2018年10月31日水曜日

【滅びの王】54頁■神門練磨の書13『孤児院』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/02/13に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第55話

54頁■神門練磨の書13『孤児院』


「――んめーな、これ!」
 オレは出てきた料理に舌鼓を打った。
 釜炊きご飯には鶏肉や山菜などの野菜が混ぜ込んであって、色んな食感を楽しめた。
 味噌汁はジャガイモや、これまた山菜などが入っていて、何より絶妙の味噌加減だった。塩辛さも充分で、味気無い訳でもしょっぱい訳でもない。ちょうど良い加減なのだ。
 野菜の盛り合わせは例に漏れる事無く山菜! 山菜のオンパレードだった!
「そうかい? あんたの口に合って良かったよ♪」
 八宵も満更じゃないようで、食べながら笑顔を浮かべている。
 これを言うと有り難味が無くなりそうだけど……オレ、朝から何も食べてないから、何を食べても美味しく感じるのかも知れない。とか考えて、慌てて打ち消した。そんな事無い! この料理は絶対に美味いんだ! 自分の考えを完全に否定した。
 これで口の中が切れてなければ最高だったんだけどな。……痛くて沁みるぜ。……あの鬼め、それと黒一も赦し難いな、本気で。
「ねーねーおにーちゃん。このようせいさん、まだおきないの?」
 テーブルに寝かされている咲希を見つめて、男の子がオレを上目遣いに見つめる。
 オレはまず口内の料理を飲み込んでから、咲希の頭を人差し指で撫でた。
「そうだな、今日はちょっと疲れちゃってるんだよ、こいつ」
「どうして~?」
「……色々、頑張ってくれたんだよ」
 言ってから、咲希の寝顔を見つめてみる。
 ……また、起きて憎まれ口を叩いて欲しい。いや、オレにそういうマゾっ気が有る訳じゃないんだけど、眠っているよりは、オレの前で元気そうに喋っていてくれた方がマシだって訳で……それに、静かな咲希も、これはこれで可愛げが有るし…… 
「……」
 そう言えば〈風の便り〉はどうして使っちゃいけないんだろう? オレがここに一人でいるのは、ちょっと不味いんじゃないか? 仮にも《滅びの王》なんだから……と考えていて、気づいた。
 オレ、もしかして、ここにいたら《滅びの王》って気づかれない……?
 一度は死んだ身だ、誰も探しに来ないだろう。
 世間的には今、《滅びの王》は死んだ事になっている。……筈だ。それを思えば、やっぱりここで正体を明かさず、平凡に暮らす事も、無理な話ではないんだ。……八宵も、きぬさんも、良い人だ。きっと、オレが《滅びの王》だって教えなかったら、このまま普通に…… 
 ――まただ。
 またオレは、『普通』に生きようと考えている。
 いけない事じゃない。でもオレの意志に反するそれは、オレはきっと望んでるんじゃなくて楽な方へと逃げようとしているだけなんだと思う。
《滅びの王》として生きていけば、絶対に命を狙われる。いつ殺されたっておかしくない生活を余儀無くされる。それは……普通じゃない以前に、やっぱり怖い。現に一度は殺されたんだ。あんな目に遭うなら、正体を明かさずにここで暮らすのも……と考えてもみたけど、オレはどうしても納得できなかった。
 逃げ隠れるような生活に、何の意味が有る? オレは、そんな奴になりたいんじゃない、そんな男になるために今まで生きてきたんじゃない!
 確かにここで『普通』に暮らす考えが間違ってるとは言えない。そういう生き方を選んだって、文句を言われる筋合いなんて無いだろう。……でも、オレはそれを望まない。オレの望んだ生き方ってのは、『普通』なんかじゃない。『凄い』なんだ。
 逃げ続けるのも、それはそれで『凄い』生き方かも知れない。……だけど、オレは敢えて戦う道を選ぶ。……何度殺され掛けても、一度選んだ道を簡単に変えられない。変えたくない。
 オレはオレを貫き通したい。
「にーちゃんは、コレからここにいてくれるんでしょぉ?」
「――へ?」
 いきなり現実の世界(って、ここ、夢の中だって忘れそうになるな……)に呼び戻されて、オレはハッとした。慌ててオレに話し掛けてきた男の子に視線を向ける。
「オレが、……何だって?」
「おねーちゃんといっしょにいてくれるんだろ?」
 男の子の瞳は清浄無垢そのものだった。真っ直ぐ目の前に有る『ホンモノ』だけを見据えてる。
 ……オレの考えなんて、全部見透かされてるんじゃないかって思える程、透き通った眼差しだった。
「いや……オレは、ずっとはいられないんだ」
「ええ~~? どうして?」
 男の子の不満そうな眼差しを受けて、オレはちゃんと自分の気持ちに正直になって、素直に応える。
 小さい子に嘘を吐ける筈が無かった。有りのままのオレを応える。それが、この真っ直ぐな眼差しへの対応だ。
「オレは……オレには、やらなくちゃならない事が有るんだっ」
「やらなくちゃならないこと? って?」
「それは、オレにもまだ分からないんだ。……でも近い将来、オレはそれをしなくちゃならない。……それが、どうなる結果を齎そうとも」
 ちょっと難しかったかな、と思って苦笑すると、男の子は瞳を爛々と輝かせていた。何故か、隣に座っている女の子も、いや、よく見ると大きな食卓に着いてる皆がオレを見ている!?
「にーちゃん、かっけー!」
「おにーちゃん、すごいねー」
「どんなことするんだろー」
「気になるぅー」
「……あんたが、そんな大層な考えを持ってるなんてね。その割には、体が追いついてなかったみたいだけど?」
 八宵が後半、企み笑いを浮かべつつ告げるのを見て、オレはちょっと赤くなる。
「だっ、だってよ、そんな簡単にいく訳じゃ……!」
「ま、頑張んな。ウチは応援してるよ? やりたいようにやれば、人生楽しいってもんサ」
「お、おう……」
 取り敢えず飯を掻っ食らって腹に収めると、今度は子供達の相手をさせられた。
 食後の運動を兼ねて教会の中を走り回っていると、楽しくなって、久し振りに、はしゃぎ回ったような気がする。……童心に帰るってこの事だな。楽し過ぎて我を忘れて時間が過ぎ去っていった。
「ほーら皆、寝る時間だよ! 明日も朝から忙しいんだから、さっさと寝な!」
 八宵が怒声一喝、子供達はきゃーきゃー声を上げながら自分の寝床へと走っていく。……どうやら、教会に在る個室が、そのまま子供達の寝室となっているようだった。
 オレはようやく解放された安堵感と、昼間ボロボロになっていた上に走り回った挙句、笑い過ぎた後の虚脱感に襲われ、暫く動けなかった。今までで一番疲れた気がする…… 
「ご苦労さん! あんた、子供って好きなのかい?」
「ん~? ……嫌いじゃねえな。ああやって、何も考えずに走り回れたのって久し振りでさ。オレも楽しかったし。……これで痛みが無けりゃ、最高だったよ」
 ……最近、走る度に嫌な目に遭ってるからだろう、そのトラウマが少しでも消えてくれれば、と思ったが、今日は特に意識に上る事も無くて、安心した。……てか、この世界に来てから走る機会がすげー増えた気がする……。
 こりゃちょっと、肉体改造も視野に入れとくべきか……?
「まあ、何はともあれ、助かったよ。あいつら、いつもウチや婆様を困らせてたからさぁ」
「まあ、そんな感じだったな~。やっぱ、子供は子供らしく、遠慮も配慮も欠片も無いのが、逆に良いのかもな。ああいうの、嫌いじゃないぜ、オレ」
「そう言って貰えると助かるよ。はい、これ。焙じ茶」
「あ、ども」
 熱くなったカップを受け取ると、左右の手で持ち直しつつ、口に含む。サッパリしていて、気持ちが落ち着く。
 静かになった教会の本堂で、オレと八宵は静かに茶を啜った。
 ……過ぎ去った時間がどれだけ長いのか、よく分からない。あれだけはしゃいでいると、あっと言う間に時間が経って、現に今も夜が更けて深夜と呼べる時間帯だ。教会には小さな燭台の灯りのみで、辺りには鈍い冷たさを宿した闇が蟠っている。
 外では虫の鳴き声が響いていた。
「……応えられないなら、応えなくて良いけどさ。……一つ、聞かせてくれないかい?」
「……」
「あんた……本当は何者なんだい? 本当に……ただの《出人》なのか?」
 それは……単純にオレが《出人》ではないんじゃないかという疑念だけじゃなくて、それ以外にも色んな疑惑が込められているような、奥歯に物が挟まったような言い方だった。
 ……どう応えれば良いのか、分からない。だけど、オレの信条が嘘を吐く事だけは絶対にしてはならないと叫んでる。それだけは、肝に銘じている。
「……話すと、きっと八宵を巻き込んじまうよ。……これは、オレの問題だから……」
「そっか……残念だね」
 明確な拒絶を返されても、八宵は然程の落胆を見せなかった。予測していたのかも知れない。それとも、オレの考え過ぎか……。
 茶を啜ると、まるで心の中が洗われるようだった。……そんなに汚くなった自覚は無いけどな。
「あの妖精は、どこで?」
 咲希を見たまま、八宵はオレを見ずに尋ねた。
 オレはカップを抱えたまま振り返って、未だに昏々と眠り続けている、どこぞの姫君みたいな妖精を見やる。……寝顔は本当に掛け値無しに可愛いんだけどな。
「えっと……《不迷の森》って分かるか?」
「随分と遠い所だねぇ……そんな所から、ここまで来たのかい? ちょっと見直したよ」
 まぁ……雪花に運んで貰ったり、後は攫われたりで飛ばされたりで、自分で歩いた感覚なんて殆ど無いんだけどな。
 結局、オレが自分の足で歩いたと言えば、《不迷の森》の中や町の中だけだったりするんじゃないだろうか。……情けない。ちょっと自分の甘さに反吐を吐きそうになる。
「……ここまで、その妖精と二人っきりかい?」
「いや……きっと、転送石か何かのせいだと思う……」と言うのは、あの黒一が何を使ったか分からないからだ。
「ふぅん? ま、無理には訊かないよ。……話は変わるけど、これからの予定は決まってるのかい?」
 茶を飲み干して、八宵に振り返ると、命令を待ち侘びている仔犬のような顔をしていて、妙に可愛いと感じてしまった。
 ……オレよりも年上なのに。
「えっと……実は、決まってないんだ。そいつ……咲希って言うんだけどな……そいつが起きるまで、ここにいさせてもらってもいいか? あまり、そいつの言い分も無しに移動したくないんだ」
「ああ、ウチらは構わないよ。寧ろ大歓迎サ! あいつらもきっと喜ぶよ」
 言って八重歯を覗かせて顔を綻ばせる八宵。……やっぱり、笑っていると女の子は可愛く映るモノなんだろうか。
「じゃあ、明日もここに寝泊りするんだね?」
「そうさせて貰うぜっ。……って、良いのか?」
「あいよ! なら……明日はちょっくら付き合って貰おうかね。ウチも久々にここに戻って来たんだ、ちょっと婆様に孝行したいんだよ」
 それを聞いて、質問してはならない事だろうと思ったにも拘らず、言葉がオレの意志を無視して飛び出した。
「八宵も……孤児だった、のか……?」
「そうだよ」
 即答。
 それが逆に、拒絶の反応に思えて、オレは慌てて謝った。
「ごめっ」
「? 何を謝ってんだい? もしかして、気遣ってくれてるの? ――あはは! ウチは気にしちゃいないよっ。……ウチの家族は、ここにいる皆がそうなんだ。本当の親とか、そんなの関係無い。ここにいる皆が、ホンモノさ」
「……」
 凄いな、と思った。
 今のオレが母さんや父さんを失ったら、きっとこうはなれない。悲しくて、切なくて、もう何も手が付かなくなると思う。……喪失感や虚脱感は、一度でも抜け出せなくなる所まで堕ちれば、這い上がるのは難しいと思う。色々と理由をこじつけて、無気力になって、そのまま……多分、現実の世界にいながら、魂が抜けてしまうだろう。
 でも、八宵は違う。事実を受け止め、それでも前を向いて突き進んでる……。それは生半可な覚悟じゃ無理だろう。親と言う、自分を無償で愛してくれる人がいないんだ、それだけで人生ってのは大きく変わると思う。……なのに、八宵は頑張って前を向いている。オレはそこが、凄いと思ったんだ。
「そろそろ寝なよ。疲れてるんだろ? 布団は用意してあるから。付いて来なっ」
 本堂を後にすると、奥まった部屋の一つに案内され、入ってみると確かに布団が一つだけ。
「オレ一人にこんな……オレ、さっきの所で寝るよっ」
「ダメダメ! 客人にそんな事できるかい! あんたはここで寝るの! 客人なんだから、少しは胸張りな! 遠慮なんてされたら、こっちが困っちまうよっ」
 そう言われたら、切り返せない。だけど……客人が胸張れるか、普通?
 オレは渋々その部屋一つを貸しきって、今日一日を終える事にした。
 部屋の隅に咲希を寝かせて、小さな布団……と言うか、これは三角巾だな、間違いなく。……まあ、咲希のような妖精のための布団なんて有る筈無いか。
 部屋には燭台が一つだけ備えられ、その小さな灯りだけの闇の中、オレは静かに眠りに就こうとした。
「……これから、どうなるんだろうな、オレ……」
 すぐにでも〈風の便り〉を使って崇華に、勿論鷹定や麗子さん、ミャリにも連絡を入れて、迎えに来て貰いたい。無理なら、無事だけでも知らせたい。出来る事なら合流して、そのまま王国へ向かって、鷹定の問題を解決させて、それから…… 
 それから……オレはどうするんだろう?
《滅びの王》として生きるんだから、やっぱり世界を滅ぼすのか? ……そんなの、頼まれてもするもんか! この案は却下だな。
 それじゃあ世界を滅ぼさないようにするために自殺でも図る? ……さっきと同じで頼まれてもする訳が無い。問答無用で却下だ。
《滅びの王》という身分を隠して陰に生きる? ……今の中では一番ベストだけれど、オレはそんな風にこそこそと生きるつもりは無い! 敢え無く却下だ。
 ……って、どの案も通らないんじゃ、決めようが無いじゃんか。
「……でも、オレが決めなきゃ、意味ねーよなぁー……」
 鷹定の問題が済んでしまえば、もしかしたらそれでお払い箱になる事だって、充分に考え得る訳だけど……オレは鷹定を信じたい。……それは甘えかも知れない。鷹定が絶対に裏切らない保証なんてどこにも無いのに、オレは自分の都合の良いようにモノを考えて、都合の良い考えに固執して、現状に甘えてる。
 こんな事だから、何度も殺されかかってるのに、分かってるのに、どうしてもその考えを捨てきれない。……これこそが、オレの根底にしがみ付いている『甘え』なのかも知れない。
「せめて……オレにどんな力が有るのか位分かれば、ちょっとは状況も変わるかも知れねえのになぁ……」
《滅びの王》と言う漠然とした存在だけを挙げられても、オレにはどんな力が有るのか分からないし、役割もやっぱり大雑把にしか分からなくて、世界をどうやって滅ぼすのかも、いつ滅ぼすのかも、何故滅ぼすのかも、何にも分からないのだ。そんな状態で考えても、仕方ないような気がする。
 分からない事だらけで、オレは悩みつつ、……少しずつ頭が機能を停止していく感覚を認めた。
 ……オレが何をするかなんて、オレが決める。それだけは絶対だ。予言で何と言われようが、オレは世界なんかを滅ぼすつもりは無いし、……かと言って救う気も、実は無い。
 ただ……『凄い』人生が送れればそれで……良い……ん……だ…………

【後書】
 今回の話、読み返した時にめちゃめちゃ感じたのが、恥ずかしさです…(笑)
 何と言いますか、こう、練磨君青過ぎィ!ww 若者~! って感じがしゅごい出てて、擦れてしまったわっちにはもう何か見てるだけで赤面してしまう奴でした…w
 わたくしの作品で練磨君が特別青い訳ではないのですし、黒歴史って訳ではないのですけれど、何だこの青さは…! って感覚で一杯になる回でしたよ今回は!w
 さてさてそんなわたくしの葛藤は措いといて、次回からまた新しい書が始まります。お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    先生をも赤面させてしまう練磨くん、素敵じゃないですか!
    先生が真っ赤な顔で身悶えしているのを想像して(・∀・)ニヤニヤしてますw

    目標というか先のこともよくわかってなくても
    『凄い』人生を送るという気持ちだけで突っ走ってしまう練磨くん
    熱いです!きっと夕日に向かってダッシュしてるはず!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv(・∀・)ニヤニヤ

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    1. 感想有り難う御座います~!

      いやー、確かに素敵なんです! 練磨君は素敵なんですけれどね!w わっちが大変身悶えする奴でしてね!ww
      くうっww何(・∀・)ニヤニヤしてんだー!ww(モダモダ

      そうなのです、何と言いますか、中学生くらいの子って、明確な目標とか、未来の事とか、見据えてるような、でも見えてないようなで、ふんわりした気持ちだけで突っ走ってしまうのが、こう、青春かなって!(ザックリ)
      夕日に向かってダッシュしてるはず!!www 熱い!ww 熱いなぁ練磨君!www

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪ こら!w (・∀・)ニヤニヤしない!ww

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