2019年3月27日水曜日

【滅びの王】74頁■獅倉八宵の書2『欠けた合流』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/14に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第75話

74頁■獅倉八宵の書2『欠けた合流』


 ようやく王国と帝国を分け隔てる国境……《津波の長城》が見えてきた。
 走っていると風に乗れた気分になれて爽快だ。……何かに乗っていれば、もっと風を感じられると聞き及んでるが……やっぱりウチは走らせるより走る方が性に合ってる気がする。
 国境に設けられた関所を探し、そこへ向かってみる。
 ……と、向こうから走平虎に乗った玲穏が駆けて来た。走平虎……確か湖太郎とか言う奴だ……の背中には玲穏だけで、練磨も崇華も乗っていない。
 何だろう? と思って、走っていた足を緩めると、玲穏が見下ろし気味に声を掛けてきた。
「どうしたんだい? 何か問題でも有ったのかい?」
「おせーぞー」
「それだけ言いに来たのかい!」
 びしぃっ、とツッコミを入れて、……妙に脱力。
 それよりも気になる事が有った。
「練磨と崇華は?」
「王都に送り届けた~」
「国境はどうしたんだい?」
 問題は、そこだった。
 国境……《津波の長城》は確か今、封鎖されている筈だ。何が遭ったか知らないが、王国側が勝手に厳重に警戒し始めて、殆ど通行不可になっていたのだ。
 そこをどうやって通行したのか。それがウチの懐いた疑問だ。
「ふつ~に通って来たぜ?」
「へ? 封鎖されてたんじゃないのかい?」
「されてねえよ。この間からな」
 玲穏は湖太郎に跨って、歩きながら話し始めた。
「知ってるか? 王国が国境を封鎖した理由」
「さあ? ウチは何も聞かされてないけど……」
「《滅びの王》――さ」
「……どういう事だい?」
 玲穏は得意気でもなく、世間話のように淡々と話し続ける。
「王国は《滅びの王》を危険視していた。……とまあ、それは恐らく表向きの理由だけど。それは措いといて。つまり王国は《滅びの王》を招き入れないように、国境を封鎖していたって訳だ」
「だったら……王国はどうして封鎖を解いたんだい? ……まさか!」
「王国の何者か……恐らく王室の誰か、もしくは官僚くらいの地位に就いてる者だろーな……が、《滅びの王》がどうにかなった事を知ったんだろーよ。それに封鎖を解く位だ、生け捕り・殺害・監視下に置けた……それ位しか考えられねーな。それを知ってる奴が、いるんだろーよ。王室各位のどこかにな」
「……王室関係者だとして、何で知ってるか。……なんて、言わなくても玲穏は察しの上か」
「あんまし考えたくねーけど、王室関係者の中に、【世界の終わり】と通じてる輩がいるんだろーさ。まあ、案外そうなんじゃねえかとも思ってたんだけどさー」
 玲穏は湖太郎に跨ったまま、怠そうに寝そべり始めた。……こいつ、本当にいつでも無気力状態だな。
「何でだい?」一応問うてやるウチ。
「王国の過敏な反応が、何と無く臭わせるだろ? 共和国の《聖女》が予言してるのは知ってるけど、何でまた王国が《滅びの王》に対して過剰に警戒してんのか……そこを突き詰めて考えていきゃ、自然とその流れに行き着く訳だ」
 ……ウチが言うとバカみたいに聞こえるかも知れないけど、この玲穏とかいう奴の言ってる事、途中でよく分からなくなるな。
 話の筋は通っているように見えるけど……無理に繋げた感じがする部分も有るし、無理矢理筋を通しているような感も否めない。
 ……つまり何が言いたいかって言うと、玲穏の奴、事実として知ってる部分が有るんだ。それを仮定じゃなくて本筋に通して話すから、全てが事実っぽく聞こえるけれど、実は大部分が勝手な推測なんじゃないだろうか。
「……でも、もしかしたら、王様が純粋に《滅びの王》を警戒していたって、おかしくは無いんじゃないかい?」
「だからと言って、王様の一存で国を動かしてまで、国境を封鎖するなんて出来ねえんだよ。そんな権限が許されてる訳じゃねえ。王室関係者を納得させるだけの材料、それに官僚の口添えも無けりゃ、国境に厳戒態勢敷けねえだろ。国境を塞ぐって事は、国益にも多大な影響が出るだろーし、色んな面で負の方向にしか働かねえ。そんな考えを王様だけ、もしくは官僚だけ、王室関係者の何者かだけが持っていても意味がねえ。その全員が動いて初めて、国境に厳戒態勢を敷ける状態に成り得る訳だな~」
 ……こいつ、実は頭が良いのかい?
 あっさりと納得させられて、ちょっと頭にキたけど、確かに正論だ。間違いもウチじゃ見つける事が出来ない。
 惚けた顔して、こいつ……凄く切れる奴なんじゃないかい?
 思いつつ、尋ねてみる。
「それで、そんな敵陣真只中に練磨と崇華を置き去りにして、あんたは何してんだい?」
「足おせー奴の観察」
「ぶっ殺すよ!」
「……あ」
 玲穏がふと顔を上げ、それから面倒臭そうに湖太郎の毛の中に頭を埋めた。
「……何だい? 何か遭ったのかい?」
「ん~……大した事じゃないんだけどよ……」
「あん? 便所かい?」ちょっと皮肉っぽくウチ。
「スイカの奴、メンマを見失ったって」あっけらかんと玲穏。
 すっ転ぶウチ。
「おおああ!? 大変じゃないか! どうすんだい? 崇華も何やってんだよ、あの子ったら……!」
「仕方ねえから、一旦ヤサイと合流だな。……その前に、うぜー奴が来たけど」
「え?」
 走っていると、国境の《津波の長城》から歩いてくる影を、ウチも視認した。
 葬式中みたいな真っ黒な服装に、白い帽子を被り、顔には猫の面、手には黒い杖。そんな男がこちらへ向かって歩いて来ていた。
「いやーどーもー。矛槍君、またまた逢いましたね♪」
「逢いに来たんだろー?」
「あははは♪ そうとも言いますね?♪ ――そちらの方は、初めてですよね? 間儀さんとは別人のようですが……矛槍君も隅に置けませんね~♪」
「中央がどこか分かんないけどな」
 ……何だろう、この緩々の会話は。
 妙に脱力しつつ、……男の隙の無い体勢を見て取った。
 戦い慣れしてる、と即座に気づけた。それに、……嫌な感じだ。純粋に敵意が無くて、でも敵対してて……おかしな気分だ。
「そこでですが矛槍君。僕は最近、不思議な体験をしたのですよ」
 世間話でも持ち掛けるように、男は小首を傾げつつ気安く話し掛ける。
 玲穏は心底どうでも良さそうに、湖太郎に「進め」と命令を出し続けていた。湖太郎は湖太郎で懸命に命令に逆らっていた。頑張れ、湖太郎! と今だけ心の中で湖太郎を応援してみるウチ。
「矛槍君は信じられますか? ――死人が蘇ると言う事を」
「死人以外に何が蘇るんだろうな?」
「実はですね、僕の友人様が不思議な事を言い出しまして、気になったのですよ。『《滅びの王》様は死んでいない、まだ存命してる』……ああ、話し忘れてました。僕、以前に《滅びの王》様を殺してるんですよ。殺した筈の人がまだ存命してる……そんな事、有り得るのでしょうか? 僕には未だに信じられないのですよ」
 ……《滅びの王》様を、殺した?
 ……練磨を、殺した?
 なのに、練磨は生きてる。確かに、それは不思議だ。いや、有り得ないだろう。
 死人が蘇るなど、有り得ない。
 だけど現に練磨は生きてウチに逢った。それだけじゃない。教会で寝泊りしたし、鬼を退治しに遺跡にも赴いた。
 と言う事は……考えられるのは、男が殺した人物が練磨じゃないか、男の言ってる事が虚偽か。
「そんな与太話を聞かせに来たのなら、お門違いだぜ~? 帰れよ」
 玲穏の口調に労わりは欠片も無い。突き返すように、歯に衣を着せない言葉で薙ぎ払うだけだ。
 男は猫の面のせいで全く表情が掴めないまま、小首を傾げつつ杖を地面に何度も突いて、まるで踊るように足を踏み鳴らし始めた。
「おかしいですね~? ならば何故、さっき練磨さんの話をしていたのでしょう? 死んだ方の話をしているにしては白熱していたように思えますが?」
「死人の話で白熱してたんだ。な、シシトウ?」
「な訳有るかいっ!」
 ――っと、思わず突っ込んでしまった。
 視線を男へ向けると、猫の面の中から、くぐもった笑い声が聞こえてきた。
「お嬢さんは正直な方ですね♪ ……さて、矛槍君。お話、お聞かせ願えませんか?」
「あんたに話す事なんざ腐ってもねえ。帰れっつってんだろーがよ。だろ、シシトウ?」
「そこでウチに振るのっ!? 何でそこでウチに振るのっ!?」
「だって……なぁ、黒イチゴ?」
「そこで僕に振るのですか? はてさて、僕にどのような返答を期待してるのやら」
 てか、あいつの名前、黒イチゴってんだ…… 
 そこに驚きを覚えるウチだった。
「因みに、僕の名前は黒一です。何度申したら覚えてくれるのやら」
 あ、黒一ってんだ。
「邪魔すんなら、斬って捨てるけど?」
 湖太郎から飛び降りつつ、玲穏が黒一に歩み寄る。
 黒一は杖を突いてから玲穏を見据えると、
「――出来ますか?」
 挑発的に一歩前へ歩み出る。
 二人は肉薄し、――玲穏が背中の長刀に手を掛けた!
「じゃあ、テメエは地獄逝き決定だな――っ」
 長刀を抜き様、――刃を叩きつけるように黒一に振り下ろす!
 確かあの技は――〈鉞の下ろし〉!
 黒一は杖でそれを受け止めようとし――、咄嗟に背後へ一歩分跳び下がった! その反応は正しい。あのまま玲穏の〈鉞の下ろし〉を喰らっていれば間違いなく杖が折れていただろう。それだけの威力が、あの一撃には含まれていた。
 ――だが、一撃を躱しても玲穏の攻撃は止まない!
「――――っ、」
 続けて玲穏は長刀を地面に叩きつけ、地面に皹を走らせる程の太刀風を発生させ、それが一直線に黒一へと走る! 後方に跳ぶだけじゃ躱せない二撃目だった!
 ……だが、
「――中々の腕になりましたね、矛槍君?」
 太刀風――〈地崩這駆〉をも躱し、黒一は杖を振り被って、玲穏へと駆ける! 距離が殺され、杖が玲穏に――っ!
 ――当たる瞬間、玲穏も長刀を振り上げ直して、何とか受け止め、――流して次の攻撃へと立て続けに走る!
「ふッ」
 長刀と杖が交差した次の瞬間には、玲穏が杖を弾き、その間に生まれた空間に、無理矢理長刀の刃を割り込ませ、横薙ぎの一撃を繰り出す!
 黒一は後方に流されつつ、玲穏の横薙ぎの一撃を躱し、――横薙ぎの攻撃の際に生まれた太刀風も杖で受け止め、次の瞬間、杖で地面を突いて跳び上がり、大きく跳躍して玲穏を跳び越えると玲穏の背後を取る!
 玲穏は眼ではなく気配でだろう、黒一の曲芸師じみた動きに追いつき、横薙ぎに振り被った長刀の反動をそのままに、背後に立った黒一へと振り抜く!
 杖と長刀が噛み合い、火花が散る!
「……流石に、時間と言うものは人をあらゆる意味で『進ませ』ますね」
「素直に強くなったと言えよ。自覚は無いけど」淡々と玲穏。
「成長はしてますよ。……確実にね」猫の面の奥から黒一。
 そんな次元じゃない。この二人の剣技は、……きっとウチを超える。
 でも、ウチが超えられない次元じゃ――ない!
「……こんな所で時間喰ってる場合じゃねえんだけどよ?。……まだ邪魔するつもりか、黒イチゴ?」
「黒一ですよ♪ 邪魔をしてるつもりは御座いませんよ。僕はただ、本当の所を聞きたいだけですよ。話してくれませんか? 練磨さんの事、――《滅びの王》様の事」
「シシトウ~。お前、先に行け。オレがこいつを惹き付けておくから」
 玲穏は長刀を持ち直しつつ、ウチに告げる。
 そうだ。こんな所で時間を喰ってる場合じゃない。急いで練磨を探し出して、合流しなければ。鷹定も止めないといけない。時間が足りないんだ!
 ウチは頷いて駆け出す。――と、黒一が猫の面をウチに向けて、向けるだけで視線を玲穏に向け直した。
「こういう時に折敷さん達がいてくれれば助かるんですが……無い物ねだりは無意味ですよね。仕方ありません。矛槍君。君だけでもここで足止めさせて頂きますから」
「任せろ。あんたの地獄逝きだけは決定してる」
 ――また玲穏の長刀と黒一の杖が衝突する!
 何度も何度も、間隙すら与えずに斬り合う!
 それをウチは――!
「――何の真似ですかな?」
 長刀を躱しつつ、ウチの槍を杖で弾いた黒一は、不思議そうに声を上げた。
 ウチは弾かれた槍――雲峰の合間を縫うように小太刀――槍居で空を斬る!
 黒一は流石に受け止められないのか、数歩下がって走り来る槍居の斬撃を躱した。
 玲穏が面倒臭そうにウチを見据え、長刀を背負うように構え直す。
「行けっつったろー?」
「あんたに見せ場を取られたくなかったんだよ。……こいつは練磨の敵なんだろ? なら、ウチの敵でも有るんだよ。そんな奴を見す見す見逃す事は出来ないだろ?」
「変な奴~」
「あんただけには言われたくないけどね!」
 二人で言い合っていると、黒一が杖で肩を叩きつつ、やけに疲れたような溜め息を零した。
「二対一、ですか……矛槍君だけでも実力は充分僅差なんですが……このままだと僕、負けちゃいますね?♪」
「だったら、退きな。追わないでやるから」
 ウチが雲峰を突きつけて宣言すると、黒一はおかしそうに笑い出した。
「あっははは! 何とも気の強いお嬢さんだ♪ ……そうですね、ここは退かせて頂きましょうか。これ以上戦っても、僕の命の危険すら感じられますからね。残念ですが、今日はこの辺で退かせて頂きますよ」
 そう言うと黒一は恭しく礼をして、――背中を向けずに、後ろ歩きで去っていった。
 幸い、黒一の去った方角は国境とは反対方向で、ウチらはようやくホッとできた。
「……今の奴が、【世界の終わり】なのかい?」
 ウチは小太刀をしまい直すと、玲穏に尋ねた。
 玲穏は長刀を背中の鞘に戻すと、どうでも良さそうな顔で湖太郎に跨った。
「さぁーな。……だけどまあ、そうかも知れねえな。そんな奴だろ、あいつ」
「ンな適当で良いのかい……」
「ほら、速く走れ走れ。無駄に時間喰っちまってんだから」
「分かってるよ!」
 全速力で駆け出して、ふと背後に視線を向けると、そこにはもう、黒一の姿は無かった。

【後書】
 と言う訳で二回目の八宵ちゃん回でした! いやー、走るって愉しいよね!(息も絶え絶えで)
 ミャリ君がね、この人実は頭良い…って設定で綴っているんですけど、よくよく読み返したらこの子、台詞の端々にもそういうのが滲み出てると言いますか…ああ言えばこう言うと言いますか…w
 とにかく今回のミャリ君の言い回しが好きだって話です! そんなこったで次回も八宵ちゃんのターン! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    八宵ちゃん!八宵ちゃん!!よくぞご無事でvv
    マラソン楽しいね!!(;´ρ`) グッタリ

    ミャリ君実はできる子なんです!
    ちょっと斜に構えてる感じでかっこいいじゃないですか。
    全く隅に置いておけませんw中央にド━━━(゜ロ゜;)━━ン!!

    黒一さんとの戦闘シーンかっこよかったですv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      よくぞご無事で!ww ってグッタリしてるぅ!ww

      そうなんです! ミャリ君実はできる子なんです!w
      ですです!wカッコいいですよね!!
      中央にドーンwwww

      やったぜ!┗(^ω^)┛ 戦闘シーンを褒められるの嬉し過ぎマンです!!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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