2019年4月24日水曜日

【滅びの王】78頁■葛生鷹定の書5『《贄巫女》前夜』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/19に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

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■第79話

78頁■葛生鷹定の書5『《贄巫女》前夜』


「……と言う事が遭ったです」
 一連の説明を終えた菖蒲はペコリと頭を下げると、俺をジッと見据える。
「だから、今すぐ助けに行くです。練磨さん、きっと今頃大変な目に遭ってるです」
 それは分かってる。あいつの事だ、その空殻とか言う男と張り合い、……恐らく、やられてしまっただろう。殺されていない事を祈るしかないが、その男が練磨の事を《滅びの王》と呼んでいたのであれば、……今、非常に不味い事態になりつつあるのは、間違いなかろう。
「……鷹定。ここは行くべき……いや、行かなくちゃならない、だろ? ウチは止められても行くよ。練磨をむざむざ死なせるなんて真似、ウチには出来ない」
 獅倉の言う事には、確かに俺も同感だ。
 だけど……どこかで踏ん切りが付かないんだ。
 練磨は俺の仲間だ。何も知らない世界……この世界に来て、何より俺を信じて、付いて来てくれた。自分が《滅びの王》と言われても、未来を疑わずに前に進んでいた。そんな奴を、ここで死なせる訳にはいかない!
 ……分かってるんだ、そんな事は。それでも俺は、練磨を今すぐに助けに行けずにいる。
 自分が最低だって自己嫌悪しても、どうしてもどこかで踏ん切りが付かず、一歩出て行く事が出来ない。そんな自分が情けなくて、反吐が出るのに……ッ、動けない……!
「……まっ、ヤサイの目的は達せられた訳だしな」
「矛槍……?」
 俺は矛槍に視線を向ける。矛槍は何事に対しても、どーでも良さそうに、走平虎の湖太郎の上で寝転がり、俺を横になって見据えていた。
「ヤサイの目的は、アメの救出。だろ? なら、お前もう終わってるよ。後は帰って寝るだけ。他に何が有る?」
「おい、玲穏! そんな言い草……!」獅倉が苛立ったような声を飛ばす。
「……鷹定君、君はそれで良いの? 練磨君を助けたいと思わないの?」鈴懸も便乗する。
「タカさん……?」菖蒲も不安げに俺を見上げる。
「―――」
 俺は!
 ……助けたい。練磨を、腐敗した王国から救いたい!
「……俺は何のために、菖蒲を助けた?」
「は?」
「……王国のやり方が嫌になったからじゃない。《贄巫女》が【世界の終わり】と繋がっていたからでもない。……菖蒲を……、一人の女の子を、助けたかったからだ」
 全員が俺を見、俺は小さく頷いた。
「――時間が無い。練磨を救いに行くぞ」
 言って、俺は全員の顔を見渡した。
「おせーよバカ。見ろ、日が暮れた」空を指差して矛槍。
「日が暮れたのは葛生さんのせいじゃないよぅ! 菖蒲ちゃんを探してたから……! 葛生さん。わたしも、練磨を助けたいの。一緒に、頑張ろうねっ♪」ニパッとはにかむ間儀。
「そう来なくちゃな! あんな腐った鷹定は、寧ろ死んだ方が世のため人のためってね♪」残酷に笑う獅倉。
「そうと決まれば、王国に喧嘩でも売りに行くのかしら? 私、怖いわぁん♪ 鷹定君、ちゃんと私を重点的に守ってね♪」色目を使う鈴懸。
「タカさんは菖蒲を守ってくれるです。麗子さんじゃなくて、菖蒲です。ですよね、タカさん?」ちょっと脹れっ面な菖蒲。
 全員、想いは同じなんだ。
 俺だけが、ちょっと腐ってただけで……それも今、払拭された。
 待っていろ練磨。俺が……俺達が今、迎えに行ってやる……!

◇◆◇◆◇

 時刻も夕方から夜へと変わる頃、俺達は王都に在る王城へと赴いた。
「……正直信じられないのは、国を相手にする人数が、たったの五人って事よね」
 そう言って俺の腕に鈴懸が腕を絡ませてくる。……正直、歩き辛い。
「練磨と菖蒲を含めりゃ、七人だぜ?」と言うのは獅倉。
「何ならオレと練磨の二人だけで王国をぶっ潰したって構わねえぜ?」やけに自信満々の矛槍。
「ミャリ凄い自信! じゃあじゃあ、その時はわたしも混ぜてね♪」やけに嬉しそうな間儀。
 ……確かに、この一団で王国を敵に回すなんて、信じられない話だ。
 武力でも、人数でも、恐らく策略でも、他諸々全ての点で、俺達は国に劣る。それでも俺達は国を敵に回し、一人の男の子を助けに行くと言う無謀な事を止めようとしない。
 これは戦争じゃない。……喧嘩だ。国を相手取った、たった七人で起こす、些細な喧嘩だ。
 因みに菖蒲は一時的に臣叡に預ける事にした。あそこなら、王国の中でも一番安全だと、信じているから。
「でも、どこから攻略するつもり? 明日に《贄巫女》を控えた王城は、相当守備が堅牢な筈よ。真正面から行くにしても、それなりの覚悟は必要じゃない?」
 鈴懸の案には、誰もが頷いた。
 警備が手薄な昼間に比べて、夜半は否でも守備が堅くなる。ただ、昼間だと人目に付き過ぎるという難点のために、已む無く断念したのだが……それでなくても、《贄巫女》の儀式の前夜となる今日は、厳戒態勢を敷かれていても不思議じゃない。
 恐らく裏口を探しても、万全の警戒態勢で迎えられるに違いない。
 見つかってでも侵入するとなれば、強行突破以外考えられないのだが……俺には秘策が有った。
「こっちだ」
「鷹定? そっちは守衛室……」
 獅倉の忠告を無視して、俺は灯りの点った小屋……守衛が寝泊りする守衛室の一つを叩扉した。
 瞬間、全員の顔に驚愕の色が浮かんだが、俺は構わず対応を待った。
 木製の扉が開いて、中から出て来たのは、守衛の一人だった。
「――お待ちしておりました、《蒼刃》様」
「へ……?」ポカンと獅倉。
「ささ、こちらへ」
 守衛が懐中電灯を片手に出てきて、小さな裏門を開き、中へと俺達を誘う。
 背後で固まっている五人を見かねて、俺は小さく声を掛けた。
「早く来い。時間が無いんだ」
「って……鷹定? いつの間にそいつとそんなに仲良くなってんだ……?」
 獅倉が守衛の男を見て唖然としていた。
 俺は小さく笑みを零すと、今も王国のために尽くしている男の顔を、脳裏に浮かべた。
「菖蒲が助けられた後、すぐに旧友に連絡を入れておいたんだ。練磨を助けるために、な」
 俺が応えていると、矛槍が門の前まで歩いて来ていた。全く警戒の色は窺えない。
「んじゃまー、ご厚意に甘えて通らせて貰おーか」
「ちょっとミャリ? そんなパサパサな言い方じゃ、嫌な眼で見られちゃうよぅ?」
「お気になさらないでください。私は、《蒼刃》様を慕っているだけでありますから」
 守衛は直立不動のまま応えると、間儀に輝かんばかりの笑みを返した。
 ……王国にいれば、こういう奴とも、ずっと関われたんだろうに…… 
 王国を敵に回す以上、もうこれで彼と逢う事は無い。有るとすれば……戦場か。そう考えるだけで胸が痛くなる。……が、それにも慣れていかねばなるまい。既に臣叡とも縁を切ったようなものなのだ、これ以上迷惑は掛けられないし、これで終わりにすべきなんだ…… 
 王城内部に侵入した俺達は、ぞろぞろと歩いていたが、誰にも出くわす事が無く、ただ警戒心を露わにしたまま歩き続けた。
「……何で誰とも出くわさないんだい? これって……妙だよ」
 獅倉が気味悪がるのも無理は無い。
 矛槍は全く意に介さないようだったが、それ以外の者は全員同じような見解だった。
「《贄巫女》前夜だと言うのに、この兵士の配備はおかしいとしか言いようが無いわね。……鷹定君、これって……罠、じゃないかしら?」
「……だとしても、ここで止まっていられるか? ……俺達の行動が見破られていると考えれば良いかも知れん」
 これだけ兵士に出くわさないとなれば、官僚の一部が根回ししている、と言う規模じゃなさそうだ。もっと大掛かりな……王国軍全体に腐敗が広がっているのか? 
 月明かりが窓から差し込み、綺麗な陰影を描く廊下を歩いていると、――気配が三人分、感じ取れた。
「……やるか?」と訊いてきたのは獅倉。
「待て。……どうやら、守衛じゃなさそうだ」
 俺も刀――伽雅丸を握り直し、警戒して廊下の先に視線を送る。
 奥から現れたのは、青い着物を着た男だった。手には黒鞘の刀。両脇にも男が一人ずつ。どちらも刀を手に握り締めている。
「こんな夜遅くに何の用だ? 子供の来る所じゃあねえぞ?」男の一人が下卑た笑みを浮かべて告げる。
「……誰かと思えば、……誰だっけ?」矛槍が小首を傾げる。
「小ヶ田だ! 小ヶ田悟! こっちが方雲直輝で、こっちが折敷幹久!」
 ……どこかで見た覚えが有ると思えば、練磨と出逢った時に練磨を追いかけていた連中か。
 変な縁を感じてしまう。
「……テメエらを始末しろって、雇い主から命令が出てんでね。何も言わずとも殺すつもりだが……逃げてみるか? 何なら、十、数えてやっても良い」
 折敷幹久と呼ばれた男が黒鞘の刀を持ち上げて、刃先を俺達に差し向ける。その顔には挑戦的な笑みが張り付いていた。
 俺は無言で伽雅丸を構えようとして―― 
「――ここはオレとシシトウに任せな」
 矛槍が一歩前に出て宣言した。
「何でウチッ!?」
 と思わず突っ込む獅倉を無視して、矛槍は幹久に向かう。
「今度こそ決着着けよーぜ? えっと……お前誰だっけ?」
「ウチは無視ッ!?」突っ込みっ放しの獅倉。
「……テメエに覚えて貰うような名前じゃねえしな。小ヶ田。直輝。……殺すぞ」
 幹久が低い声で宣言すると、二人の男が頷いて刀を鞘から抜き放つ。
「……矛槍。任せても大丈夫なのか?」妙に不安を感じて俺。
「任せろ~。主にシシトウに」どーでも良さげに矛槍。
「だから何でウチなのッ!? そういう時は『オレに任せなっ』的な事言わない普通!?」突っ込み冴え渡る獅倉。
「さっさと行けよ~。折角シシトウが時間稼いでくれてんだから」いつも通りの矛槍。
「ウチは何もしてねェェェェ!」
 ……何だか大丈夫そうだが、大丈夫じゃなさそうにも思える。
 俺は頷くと進路変更をして《清錬場》を目指して走った。

【後書】
 あっさりと合流できた菖蒲ちゃん! いよいよ最終決戦間近と言いますか、最後のステージへと駒が進みます。
 ところでこの懐かしさ溢れる敵役の方々ですが、この人達がここにいる理由って即ち、あの方の尖兵的なアレですよね。何でしょうね、一度出した名前持ちのキャラクターは最後まで扱き使いたい欲が当時から有ったんでしょうかね…(笑)
 さてさて、いつの間にか最終話まで残り十話を数える所まで辿り着きました! 最後まで彼らの戦いを、《滅びの王》の行く末を見守って頂けると幸いです! ではでは、次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    無事合流できた菖蒲ちゃんにε-(´∀`*)ホッ
    国を相手に喧嘩を売ろうってのになんとも愉快な七人w
    なんかめちゃくちゃだけどとっても良い感じなのです!

    鷹定君、そりゃ葛藤もあると思います。
    でもやっぱりメインヒロイン!かっこいい決断ですw

    例の三人…やっぱりあの方の手先なのでしょうが、初出時はもっと小物感があったような…

    みんながんばえーvv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      だいぶカットされた感有りますが、何はともあれ無事で何よりですw
      そうなんですよねww国を相手に喧嘩を売ろうってのに、愉快な七人ですww
      めちゃくちゃだからこそとっても良いのかも知れませんな!(笑)

      鷹定君、すんごい迷ってるシーンを挟んだのは、アレです、どれだけ悩んでも、どれだけ考えても、最後の一手は、どうしても躊躇するだろうなって想いが有りまして…!
      でもやっぱりメインヒロイン!www いやー、鷹定君はやはりね、ヒロイン力の塊ですからwww(笑) かっこいい英断を最後は下してくれるのです!w

      初出時はすんごい小物感が有ったんですけどね~w 折角なら最後まで使いたい欲が出て、いつの間にかあの方の手先にまで昇進してる有り様です…w

      応援有り難う御座います~!┗(^ω^)┛ さァさァ、ここからが見せ場ですぞい!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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