2019年3月30日土曜日

【ベルの狩猟日記】087.イルム【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第87話

087.イルム


 ずぅん……ずぅん……と、砦全体を揺さ振る震動が徐々に大きくなるに連れ、エリア2で待機するハンター達の間に俄かに緊張が走る。エリア2に限らず、砦は周囲を霧に覆われ、視野があまり利かない。その中で、遠雷のように響く地面を踏み締める音と、それに伴う震動に、恐怖を覚えぬ者など絶無――
「にゃーっ、ワクワクするのにゃ! 早くラオシャンロン、来にゃいかにゃ~♪」
「まぁ落ち着けってザレア。――俺が一番に殴るんだからな!? 順番間違えんなよ!? 俺が一番だぞ!!」
 ――の筈だったが、二名ほど別の意味で落ち着いていない。
「……なぁ、あんたら、怖くないのか……?」
 何と無く敬語は要らないような気がしたイルムは、ギルドナイツ騎士長、並びにその愛弟子に向けて溜口を利くが、二人とも全く意に介さず応じる。
「だって、初めてラオシャンロンを見るのにゃよっ!? ワクワクせずにいられにゃいにゃっ!!」
「イェア! 一番に射撃・砲撃するのは許すが……奴を最初に殴るのは俺って決まってるんだ!! ウオォォォォ!! 燃えてきたぜェェェェッ!!」
 と、突然発狂したのかと思う程の喚声を上げるヴァーゼ。思わず顔を顰めて耳を押さえる間に、何故かギルドナイトスーツを引き毟り、上半身裸になるヴァーゼ。
「何してんすかあんたァ!?」思わずツッコミを入れざるを得ないイルム。
「ハァハァ……ん? いやもう、ラオシャンロンがすぐそこまで来ていると思うとよォ……体の底から熱が込み上げてきてよォ……もう我慢できねェんだよォォォォ!!」
 ばりーんっ、と筋肉の蠕動だけでギルドナイトスーツを完全に粉砕するヴァーゼ。その下から現れたのは、一枚のフンドシだけ。もう殆ど全裸である。
「ふぅ……よし、いっちょ体を温めるか! ザレア!! 無限スクワット始めるぞ!!」言いながら既にスクワットを始めているヴァーゼ。
「はいにゃ!! あ、イルム君もどうかにゃっ? 一緒にやらにゃい?」隣で仲良くスクワットを始めるザレア。
「いや、遠慮しとく……」思わず視線を逸らしてイルム。
 エリア2には何故か、ラオシャンロンの闊歩音とそれに伴う震動の他に、二人のハンターが発する呼気が響き始めた。勿論周囲に屯する待機組の剣士達は皆、物凄く気まずそうだ。
「うぅ……何か凄く気まずい……」
 同じパーティの仲間と言う事もあり、気まずさMAXのイルムは赤面して二人からこっそり距離を取る。
「ふっ、ふぅっ! まだまだ準備体操が足りねェぞザレアァ!! もっとだ!! もっと熱くなれよ!!」
「にゃっ、にゃっふぅっ! だったら師匠! ガチ組手をするしかにゃいにゃっ!」
 十分ほどで二千回近くのスクワットをしておきながら、まだやり足りないと吐かし始めるヴァーゼに、同じく十分ほどで二千回近くスクワットをしたザレアが提案したそれは、良からぬイメージしか湧かない単語だ。
 イルムは「いや、もう充分、熱くなってるよ! 寒中水泳でもそんなにしないよ!!」と必死にツッコミを入れるが、二人とも全く聞いていない。
「ガチ組手か! なるほど……あれなら確かにガチで熱くなれそうだ!! だがなザレア……死んでも、文句は言うなよ?」
「にゃっふっふっ……遂に師匠を越える時が来たのにゃ! 覚悟にゃーっ!!」
 そう言って始めたのは――両者共にモンスターを狩るために使う武器を使った、マジバトルだった。
 ヴァーゼは大長老の脇差を鞘から引き抜き、一切の加減も無くザレアへと突っ込む。洗練された動きに躊躇の色は絶無。本気で殺しに掛かっている。
 対するザレアもデッドリボルバーを引き抜くと、脇に抱えるように力を溜め込み、ヴァーゼの突きを紙一重で躱しつつ、溜め込んだ力を解放するようにデッドリボルバーを振り上げる。ブォンッ、と空気を裂く音は、モンスター相手にしても尋常ではない膂力が込められている。
 一撃でも当たれば即死――そんな危険を孕んだ組手が、何故かラオシャンロンを待機する狩場で勃発した。
 敢えて端的に言おう。――理解不能である。
 ラオシャンロンが侵攻しつつある中、突然二人してモンスターを狩猟するための武器を持ち合って殺し合いを始めたのだ。ハンターとして以前に、人間として色々間違っていると言わざるを得ない。
「ちょちょッ!? 何やらかしちゃってんだあんたら!?」
 ツッコミを入れるが、手は出せないイルム。周囲の凄腕ハンターですら声を掛けるのに躊躇いを隠せないにも拘らず、イルムは敢えて中央に入り込むようにして仲裁する。片や轟音を響かせるハンマーを振るい、片や大気すら切り裂かんと太刀を振り回している。その只中に飛び込む様は“勇者”以外の何者にも映らなかった。
 その場に居合わせたハンター全員の脳裏にイルムの絶命が過ぎった――が、現実にはその妄想が履行される事は無かった。
 ピタリ。イルムはヴァーゼとザレアの手首を握り締め、動きを完全に止めたのだ。その行動に周囲の凄腕ハンターだけでなく、先刻まで争っていた二人の変人も動揺を隠しきれなかった。
「ラオシャンロンがもう目の前まで来てんのに、何だっていきなり殺し合ってんだよ!? ちょっと頭を冷やそうぜ!?」
 イルムの諫言が朗々とエリア2に響き渡る。その時点でイルムは自分が注目の的になっている事に気づいた。顔を紅潮させ、慌てて周囲に向かって頭を下げまくる。
「すすす済みませんッ、何でも無いんですッ、皆さんは持ち場に――」
「――兄ちゃん、おめえ、すげえな」「何だ、今の……?」「不覚にも動きが見えなかったぞ……!!」
「――戻って頂けると……え?」
 不意に掛けられた言葉に顔を持ち上げると、周囲の凄腕ハンターが感心したような面持ちで自分を注視している姿が視界に飛び込んできた。併も、先刻までの疎外感を与える余所余所しい視線ではなく、尊敬や憧憬を孕んだ、熱い視線が大半を占めていた。
 イルムが訳も解らず困惑していると、大長老の脇差を鞘に戻したヴァーゼが、驚き冷め遣らぬ表情で肩を叩いてきた。
「ヴァーゼ?」振り返るイルム。
「いや、お前よォ、ハンターの全力の攻撃を止められるか普通? どんな反射神経してんだよ」
 ――そうなのである。ハンターが繰り出す攻撃とは即ち、強靭な生命力を誇るモンスターの息の根を止める程の威力を有している。速度も然る事ながら、その威力は暴力の権化たるラージャンには遠く及ばずとも、同業者であるハンターでも制止する事など不可能だ。
 そしてタイミングも絶妙と言えた。あと僅かでも遅れていれば、イルムの体は両断されていたか弾け飛んでいたか……何れにせよ、即死だったに違いない。
 イルムはキョトンとしていたが、遅れて頬をポリポリと掻き始める。
「いや……てか、ハンターって普通、この程度の事は……」
「出来ねーよ。――で? どんな鍛練積んだらこんな事出来るようになるんだよっ?」
 言うまでも無く、ヴァーゼの瞳には爛々と眩い光が点っていた。新しい玩具を見つけた子供の目である。イルムはどう反応すればいいのか困ってしまい、今度は後頭部を掻きながら呟きを落とす。
「鍛練って……おれっちの村の近くって、ランゴスタとかカンタロスが繁殖期になると大量に発生するんだよ。あいつらの挙動って、よく見るとパターン有るだろ? それを見極めて素手で捕まえるよりは、この方が何倍も楽だと思うけどなぁ……」
 イルムが苦笑混じりに言を投下すると、その瞬間、エリア2はラオシャンロンの足踏み以外の音が消滅した。「うわ、おれっち、何か変な事言ったか……?」と恐る恐る周囲のハンター達の顔色を窺うように怯え始める。
「――すっげぇなイルム!」
 音が消えた世界に、ヴァーゼの喉から発せられた爆音が木霊する。
 思わず周囲に集まっていたハンター達が両耳に手を当ててしゃがみ込む中、ヴァーゼは瞳を爛々と輝かせてイルムの肩を叩く。イルムは突然の咆哮に呆然としていたが、恥ずかしそうにヴァーゼの手を振り払う。
「何が凄いんだよっ、こんなのハンターなら誰でも……」
「ンな訳ねーだろッ! ランゴスタを素手で捕まえるだァ!? 確かに奴は武器を使えば数撃で木っ端微塵だがな、あのスピードを素手で捕捉するなんざ、ハンターでもいねーよ!」
 ヴァーゼの発言に、周囲のハンター達が頻りに頷いている。
 ――ランゴスタ。甲虫種に分類されるこのモンスターは、巨大な蜂を連想するとイメージが掴み易い。あらゆる狩場に存在する生命力の高さ、そして繁殖力の強さで、ハンターの周囲を付かず離れず飛び回り、ここぞと言う時に麻痺毒の針を刺しに来る。ランゴスタの些細な一撃で、飛竜の攻撃をマトモに浴びて戦線から離脱せざるを得なくなったハンターは少なくない。ハンターが忌み嫌うモンスターである。
 そんなランゴスタだが、あくまで甲虫種――巨大化した虫に過ぎないので、ハンターから武器による攻撃を受けると、二・三撃で粉々に砕け散ってしまう。そこで、狩場や目的となる大型モンスターによっては、エリア内にいるランゴスタをある程度、殲滅してから狩猟を行うハンターも少なくない。ただ、ランゴスタの動きはどんなモンスターよりも機敏――地上最速を誇るキリン程ではないにしろ、宙を舞う生物の中なら一・二位を争う程である。
 近接攻撃が専門の剣士は勿論の事、遠距離攻撃を主とするガンナーですら手を焼く厄介者――それがランゴスタなのだ。それを素手で捕まえるなど、前代未聞である。
「イルム君、凄いのにゃ! 今度オイラも挑戦してみるのにゃ!!」
 何故か〈アイルーフェイク〉の瞳の部分が輝いて見えるが、錯覚だと言い聞かせるイルム。彼は苦笑を滲ませつつ、周囲に群がるハンターの視線が一変した事に気づいた。先刻までの視線――疎外感を感じさせる余所余所しさが消え、羨望とはいかないまでも、“イルム”と言う存在を認めてくれたような、温かさを感じさせる視線になっていた。
 イルムはそれをこそばゆく感じながら、頭を掻いて照れ隠しをする。
「――つまりだ。ランゴスタを素手で捕縛する術を身に付けたら、ハンターの繰り出す攻撃を見切れる上に、的確なポイントを衝けるようになる……と。――くはッ、堪らねェ!! ゾクゾクしてきやがるぜ!!」
 隣でブツブツ呟いていたと思うと突然、体を震わせて嬌声を上げ始めるヴァーゼに、違う意味で背筋がゾクゾクするイルム。大丈夫か、この人……とツッコミを入れそうになるが、敢えて口内に押し留めた。
 やがて、ラオシャンロンの姿が朧気に見え始めた――――

【後書】
 自覚無しの最強系って好きでしてな…(突然の告白)
 実際ランゴスタの動きを見切れたら狩猟楽だろうな~ってすんごい思いますw 未だに密林とか樹海とかで邪魔された時の恨み忘れてないからなワシ!ww
 さてさて、そんなイルム君の実力も測れたところで、いよいよラオシャンロン戦です! 次回もお楽しみに~♪
■追記
 そう言えばPixivでも追い駆け配信を始めました! 可能な限り毎日更新しておりますので、良かったらそちらもどうぞ~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    m(_ _;)m

    敢えて端的に言おう。――理解不能である。
    これがすべてだっっっ!!

    そしてイルム君です。もしかしたらこの子も理解不能なのかも…
    二人の組手を止められるなんてまさに理解不能!
    それの凄さを全く気づいてないなんてこれまた理解不能!
    わたしの頭の上には?マークいっぱいです♪

    いよいよラオシャンロン戦なのか?

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ( ´∀`)b

      これがすべてだっっっ!!www
      確かにもうそれ以上の言葉が必要無いですよね!ww

      そうにゃんです!w イルム君もね、この物語で主人公を張れると言う事は即ち!! 
      そういう事なのかも知れませんね!ww

      いよいよラオシャンロン戦…なの、か?ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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