2019年2月27日水曜日

【滅びの王】70頁■神門練磨の書18『進路希望』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/10に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第71話

70頁■神門練磨の書18『進路希望』


「――湖太郎君、疲れてたね」
「ああ……出来れば休ませてやりたいんだけど、今はそんな事も言ってられないからな。……今度、何か奢ってやりたいな」
「湖太郎くんはね、猫じゃらしと鯖缶が好きなんだよっ♪」
 目覚めて居間に下りてくると、いつの間にか来ていた崇華と、そんな話を始めた。
 現在、八月八日午前九時前後。
 今頃向こうの世界では、湖太郎が終始走りっ放しの状態で、オレと崇華は背中で就寝タイム満喫中だ。……何か、すげーダメな気がするけど、今の内に寝ておかないと明日大変だし、……って、言い訳だな。眠いから寝ました。済みません。
 取り敢えずこの件が終わったら、湖太郎にたんまりと鯖缶を食べさせてやるとして、オレは今日中に宿題を済ませようと奮闘していた。
 テーブルの上には宿題の山! 一部は終わったので、隅に追いやってある。
「ねえ練磨ぁ。これってどう解くの~?」
「……あのな崇華。さっきからやってるの、それ全部、中一の問題だぞ?」
 向こうの世界の知識は十二分に持ってるくせに、基礎知識が足りないのかこいつは!?
 それでも教えてやらねば、崇華はアホのままだ。仕方なく色々と教える破目になるんだけど…… 
「だから、こうやると、こうなるだろ?」
「ああ~! ナルホドナルホドぉ~。やっぱり練磨は頭良いねぇ~♪」
「……だからこれ、中一の問題なんだって……」
 解けないと不味いんだって、崇華…… 
 そんな先が見えない勉強会を続ける事、二時間。
「ふにゃ~~~。もう疲れたよぅ~~~」
 崇華がダウン。
 斯く言うオレもヘトヘトで、ちょっと小休憩を挟む事にした。
 この間は午後中宿題をやり続けられたのに、今日は気分が乗らないのか、それとも残っている宿題が難し過ぎるのか、一向に進む気配が無いのだ。
 冷蔵庫から果汁百パーセントのオレンジジュースを持ち出して、コップにナミナミ注ぐ。
「かんぱーい!」
 と、何が乾杯なのか分からない乾杯をして、ジュースを呷る。
「くぅー! うめー!」
 キンキンに冷えたオレンジジュースが頭にキて、妙にハイになる。
 その後もずぅ~~~っと宿題をやり続け、午後も三時になって、ようやく終わりが見えてきた。
「……ふにゃあ、疲れたよう、練磨ぁ……」
「ああ……オレももう限界だ……頭を酷使し過ぎたぜ……」
 思いつつ、最後の宿題に取り掛かり、時刻は四時を回った。
「終わった――――ッッ!」
 全てのステージをクリアし、ようやくエンディングが流れる所までやってきた!
 またジュースで祝杯を挙げると、崇華と二人で横になった。
「……そう言えば崇華。お前は進路希望、何て書いた?」ぼんやりと尋ねるオレ。
「わたし? えとえと……言ったら、練磨も教えてくれる?」ちょっと期待溢れる崇華。
「えっとな……実を言うとオレ、まだ決めてねえんだよ。だから、崇華の聞きたいな、と思ってよ」苦笑混じりにオレ。
「え? 練磨、決めてないの?」
 少し意外そうな崇華の声に、オレは逆にそれを意外に感じた。
「オレが決めてるとでも思ってたのか?」
「うん。……あ、でもでも、違ってた。ごめん、取り消し取り消し」慌てて訂正する崇華。
「……何だよ、気になるだろ? オレを何にさせるつもりだったんだ? 言え言えー」乗り気になるオレ。
「えとえと……言っても、怒らない?」凄く躊躇する崇華。
「……オレが怒るような事を言うつもりなのか?」
 どんな職業だ、それは。
 思ってると、崇華がもじもじと、どもりながら、
「……《滅びの王》……かな?」ポツリと告げる。
「…………………………ほあ!? オレが、《滅びの王》になる!? つか職業じゃねえし! それにこっちの世界じゃ、なれねえだろぉーがァァァァ!」怒鳴り口調でオレ。
「ふゃあ! やっぱり怒った~!」
 体を丸めて蹲る崇華に、オレは呆れと共に徒労感を覚えずにいられなかった。
 犬のような耳が有れば、きっと垂れているだろう、半泣き顔でオレを見上げる崇華は、素直に言うと可愛い。
「……でもでも、練磨は《滅びの王》にならないんでしょ……?」
「そりゃあ……まあな」
 厳密に言えば、《滅びの王》にならないんじゃなくて、世界を滅ぼさないってだけで、既にオレは《滅びの王》なんだと思う……。もう準備は整ってる状態で、オレはいつだって世界を滅ぼせる立場にいるんだろう。
 それでもオレは世界を滅ぼすなんて事はしない。世界を滅ぼす事になれば、崇華との約束は破棄されたも同然だ。そんなの、男が廃るってもんだ! 絶対に破るもんか!
「じゃあじゃあ、将来は何になるの? 《滅びの王》にならないなら、何になるの?」
 崇華が瞳を輝かせて問う。
「だから今、それを考えてんだよ……つか、こっちの世界じゃまず、《滅びの王》にすらなれねーだろが」
「えぅ? そうなの?」
「……おいおい、無理に決まってるだろ? こっちの世界で《滅びの王》なんて……」
 と、考えていたけれど、絶対に無理、って訳じゃないんじゃないか、って思い始めてきた。
 現実として考えれば、無理な話ではあるけれど、試した事も無いのに端から無理だって諦めるのも、何だか嫌な感じだ。
 絶対に無理なんて、無いんだ。人間、やれば何でもできるモノだ。為せば成る、だ。
「……とにかく、なる気はねえな。世界を滅ぼしちまうんだよ。そんな事して良いと思ってるのか、お前は?」
「ダメだよぅ! 世界を滅ぼすなんて……絶対に、ダメっ」
「だろ? なら、なっても意味ねえっての」
 そぉかぁ、と変に納得してる崇華。……きっと、こいつの脳内細胞は死滅してるんだな。期待したら悲しい事になりそうだから、あまり深くは追求しないでおこう。
「……練磨、何だかわたしを陥れようとしてる……」
「ンな訳ねーっつの」
 心眼を持ってるのか貴様はッ!?
 それはさておき、
「オレはともかく、崇華は何になりたいんだよ?」
「えぅ? えとえと……は、恥ずかしいなっ」頬を桜色に染める崇華。
「今更何言ってんだよ? オレの前で隠し事なんて出来ると思ってんのかー?」軽めだけど、ちょい凄みを利かせてオレ。
「練磨が怖いよぅ……」オレを見て妙に怯え顔の崇華。
「へっへっへ。さぁ、とっとと吐いて、楽になっちまいな!」ちょっとノリノリのオレ。
「えとえと……練磨の、お嫁さん、……かなっ?」
 オレンジジュースが鼻から噴き出した。
「あー! 練磨、笑った! 酷いよぅ!」オレを見て拗ねたような顔をする崇華。
「ごほっ、げほッ、がはぁっ……なんっ……はぁ!? 何だそのファンタスティックな夢は!? ドリームワールドか!?」半狂乱気味にオレ。
「支離滅裂だよ……意味分からないよ……大丈夫ぅ、練磨ぁ?」オレを上目遣いに見つめる崇華。
「テメエが意味分からねえよ、だッ! ……ま、まあ良いや。今のは聞かなかった事にしよう。崇華もそんな幻想に囚われず、前向きに生きていきなさい」諭すようにオレ。
「……わたし、現実的な事、言ったのに……」やっぱり拗ねた感じの崇華。
「じゃあ、どうするかな……オレの進路希望調査、何て書きゃいいんだよ……」本気で悩むオレ。
「えとえと、立候補したいなっ」手を挙げて崇華。
「何をだよっ? 何を立候補するつもりなんだお前はッ!?」思わず突っ込むオレ。
「練磨は、わたしのお婿さんになるのっ♪」輝かしい笑顔の崇華。
「はいストォォォォオップ! ダメだって言ってんだろ!? そういう事を考えるには、あんたはまだ早過ぎますッ。もう少し大人になったら、考えなさいッ」ちょっと頬が熱いオレ。
「……わたし、もう充分大人になったつもりなんだけどなっ……」
 崇華が潤んだ瞳でオレを見据え、にじり寄ってくる。
 ……崇華は、ちゃんと出るべき所は出ているし、女らしい体をしてると、思う……。女の子らしい、そんな空気も身に纏ってる……。正直、可愛いとも思う……。――だけどッ、オレにはまだ早過ぎるんだッ……!
「――なーんちゃって♪」
「へ?」
「冗談だよ練磨♪ ――そうだ練磨。おやつ、食べよう? もう、三時過ぎちゃったけど」
 崇華が立ち上がり、戸棚の方へ駆けていく。
 ……冗談?
 本当に、冗談だったのか? ……何か、それはそれで、ちょっと寂しい気もするけど……ま、コレで良いか。コレで……。
「――って、おいおい! ここはオレん家だぞ!? 何故にお前がオレん家のおやつの在り処を知っている!?」
 慌てて飛び上がるオレだった。

◇◆◇◆◇

「じゃあ、もう帰るねっ」
 五時を過ぎた頃。崇華が自分の分の宿題をバッグに詰めて、玄関へと向かうのを見かね、慌てて追いかける。
「今日は見送り良いよぅ」振り返って、はにかむ崇華。
「へ? いやいや、何でだ?」思わず問いかけるオレ。
「……また、わたしの部屋に来たいの?」
 わたしは、それでも良いけど? という顔をする崇華。
「……なら、気を付けて帰れよ? 何か遭ったら、すぐに叫べよ?」食い下がるのを断念するオレ。
「そしたら、練磨が助けに来てくれる……?」
 ちょっと自信が無かったけれど…… 
「――ああ。任せとけ!」
「……うんっ♪」
 それじゃ、と崇華は玄関を後にし、オレは居間に戻った。
 台所で母さんが晩飯の準備をしている間、オレは寝転がって物思いに耽った。
 ……進路希望もそうだけど、鷹定の件も考えないと、だよなぁ……。
 鷹定からは結局〈風の便り〉が届かないまま昨日は眠っちまったから、今日返信が来てる事を祈るしかない。
 ……鷹定の目的……《滅びの王》の力を使ってまでしたかった事。それが……《贄巫女》と言う儀式を止めるためで、そして、それこそが王国と敵対する理由……。
 鷹定に拒絶されたら、オレはそれ以上の事は出来ない。それでも見放す事なんて出来ない。鷹定は、オレの仲間なんだ。オレの一方的な考えかも知れないけど、……オレは信じていたい。もし鷹定がオレの力を欲したなら、オレは王国と……《贄巫女》の儀式を阻止するために、敵対するだろう。
 ……不謹慎かも知れないけど、正直すげーワクワクしてる。
 王国と敵対するってのは、オレが一人で日本と戦争起こすようなもんだろうけど、それでも仲間のため、友達を守るためなら、オレは国と敵対したって構わないと思ってる。
 オレは決めたんだ。鷹定……仲間のためなら、国とも戦うって。
「ただいま~。……お? 練磨、もうおねんねの時間か?」
「お帰り、父さん。……まだ寝ねーけどよ。でも、早寝するつもりだぜっ」
 そうじゃないと、向こうの世界で寝坊する事になっちまうからな。
 父さんは背広姿のまま脱衣所へ向かっていく。
「母さ~ん。風呂は沸いてるのかーい?」声が遠ざかりつつ父さん。
「バッチリ沸いてるわよ?♪ 六十度くらいに」ニッコリと母さん。
「父さ~んッ、入っちゃダメだァァァァッッ!!」慌てて叫びまくるオレ。
「ん~、心配するな練磨。父さん、身を粉にする位に疲れてるんだ、浸からせてくれ」疲れ声の父さん。
「身が粉から液になる! 液になっちゃうよ父さん!」叫びながら立ち上がるオレ。
「練磨!」父さんの怒声。
「はえッ!?」オレの頓狂な声。
「……男には、行かねばならない時が有るんだ……」妙に超越的な父さん。
「それが今なのッ!? 違うだろ!?」裏返ったままのオレの声。
「練磨……父さんの骨は、煎餅にして食べても良い……」それきり聞こえなくなる父さんの声。
「……どんな納骨だよ……」もう疲れて声が出ないオレ。
 十秒後、父さんの絶叫が家中に木霊した。

◇◆◇◆◇

「母さん、あの風呂は一体なんだね!? 父さん、火傷しちゃったぞぅ?」
 風呂上りの父さんと、料理を並び終えた母さんと、そして並べるのを手伝ったオレと、三人で食卓に着き、料理を次々に口に運んでいた。
「うふふ♪ あれは母さんの、父さんへの愛の温度よっ♪」
 ――咽る咽る。
 咳き込みながら、どう突っ込むべきか悩んでると、父さんが照れて頭を掻き始めた。
「そ、そっかぁ! 父さん、母さんの愛で火傷しちゃったよ♪」
「……」
 咽返っていると、その間に気分が悪くなってきて、青褪めサメサメ。
「……ま、溺れなくて良かったよ」
 どんな突っ込みだよ! と自分で自分に突っ込んどいた。心の中で。
「――そうだ練磨。崇華ちゃんとはどうだ? いつ、孫の顔は見られそうだ?」
「べほっ!」
 かなり間抜けな声でご飯を噴き出し、母さんが「あらあら」と言いつつお手拭を持ってくる。
 自ら惨めな感じで辺りを拭き終えてから、父さんを見据えて一言。
「何言ってんだてめェェェェ!」オレの怒鳴り声。
「何言ってんだと言われてもな。父さん、こう見えて、気になりっ子だから、気になり放題なんだよ」
「どんな表現だよそれ?! 気になりっ子って何!? こう見えてって、どう見えたら気になりっ子じゃないんだよ!? 放題の使い方もきっと違う!」叫び放題のオレ。
「うんうん、練磨も突っ込み方が昔の父さんに似てきたな。やっぱり母さんの子だ」満足気に父さん。
「何で父さんの子って言わないの!? 父さんに似て来たら母さんの子なの!? オレ、誰の子なの!?」
「心配するな練磨。……母さん、あの話は止めておこう。今は練磨の成長を待って……」
「何? 何の話!? 何をこそこそと話してるのそこォォォォ!?」
「練磨、食事中にそんなにはしゃいだら行儀が悪いわよ?」母さんがニコニコとオレを見やる。
「く……っ、色々突っ込みたい所は山積みだけど、ここは敢えて退こうじゃないか……ッ!」
 と言う訳で、静かな食卓へ戻る事に。
「それで練磨。孫の件だが……」
「テメエがはしゃがせてんだろォォォォがァァァァ!」
 透かさず父さんの頭にチョップをお見舞いし、沈黙させる。
 静かな食卓には、父さんの声が一切無い、平和な空気が漂っていた…… 

◇◆◇◆◇

「じゃ、おやすみ~」
 風呂に入り、歯磨きも済ませ、宿題も全部終えた日の夜の清々しい事!
 こんな日がいつも続けば良いのに……と思ったりもするけど、これは昼間の猛勉強の功労によるモノだ。出来ればあんな目には二度と遭いたくないから、まあ、いつもは続いて欲しくないかな。
 部屋に入ると、――ドッと疲れが出て、眠気のために軽い眩暈がした。
「やべ……向こうで起こされてるのか……?」
 足下がふらつき、急いでベッドへと向かう。
 ベッドに辿り着いた瞬間――ヒューズが飛ぶように、意識が暗転した……

【後書】
 崇華ちゃんの押し押し展開と家族のギャグコメディシーンが現実編の見所と言っても過言じゃないですね!ww(今更)
 特にお父さんとお母さんのギャグが今読み返してもほんと(・∀・)ニヤニヤできるのでこれアレです、十年前から笑点変わってないなワシ!w
 と言う訳で小休憩のように現実編を挟みましたが、次回から再び本編とも言える夢の世界編です! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    いやぁ~やっぱ安定ですねお父さんとお母さんw
    てか、よく怪我やもっとひどいことにならないよね。
    もしや義体化されているのか?あぁ広大だ…(っておいw

    そして圧力がめっちゃすごい崇華ちゃんw
    こいつは本物だぜ!練磨くんのライフはもうゼロよっっ!
    もう時間の問題だなw

    八宵ちゃん大丈夫かなぁ…(一週間ぶり二度目)

    とても良い息抜き回でした。('-'*)アリガト♪

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      安定ですよねお父さんとお母さん!ww
      確かに!w 毎度「火傷を負った」とか有る割にはいつもぴんぴんしてますし!www
      まさかのwww義体化されてたら別ジャンルのファンタジーが始まっちゃう!www(笑)

      ほんそれ!ww
      崇華ちゃん、ガチで練磨君を陥落しに掛かっておりますからね!ww
      篭絡待ったなし!w 崇華ちゃんのターンが始まる訳ですね!(笑)

      考えてみたら八宵ちゃんに至っては練磨君と崇華ちゃんが寝てる間もフルマラソン…!w 生きて…!www

      やったぜ!┗(^ω^)┛ こちらこそ有り難う御座いましたっ!!( ´∀`)bグッ!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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