2019年4月10日水曜日

【滅びの王】76頁■神門練磨の書20『活路』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/16に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第77話

76頁■神門練磨の書20『活路』


「……でも、もう時間が無いですよ。明日には、菖蒲は《贄巫女》の儀式に出る予定ですから」
「分かってんだけどよ……でも、ここから出ようにも、何も無いしな……せめてスプーン……いや、メスでも有ったら……」
「そんなの無いです」
「だよな~~ああ~~どうしよ~~……」
 本気で悩み出したけど、案が浮かばない。
 この牢獄から今すぐにでも脱出して、鷹定と合流せねばならないのに……合流さえ出来れば菖蒲を保護できるし、《贄巫女》の儀式も止められるし……一つ問題なのが、それによって王国と敵対する関係になる事だけど……そんなの後回しだ。今は今を生きる。それが大事なんだっ。
 段々と頭の熱も冷えてきて、少しずつ冷静に物を考えられるようになってきた。
「……そうだ。咲希!」
「そんな叫ばなくても聞こえてるわよ! ……で、何?」
 フヨフヨ浮かんでる妖精を見据えて、
「〈魔法〉の使い方、教えてくれよ」
 と、訊いてみた。
 咲希は黙考してから、……空中で足と腕を組んで、オレを見据えてきた。
「……〈魔法〉の力で脱しようって考えてるのね?」
「ああ。今こそ《滅びの王》の力を使うべきだろ? こんな時くらい使わないと、何のための王なのか分かったもんじゃねえぜ」
「あんた、《滅びの王》にはならないんでしょ?」
「《滅びの王》になるならないと、力を使う使わないは別問題だろ。……それに、こんな所で殺されちまうなら……《滅びの王》にならなくても、自分の身くらいは自分で守りてえんだよ」
「そ。……ま、あたしが何を言っても聞かないだろうしね、あんたは」
 よく分かっていらっしゃる。
 咲希は「全く……」と呆れ気味だったけれど、それでも話をしてくれた。
「因みにあんたの使える〈魔法〉は、未だに不明瞭な点が多いわ。何でも出来るだなんて思わないで頂戴」
「あれ? 前の話じゃお前、《滅びの王》の力は『全ての術式の理解』とか言ってなかったか?」
「理解できても使えるかどうかはあんたに掛かってる、って言いたいの。自転車の乗り方を理解してても体が追いつかなきゃ意味が無いでしょ? それと同じよ」
 ……確かに自転車で例えるなら、車の仕組みが分かってても、必ずしも運転できるとは限らない、と言う事だろう。
 なら、それを教えてくれれば良いのでは?
「……〈魔法〉ってのは、或る意味『感覚』に近いものだから、そう簡単には使いこなせないと思うわ。……それに、あんたを見てて思ったのは、『全て』の術式を理解できるんじゃなくて、もしかしたら一部なのかも知れない、って事」
「はあ? お前が一番初めに『全ての術式の理解』って言ったんじゃねえかよ?」
「……あたしは暦ちゃんみたいに完璧じゃないの。色々考えて、もしかしたら違うんじゃないかって思い至っただけよ。あたしだって間違い位するわよ!」
 ぎゃ、逆ギレだ…… 
 ま、まあ、咲希が完璧じゃないのは、オレだって分かってる。そこを責めても詮無い事だ。それに、そんな事で咲希と喧嘩なんてしたくないし。
「じゃあ、どれ位の〈魔法〉なら使えるんだ、オレ?」
「……取り敢えず、〈器石〉を〈附石〉に変えるだけの力は確認したわ。それだけは確実よ」
 つー事は、だ。
「〈器石〉が有れば、ここを脱出できるッ!?」
「有れば、ね」
「はい……」
 見た所、何も無い牢獄で、道具袋も没収されて、何が出来ようか!?
 困り果てて鉄扉を叩いてみるが、……反応が返ってくる訳も無く。
「咲希」
「何よ?」
「〈魔法〉、試してみようぜっ? もしかしたら、使えるかも知れねえじゃん!」ちょっと興奮気味にオレ。
「まあ……ね。じゃあ、足掻いてみる?」ふふんと鼻で笑う咲希。
「せめて『努力してみる?』とか言ってくれよ……もうダメみたいじゃんか、それ……」悲しげにオレ。
「つべこべ言わない! ……じゃあ、初歩の〈魔法〉が使えるかどうか試してみましょう? ……そうね、まずは物を動かす力から」
 言われて、咲希を見据え直す。
「つー事は、サイコキネシス?」
「〈念力〉の事よ」
「同じ事だろ!」
「まあ何でも良いから使ってみなさい。……じゃあ、簡単な物からいきますか。ここに在る物を使って……使って……って、何も無いじゃない!」
 見りゃ分かる!
「どうするのよ!? 何も動かせないじゃない!」
「……あの、何故に咲希さんがキれてらっしゃるのでしょう? 寧ろ、ここはオレが……」
「お黙り!」
「はい……」
 強気の咲希には勝てん……つか、もしかしたら最近のオレが弱ってきてるのか?
 分からないけど、無理に逆らわない方が良さそうな事だけは、経験上、何と無く悟れた。
 咲希がブツブツと何か唱え出したのを機に、オレも牢獄内を見回してみる。
 本当に質素な部屋で、何も無い。……脱出しようにも、道具のような物が無ければ、意味が無いんだよなぁ…… 
 思いつつ、ふと視線を鉄扉に向けて、考えた。
「……なぁ、咲希」
「何よ!」まだ怒りの抜けない咲希。
「物を動かす力……ってのは、どんな物でも動かせるのか?」少しビクついてオレ。
「はあ? ……まあ、慣れれば、ね。熟練の《魔法使い》なら、大岩でさえ念じるだけで動かせるって話だし」半分どうでも良さそうに咲希。
「じゃあよ。思ったんだけど……この扉の、錠の部分だけを動かすってのはどうだろう?」
 錠が掛かってるのは、鉄扉を動かしても開かない事から分かってる。だから、その見えない錠をオレの力で動かす……と言うのを思いついた訳だ。
 咲希は一瞬、毒気を抜かれたような顔をし、それから暫く無言で顎に指を添えていると、やがてオレを見て頷いた。
「悪くないと思う。やってみればいいわ。……でも、見えない物を動かすなんて、相当の技術を要するわよ?」
「要するも何も、今しなきゃ、どうしようもないだろ? やれるだけの事はやっときたいんだよ」
 そう言ってから、咲希を見て尋ねた。
「教えてくれ。〈魔法〉の……〈念力〉の使い方ってのをさ」

◇◆◇◆◇

 念じる……心の中で、「錠よ動け!」と思い続ける…… 
 だけど、現実では何も起こらない。当然だ。それこそが世界、それこそが現実。
 有り得ない力。それが――〈魔法〉。それをオレは今、念じるだけで使おうとしている。傍から見ればバカそのものだろう。
 それでも、やるだけの事は、やっておきたい。
「う・ご・けェェェェ!」
 念じるだけじゃなくて言葉にも出して、意識を集中させる!
 ハァァァァ、と呼気も加えてみる。
 ……が、まるで微動だにせず、鉄扉は誇らしげに佇んでいる。
「ハァァァァ……はぁ、咲希。全ッ然動かねえんだけど」
「……〈魔法〉の術式が理解されてる状態で、念じても動かないのなら異常だけれど、見てると、あんたの場合、単純に術式が組み込まれていないみたいね」
「マジかよ……」
 これで、オレの一時間程の労力は、水泡に帰した…… 
 疲れ果てて、オレは牢獄に寝転がった。念じるだけで開く程、鉄扉はやわに出来てないって事か。
「咲希、これからどうするんだよ? このままじゃ《贄巫女》の儀式が始まっちまう!」
「あたしにそれを言った所でどうしようもないでしょーが! そんな事言ってる暇が有るなら、少しは考えなさいよ!」
 逆に叱られたので、オレは素直に黙り込む。
 そうだぜ、エキサイトしてる暇は無いんだ! 今こそ冷静に、冷静に……って出来るかァァァァ! 冷静に考えて何も思い浮かばないからこんなに困ってるんだろうがァァァァ!
 悶々と考えてる時間が長かったからだろうか、頭が完全に熱で沸騰してる。
 ここは一度、頭を鉄扉にぶつけて、落ち着くのを試してみるべきか!?
 ――と、不意に考えを止めて、呼気も静めてみると、隣の部屋から、小さな音が聞こえてきた。
 こつ……こっ、……こち…… 
 小さな、何かをぶつける音で、オレは何をしてるのか連想してみた。
 壁を指で叩いてる? ……それにしてはやけに硬い音だ。
 鉄扉を手で叩いてる? ……いや、明らかに音が違う。
 床を爪で叩いてる? ……もっと硬そうな音だ。
 答が分からないから、回答を求めてみる事にした。
「菖蒲? お前何してんだ?」
「扉を叩いてるです」
「何で?」
「石です」
「石?」
「はいです」
 どこにそんな石が?
 もう一度部屋全体を見渡してみるが、……ダメだ、どこにもそんな石は落ちていない。
 でも、菖蒲の所に有るその石が有れば、脱出も不可能じゃなくなるかも知れない!
「その石で扉、壊せそうか?」
「それが……無理そうです。ピクリともしないです」
 当然か。石なんかで鉄扉が壊れたら、牢獄の意味が無い。
 それに、オレがその石を使って扉を壊そうと思っても、きっと先に壊れるのは石の方だろう。
 打つ手無しか、と思ってまた寝転がると、――隣の部屋に続いてる穴が見えた。奥は流石に角度の問題が有って見えないけれど、手を伸ばせば何とか握り合えるんじゃないかって思えた。
「……菖蒲」
「はいです」
「その……石をこっちに渡してくれないか? そこの穴を使って」
「はいです」
 穴から女らしい細い指が見えた。手には石が握られていて、オレは小さな穴に手を伸ばして、何とか石を受け取る。
 引き摺り出すと、――その石が〈器石〉だって事が分かった。
「コレって……! 菖蒲、コレをどこで?」
「菖蒲の首飾りに付いてたですよ。少し大きかったから、使えないかと思ったです」
「これ、〈器石〉だよ!」
 触ってみて、何が普通の石と違うんだと言われたら少し応え難いけれど、何と無く分かる。これが、〈器石〉だって。
 一応、咲希に確認を取ってみた。
「……嘘みたいだけど、あんたの言う通り、〈器石〉だわ」
 オレの勝ちだった。
 これで、ここから脱出できる!
 オレは〈器石〉に力を込めるように念じる…… 
「やっぱり……単純なのが良い……壊す……いや、〈ぶっ飛ばす〉が良いな……」
「……あんたにはそれしかないの? ……単細胞」
 どこからか酷い罵倒が聞こえたけれど、敢えて聞き流してやろうじゃないか。
 念じ終えたオレは、拳に石を握り締めると、――思いっきり鉄扉を殴りつけてやった!
 バカッ、と鉄扉が内側からぶっ飛ばされて、すぐに向こう側の壁面に激突し、大きな音を立てて倒れた。
 隣の菖蒲が息を呑む気配を感じつつ、オレは牢獄を脱した。
 出ても、石の壁面が続く牢獄が並び、やけに狭い廊下が奥まで続いているだけで、風景の変化は乏しかった。
 取り敢えず、隣の牢獄にまで移動して、
「菖蒲~、扉から離れてろ~。その扉、吹っ飛ぶから!」
「は、はいですー!」
 あわあわと動く音が聞こえた。「大丈夫ですー」と合図が出てから、オレは鉄扉を思いっきりぶん殴った!
 鉄扉は牢獄の向こう側に叩きつけられ、大きな音を立てて外れた。
 中には、――白い着物だけを着た女の子が座り込んでいた。
 小柄な女の子で、きっと崇華と同じ位の大きさだ。歳はオレと同じ位だろうか。黒髪は短く切られていて、女らしい男の子に見えない事も無い。クリクリした瞳は水色で、透き通っているように見えた。顔も体格も、まだまだ幼く見えて、実年齢が分からなかった。見た目だけで言えば、まだ十代半ばに差し掛かっていないように思える。崇華よりも華奢に見えた。
「あなたが……練磨さん、ですか?」
「おう、そうだ。……さあ、逃げようぜ? んでもって、鷹定に逢うんだろ? 話はそれからだ!」
 そう言って牢獄から連れ出すと、――早速迷った。
 言い訳だけど、オレここに来るまで気絶してたからなぁ。どこから来たかなんて憶えてねえぞ?
「菖蒲は覚えてるです」
 流石!
 菖蒲が先行するのを、オレが追う形になり、暫く走っていると。
「つ……疲れたです……」
「早いなッ!?」
 と思ったけれど、考えてみれば、菖蒲は一年間も牢獄の中で瞑想……みたいな事をしてたんだ。体力がガタ落ちしてても不思議じゃないか。
 オレはすぐに菖蒲の前で前屈みになった。
「乗れ!」
「え? 良いですか?」
「じゃねえと追いつかれちまう! すぐに逃げっぞ!」
「じゃあ……えいっです」
 ぴょこんっ、とオレに飛び乗った瞬間、オレは駆け出していた。
「道案内は任せたぞ、菖蒲!」
「はいです。菖蒲はちゃんと道を覚えてるです」
「オレがバカみたいに聞こえるから、その事はもう言いっこなしな!」
 走って、走って、……どれだけ走ったか分からないけど、きっと十分も走ってないんだと思う。その前に体力が尽き掛けて、倒れそうになった。
「大丈夫ですか?」
 気遣わしげな菖蒲の声を聞くと、否でも頑張らないといけない気がしてくるから不思議だ。
 ――と、視界が開けて、広間に出たんだと分かった。
 夕暮れ時だった。
 窓から差し込む光が、広間を黄昏色に染めていた。儚いような、懐かしさを覚えるような光景を見て、オレはゆっくりと菖蒲を下ろした。
「ここなら……誰か来てもすぐに逃げられそうだな」
 広間の壁に凭れ掛かり、オレはそんな結論を出していた。
 菖蒲はオレを気遣ってるのか、不安げな眼差しでオレを見据えていた。
「大丈夫ですか? 菖蒲、まだ走れるですよ?」
「……そうだな。ここからは、一人で走って貰おうかな」
「え?」

【後書】
 無事に脱出! かと思いきや、な所で次回へ!
 ところで何故菖蒲ちゃんが〈器石〉を持っていたかの辺りの設定は、一応有るんですが、この辺は物語が進行してもしっかりと明かされる訳ではなく、物語を読み進める上で「もしかしてこういう意味だったのかな…?」と妄想できるくらいの説明しか出てこなかったりします。ふんわりと「菖蒲ちゃんが〈器石〉を持っていたのには設定上理由が有る」程度の認識で思考の片隅に置いておいて頂けたらと思いますw
 さてさてまだ予断を許さない練磨君脱出編、次回はまたもぴんちに!? お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    やっぱぶっ飛ばしだよね!w
    なんでこんな都合よく〈器石〉持ってるんだろ?おっ、ヒントありました!
    読みながらいろいろ妄想しつつ楽しんでいきますよーvv

    うまいこと脱獄できたようですが、次回…またピンチなのかっ?
    なんていうか…全く凄い生き方です!wでもそれが練磨君vv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      ですです!w やっぱぶっ飛ばしですよ!ww
      ヒントもう見つけちゃいましたか!w しゅごい観察眼だ…!(感心)
      ぜひぜひ! 読みながら色々妄想して頂けるのがね、作者としての本望ですから!┗(^ω^)┛

      そうなのです、一難去ってまた一難、と言う言葉がまさに相応しい奴ですw
      ですよね!ww 全く凄い生き方です!ww でもそれが練磨君と言うのも、もうね~、愛を感じずにいられない奴です…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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