2019年3月2日土曜日

【嘘つきの英雄】7.自分、カッコ良いでありますか?【モンハン二次小説】

■あらすじ
「カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ」……かつて相棒として傍にいた“彼女”に想いを馳せながら、男は己の底に残留する言葉を拾い上げていく。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/70030/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1066152
■第7話

7.自分、カッコ良いでありますか?


 灼熱の大地を踏み締め、火山地帯の奥地へと確実に歩を進めて行くヴェント。狩猟が始まる前は「私は狩場の地理に疎いので、先頭は任せます」と苦笑を浮かべていたにも拘らず、今はその足に淀みが無い。ペイントボールの臭気を辿るように迷い無く火山洞窟を踏破していく。
「おい、どうしたんだ」
 足早に火山地帯を横断していくヴェントの肩を掴み、思わず声を荒げるルーグ。今のヴェントの様子は狩猟が始まる前、そして始まった時とはまるで別人だった。苛立ちを紛れさせるために狩猟に専念していると言った面立ちで、ルーグを険しい目つきで睨み据える。
「何ですか?」
「何ですか、じゃないだろ。突然先行したのはお前だろう。何が遭った?」
「別に、何も」
 一見穏和そうに見えた彼にも許容し難い問題が有ったのだろうか。今回の狩猟は最初から最後まで厄介だな、とルーグが人知れず嘆息を零すと、微かにヴェントの独り言が熱風に乗って聞こえてきた。
「……似た者同士、応援したくなっただけです」
「は?」
「そろそろグラビモスが見えてくる筈です。準備は良いですか?」
 アートルメンティアを引き抜き、戦闘の準備をあっと言う間に済ませるヴェントを不審げに見つめていたルーグだったが、彼がそれ以上のアクションを見せない事を悟ると、諦観の境地で再び嘆息を吐き散らし、「あぁ、大丈夫だ」と小声で返した。
 場所は火山地帯の中でも開けた空間で、中央に溶岩の湖が広がっている以外は天井も無く空気も幾許か澄んでいる天然の広場。その直中でグラビモスが巨体を揺らして岩石を啄ばんでいる。
 モンスターは短時間でも休憩を取る事で体力を回復させる。ここで言う体力の回復とは、致命的な傷であっても塞いでしまう程の自然快癒能力を差す。鳥竜種の一種であるドスランポスと呼ばれるモンスターに至っては、狩場を走り回るだけで傷を癒してしまう程の回復力を誇る。それだけモンスターの自然治癒能力は侮れない。
 ユニが全身全霊で削りきった足の甲殻も、若干回復の兆しが見えていたし、ヴェントが二度の遭遇で破壊した腹も今や薄っすらと灰色の甲殻が覆い始めている。長期戦はハンターにとって望ましい形ではない。そろそろ仕留めなければ回復薬などの道具が枯渇する。
 互いに視線を交わし、頷き合う。態度を豹変させたヴェントだったが、狩猟の連携は問題無い様子で、その点に於いてルーグは安堵する。ここまで来て連携が崩れては、狩猟そのものが破綻する可能性を秘めているからだ。
 幸いグラビモスは長時間放置していたためか気が緩んでいるようで、二人の存在を感知できていなかった。素早く距離を詰め、足元まで辿り着いたルーグは、相手が認知するまでのラグを利用して牙狼銃槍【巨星】の砲口に熱を蓄えていく。
 コォォ……と熱が高まっていく音、そして青白い炎が臨界点を突破する瞬間、引鉄を引き絞る。
「ゴァアォアオオオッッ!!」
 突然足元で弾けた爆撃にグラビモスが踏鞴を踏む。累積した損傷は確実にグラビモスの体力を削っている。その証拠に回復の兆しが見えていた足の甲殻は一撃で吹き飛び、腹の肉があっさりと露出する。
 背後でヴェントが射撃を敢行する気配を察し、グラビモスの敵視がそちらに向かないように砲撃と斬撃を繰り出すルーグ。度重なる斬撃によって抉られた両足を攻撃する毎に確固たる手応えを感じ、順調に狩猟が進んでいる事を認識する。
 グラビモスの攻撃が振り下ろされるギリギリのタイミングを見切って回避し、防御し、砲撃で使用する弾倉を再装填する。一瞬でも気が抜けない緊張感も、今や確りと順応している。
 グラビモスが後退する。このモーションの次に来るアクションは分かっていた。腹を地面に擦りつけながら突進するボディプレスだ。これは回避するには難度が高いので、安全策としてガンランスに常備されている巨大で頑健な盾でガードする。
 その時だ。ベギンッ、と硬質な音が弾け、盾が真っ二つに裂けて、折り飛んで行った。
「……!」
 咄嗟に身を捻って回避自体は出来たが、盾はもう使い物にならない状態だった。これではグラビモスの熱線は防げない。ガンランスは重厚な造りゆえに動きが鈍重になる。この状態でハードコアのグラビモスが行う高速化された薙ぎ払い熱線は、回避できない。
 冷や汗が背筋を粟立たせる。狩猟も今や後半戦。もう少しでグラビモスの体力も尽きるだろう。それまで保てば、こちらの勝ちだ。それまでグラビモスが熱線を使わなければ、何とか凌ぎきれる。
 そう考えて、盾が壊れた事を意に介さず攻めようとして、――――気付く。グラビモスが、大きく首を仰け反らせて、“熱線の事前モーションを始めている事に”。
 目まぐるしくルーグの脳内を過去の映像が行き交う。どのシチュエーションを当て嵌めても、自分は助からない。理性が整然とした結論を出しても、本能が生存の道を検索し続け、普段の何十倍と言う速度でトライアルアンドエラーを敢行していく。
 それでも見つからなかった。己が次の瞬間生きている光景が、どうしても可視化できなかった。
 グラビモスの首が回る。次の瞬間には夥しい熱量のレーザーが口腔から吐き出され、全てを薙ぎ溶かす。溶岩が固まった大地ですら溶解し得るその熱線に補足された生物は、モンスターでも無い限り存在を留めておく事は能わない。
 ――――死。
 ハンターとして生きていく以上、必ず訪れるモノ。
 ハンターとして生きていく以上、常に覚悟すべきモノ。
 それが今、正しく展開され、無慈悲に履行される。
「……は、」
 何故か、口唇に笑みが浮かんだ。
 理由は、すぐに思い当たる。ここには、ユニがいない。己が死しても、ユニは生きる。それならば、何も問題は無いのだ。安心して、彼女の元へ逝ける。そんな、安堵と諦観と、自嘲の笑み。
 だが、その安堵も、諦観も、自嘲も、次の瞬間には吹き飛んだ。
「――ルーグさんっ!」
 何かが横合いからぶつかってきた、と思った瞬間、それが何か分かった。アナキシリーズを纏う若き双剣使い。ユニが、ルーグを押し倒している姿が、眼球に焼き付かんばかりに突きつけられる。
 待て。――そう言いたかったのに、口は二酸化炭素すら吐き出さなかった。
 後頭部を灼熱した大地に盛大に激突させ、視界に火花が散ってもユニから目を離さなかった。
「――――」
 ユニは達成感を帯びた笑みを浮かべ、安心感と一緒に口を開閉し、――――熱線によって、視界が真っ赤に染まった。
「――――――アアアアアァァアァアアアアァアアアァァァアアアァアアッッ!!」
 ルーグの叫喚が、火山を渡っていく。

◇◆◇◆◇

「――勘違いするなよルーグ、私は英雄なんかじゃない」
 不意に、遠き日の映像が蘇った。走馬灯だと、ルーグは自覚した。眼前に佇む彼女は在りし日のまま、時が止まったかのように泥臭い姿で笑い掛けていた。
 目線が低いルーグは理解が出来ない様子で、腕を組んで小首を傾げている。彼女の言う事はいつも決まって判り難かった。
「私はね、カッコ良いだけの破綻者なのさ。英雄なんて大それたもんじゃない」
「カッコ良いだけの、破綻者?」
「そうさ」満足そうに頷く在りし日の女。「私がハンターをやってる理由はね、カッコ良くなりたい、それだけなんだよ。お前は、私を見てどう感じた?」
「……カッコ良い」
「そう! それだ! 自分がカッコ良いと思う事を突き詰めていけば、自然と自分はカッコ良くなる。別に誰かに良く見られたいと思うんじゃない、自分を自分の理想に近づける、それこそが私の究極の願いさ」
「自分を、自分の理想に近づける……」
 当時のルーグには理解が難しかったが、今なら朧気に分かる。彼女がなりたかったモノ。そして、ルーグがなりたかったモノ。
「お前は、カッコ良いお前を目指せよ。私よりもずっと、素質が有るんだからな」
 そう言って髪をクシャクシャっと混ぜ返す彼女に、ルーグは言い知れぬ嬉しさを覚えた。
(そうだ。いつだって俺は、彼女を目指していたんだ)
 彼女のようになりたかった。カッコ良い、彼女のように。
 場面が切り替わり、ルーグが一人で鍛錬を積んでいる頃に光景が移ろう。【黒虎の尻尾団】なる猟団に属しても、彼女は頑なに一人で鍛錬を積めと煩かった。理由は今でも分からないが、恐らく当時彼女が口にした「その方が、カッコ良いだろ?」が根源だろう。
「良い頃合いだ。ルーグ、お前に私が守っているルールを教えてやろう」
「……ルール?」
 黙々と鍛錬に励んでいたルーグの近くの巨木に背を預け、彼女は真剣な表情で口上を述べる。
「第一条、負けても負けない事。第二条、挫けても挫けない事。そしてこれが一番大事なんだが、第三条、死んでも死なない事。これさえ守れば、私みたいに最ッ高にカッコ良くなれるさ」
「なんだ、それ」
 意味が分からなかった。負けてるのに、負けない? 挫けてるのに、挫けない? 死んでるのに、死なない? そんなの、どうやって守れと言うのだ。
 不審げな眼差しで問いかけるルーグに、彼女はクスリと微笑を滲ませると、巨木から背を離し、「良いか、よく聞けよ?」と人差し指を立てて歩き出した。
「カッコ良い奴ってのはな、負けそうになっても絶対に負けないし、挫けそうになっても絶対に挫けない。そして、死にそうになっても絶対に死なない。分かるか? 負けを認めるな、挫けても貫け、死んでも守れ。これが出来れば、お前も一端の、カッコ良い破綻者だよ」
 まるで自分の子供の相手でもするように、彼女は満面の笑顔でそう語った。
 その言葉の意味を理解するまでに更に幾許かの時間を掛ける事になるが、今なら分かる。分かるが故に、もう取り戻せない彼女の言葉はルーグの心をキツく鋭く締め上げた。
「私はただのカッコ良いだけの破綻者だが、お前はなるんだろ? 本物の英雄に」
 笑いかけた彼女の本心は、今以て判らない。解らないが、彼女の普段は厳しい瞳には優しさが満面に浮かんでいた。誰よりもルーグを理解し、誰よりも自分自身を信じた、カッコ良い破綻者。
 どうしてそれが英雄ではないと言えようか。ルーグの目指した英雄像はまさしく彼女であり、彼女こそが本物の英雄だったのだ。
 そして、最後の場面。場所は酷寒の僻地。狩場である雪山の山頂で、彼女と、二人のハンターと、そしてルーグの四人が、ドドブランゴを相手に立ち回っている最中だった。
 ガンランスの砲撃の隙を狙われ、ドドブランゴが突進してくる。もう回避しようの無い距離に迫られ、ルーグは死を覚悟した。一瞬の油断が命取りになる。そんな文言は嫌と言うほど神経に刻まれ、捺された経験則から致命傷を負う事を即座に計測した。
 だから、彼女が庇う必要など、一ミリも無かったのに。
「――――ルーグッ!!」
 咄嗟に彼女は、ルーグを庇って、ドドブランゴの突進をマトモに受け、まるで蹴鞠のように軽々と吹き飛び、雪壁に叩きつけられ、動かなくなってしまった。
 白熱する視界に、ドドブランゴの相手をする二人のハンターを背景に、ピクリともしない彼女が映り込む。
 ルーグは装備をかなぐり捨てて彼女に駆け寄った。青白くなった顔に、鮮やかな紅がつぅ、と頭頂から垂れてくる。瀕死なのは言うまでも無かった。
「何で……ッ、何で、俺なんか……ッ」
 思考が混乱してグチャグチャだった。どうすれば良いのかも咄嗟に思いつかず、ただ彼女の血の気の引いた顔を眺めている事しか出来ない。
「…………だろ……」
 微かに口唇が動いたのを見逃さず、ルーグは「……なに?」と耳を彼女の口に近づける。
「……こうした方が、カッコ良いだろ? だったら、やるしかない……カッコ良いなら、……やる以外に、有り得ないんだよ……」
 そう言って、彼女は、笑った。

◇◆◇◆◇

 そして、意識は現実に引き戻される。あの瞬間をもう一度やり直せと言わんばかりに映り込むのは、ユニの安心し切った笑顔だった。その口は、微かに動き、確かな声でルーグの耳朶を打つ。
「――自分、カッコ良いでありますか?」
 熱線がその声を毟り取り、世界が烈火に失われる。
 己の口から吐き出される咆哮にルーグは我を失い、盾の無い銃槍を杖代わりに立ち上がると、最早一切の思考を放棄してグラビモスへ突貫した。
 迎え撃たんとするグラビモスは突進の構え。あの巨体にマトモに正面衝突すれば、ルーグの肉体などバラバラに粉砕されてしまうだろう。
 それでも構わなかった。二度も失ったのだ、もう何も失わないためには、ここで己を失うしか、何度でも悪夢を蘇生させる意識を破壊するしか、選択肢は無かった。
 彼我の距離が秒単位で縮み、間も無くルーグの死が完成する直前だった。不意に背後から背を押す感覚を受け、次の瞬間には体が浮かび上がり、グラビモスの頭上を超えて、――落下した。
 何が起こったのか分からず起き上がると、掠りもしなかった突進を止めるべく腹を地面に擦らせているグラビモスの隣で、膝立ちをしているヴェントの姿が映り込んだ。
「――逆曲射、天射夢法《テンイムホウ》」そう呟くと、すっくと立ち上がり、アートルメンティアを背に担ぐ。「一旦退きましょう、ルーグさん、“ユニさん”」
「は……?」
 ヴェントの言葉を理解できずに生返事を吐いたルーグだったが、その意味をすぐに悟った。視界に、何故か無傷のユニが佇んでいたのだ。
「あ、あれ……? 自分……?」
 ユニも訳が分からない様子でルーグとヴェントに視線で問いかけてきたが、ヴェントはそれに応じる様子は無く「さぁ、早く!」と追い立てるように二人の背を叩く。
 結局訳が分からないままその場を後にするルーグ、そしてユニ。

【後書】
 ヴェントさんの必殺技っぽいこれ、この当時はまだMHFに未実装だった技でして、今ではもう実装済みと言う、未来予知感有る奴でした(笑)。
 と言う訳でいよいよ次回で最終回です! カッコ良いを突き詰めた物語、最後までお見逃しなくっ! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    カッコいいですね「天射夢法」しかも予知だったというw
    さすが先生!脱帽であります!

    失うのが怖い者と失うものが無い者…
    正反対のような「似た者同士」ですが、
    根っこにあるのは救ってくれた英雄を慕う気持ちなのか?
    次が最終回なのにまだ迷っていますw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      カッコいいですよね「天射夢法」!w まさかこれがMHFに実装されるなんて夢にも思いませんでしたよ!ww
      (*´σー`)エヘヘ!w 有り難う御座いますっ!w

      確かに、正反対のような「似た者同士」と言うのが、すんごいしっくりきますね…!
      根っこにあるのが似た想いと言うのが、こう、めちゃんこ(・∀・)ニヤニヤせざるを得ない奴です…!
      この辺の、最終回を読んだ後のとみちゃんの所感が気になりまくりですね…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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