2019年3月20日水曜日

【滅びの王】73頁■神門練磨の書19『春原菖蒲』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/13に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
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■第74話

73頁■神門練磨の書19『春原菖蒲』


「菖蒲。……ここから逃げよう? 君は、ここで死ぬために生きてきたんじゃないだろ?」
 そう言いつつ、辺りに視線を配る。どこかに、どこかに脱出路は無いか……! と。
 隣の部屋では、一瞬だけ沈黙が有ってから、……短い返答が有った。
「それは違うです。菖蒲は、そのために生きてきたです」
「え……?」
「菖蒲は王国の繁栄のために、こうして生かされてるです。ここで《冥王》との契約が結べなければ、菖蒲は一族の恥曝しになっちゃうです」
 ……それが何だ。何だってんだ?
 そんな事のために死ぬなんて、馬鹿げてる!
「――ンなバカな事、罷り通って良い訳ねえだろが!」
 知らず、怒鳴ってた。
「何のためでも良い、そのために人が死んで良いなんてっ……ボケた事吐かしてんじゃねえぞ! 良い訳ねえだろ! 勝手に死なすな、バカ!」
 怒鳴って、……少しずつ熱が冷めてきた。
 オレは、今更ながらに早まった事を言ったと思った。
 ……いや、早まってなんかいない。……そうじゃなくて、今の菖蒲は、『身を清めた』後だ。そんな、もうこの世とは決別寸前の奴に、何を言ったって無駄なんじゃないかって、思えてきただけだ。
「……聞いてくれ、菖蒲。あいつは……鷹定は、お前を助けに、絶対に来る……!」
「……タカさんが?」妙に吃驚した菖蒲の声。
「だから、……死ぬな。つか、絶対に死なせねえ。オレは、お前を生かす。……王国の繁栄? ンなモン、クソ喰らえだ。人の命の犠牲の上に立ってるもんなんざ、壊れちまえば良い。オレは、そう思うぜ」
 諭そうとか、説得しようとか、そういう気持ちで言ったんじゃない。
 ただオレは、オレの考えを言葉にしたかっただけで、誰かに納得して貰いたかったんじゃない。
 ……気持ちを言葉にする事で、オレは『オレ』を保とうとしたのかも、知れない。
「……タカさんは、どうして菖蒲を助けに来るですか?」
 菖蒲の不思議そうな声音に、少しずつオレは『オレ』を取り戻してきた気がする。
「そりゃ、大事だからだろ? 菖蒲を死なせたくないって、そう思ってるからだろ? ……菖蒲じゃなくたって、人が死んじまうなんて事、有っちゃいけねえんだろうけどよ」
 終戦から《贄巫女》が始まって、現在まで二十年経ったという事は、十九回もの《贄巫女》が執り行われ、十九名の女の子が無益に殺され続けたんだ。……無益とか、有益とか、そんなの関係無い。十九人もの人が殺された事実が、大事なんだ。
 そんな事、許されて良い筈が無い。
 ……段々と、鷹定の気持ちが分かってきた、気がする。
 王国が二十年もの間、十九人もの女の子を殺し続けてきた事を、誰が許せるだろう。王国の繁栄? ……だからどうした。そんな事のために人の命が使われるなんて事、有って良い筈がねえだろ!
 そんな国なんて、滅びちまった方が断然良いに決まってる。オレだったら、……鷹定もそうだ、王国とは敵対してでも、馬鹿げた儀式を阻止するだろう。……全力で。
「……じゃあ、タカさんに言って貰えないですか? ――そんな事は、止めた方が良いです、って」
「……そんな事?」
「はいです。菖蒲は王国の繁栄を築くために、今ここにいるです。それを止めるなんて……王国に住まう何十……何百……何千万の人達に申し訳が立たないです。そんなの、菖蒲は嫌です」
「だから――!」
「練磨さんは、自分の命と何千万の命を天秤に掛けて、どちらを取りますですか? ……単純に数の多さじゃなくて、大切な方を取るですよね? 菖蒲は、自分の命よりも、何千万もの人達の安寧と平和を取るです。国がたった一人の命によって支えられるのであれば、菖蒲はそれを選ぶです」
「~~~っ」
 分かってる。今の彼女に何を言ったって通じない事は。
 ……でも、悔しいじゃないかっ。
 鷹定が命を賭してまで救おうとしてる奴が、こんな奴だったら、……すっげぇ、悔しいじゃんか……。
「……オレは、そんなの認めねえ」
 冷静になれ! と頭の中で命令が出ても、本能だけはそれに逆らった。
 絶対に、認める事なんて出来ない。そんなの認めちまったら、その瞬間、オレはオレを許せなくなる。
 現実がそうだったとしても、実際にそうなんだとしても! ……そんなの、嫌なんだ。絶対に、そんな事は、認めないし、許さない。
 ここだけは、妥協したくないんだ!
「でも、菖蒲が死なないと何千万もの命に平和が訪れないですよ。菖蒲は、そんなの嫌です」
「お前が死んだら意味ねえんだよ! 何千万もの命の中に、何で菖蒲が含まれてないんだ! オレは、そっちのが嫌だ! 何千万もの命に平和が来る前に、どうしてお前自身に平和が来ないんだ? そんなの、おかしいじゃねえかよ!」
「皆が皆、幸せにはなれないです。誰かが背負わないといけないですよ。寧ろ、何の危険も伴わない幸せの方こそ、嘘っぱちみたいです。皆が救われる世界なんて、天国だけですよ」
「誰かが救われない世界が現実なら、現実を天国に変えれば良い! オレは、誰かが不幸になってまで幸せになんかなりたくない! 菖蒲はどうなんだ? 鷹定を死なせてまでして、お前は幸せになりたのかッ? どうなんだよ!」
 ……沈黙。
 頭に血が上り過ぎて、少し落ち着こうと壁に凭れ掛かった。
 ……聞かせてくれ、菖蒲。お前の意見を。気持ちを、意思を。
 仲間が、死んでまで自分を救おうとするそれをお前はどう思う? それを許せるのか? 一生、仲間の死を背負って生きていけるのか? 
 ……そんなの、嫌だよ、オレは。誰かの命の上に生きてるのは、分かってる。でも、それが実際問題、目の前に浮上してきたら、止められるものなら止めたいじゃないか! ……他人事だって分かってても、自分の事じゃなくても、助けたいんだよ、オレは!
「……そんなの、菖蒲は嫌です」
 ――ポツリと零れた一言に、オレは人の温かみを感じた。
 ちゃんと血の通った人間の言葉だって、確信できた。
 オレは、それを聞きたかったんだ。
「タカさんには死んで貰いたくないです。……でも、菖蒲は、何千万もの命も救いたいです」
「救いたい気持ちは、オレにも分かる……と思いたい。だけど、それが菖蒲の命の上で成り立ってるなんて言ったら、鷹定はどう思うだろう? ああ、菖蒲が死んでくれたお陰で、オレは今もこうして生きていられるんだ……なんて、思えるか? 違うだろう? 菖蒲が生きている世界で、自分も生きていられたら、それで満足じゃないか。他に何を望むんだよ? 生きてるだけで、人ってのは幸せを一杯貰ってるだろ?」
 我ながら、よく舌が回る。
 言うだけ言うと、オレは少しずつ頭が冷静さを取り戻してくれたような気がした。
「……菖蒲。菖蒲が死ななくても皆が平和に生きていける道を探さないか? それが、今出来る一番だと思うぜ、オレは」
「……そんな方法、本当に有るですか?」
 言われて、オレは苦笑を隠せなかった。どうせ誰も見ていないと思って、乾いた笑い声を発してしまう。
「分からない。……無責任だけど、分かってたら苦労しないぜ? 分からないから、探すんだ。……もしかしたら一生見つからないかも知れない。でも、いつか見つかるって思っていれば、見つかるものさ。人間、前向きに生きていかないと、ダメになっちまうよ」
「前向き……ですか」
「ああ。ポジティヴポジティヴ♪」
 言うと、隣から忍び笑い聞こえてきて、オレも釣られて笑い出した。
 今の状況がとっても危険な事だって分かってて、余計に笑えた。
 現実を忘れて笑っていたら、もう何でも出来そうな気さえしてきた。
 ……本当に、何でも出来たら良いのに、と思ってしまった……

【後書】
 説得と言う行為が苦手だったりします。自分の考えを相手に押し付ける、と言う行為に感じるから…かも知れませぬ。
 どちらかが正しい、と言うのは客観視しても判らないものです。けれど練磨君は、菖蒲ちゃんを死なせたくないから、菖蒲ちゃんが清めた一年間をふいにしてでも、考えを否定したかった…そんな感じのお話に感じられて、何と言いますか、手放しで喜べない面が有ったりします。
 生きていて欲しい。望みはたったそれだけなのに、叶える事の難しさを理解しているつもりです。それを練磨君は成し遂げようとしてる訳ですから、眩しいんでしょうかね。
 今回はちょっぴりしんみり系後書になってしまいましたね…! さてさて次回はにゃんと! 今まで出番が無かった彼女の書です! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    練磨くんの説得、菖蒲ちゃんが清めた一年間…
    一人ぼっちで考えて、すべてを諦めすべてを救おうと決めた覚悟。
    《贄巫女》の儀式の意味が菖蒲ちゃんの言葉通りならたしかに手放しでは喜べないと思います。

    ただ…練磨くんの思いもよく分かるのです。

    彼女か?彼女なのかッ?!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      そうなんですよね。菖蒲ちゃんの言葉通りであるなら、手放しで喜んではいけない話だと思うんです。
      練磨君の想いも判って頂けたのが、こう、嬉しいです…!
      もう少しお話が進むと、《贄巫女》が如何に…って話が出てくる筈ですので、そちらを期待してお待ちくだされ…!

      彼女です!ww 彼女が遂に動き始めます!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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