2019年3月21日木曜日

【春の雪】第9話 一非の我儘【オリジナル小説】

■あらすじ
春先まで融けなかった雪のように、それは奇しくも儚く消えゆく物語。けれども何も無くなったその後に、気高き可憐な花が咲き誇る―――
※注意※2009/01/15に掲載された文章の再掲です。タイトルと本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
青春 恋愛 ファンタジー ライトノベル


カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054888294020
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n4939f/
■第9話

第9話 一非の我儘


 ――夜は明け、海へ行く日。
 俺は七時に携帯電話の目覚ましで起床。親父が作っといてくれた朝飯を腹に納めると、――同時に呼び鈴が鳴った。
「へぇへぇ、今出ますよー」
 がちゃり、と扉を開けるとそこには爽やかな好青年の憎たらしいまでの笑顔。
「おはよう一非!」がん!「おぶぅッ」
 扉を思いっきり閉めてから再び開けると、顔を押さえて震えている空冴の姿が有った。
「よう、空冴。今日も朝から感極まって震えてんのか?」
「いつも感極まって震えてるような事言わないでくれる!? 何平然と人の顔ぶっ飛ばしてるの君は!? 地味に痛いんだよこれ!? 鼻が折れたらどうするつもりなの!?」
「はろー、ニイ君! 朝っぱらからキッツい一撃喰らわしといてすっごいフツーのニイ君は実はサド!?」私服姿――ラフな格好の美森がわーわー騒ぎ始める。
 朝から煩い奴らだ。俺は煩いハエを振り払うと、すぐに目当ての人物を探し当てる。
「あ……おはようございます、一非君」
「おう、おはよう、咲結」
 以前と同じような、でも柄や色が違う、清楚な雰囲気を纏った姿の咲結がいた。
 その背後に停まる青いオープンカーから出てくる、ナイスバディを惜し気も無く晒したオニセンが、俺を見て感心そうに鼻を鳴らす。今日は流石にスーツ姿ではなく、カジュアルな出で立ちだった。
「うむ、逃げずによく来たな」
「逃げるも何もここ俺の家だぞ!? それと言っとくがな、俺はテメエからは逃げも隠れもしねえんだよ!!」
「ふん、まあ好きにほざいてろ。――さ、挨拶はその辺で良いだろ。乗れ」
 クイッと親指を青いオープンカーに向けて告げるオニセンに、俺は少なからぬ敵意を覚えながらも、その場限りは頷いてやった。
 視線を移すと、咲結がはにかんだ笑みを浮かべて俺を見つめているのが映った。
 ……そう、邪魔者は多いが、今日は咲結と海に行くんだ。初めての、海に。
「じゃ、しゅっぱーつ☆なのですよ♪」
 美森の高らかな宣言と共に、その日は幕を開けたのだった。

◇◆◇◆◇

「てかオニセン、狭ェんだよこのクルマ! どうにかならねえのか!」
「私の愛車に文句とは良い度胸だ二位。その場で土下座するか途中下車するかの二択を選ばせてやろう」
「笑美ちゃーん。でもこの狭さはセクハラ級なのですよー。このままじゃあたし様の貞操のピンチってゆーかー」
「い、一非君はそんな事しませんっ」
「いーなー後ろの席は。一非、僕と席、代わらない?」
「誰がオニセンの隣に行くか! お前はそこで死ね!!」
 朝のまだ早い時間。高速道を直走る車内では、けたたましい騒音が掻き鳴らされていた。
 そもそも四人乗りのオープンカーに五人詰め込む時点で間違ってる。運転は勿論オニセンで、助手席に空冴、後部座席に咲結・俺・美森の順で並んで押し込まれている状態である。両隣に女の子が座ってるせいで、メチャクチャ居心地が悪い感は否めない。
 グラサンを掛けてどこかヤンキーっぽく見えるオニセンは口許に煙草を引っ掛けながら返答を寄越してきた。
「仕方ないな。誰かここで途中下車せねばならないようだ」
「何でだよ!? そもそもお前がこんなオープンカーじゃなくて六人乗りのワゴン車持って来りゃ済んだ話だろ!?」
「バカ言え。そんな金が有る訳無かろう」
「このクルマは何!?」
「笑美ちゃんはクルマにお金使っちゃうタイプなのですか~?」
 隣で美森が俺の体をグイグイ押しながら尋ねる。おい止めろ、咲結が潰れる。
「そうだな……使う当てが無い時は、特に考えなく使うな」
「おいおい、貯金はしねえのかよ? 結婚とかしねえのオニセン?」
「一非からそんな話が出てくるなんて……もしかしてもう恋純さんとの結婚を考えてるのか!?」
 空冴がふざけた事を吐かし始めた。殺すっきゃない。
「一非!? 一非だよね!? 何か僕の首に腕が巻きついているんだけど……ッ!! ムチャクチャ絞まって、くる、ん、だけ、どッ」
「いいや空冴、それは気のせいだ。お前の後ろの席は咲結だったろう……?」みしみし。
「うぐぅッ! ……こ、恋純さんッ、の腕ッ、ってッ、こんッ、なッにッ、逞しッ、かッたッ、ん、だ……」
 ちーん、と。バックミラーで確認した空冴の顔は真っ白になっていた。よし、逝ったか。
 咲結の体に寄りかかるようにして空冴を絞め落とした後、ようやく一息吐けるかと思った矢先、
「結婚、か……ふむ。二位、あまり早まらんようにな。早過ぎる結婚は、時に……」
「しねえよ!? 何勝手に話進めてんだオニセン! 俺はまだ……」
「まだ? つまり、する気は有るのか。……だそうだ、恋純。良かったな、彼氏は先の事も考えているようだぞ」
「あ、は、はいっ」
 隣で恥ずかしげにモソモソ動く咲結。……だー、もう、クソ……あのオニセン、いつかぶっ飛ばしてやる……!
 ふと視線を感じて横を向くと、頬を桜色に染めた咲結が、俺を見つめて緊張しているようだった。羞恥が伝染して、俺まで気恥ずかしくなる。
「な、何だっ?」
「あ、そっその……ふっ、不束者ですが、これからも宜しくお願いします……っ」
「~~~」
 恥ずかしさのあまり言葉が出なかった。
 真っ赤になってどもっていると、隣から爆笑が聞こえてきた。
「あははははっ!! もう早速ここで愛を誓っちゃうぅ? あたし、神父様やっても良いよ~♪」
「……テメエ、完全に遊んでやがるな……?」
「他にどう見えるのです?? アーッハッハッハ!!」
 くそぅ……咲結は咲結で恥ずかしげに俯いたまんまだし。
 もう居た堪れない状態で、オープンカーは海へと飛ばす――

◇◆◇◆◇

「――ふん、やっと着いたな」
 ばたん、と重たい音を響かせドアを閉めると、オニセンがグラサンを傾かせて呟いたのが聞こえた。
 一同全員クルマを降り、眼前に広がる巨大な水溜りに眼を奪われていた。
「これが……!」
「うーみー!!」
 美森が絶叫し、きゃーきゃーはしゃぎまくる。
 隣では咲結が感動したのか瞳をウルウルしたまま動かなかった。背後からヨロヨロと首を押さえながら空冴がやってきたが、俺は海と言う奴を初めて見て言葉を失っていた。
 何て言うか……絶景だった。水平線と言うのも勿論初めて見た訳だが、……確かに、昔の人は、この先に島が在るなんて思わなかっただろうな、と変な思考が働いた。
 ざざ……ん、と打ち寄せてくる波を見て、俺は漠然とした面持ちで海を眺めていた。
 ……や、デカ過ぎだろ。
「……ん? どうした二位。初めてでもあるまい?」
 オニセンが煙草を咥えたままやって来るのを見て、俺は思わず真実を吐露していた。
「いや……これが、初めてだ」
「……本気か? 親に連れて来て貰った事は無いのか?」
「……無い」
「……そうか。なら、今日は辟易する位に楽しめよ。折角私が連れて来てやったんだからな。それもタダでだぞ」
 ふふん、と豊満な胸を反らせて告げるオニセンに、俺はようやく我に返って、へっ、と鼻で笑う。
「誰も頼んでねえよ。……ま、折角来たんだから楽しむっちゃ楽しむけどな」
「はッ、素直じゃない奴め」
「言ってろ」
 そう言ってオニセンから視線を外すと、丁度頃合いを見計らっていたのか、美森の喚声が飛んできた。
「ではではぁ~、女性陣はこれより水着モードへと変身して来まっす!! 男性陣のお二人にはぁ~、暫らく妄想でもしてお待ちを~♪」
「ンな事、大声で言わなくてもいいから! ほら、変な奴らが注目する前に行け!」
「あーいあーいさー♪」
 テンション爆超のまま走り去って行く美森と、それに巻き込まれるように連れ攫われて行く咲結を見送り、俺と空冴も更衣室へ向かう。
「ふっふっふ」
「おいキモい声出すな空冴。気持ち悪くなる」
「笑っただけだよ!? ……一非、君も実は楽しみなんだろう? 彼女の水着姿と言うものがさっ!!」
「まあ、お前の将来よりは断然な」
「僕の未来真っ暗みたいな言い方止めてくれる!?」
「……思ったんだけどよ、何でお前がここにいるんだ?」
「今更そこを疑問に思っちゃう!? 酷いじゃないか一非~。僕達は友達だろう?」
「いや」
「否定!? そこは即答&断言しないでよッ!! 嘘だって言ってよ!?」
「俺とお前の関係は――」
「嘘って言わないでよ!?」
 ……確かに、楽しみじゃないって言えば嘘だ。凄く、気になってはいた。
 ……でも露骨に、楽しみだっ、って言ったら何だか自分に嫌悪しそうな気がした。
 咲結は俺の彼女だ。とても大切な、女の子だ。
 だからこそ、今だけはそんな眼で見たくない、と言う想いも有った。何て言うか……綺麗なものを穢したくない、そんな気持ちが芽生えていた。
 大切にしたいあまり、接し方が分からなくなる事だって有るんだ。
 自分の気持ちに正直になるべきか、それとも関係を大切にして自分を抑えて接するべきか。
 全てに於いて俺は初心者なんだ。何をするにしても初めてで、どうすれば良いのかサッパリ分からない。
「正直でいられるのなら、出来得る限り自分に対して正直であるべきだと、僕は思うよ」
 更衣室で隣の個室に入った空冴の声が聞こえ、俺は暫らく間を空けてから尋ね返した。
「……だけどよ、もしそれで嫌われる事になったら……」
「――一非。そんな奴と付き合う意味なんて無いよ。自分の一部だけを見て付き合ってる奴なんて、所詮上辺だけの関係に過ぎないんだ」
 衣擦れの声と共に響く空冴の声は、どこか落ち着き払っていて、俺達とは違う、大人びた印象を与える語調だった。
「それとも、一非が上辺だけの関係でも良いから恋純さんと付き合いたいって言うのなら話は別さ。……でも、そんな事だけで恋純さんが君から離れていくとは、僕には思えないんだよ」
「…………」
 ……本当に、そうだろうか? 
 空冴の話を信じられない訳じゃない。でも、俺は、その考えに完全には従えない。
 俺は、今の関係がずっと続けば良いと考えてる。ずっと、この状態が続けば、って。
 ……でも、そんな事は有り得ない。時間が過ぎれば人の考えも変わるだろうし、必然的に付き合い方も変化し、価値観だって移ろっていく。そうなれば、もしかしたら咲結とも別れないといけない時が来るかも知れない。
 それだったら――せめて、その時が来るまでは嫌われたくない。彼女の大切な思い出を俺と言う存在で穢したくない。
 これは、我儘だろうか?
「――我儘だね。間違いなく」
 キッパリと即答&断言され、俺は返す言葉も無かった。
 暫らく何も言えずにいると、空冴の方から続きが継げられた。
「……でも、我儘な位が丁度良いさ、一非。僕達生き物と言う奴は、結局最後には同じ地点に辿り着く。なら、そこに辿り着くまで精一杯我儘になって、嫌になるほど意地汚くなって、トコトン楽しみ尽くせば良いと、僕は思うよ」
「……お前は、楽しんでるのか? 人生」
 そうは見えないけどな、と続けようとする前に、空冴の苦笑した声が響いてきた。
「楽しんでるとも。他人の眼にどう映ろうと、自分が満足できるなら、それ以上の楽しみ方は無いね。……だから、一非の人生がどうとか、こうすればもっと楽しめるよとか、そんなアドヴァイスはハッキリ言って一非にとって迷惑な話だと思う。僕だって神様じゃない。……ただ、そんな迷惑な話で良ければ、最後まで聞いてくれ」
 間を置いて、空冴は俺が話を遮るつもりが無いと悟り、――続きを紡ぎ始める。
「……君は僕達よりももっともっと人生を楽しむべきだ、一非。そして、そのためには自分に正直で在り続けるべきだ。自分を偽ってまで相手に合わせる必要なんか無い。……まぁ、社会人になったら話は別だろうが、今ぐらいは良いじゃないか。……どうだい、一非?」
 ……それはお前の価値観だろ、と捨て置くのは誰にだって出来る。
 空冴は何より、俺の闇の部分を知っている、数少ない友人だ。だからこそ、俺にもっと、マトモな人生を歩んで欲しいと、本当に心の底から願っているんだと思う。
 ……それが同情であれ、憐憫であれ、俺にはどうでも良い。
 ただこいつは、本当に俺の事を想って、そう言ってくれてるんだ。
「まぁ、普段のお前からすればマトモな話だったな」
 着替え終わり、個室から出ると、既にそこには海パン姿の空冴が。
「僕はいつだってマトモな筈なんだけど?」
「有り得ないだろ」
「有り得ないの!?」
「ま、サンキュな」
 ぽん、と肩を叩いて、更衣室を後にする。背後から含み笑いと、肩を竦める気配がした。
 ――自分に正直であれ、か。

【後書】
 オニセンこと鬼野笑美先生、最高過ぎませんか??(唐突に) たぶん当時のわたくしの性癖を詰め込んだと思しき様子にモダモダが隠し切れません! いやー素敵な先生だ…(満足顔)
 空冴君の、こう、この齢に対して相応しくなさそうな言動を落としておりますが、これ実はこの物語上で明かされたり明かされなかったりする部分だったりします。少しずつ物語が進行した今だから言いますが、この物語、ラブコメの皮を被った「ふぁんたじぃ」ですのでね、後半に行くに従って増える意味深・不穏ワードにドキドキしながら読み進めて頂きたいと思いますw
 さてさて次回は遂に! 咲結ちゃんの水着シーン解禁…!? それでは次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    すっかり遅くなってしまいましたm(_ _)m

    やっぱりあれですよね空冴君、お話の鍵を握ってそうな感じがします。
    友達とか親友とかの枠にはおさまりきらない一非君への思いが伝わります。
    でも…もうしばらくラブコメ楽しみたいです。

    いいぞぉ~オニセンvvこんな先生に出会いたかったなぁw

    咲結ちゃんの水着をみた一非君のリアクションを想像しつつ寝るぞいw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

    返信削除
    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      いえいえ~! お待ちしておりましたぞい!┗(^ω^)┛

      ですです! お話の鍵を握ってる感有りますよね…!
      「友達とか親友とかの枠にはおさまりきらない」と言う辺りがもうね、よく読んでいらっしゃるとしか言いようが無い奴でして…!
      もう暫くはラブコメ続きますので、ぜひぜひ楽しんで頂けたらと思います!┗(^ω^)┛

      オニセン良いですよね!ww モデルになった先生をやりたい放題改変した奴なので、わたくしもこんな先生がいたら逢いたかったですぞ~!ww

      それは何と言う素敵な想像!ww 良い夢見られたらいいなぁ…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!