2019年3月28日木曜日

【春の雪】第10話 満喫の海【オリジナル小説】

■あらすじ
春先まで融けなかった雪のように、それは奇しくも儚く消えゆく物語。けれども何も無くなったその後に、気高き可憐な花が咲き誇る―――
※注意※2009/01/16に掲載された文章の再掲です。タイトルと本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
青春 恋愛 ファンタジー ライトノベル


カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054888294020
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n4939f/
■第10話

第10話 満喫の海


 照りつける陽光の下、光り輝く白浜を空冴と共に歩いていると、――どよ、と付近で騒然とした空気が流れた。
「おや? 女の子達が僕の姿を発見しちゃったかな?」
「だな。皆、散っていくのを見る限り、そうに違いねえな」
「僕、危険人物扱い!?」
「見るに堪えねえからな」
「そんなに酷いプロポーションかな僕!?」
 こいつのムカつく所は、自分のプロポーションが抜群に良い事を自覚してる事だ。確かに空冴が言う通り、浜辺の女の子達の視線を浴びているのは、紛れも無く奴であり、それだけのプロポーションとルックスを備えているのである。
 認めたくないのは、奴がそれらを自覚していて隠そうともしない事だ。……せめて少しくらい謙虚なら話は別なのだが……
 ――が、併し、そのざわめきも一瞬後には全く別種のざわめきと変わった。
「お、おい見ろよあの女!」
「すっごい……モデルさんかな?」
「グラビアにいそうな人ですね」
「お前、誘ってみろよっ」
 男だけでなく、女の喚声も届いてきて、何事だと視線を巡らすと――俺も空冴も得心して頷いた。
「つか、奴は教師をやってる事自体が謎なんだ」
「うんうん、そうだねぇ。グラビアに出てた方がよっぽどしっくりくるよ」
 主に男共の視線を独り占めしているそれ――オニセンは、豹柄のビキニ姿で浜辺を闊歩していた。そのはち切れんばかりの胸元、引き締まった腰の括れ、少しキツめではあるが美顔と称するに何ら違和感が無い整った顔立ちに、完全に浜辺の支配者として君臨していた。
 その浜辺の女王が俺達に気づいて手を挙げる。
「おーい、何をしている! 準備運動を始めるから集まれ!!」
 ざわっ、と視線が俺と空冴に突き刺さる。俺は眼光をぎらつかせ、逆に威嚇し返す。
 対して空冴は、
「はーい鬼野ティーチャー♪ 今行っきまーす♪」
 敢えて視線はスルーの方針らしい。陽気に走り去って行く。
 ……つか、準備運動って……流石はオニセンってトコか。
 思いながら浜辺の女王に向かって駆けて行く空冴を追おうとして、
「一非、くん」
 ――不意に、足が止まった。
 背後から掛かった声に、一瞬息が止まりそうになる。どこか控えめで、一瞬どもったようなその声は、間違いない――彼女のものだった。
 鼓動が跳ね上がり、――思わず動きが凝固してしまう。すぐにでも振り返ってその姿を網膜に焼きつけたいのに、頭は白紙と化して動作を躊躇わせてしまう。
 やがて、俺は我に返って唾を呑み込み、――ゆっくりとではあったが、振り返った。
「…………ぁ」
 白――純白のツーピースの水着姿の咲結が、恥ずかしげに俺を上目遣いで見つめていた。所在無げに手を胸元に添え、僅かに上気させた顔を持ち上げ、俺を瞳で捉える。
「あ、あのっ、……どう、ですか……?」
「ぁ、う……」
 ――正直、可愛過ぎて言葉が出なかった。
 その体を抱き締めたい衝動に駆られたが、何とか理性で抑え留めた。雪のような白さを誇る肌が眩しかったが、視線を逸らす事は出来ず、喉が干乾びながらも、辛うじて声を発した。
「……似合ってる」
「ぇ?」
「とても、その、似合ってる……何て言うか、……すげぇ、可愛い」
「――――」
 ぼっと、燃えるように顔を真っ赤に染め、咲結が俯いたのが見えた。
 それが、更に可愛く映り、俺はもう理性が崩壊寸前にまで陥りかけた。
 そこに、
「やっほー☆ なぁに嬉し恥ずかしな照れ合いしてるですか~? さぁ、ニイ君! あたし様の悩殺バディを篤と見やがれぃ!!」
 じゃじゃ~ん☆と登場するバカ一名。
 黄色を主とした同じくツーピースの水着姿の美森は、……何て言うかな、お前咲結よりも胸が無いんじゃ……?
「クォラ、ニイ君! どこ見てるかなユーは!? あたし様のウィークポイントを凝視しない!!」
「見る程すらねえくせに」
「なにゃー!? ゆ、許すまじなのですよこのクソッパカー!!」
 うわーん、と逃げ去って行く美森を見送り、何と無く残された俺と咲結。
 ……はは、と苦笑を浮かべてから、咲結に振り返ると、
「……一非君は、胸が大きい方が、その……好き、なんです、か……?」
 悄然として、上目遣いに尋ねてくる咲結の姿が有った。
 ドキ、と鼓動が大きく跳ね、一瞬息が詰まりかけたが、
 ――自分に正直であれ。
 ……空冴の言葉を思い出し、俺は頬を掻いて咲結から視線を逸らす。
「……大きさじゃなくて、俺は……その、……咲結が、好きなんだ」
 ぼそ、と、かなり恥ずかしい事を、咲結に聞こえる程度の音量で、呟いた。
 すると、咲結が効果音さえ聞こえてきそうな喜色に染まった顔で、
「ほ、ほんとですかっ?」
「ほ、本当だっ。……だから、な、何度も、言わせるなよ……」
「は、はいっ!」
 ぱぁぁぁ――――と明るく華やぐ彼女を見て、俺はたじろいだままだった。
 ……俺は、嘘は吐いていない。正直な所、今までそこまで女の子を意識していなかった俺にとって、胸とか尻とか、そんなものは興味の範疇外だった。……でも、今は違う。
 咲結のそういう所は、どうしても意識してしまう。そして、それを怖くも感じていた。
 そんな俺を知られてしまえば、絶対に嫌われる――そんな強迫観念に囚われつつあった。
 ――自分に正直であれ。
 だからこそ、空冴の言葉は重い。重く、俺に圧し掛かるのだった……

◇◆◇◆◇

「さて、皆分かってると思うが、何の準備もせずに海に飛び込めば、急激な体温低下に因る心臓麻痺を起こす危険性が有る。そうならないためにも、前以て準備体操をしておかねばならない。入念にな!!」
 実に教師らしい、と言うかここまで個人的に海に来てまで準備体操をしてる奴なんて、俺は聞いた事が無い。……尤も、この歳になって海に来た事が無い奴も、聞いた事が無いかも知れないが。
 ともあれオニセンの号令の許、俺達――つまり咲結・空冴・美森、そして俺の四人は準備体操を始める事に。
「ほら、そこ! 声に力が入ってないぞ! そっちも! もっと力強く! 確りと体を温めておけ! いざという時に己を守れるのは己だけなんだからな! ほら、イッチニ、イッチニ!!」
 ぴっぴっ、と軽快なホイッスルの音と、鬼教官の怒号の中、俺達四人は準備体操の時点でかなりの体力を消耗する破目に……
 つか、いつの間にか周囲の人間が一緒に体操をしている時点で、何か間違ってると思うんだが……
「コラ二位! 声が聞こえんぞ声がァ! もっとしゃっきりしろしゃっきり!!」
 ……何が間違ってるって、体操でここまで熱くなれる奴がいる事だろうよ……

◇◆◇◆◇

 そして、――待ちに待った遊泳開始!
 オニセンが満足気に俺達を解き放った瞬間、一斉に始まったナンパコールに、俺達はソソクサとその場を後にした。
「あの、一非君」
 浜辺を水着姿で散策していると、不意に咲結が声を掛けたので、振り返る。
「何だ?」
「その……わたし、海に来た事、実は無くて……」
 もじ、と指を組みながら言い難そうに呟く姿を見て、また抱き締めたい衝動に駆られそうになる。――獣か俺は。
「出来たら、その……こういう所でする事を、教えて貰えませんか……?」
「……実はだ、咲結。これはとても言い難い事なんだが……」
 こほん、と咳払いして、俺は続きを継げた。
「――俺も、これが初の海なんだ」
「え? そうなんですか?」
「だから、実は教えられる事が無いんだ……」
 はは、と苦笑を滲ませながら応じる俺。こういう時に機転の利いた事が出来たら良いんだろうが、生憎俺はそういう融通が利かないんだ。
 そう言った後に、――もしかして呆れられただろうか、とすぐに恐怖がせり上がってきて、思わず言い繕おうとして、
「――だったら、一緒に探検しませんかっ?」
 俺は言葉を思わず呑み込み、……徐々に安堵が心に広がっていくのが分かった。
「……おう、そうだな」
「じゃあ、あっちに行ってみましょうっ、一非君っ」
 そう言って、何の躊躇いも感じさせずに俺の手を引き寄せる咲結。……その横顔は、微かに赤らんでいて……決して平気な訳ではない筈なのに、それでも自ら握ってくるその手は華奢なくせに、とても力強くて……
 俺は呆気に取られるも次の瞬間には、――気恥ずかしげな微笑を浮かべていた。

【後書】
 いやぁー青春真っ盛りです! ひたすらニヤニヤしながら読み返してましたね…!(笑)
 いよいよこのシーンも次回でおしまいです。それが終わったら…お楽しみに~♪(不穏を残して去るマン)

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    いやぁ~あまずっぺぇなぁ~w
    ホント、ニヤニヤとまりませんよ!てやんでいコンチクショーvv
    勝手にやってろーべらんめい、ぴーーーーーー

    一部不都合がありましたことを深くお詫び致しますm(_ _)m

    いやー次回でおわりかぁ~あっというまだったなー。
    ほんとひたすらニヤニヤ!よかったです!!(不穏は見て見ぬふりマン)

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

    返信削除
    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんとあまずっぺぇですよね!ww
      やったぜ!┗(^ω^)┛ ニヤニヤが止まらないなんて、最高の褒め言葉ですよ!!(*´σー`)エヘヘ!w
      ぴーーーwwwww

      不穏は見て見ぬふりマンwww
      ともあれ次回もきっと(・∀・)ニヤニヤできる筈!w お楽しみに~♪

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!