すぐに不安そうにミコトを見つめ、「で、どうしたらいいんだ俺は!?」と声を掛けた。
「マナカ、そういう事は、ミツネのいない時に言えばいいな」思わず苦笑を禁じ得ないミコト。
「……そうじゃな、ワシの信用を失うどころの騒ぎじゃないぞ、それ」不貞腐れたように、マナカの胸板をポコッと叩くミツネ。
「そうなのか?」不思議そうに小首を傾げるマナカ。「大丈夫だって! ミコトがいれば、俺は最強だからな! 安心して任せてくれよ!」
「……のう、ミコトよ」不安そうにミコトに視線を向けるミツネ。「この男の言葉は、本当に信用していいのか……?」
「あぁ、勿論だぜ」グッと親指を立てるミコト。「マナカはバカだけど、絶対に嘘は吐かない。信じてやって欲しい」
「……そうじゃの、此奴は確かに阿呆じゃが、嘘は吐かんな」安堵したような、呆れたような、そんな曖昧な微苦笑を滲ませるミツネ。「……罪作りな男じゃ」
 小さく漏れたミツネの本音が聞こえたニメとサメが顔を見合わせ、無表情の仮面から一瞬、嬉々とした笑みが口唇に浮かぶのだが、それは誰の目にも留まる事は無かった。

【後書】
 トワリちゃんの正体が明らかになりました! 呼雨狼編だけでも「そんな気がする!」と思わせぶりなシーンを用意しておりましたから、しっかり作中でその正体が明らかになったのは、ホッとしましたw
 と言うのも、わたくし物語を綴りながら伏線を回収する事があんまり無いと言いますか、自然と明らかになる内容であれば意識なく謎解きを明示するのですが、そうでなければ謎は謎のまま、物語が終わってしまう事も少なくないんですね。
 そんな訳で今回はピッタリと物語に納まる形で謎解きが出来て良かったなーと思っている次第ですw 明かされない謎と言いますか、作中に全く関係の無い、メタ的な謎と言いますか、言葉遊びとしての謎としては、トワリ=ネカミチと言う名前にもふんわり意味を持たせてあります。ヒントは「身代わり狼」とだけ。意味が分かるとにんまりできる系のネタですので、良かったらふんわり妄想してみてくだされ~!
 尤も、この「余命一月の勇者様」に登場する人物は全員「名は体を表す」を地で行く方しかおりませんので、基本的に言葉遊びでネーミングしております。そういう所も妄想したりすると、面白かったりするかも知れませぬ!
 ちょこっと長くなりましたが今回はこの辺で! 伝承のお話はもう少しだけ続きます。お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ハンカチとティッシュ用意しておいて大正解でございました。
    もう刺さりまくり!
    勇者様を読んでいると心の中が洗われるような気がします。
    ほんとヤバいんですってw

    ちょっと復習にって、雨呼び狼編を読んでてまた涙w

    トワリちゃんやっぱりそういう方だったのですね。
    ホシさんじゃないけど、善い人には、善い人が、集まってくるのです!

    そしてそして!妄想ネタまで提供していただいて、感謝です!!
    じっくりふんわり妄想していきますよ~vv

    でも、一番刺さったのはクルガちゃんの尻尾パタパタだなんて言えない…

    相変わらず支離滅裂言いたい放題!書き逃げ御免!!

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      刺さりまくり!w 心が洗われるような気がします! もー、もー、そんな感想を頂けるだけでもーーー嬉しくて嬉しくてニヤニヤが止まりませぬ!!w
      雨呼び狼編も再読して頂けたようで嬉しさが上限値超えですよ全く!w

      ですです! トワリちゃんはやっぱりそういう方でした!
      このホシさんの台詞は持論も込々なので、心に響いたのでしたら幸いです…!

      ぜひぜひ! じっくりふんわり妄想して頂ければ嬉しいですぞ~!!

      尻尾パタパタでしたか!w (*´σー`)エヘヘクルガちゃん可愛いよね…!w

      いえいえ! 最高の感想でしてよ! 書き逃げ最高!!!

      今回もお楽しみ頂けたようでめちゃんこ嬉しいですわふ~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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