2018年11月13日火曜日

【滅びの王】56頁■神門練磨の書14『意気地なし』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/02/22に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第57話

56頁■神門練磨の書14『意気地なし』


 崇華の頭を撫でながら暫く胸を貸していると、嗚咽が小さくなって洟を啜る音だけが聞こえるようになった。
「……落ち着いたか?」
「うん……ごめんね、ごめんね……」
 崇華が顔を離したのを見て、オレは無言でティッシュの箱を押し付けてやった。
「洟、出てるぞ」
「うん……ありがと……」
 ずびびー! っと洟をかむと、崇華はようやく泣き腫らした顔でオレの顔を見据えてきた。その顔は怒っているように見えたけど、また泣きそうな感じに崩れてしまう。
「ごめんって崇華。オレが悪かったよ」
「うん……でも、本当に、良かったよぅ……」
「……でも、《滅びの王》が生きてたら、何かと不味いんじゃないのか?」
 崇華が、今度こそ毅然と顔を上げ、オレを睨み据えた。
「練磨は世界を滅ぼさないんでしょ!? だったら《滅びの王》なんて関係ないよ!」
 初めてかも知れない。こんな、怒鳴りつけるような崇華の声を聞くのは。
 自分の信念を崇華に叩き込まれて、オレは一瞬、唖然とした。
 オレは……やっぱりバカだ。崇華にまで怒鳴られてやがる。
 こんな……こんな、一つの事さえ守れない男なんて、最低だ。
 約束したら、最後まで守り通す位の男気を見せてやれ、神門練磨!
「……ああ、そうだな。崇華の言う通りだ」
 オレは確りと頷く事が出来た。やっと、自分の事が分かってきたような気がする。
 今まで逃げてたのかも知れない。都合の良い《滅びの王》と言う存在に、オレ自身が甘えていたのかも知れない。
 そうだ。誰かに「お前は《滅びの王》だ!」って言われたって、そいつの勝手な言い草じゃないか。オレは、――オレだ。オレはオレ以外の何者でもないんだ、勝手に《滅びの王》にされても困る。予言で定められてても、未来にそう書き刻まれていたとしても、オレはオレである以上、オレのする事はオレが決める! オレしか、オレの人生を決める奴はいないんだ!
「オレは世界を滅ぼさない。……絶対に」
「……うんっ、それでこそ練磨だよぅ♪」
 泣き腫らした瞳を擦って、崇華がはにかむ。……こいつ、今なんか、すげー可愛く見えた。
 何故だろう。崇華と話してると、体と言う殻を突き破って、心と言う芯にまで言葉が突き刺さってくるような感覚を覚える。……それだけ崇華の言葉には色んな意味が込められてるんだろうか。それとも、深い所に有る意味が分かるだけの付き合いと言う事なのか。どっちにしたって、オレは嬉しかった。
 そうこうしていると、崇華の腹から猫の鳴き声のような音が聞こえてきて、それに応えるようにオレの腹が犬の唸り声のような音で反応した。
 崇華と見つめ合い、二人同時に笑い出す。
 いつもの時間だ、と思えた。


「……ねぇ、練磨。これって……おばさんのカップラーメンじゃないよね……?」
 食べる物が無かったから戸棚に有ったカップラーメンを漁ってみたのだが……如何せん量が少ないため、どれがハズレでどれがアタリなのか分からなかった。
「母さん、豚骨は食べなかった筈だけど……あ、味噌バターはどうだろう?」
「おばさん、よくご飯に味噌付けて食べてるよ?」
「いつの時代を生きてるんだ……つか、そんなにウチの家計って危機的状況なのか!?」
 そんなこんなで。
「わぁ♪ 練磨、カレー作れるんだっ?」
 居間のテーブルに並んだのは、即席のカレーライスだった。チンするだけ、が売りなんだから、これで問題無しだ。
「いただきまーす♪」
「おう、いただきます!」
 カレーライスを食べつつ、崇華と夢の中の世界の話を始める。
「でもよ、本当にオレ、《滅びの王》なのかな? ……未だに信じられねえんだよ、本当に世界を滅ぼしちまう奴なのかって……」
「練磨は世界を滅ぼさないんでしょ? なら、《滅びの王》なんかじゃないよぅ♪」
 そうは言うものの、オレは自分の言葉さえ信じられない。
 口では言っているけど、内心疑問符だらけだった。あの世界の不可思議性には、もう疑う価値は無さそうだけど、あの世界で与えられたオレの役割……つまり《滅びの王》と言う役割こそが、どうにも解せない。
 オレは何度も言うけれど、世界を滅ぼすつもりなんてこれっぽっちも無い。寧ろオレ的には世界を救う側に成りたかったんだけれど……まあそれはこの際良いとして、世界を滅ぼすつもりの無い奴が、本当に世界を滅ぼせるのか、それが常に疑問として付き纏う。
 それともこれからオレは世界を滅ぼす道筋を辿り、最終的にはどういった形になるかは分からないが、世界を滅ぼしてしまうのか? ……いや、何が何でもそれだけは絶対にしない。固く自分に誓っている。世界は、絶対に滅ぼさない――と。
 なのにオレは《滅びの王》として、夢の世界に出現した。……もしかしたら暦さんの勘違いと言う線も考えられないでもないが、今までの経緯を考慮すると、どうにも断言し難い。いや、単純にオレも一緒に勘違いしているだけなのか……。
 結局は《滅びの王》の持つ力が分かるまで、何とも言えないのだけれど。現にオレには今、向こうの世界でこれと言った凄い力が宿っている訳ではないし、片鱗さえ見えない。故にこうして悩んでしまうのだ。自分が本当にそこまで大層な人物で合っているのか、――と。
「まぁ、そうだよな。力らしい力も無いし、どう考えたって普通の人間だよな、オレ」
 そう言うと、……どうしてだろう、自分に落胆してしまう。折角凄い人生が送れると思ったのに、それを自ら否定してしまう事がどうしても出来ない。どうせなら《滅びの王》として生きてみたいし、もっと凄い人生を送ってみたいとも思う。
「……でもでも、練磨が一度死んだのに生き返ったのは……不思議だよね?」
「まぁ、な。でも、それだって咲希が復活させてくれたからに違いねえよ。オレ、何も力なんて使ってねえし」
 それとも《滅びの王》の力とは、肉体を不死身にしてしまうものなんだろうか? ……ちょっと想像できないけど、そう考えればオレが蘇った話は一応、筋が通る。俄かには信じ難い事だが。併しそう考えると今度は鷹定の問題をそれで解決できるのか、と言う疑問が湧いてくる。オレが不死身になっただけで鷹定の問題が解決できるとは、流石に考え難いのだ。
「咲希ちゃん? えとえと……それって、あの、妖精さん?」
 そう言えば、崇華に咲希を紹介した記憶が無いな。丁度崇華がいる時だけ咲希は姿を現さなかった気がするし。
「どの妖精の事を言ってんのか分かんねえけど、オレに付いて来てた妖精の事な。あいつがきっと、オレを復活させてくれたんだって!」
 妖精にはその位の力が備わっていても不思議じゃない! と言うのがオレの中に出来た通説だった。
 ……でも、よくよく考えてみると、あいつが何か力を使ったところなんて一度も見ていない気がする。ただオレに付き纏い、時折面倒臭そうに〈魔法〉やら〈魔言〉やらの説明をするだけで……――思い出した。オレに〈風の便り〉の術式を頭に刻み込んだのは、あいつだ。
 実は役に立ってんだな、とちょっと感心していると、崇華が難しそうな顔をして、カレーライスをカレーとライスに分けていた。……こいつ、最後にどっちを残すつもりだろう。
「何かあったか?」
「う、うん……。あのねあのね、妖精さんには、人を復活させるだけの力は、無い筈なんだよぅ」
「…………え? ――いやいや、それはねえだろ? 現にオレ、復活してるし」
「そしたら……えとえと、妖精さんには不思議な力が有ってね、自分の精力を他者に与える事で、重傷を完治させる、って力が有るの。それを使えば、死者こそ蘇らないけれど、酷い怪我なら治るの」
「じゃあ、それだな。オレはそれで復活したんだって!」
 だけど……自分で言ってて信じられなかった。
 頭を貫かれて死なない人間がいるか? 重傷なんてもんじゃない、頭を貫かれて重傷で済む人間なんて、考えられない…… 
 ふと思い出したけれど、前に何かのテレビ番組で、頭を貫かれても死ななかった人間の話をしていたシーンが脳裏に蘇った。その時、頭を貫かれた男は死ななかったけれど、性格などに異常を来たして、結局どれだけかして死んじゃったんじゃなかったっけ。脳の一部が欠損した事によって、性格や気性に異常が出た、とか言ってた。
 つまりそれがオレに起こって、辛うじて死ななかったオレの頭の欠損を修復すべく、咲希が頑張ってくれた、と言う事なんだろうか?
「……でもでも、それじゃあ咲希ちゃんは……」
 何故か暗い顔をする崇華に、オレは疑問を懐いて話を振った。
「何だよ? 咲希がどうかなるのか?」
「……えっとね、妖精さんが自分の精力を与えると……重傷だった相手に精力を与え過ぎちゃったりすると、自分の活動の源である精力が無くなっちゃうから、そのまま……死んじゃう事も有るの……」
「……それって……」
 咲希が昏々と眠り続けてるのは……?
 死んだように起きてこないのは……?
 まさか……もうあの体は……?
「……嘘だろ? そんな、そんな簡単に咲希が死ぬかよっ」
「わたしも、断言は出来ないよぅ……実際に咲希ちゃんを見た訳じゃないし、妖精さんが全精力を注いだ所も見た事無いし……だから、わたしにも分からないよぅ……」
 冗談じゃない!
 オレが助かっても、咲希が死んだら意味が無いじゃないか!
 最悪の自己犠牲。そんな事をされて生き返ったって、オレは全然嬉しくねえよ!
 やり場の無い怒りを抑えるべく、カレーライスを掻っ込んだ。野獣のように食らった。味が、分からなかった。


 崇華が食事を終えると、時刻は二時に差し掛かろうとしていた。
「……でも、まだそうだって決まった訳じゃないよぅ、練磨?」
「……だな。ここでウダウダ考えたって始まらねえ。……でも、妖精も、やっぱ死んだら助からねえのか? 何か〈魔法〉の力が有れば復活するのかと思ってたけど」
 ゲームの中で言う、不死鳥の尾とか、命の液体とか、そういうアイテムが有っても不思議じゃない世界だと思ってたんだけど……そういう都合の良い品は流石に無いか。
「……えとえと、妖精さんって精力……魔力が根源で生きてるから、それが無くなれば死んじゃうし、元通りになれば生き返るんじゃないかなぁ……?」
「魔力、か……そういう薬は、あの世界には無いのか?」
「有るけど……とっても高いんだよぅ? わたしも欲しいけど、わたしのお小遣いじゃ買えなかった」
 まあ、お小遣いで買える程安いとは思ってなかったけど。
 でも、薬が有ると分かれば、もう迷ってる暇は無い! 咲希も今でこそ姿を保っていられるかも知れないけど、いつ消えたっておかしくないんだ、出来る手は全て打っておくべきだ。いきなりオレの前から消えられても、すげぇ困るし。
 あまりに憎まれ口を叩かれ続けて、オレの頭が変になったのかと思ったけど、……別にそれでも良い、そんな事はどうでも良いから、オレの前から勝手に消えてしまうのは、絶対に許さない。命は大事だとか諭す前に、オレは仲間に生きて付き添ってもらいたいんだ。理由はそれだけで構わない。
「よし! 解決策は見つかったみたいだし、……ゲームでもするか?」
 崇華は一瞬呆気に取られたが、はにかみ笑いを浮かべてコックリと頷いた。


「ただいま~♪ 崇華ちゃん、練磨にあんな事やそんな事されなかったぁ~♪」
 ……帰ってくるなりそれか、母上。
 買い物袋を提げたまま居間を横切る母さんに、崇華は挨拶を返してから、
「あんな事やそんな事、されませんでした~」
「……思ったけど、崇華、それお前分かってて言ってんのか?」ちょっと怖くなってオレ。
「あらそう~♪ 崇華ちゃんのご両親には許可を貰ってるのにね~♪」ウキウキ母さん。
「オレが襲うの了承済み!? どんな親だよッ!?」本気で驚くオレ。
「あら~? 誰も襲うだなんて一言も言ってないわよ~? 練磨ったら、お・と・し・ご・ろ♪」
 ……きっと、少年犯罪の源はここに有るんだと思う。
「お、お義母さん! ……って呼んでも良いですか?」崇華が思い切った感で叫び出した。
「何故ッ!?」訳も分からずオレ。
「うふふ♪ いつかこうなると分かってたわ♪」お見通しの母さん。
 ……全てがオレの意思に関係無い所で進んでいく…… 
 色々と疲れてきた、今日この頃。


「じゃあ、また向こうの世界で♪」
 崇華を家まで送ると、帰宅する前にちょっと立ち寄ってみたくなって、小さな公園に入った。
 ブランコと砂場、滑り台しか遊具が置いていない、町に埋もれたような小さな公園だ。昔はこの辺で崇華と遊んだ記憶が残ってる。……あの頃から崇華は、向こうの世界に入り浸ってて、今でも夢の世界と現実の世界、どちらの世界でも生きてる……考えてみれば、それは凄い生き方だと、本気で思う。
 小さなブランコに腰掛けると、西の空が橙色に染まってて、東側から闇の勢力がざわめき出している所だった。……昔ならこの時間帯になっても外で遊んでいたな、と遠い過去を思い出してみる。もっと暗くなるまでって言って、それでも全然遊び足りなくて、いつまでも遊んでいたかった、あの頃。
 ちょっとした感傷に耽っていると、――不意に眠気に襲われた。
 やばい……すげー眠い…… 
 ブランコから立ち上がり、――立ち眩みでブランコに腰を戻し掛けたが、無理にでも駆け出して、帰路を走り抜けた。
 ここで眠るのは不味い! また病院に運び込まれる……!
 色んな危惧が有って、――でも、もう、体が……動か……な……………… 

【後書】
 相変わらず練磨君復活の謎はふわふわのままですが、少しだけ情報が出てきました。妖精ってしゅごい!
 とか行ってる場合じゃないんですけれど、練磨君の落ち着きっぷりを見習いたいですのうw 尤もアレです、今頑張って寝ても向こうは深夜ですからね、何かが出来る訳でもないので、選択としては間違っていないんです。わたくしならゲームなんて出来ずにモダモダしながら夜まで悶えていそうです(笑)。
 さてさて不穏な形で夢の世界へ旅立ってしまった練磨君の運命や如何に!? 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    「お・と・し・ご・ろ♪」
    まぁ、そういうことですvv

    ほんと落ち着いてますよね練磨くんw
    滅ぼせる力があるなら、上手く使うことで救うこともできるんじゃ?
    なんて考えております。
    少年犯罪には気をつけよう!!

    また病院なのかっ!?

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv意気地なし…w

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    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      まぁ、そういう事ですね!ww

      そうなんですよう! 突っ走るだけじゃないんですねこの子!(笑)
      た、確かに! 滅ぼせるだけの力が有るのなら、それを上手く使う事で逆にも…??
      少年犯罪には気を付け…ってどういう事なーの!?ww

      これまた病院Flag立ちまくりですが果たして…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪ しぃーっ!ww

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