■あらすじ
春先まで融けなかった雪のように、それは奇しくも儚く消えゆく物語。けれども何も無くなったその後に、気高き可憐な花が咲き誇る―――
※注意※2008/11/22に掲載された文章の再掲です。タイトルと本文は修正して、新規で後書を追加しております。
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■キーワード
青春 恋愛 ファンタジー ライトノベル
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■第6話
第6話 デートのお誘い
■一非■
その日から俺は、恋純と付き合う事になった。
暫らく経って、日が落ちるのも遅くなってきた七月。俺は朝、恋純の家に迎えに行く事が日課になっていた。始めは恥ずかしがってたけど、……今もまだ恥ずかしさが残るけど、俺と恋純は、立派な恋人になっていた。
◇◆◇◆◇
「そろそろ夏休みなのですよ~♪ ニイくんは何か予定有るの?」
いつもの朝の時間。前までは空冴と美森だけだったこの空間に、今では恋純の姿も加わって更に騒がしくなっていた。
「取り立ててねえな。恋純は?」
「わたしも……」
「そっか。空冴はどうなんだよ?」
「僕? ふふん、今年も一非ん家に泊まり込みだな!」
露骨に嫌そうな顔をしてやる。
「うぇ~? また来るのお前? 正直ウザいんだけど」
「そんな事は正直に言うなよ!? 冗談だよね!? 地味に傷つくんだよそういうの!?」
「えっ? 星織君、二位君の家に宿泊するの?」
恋純が驚いたような顔をしている。驚くべきポイントが俺には分からない。
「うん、僕は夏休み毎に泊まりに行ってるんだよね。ただ、何も無いからする事がほっとんど無いのが難だけど」
「うっせーな。だったら来るんじゃねえよ」
「ふっふっふ、まあそう言うなよ。一非だって楽しみにしてるくせに~♪」
「このタダ飯喰らいが」
「あまりに扱いが酷過ぎません!?」
「……いいな~」
ポツリと零す恋純。刹那、美森の瞳がギラリと輝く。ヤな予感……。
「咲結ちゃんもお泊りしたいのっ? それも、ニイ君のお家に!」
「えっ? あっ、その……」
「ほほ~う。もうそんな仲にまで発展しましたか~。へぇ~ふぅ~んほぉ~ん」
「……おい、あんま恋純からかうなよ。困ってるだろ」美森にガンを飛ばす。
「あ~、ニイ君が咲結ちゃん庇ってる~♪ 怪しいんだぁ~? 可愛いんだぁ~♪ これってやっぱり……っ♪」
「……おい、何勘違いしてやがる。俺は恋純と付き合ってるだけで……」
刹那、時が止まる。俺、何か変な事言ったか……? 美森も空冴も、そして恋純は顔を真っ赤にして黙り込んでいる。
「……何だよ? 何か文句あんのか、コラ」
「……や、すごーくフツーに言われたから、何かこっちが何も言えないってゆーか」
「流石は一非、その辺は堂々としてるな~。君こそ恋純さんを困らせてるんじゃないか?」
「はぁ? 何言ってんだ? 俺はただ恋純と付き――」
「もっ、もう良いですから! 二位君っ、もう良いよぅ!」
慌てて恋純が俺の口を塞ぎに掛かる。……何だ? 俺、そんな変な事を口走ったのか?
恋純はその後も真っ赤なまま塞ぎ込み、俺とは視線も合わせてくれない。……何がいけなかったんだろう。自分でも理由が分からない。
「一非……君は鈍いってゆーか、凄いってゆーか……」呆れたように俺を見つめる空冴。
「何なんだよ? 俺、何か悪い事したか?」
「や、善悪の問題じゃなくてだな……」苦笑を浮かべて言葉を濁す空冴。
「?」訳が分からず俺は眉根を寄せる。
「そ・れ・よ・り・も! 夏休み! あたしらにとっては最後の夏休みだって事をお忘れ!? もう夏休みは無いんだよ!? その夏休みを有意義に過ごさずにいつ有意義に過ごすと言うのだー!」
美森が周囲の環視など一切無視して叫びまくる。……こいつの方が明らかに悪い事しているように見えるのは、俺の気のせいか?
「いやいや、いつも有意義に過ごしとけよ」と突っ込みを忘れない俺。
「そこで、なのですよ!」俺の話をまるで聞いちゃいねえ美森でした。
「取り敢えず意見を取り入れたいと思いまーす! どこか行きたい所は有りますかー?」
行きたい所……? 急にそんな事を言われても、すぐに意見なんて……「そりゃ、海しかあるまい!」――出るんだ!?
「ホシ君採用! 他には!?」
テンション爆超のまま美森が怒鳴り散らす。……何なんだこれ。何の祭りだコノヤロウ。
恋純も必死に何か考えてるご様子。……そんな無理してする事か、これ……?
「ほら、ニイ君も何か案出す! 三、二、一、はい!」
「早ぇよ!? お前少し落ち着けよ!? 朝からそんなテンションで大丈夫かお前!?」
「ふっふっふ。夏は乙女を強くするのですよ!」
訳が分からないのですよ。
「咲結ちゃんはどこか行きたい所、無い?」
早速矛先を恋純へ移行。……何でも良いけど、恋純を困らせんなよ?
恋純は悩んだ挙句、顔を上げて――――
「えっと……一度、動物園に行ってみたい、かな……?」
再び場に沈黙が下りた。
――刹那、
「咲結ちゃん採用! じゃあ最後にニイ君コラ! さっさと案出せテメエ!」
「口調が露骨に変わったぞ!? お前そんなキャラじゃなかっただろ!? 何でそこまで豹変できるんだ!?」
「夏は乙女を――」
「分かったもう良いそれ以上喋るな。……そうだな、俺は一度、遊園地ってトコに行ってみたいんだけど」
またも場に沈黙が下りる。……何でだよ? 俺の発言はそんなに危ういものばかりなのか?
俺を見て固まっている一同とは別に、恋純だけは嬉しそうに瞳を輝かせていた。あ、あそこに同士がいる! 俺も恋純を見て自分が間違っていないと思い直す。
「……えっと、なのですが。咲結ちゃんもニイ君も、動物園とか、遊園地とか、行った事、無いの? 一度も?」
「はい……」
「そうだよ、文句あっかコルァ?」
「……そんな人を見るのは初めてなのですよ……」
驚いた顔から戻らない美森を見て、そんなに俺は不思議っ子だったのかと、ようやく自覚する。流石にここまで来ると、海にも言った事が無いとは言い難かった。
恋純はどうなのか知らないが、ウチは家庭の事情って奴で外出すらままならなかったからなぁ。一人でゲーセンに行く位しか、殆ど外出した事が無いなんて言えねえし。
「よっし、行き先は決定したのですね!?」
「お前が無理矢理な」ちゃんと突っ込みを忘れない俺。
「初めて尽くしの凄く楽しみな夏休みが始まりそうなのですよ!」
勝手に締め括ろうとする美森。俺はふと疑問を覚えて尋ねる。
「お前の行きたい場所、聞いてねえぞ」
「おや? そうでしたなニイの旦那」
「いい加減『ニイ』って呼ぶの止めろコラ」
「あたし様はニイ君の家でのお泊り会を推薦するのですよ!」
勝手に決定。俺の意志は全く無視。
……何だか今年の夏休みは、かなり騒がしくなりそうな予感がした。
◇◆◇◆◇
「……え?」
七月になると、屋上もジリジリと照りつける陽射しがキツくなってきたりもしたのだが、俺と恋純は未だに屋上で昼食を摂っていた。二人きりになる空間が他に取れない、と言う訳じゃないんだが、やっぱり恋純が恥ずかしがると言うか、俺としてもやっぱり公然とするのは何だかソワソワする。
そんな晴天の或る日。俺は意を決してその話を切り出したのだった。
「だから、明日、土曜で休みだろ? どっか遊びに行かないか?」
それは世に言う、デート、と言う奴だ。いつまでも学校だけの付き合いじゃなくて、やっぱり休みの日にも恋純と逢いたい、と思っていた。
でも、恋純が何て言うか分からない事も有った。だが、それ以上に今までそういう話を切り出せなかった意気地の無さも自覚してる。
少しでも恋純と逢う機会を増やしたい。そういう意志が、俺を衝き動かしていた。
「……あの、」
口に運んでいた箸を一旦弁当箱に戻し、恋純が赤くなって俯く。
「それって……その……、デートの、お誘い……ですか?」
「う……ああ、そうだよ。……そんな面と向かって言われると、恥ずいけどな」
俺の言ってる事を態々訳さなくても良いだろっ、と思わず突っ込んでしまう。ただでさえ恥ずかしいのに、更に気恥ずかしさが増してしまう。
逡巡するように恋純は黙り込んでしまう。……やっぱり、休みの日にまで俺と付き合いたくないか……? と不安な想いが脳裏を過ぎる。
「……良いです」
「えっ?」
「そのお誘い、わたし受けます。絶対にお受けします!」
パッと顔を上げて、どこか恥ずかしそうにはにかむ恋純。
俺は思わず顔が熱くなって、眼を逸らしてしまった。
「じゃ、じゃあ決まりな。……どこに行きたい?」
話を逸らしているのか続けているのか自分でも分からず、その場の勢いで続けてしまう。
恋純は俯いて「う~ん」と唸り始めた。やっぱり、すぐには行きたい所は思いつかないらしい。
「別に、行きたい所が無いなら――」
「有ります! 絶対に有ります! わたし、二位君とデートしたいです!」
大声を張り上げて宣言すると、「あ……」と、即座に顔を紅潮させて俯く恋純。可愛過ぎて、俺は二の句が継げなかった。……そ、そこまでしたいのか、デート……。
俯いたまま暫く考え込んでいたが、何とか顔を持ち上げて、恋純は呟いた。
「あの……水族館、って所に行ってみたいです。わたし、行った事が無くて……」
「――そうなのか? や、俺も行った事、無いけど」
そう言って見つめ合う俺と恋純。――不意に何の拍子も無く笑みが零れた。
「ははっ、何か俺達って似てるよなっ」
「はい♪ また美森さんに笑われそうですよねっ」
二人して笑い合い、俺は大きく頷いた。
「じゃあ明日、近くの水族館に行ってみようぜ? 場所は空冴に聞いとく。時間は――」
明日のデートの約束を契り、今日の昼休みは終わりを告げた。
◇◆◇◆◇
放課後。
「へぇ、一非もデートかぁ。やるねぇ♪」
空冴に水族館の場所とか費用を聞いてみると、ムカつく笑みを返された。
「ンだよ、俺がデートしちゃ悪いってのか?」
「そんな事は言ってないさ♪ 恋純さんは了承してくれたのかい?」
「してなかったらデートにならねえだろタコ」
「うんうん♪ 今日ばかりは君の悪口も些細な事に感じるねぇ♪ ――で、だ。水族館はだね」
場所を教えて貰うと、市内のバスを使えば三十分も掛からない事が分かった。その時刻と費用も序でに教えて貰う。
「楽しんで来いよ♪」
「――てか、思ったんだけど、テメエ付いて来んなよ?」
「ええ!? 何でだよ!?」驚きまくりの表情の空冴。
「そりゃこっちのセリフだろ!? 付いて来る気満々かよ!? ざけんな殺すぞ!」
「まぁまぁ落ち着いてくれよ一非。何も邪魔したい訳じゃないんだよ」
「お前、自分の存在が邪魔だって事、自覚してねえな?」
「今知ったよ!? とても知りたくなかったよ!? 嘘って言ってよ!?」
「お前の存在が――」
「嘘って言わないでよ!?」
「いいから付いて来んなよ? 来た場合――お前の明日は来ないと思え」
ぼきん、と手の指の骨を鳴らして威嚇すると、苦笑しながらも引き下がらない空冴。
「分かったよ、人の恋路の邪魔はしないさ♪ 遠くから見守ってるだけにするよ♪」
「スナイパーを雇うしかないか……」
「誰を狙撃する気なの!?」
「取り敢えずお前をブッ殺してからの方が良さそうだな」
――その後、校舎に誰かの悲鳴が木霊したのは内緒だ。
【後書】
と言う訳でお付き合い開始です! わたくしの脳内で繰り広げられる甘酸っぱい青春の恋愛模様を喰らえっっ!!!(愧死)
甘々な恋愛模様を綴るの大好き人間日逆氏ですが、アレです。短編なら未だしも長編をまるっと甘々恋愛模様に仕立て上げた当時のワシの功績はヤバいです。読んでてめちゃめちゃ砂糖を吐きまくるぐらい楽しいです。大変恥ずかしいです(笑)。
てかこれたぶん完結するまでずっと恥ずかしさで悶えてるんだろうな~と思います!w そんな次回もお楽しみに!ww
更新お疲れ様ですvv
返信削除咲結ちゃんがとってもカワイイのですv
押せ押せの天然娘もカワイイですが(笑)、咲結ちゃんみたいにちょっと控えめで恥ずかしがり屋な娘…あぁぁぁ尊いぃ~
二人のはじめてのデート、空冴くんじゃないけどちょっと離れた所から見守りたいですw
今回も甘酸っぱい成分たっぷり補給させていただきましたm(__)m
今回も楽しませて頂きましたー
次回も楽しみにしてますよーvv
感想有り難う御座います~!
削除(*´σー`)エヘヘ!w 可愛く描写できてるようで嬉しさMAXです!w┗(^ω^)┛
ですなww押せ押せの天然娘もカワイイですよね!ww
そうなんですよ!w こういう控えめで恥ずかしがり屋さんもね~、も~ね、尊いですよね…!!
分かり味が深いww わたくしもハラハラドキドキ見守りたい派ですww
やったぜ!w 甘酸っぱい成分、たっぷりできたようで何よりです~!!( ´∀`)bグッ!
今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~♪