2019年1月7日月曜日

【余命一月の勇者様】第44話 伝承、再び〈4〉【オリジナル小説】

■あらすじ
ただ、その言葉があまりにも眩しくて。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■第44話

第44話 伝承、再び〈4〉


「伝承に残されておる者達の話を聞きたい、とな」

 晩餐会を終え、客室に戻って来たミコト、マナカ、レン、そしてオルナの四人は、部屋で寛いでいたミツネに声を掛けた。
 彼女は部屋で質素な服を纏って寝転んでいたが、マナカを見ると、スッと姿勢を正し、ベッドに腰掛けた。それを見守る二人のメイドが嬉しそうな表情を覗かせているのだが、その機微はこの部屋に居合わす誰にも気づかれなかった。
 ミツネは「ん~」と顎に人差し指を宛がって天井を見上げると、「まぁ、お主達であれば話しても差し支えあるまい」と一人納得して、改めてソファに腰掛けているミコトに向き直った。
「そもそもネイジェ=ドラグレイやトワリ=ネカミチに就いては、市井の者には話してはならん事になっておる事を前以て伝えておくぞ?」こほん、と小さく咳払いするミツネ。「ワシは末席とは言え王族じゃし、サボは冒険者ギルドの長と言う立場故に知り得たのじゃろうが、本来はその存在すら知らぬ者が殆どじゃ。それだけ禁忌に近い話とされておる」
「神様の話ってのは、皆に聞かせるのはいけないのか?」不思議そうに小首を傾げるマナカ。「サボも“タコムョーン”って言ってたけど、あれどういう意味なんだ?」
「“他言無用”じゃ。何じゃそのタコが伸びとる感じの言葉は」呆れ果てた様子で苦笑するミツネ。「無論、悪用する者が出てくる事を恐れてじゃろうな。この世界の神じゃぞーって騙くらかして、悪さをする者がおらんとも限らんしのう」
「陛下の話じゃ、手紙にはネイジェ=ドラグレイの印が捺されていた、って事だが、それとて偽装しようと思えば幾らでも偽装できそうなもんだしなぁ」煙草を銜えながら溜め息を吐き出すオルナ。「知る者は少なければ少ないほどいい、か。何だか寂しい話だねぇ」
「全くだ」憤懣やる方ない、と言った様子で鼻息を落とすミコト。「寧ろ偽装云々されないように、ネイジェ達がもっと人族や魔族と係わりを持った方が良いんじゃないか?」
「……それも許されぬじゃろうな」神妙な面持ちで俯くミツネ。「仮に人族の元に現れてみよ。魔族と亜人族から、ネイジェは人族の味方をする、つまり我々の敵となる悪神、と見做されようものなら、その瞬間から種族間戦争ぞ」
「それは、ネイジェも望んでねーってこったな」うんうんと頷くマナカ。
「今の話、よく分かったわねマナカ……」呆れてるのか感心してるのか分からない表情で吐息を漏らすレン。「ちょっとビックリしたわ……」
「ワシも自分で言うておいてなんじゃが、驚いとるよ……」マナカを見て目を白黒させているミツネだったが、小さく咳払いして話を戻した。「脱線したの。伝承に残されておるネイジェ=ドラグレイと、トワリ=ネカミチじゃが、ワシも詳しい事はまるで分かっとらん。ただ彼らは、どの文献に於いても、最上位の創造主を支える存在であった、と記されておる」
「王様の言ってた、“天使”って部分だな」一人納得して首肯を返すミコト。「その、最上位の創造主ってのが、この世界の神様なのか?」
「そう、古い書物には記されておった。その神の名はミジャヤ。檻の神と書いて、“檻神”と呼ばれる、最古の神と有った」
「やっぱ鶴とか折るの得意なのかな? そのミジャヤって奴」ワクワクした様子で尋ねるマナカ。
「折る紙の方じゃなくて、牢獄の方の檻に、神様の神じゃ。神様が折り紙得意とか親近感は湧くがの」こほん、と小さく空咳を置くミツネ。「檻神ミジャヤには十人近い使徒がいたとされておってな、その中の一人が、ネイジェ=ドラグレイと、トワリ=ネカミチなんじゃ」
「……あんまり、現実味が湧かない話ね」途方も無い景色を見ている気分で鼻息を落とすレン。「正直、あたし達が出逢った二人が、その使徒の名を騙った偽者だって言われた方が、よほどしっくり来るくらいよ」
「じゃろうな。ワシとて初めはその認識じゃったが、お主らを見て、何と言うか、その……」言い難そうに俯き、やがてそっぽを向いて呟いた。「嘘が吐けるような輩ではないな、――と、思うてな……」
「あー、その点に関しちゃ俺も納得だぜ」紫煙を吐き出しながら苦笑いを浮かべるオルナ。「ミコトにしても、マナカにしても、レンちゃんにしたって、今はいないけどクルガもそうだ、こいつら絶対に嘘吐けるような奴らじゃねえなって、一目で判るよな」
「……馬鹿にしてるわよね?」オルナの胸倉を掴み上げて睨み据えるレン。「それはどう考えてもあたし達を馬鹿にしてるわよね……?」
「ごーめーん、ごめんって! それだけおたくら信用してるって証だから! だから許して! な!? この通り!」レンの凍えるような眼差しを受けてたじたじのオルナ。「おたくら良い人だってすぐに分かったから! 俺の人を見る目はまじ凄いんだから! まじ絞まってるから……そろそろ……離し……て……」顔が段々と鬱血し始めている。
「ともあれじゃ」三度咳を鳴らすと、ミツネはミコトに向き直った。「お主らが仮に悪人であったとしても、ワシはお主らを信じる、信じたいと思ってしまった。故にワシはこうして伝承に残されし、本来市井の者に語るべきではない話を語った次第じゃ。それに……」そこまで言うと、小悪魔のような微笑を口唇に載せた。「それに、語るべきではないとは有ったが、語るなとは記されておらなんだゆえ、な」と、舌を覗かせた。
「よく分かんねーけど、良かったなミコト!」ポン、とミコトの肩を叩くマナカ。「ありがとな、ミツネ! よく分かんねーけど、何か良かったんだろ?」
「……お主は、ほんッッとに話を聞かん男よの……」ハァーっと重い嘆息を吐き散らすミツネ。「……まぁ、それも愛嬌か」とボソリと付け加えた後、マナカに向き直る。「あと、その……何じゃ。お主が……マナカがオワリの国の王になるのなら、その……ワシ、嫁いでも、その……い、良いぞ……?」恥ずかしそうに俯いてしまう。
「え……それって……?」見ているレンまで赤面し始める。「マ、マナカ……?」
「おう? つまりどういう事だ?」訳が分かってない様子で腕を組むマナカ。「あのバカ王子の嫁になるのか?」
「違ァァァァうッッ!!」ガァーッと大声を張り上げるミツネ。「お主と言う男は……ッ! こう、この、……もうっ!!」マナカの元まで歩み寄り、ポカポカと分厚い胸板を叩き始めるミツネ。
「何でミツネ怒ってんだ?」ミツネに胸板を叩かれながらミコトに振り返るマナカ。「俺何か怒らせちまったか?」
「あぁ、姫様カンカンだな」笑いを堪えきれない様子で口元に拳を添えるミコト。「姫様は――ミツネは、マナカ、お前の嫁になってもいいぜ、って言ったんだよ」
「俺の? 何で?」頭の上に疑問符が乱舞しているマナカ。
「~~~っ!! ~~~~~っ!!」顔を真っ赤にしてマナカの胸板を叩き続けるミツネ。
「我が姫君は、マナカ様の事をいたくお気に召されたようです」
「我が姫君は、マナカ様を夫として迎える事を希望しています」
「マナカ様にはぜひ、王として我が姫君を妃として迎えて頂きたく」
「マナカ様にはぜひ、我が姫君と共にオワリの国を統べて頂きたく」
「どうか宜しくお願い致します」
「何卒、宜しくお願い致します」
 ニメとサメがササッとマナカとミツネの傍に駆け寄り、連弾のように連呼し始めて、ミツネはもうこれ以上赤くなるのは無理と言う程に顔を染めて、マナカは「ん? え? なにて?」と浴びせられる言葉の白雨に目を白黒し始めた。
 その光景を傍目に眺めていたミコトとレン、そしてオルナは、意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「マナカ、俺は応援してるからな」「マナカ! 姫様の事、絶対に幸せにしなさいよ!」「マナカくんー? お前それ断ったらどうなるか分かってるよねぇ? 国交問題だよ?? 絶対に変な事言わないでよ??」
 代わる代わる声が飛んできて、マナカは更に目を白黒させるも、「よく分かんねーけど、ミツネが俺の嫁に来てくれるなら、嬉しいぜ!」と親指を立てて快活な笑顔を返した。
「お主と言う男は……ッ」顔を真っ赤にするも、マナカから視線を逸らさなかったミツネは、消え入りそうな声で彼に手を伸ばした。「……その言葉、二言は無いな?」
「おう!」ドンッと胸板を叩くマナカ。「ん? でもそしたら俺、王様になるんじゃねーか?」きょとん、とした様子で呟き始めた。
「いや、そう今話しとったろ……」途端に怪訝な表情になるミツネ。「お主、今何を聞いとったんじゃ……?」
「じゃあお前姫様じゃなくて、妃様になるじゃねーか!!」ミツネを指差して吼えるマナカ。「それじゃミコトの夢叶わねーじゃねーかぁ!! ダメだそんなの! やっぱ今の無しな無し!」
「いや、俺の夢はもう叶ってるぜ、マナカ」ミツネが絶叫を奏でようとする直前にミコトが割って入った。「だから、お前はお前のやりたいようにやってくれ。俺は、そんなマナカを応援したいんだからよ」
「おう? そうなのか? だったら問題ねえな! 宜しくな、ミツネ!」
 ミツネの手を握り返して満面の笑みのマナカに、彼女は何か言いたげに口をパクパクしていたが、結局声が出てくる事は無く、未来の旦那の笑顔に溶けていくのだった。
「……姫様、前途多難過ぎでしょ……」「ほんとそれな……」
 レンとオルナは、未来の妃様の苦労を今から心配してしまうのだった。

◇◆◇◆◇

「――そういや、エンドラゴンも、伝承に残ってたりするのか?」
 夜が更け、客室の灯りが落ちて間も無く。護衛を兼ねてミツネも一緒に眠っている客室で、ミコトの声が密やかに零れた。
 もそもそと寝返りを打つ衣擦れの音が聞こえたかと思うと、「エンドラゴンには伝承と呼べる物は残っておらん筈じゃ。そもそもかの迷宮の主は、オワリの国と共に有ったとされておっての、代々オワリの国が仕えてきた、真の国主である、とされておる」
「ん? じゃああのマツゴって奴は、本当の王様じゃねえのか?」マナカの不思議そうな声が飛んできた。
「王様を呼び捨てにした挙句、奴呼ばわりはやべーよ。お前、陛下の息子である事実を差し引いてもやべーよ」オルナの笑いと恐怖が綯い交ぜになった震え声が小さく響いた。
「マツゴ様は本当の王様じゃよ。オワリの国をここまで導いたのは、国王陛下の治世の賜物じゃ。エンドラゴンは、それを見守る守護者、と言えばいいのかの」もそもそと寝返りを打つ音が聞こえる。「長命ではあれど、不老不死ではなくてな、エンドラゴンと言う名を代々襲名してきた、偉大なる竜種、とワシは聞いておる」
「エンドラゴンは、世代交代しながらオワリの国を見守っているのか」
 ミコトの呟きに、無言の肯定を返すミツネ。
 王城の客室の夜は、とても静かで、温かくて、穏やかだった。
 昨夜、牢獄で一晩過ごしたミコトにとって、本来宿泊する予定だったこの客室は、まさに雲泥万里の快適さだった。
 全身を包み込んでくれるようなマットレスに、薄い布団一枚だけで充分な室温、程好く闇に沈んだ景色、外界の音をシャットアウトしつつ隙間風一つ漏らさない重厚な壁、全てが今までの暮らしと桁が違う代物だ。
 暫く無音が続いたかと思いきや、すぐにマナカの寝息が聞こえてきて、思わず苦笑を浮かべてしまうミコト。
 隣で眠るマナカと、反対側のレンの存在感を噛み締めるように深く瞼を下ろすと、ミコトもあっと言う間に夢の世界へと落ちて行った。
 途方も無いと思っていた旅路。その目的が今日一つ、叶ってしまった。
 一月で寿命が尽きると知ってから、己のやりたい事と称して始めた冒険の、大きな目的の一つが、終わってしまったのだ。
 それが何だか嬉しくて、……寂しくて。
 ミコトは夢の中に現れた己自身を見て、目頭を熱くしてしまうのだった。
 きっと彼は、己の夢を叶えてくれる。
 でも、叶えた先は、道が無い。そこで、寸断されているのだから。
 どう足掻いても、どう頑張っても、そこで途絶えてしまう道。
 その道の先を、皆が、歩いて行く。ミコト一人、置き去りにして。
 そんな景色が見えていたと思いきや、皆が――マナカが、クルガが、レンが、オルナがミツネがニメがサメがサボがホシがマツゴが――“皆”が、光り輝く道の先で、振り返って待っていてくれた。
「――――」
“皆”が何かを言っているが、ミコトには何を言っているのか分からなかった。
 ただ、その言葉があまりにも眩しくて。
 ミコトは、胸が張り裂ける想いで、彼らに手を伸ばした。
 それがきっと、己の“始まり”であると信じて――――
 
■残りの寿命:19日

【後書】
「檻神ミジャヤ」の名前をやっと出せました…! この神がこの異世界ファンタジーシリーズの元締めと言いますか、一番上に座す方でして。それ以上の情報が無いのがアレでが!w
 さてさて、今回から十二週連続で「余命一月の勇者様」の更新が開催される予定、なの、です、が! 実はストックが無い事に今気づきまして(えっw)、もしかしたら十二週連続とはならないかも知れませぬが、その時はその時で別の物語の更新が早まる的なそんな感じになると思います!w ゆるしてんこ盛り!ww
 と言う訳で冬アニメならぬ「冬小説」は、「余命一月の勇者様」で参りますゆえ、どうか宜しくお願い致します~!(*- -)(*_ _)ペコリ 
 次回からはいよいよ迷宮編です! 最終章に入って暫く経ちますが、この迷宮編が終わると…? 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    姫様にプロポーズさせちゃうなんてすごいぞマナカくんw
    確かに前途多難感満載ですが、そんなのどうにかなっちゃうぜー的な
    力強さがマナカくんにはありますよね。
    二人の幸せを願わずにはいられません。

    旅の目的が一つ達成されたわけですが、まだまだこれからかな?
    伸ばした手が皆に届くと信じて!

    折り紙いや檻神ミジャヤ様どうか彼らを…

    今回も泣かせていただきました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      確かに言われてみればこれ姫様にプロポーズさせてるじゃないですかマナカくーん!?!?!ww
      そしてそんなのどうにかなっちゃうぜー的な力強さには納得の一言です!w マナカ君、すんごい信頼されてるぞ君…!w
      二人の幸せを願ってくれる、とみちゃんにも幸せが訪れますよ絶対!!

      旅の目的の一つに手が届きましたが、残り二つは…ぜひぜひお楽しみに!
      ですな! 頑張った人には、報われて欲しいのです…!

      きっちり「折り紙」を入れてくれる辺りに愛を感じずにいられませんね!ww ミジャヤ様はふんわり系ですからどうかなー助けてくれるのかなー(よそ見)

      今回もお楽しm…泣くほど楽しんで頂けたようでとっても嬉しいですっ!w
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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