■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/24に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。
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■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公
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■第81話
80頁■葛生鷹定の書5『《贄巫女》前夜』
練磨の体が、ピクンと動いた。
世界が……滅びる?
……否、そんな事は話の流れで何と無くだが掴めていた。
《冥王》がどんな奴なのか俺には分からなかったが、二十人もの魂を吸ってこの世に降臨する奴が良い奴の訳が無い。そんな奴が世界を滅ぼすと言われても、そこに大きな驚きは無い。寧ろそれを狙っているんじゃないかと先読みできてしまう。
「《冥王》の力さえ有れば、王国を滅ぼすなど一晩も掛かるまい。……やはり貴様は《滅びの王》、その運命からは逃れられなかったようだな」
くつくつと低い笑声を発する空殻。
……何が王国の繁栄だ。
何が何千万の命の平穏だ。
全てが奴の……伽藍堂空殻の計画の建前だったんじゃないか!
二十年もの間、《贄巫女》となり、若くして命を絶った女の子達は皆、王国の繁栄、何千万もの命の平穏を祈って身を捧げたと言うのに……それが全て、この男の馬鹿げた計画のためだったなんて……!
死んでも死にきれないだろう……結末があまりにも残酷過ぎる……!
「……じゃあ、オレがここで死んでも、誰も救われねえんだな?」
小さな、でも意志を持った練磨の呟き。
空殻が無表情のまま、確信を持って頷く。
「貴様は世界を滅ぼす礎となる《冥王》を降臨させるために、今ここで亡き者となるのだ」
それが答だった。
それが、――合図だった。
「――鷹定!」
練磨が叫んだ瞬間、俺は伽雅丸を抜刀――力を全て前身に傾け、重心を低くして一瞬の間に空殻との距離を殺す――っ!
空殻は俺の行動を先読みできなかったのか、一瞬の隙が生まれ――ッ、俺の伽雅丸の〈抜刃〉が空殻を――ッ、
「――ほう? これが貴様の二つ名の由縁たる《蒼刃》か。……業物と言う物を初めて見る。鈍らと然して変わらぬものだな」
「な――ッ?」
俺の〈抜刃〉は完全に決まっていた。後は、一押しするだけなのだ。
どう考えても空殻は胴体を両断されている筈だった。見た通り、俺の抜き身の伽雅丸の刃は空殻を捉え、体との距離も完全に殺されている。……にも拘らず、肉を断てずに、皮膚を斬る寸前で威力が死んでしまっていた。
これ以上、刃が進もうとしない。霊剣である伽雅丸が通さぬ物など無い筈なのに……!
俺の《蒼刃》たる由縁の伽雅丸の刃が、月光よりも青白い光を淡く湛えていた。
「私を殺せる等と努々思わぬ事だな、《蒼刃》。否……貴様もだ、小僧?」
「鷹定! ……こいつ、力を殺す力を持ってやがるんだ……っ!」
練磨がそう言うのが聞こえたが、……もう少し早くに言って貰いたかったな。
言うべき機会が無かったと言えば、それまでだが……、〈魔法〉でも掛けられているのか……?
「……さて。茶番は終わりだ、《滅びの王》よ。貴様の命は此処で潰え、世界を滅ぼすであろう《冥王》と成って生まれ変わるのだ。なに、恐れる事は無い。今思えば、小僧、貴様はこのために生まれてきたのであろうな? 漸く、本来の働きを為せる……故に、共和国の《聖女》は宣ったのだ。貴様が、世界を滅ぼす王にある……とな」
……そんなの認めない。
「……認められるか、そんな事……っ」
「鷹定……?」
「練磨は世界を滅ぼすために生まれてきたのではない! それを決めるのは、練磨自身だ! お前じゃないんだよ伽藍堂空殻!」
気づくと怒鳴っていた。
自分の人生は、自分で切り開いていくからこそ価値が有るんだ。意味が有るんだ。生きているからこそ、自分で自分の道を歩めるんだ。それを……この腐敗しきった男に決められて堪るか!
練磨は誓っていた。自分は《滅びの王》と呼ばれても、世界を滅ぼす事なんてしない。自分に課せられた運命さえも、自分で変えていくと。そう言っていたのだ。
それをこの男に壊された気がして、俺はどうしても黙っていられなかった。
「……それを証明できるか、《蒼刃》? この小僧こそ《滅びの王》と呼ばれ、世界を滅ぼさんとするために生まれてきたと予言も告げられ、そして今現在、此奴は世界を滅ぼす布石と相成り、此処に立っているではないか。それを承知の上で貴様はどう証明する? 小僧が世界を滅ぼさない者だ、と」
「……証明する必要なんて無い。俺がお前を殺せば、それで世界は守られる」
「愚かな。貴様が私を殺せるとでも? 馬鹿も休み休み申してくれぬか。貴様は万が一にも私を倒せない。それは火を見るよりも明らかではないか」
……黙れ。
お前をここで倒さねば、練磨は本当に《滅びの王》になってしまう……!
そんなの、認めない。
俺でも未来を変えられると、信じたいから……!
「刀を下げる気は無い、か……。良かろう。ならば、其処で確と見届けるが良い。この小僧が、真に《滅びの王》と相成る瞬間を……!」
――どんっ、「え――?」
そこからの映像は鈍行だった。
練磨は抵抗もせず、空殻に背中を押され、奈落の底へと押し出された。
練磨は振り返りながら、ゆっくりと上半身を傾かせ、呆気に取られた顔を見せた。
練磨の上半身の傾く角度が急になり、やがて台から足が離れ、顔が台よりも下に落ちてしまった。
練磨が視界から消えていく。
「あ――――」
――奈落へ消える瞬間、練磨が小さく呟いたのが聞こえ、――練磨の姿を見失った。
「練磨アアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッッッッ!!」
奈落へ駆け込もうとして――空殻の持っていた錫杖が俺の胴体を薙ぎ、俺の体は大きく宙を舞い、呻きながらも空中で体勢を整えると、――滑りながら着地を決める。
「ぐ、ぅ……空殻……ッ!」
「――む」空殻が俺じゃない方向に視線を向け、
「練磨ぁぁぁぁ!」
――奈落へと飛び込んで行く間儀の姿が、俺にも確認できた。
「待てッ、間儀!」
言った直後、――間儀の姿は奈落へと吸い込まれた。
……そこには、静寂しか残らなかった。
「……間儀、と言ったか。それは《悪滅罪罰》の間儀家の事か? ……くく、ならば良好。これで《滅びの王》を《冥王》に捧げると言う試行も補完される。何せ、間儀家の者は皆、清純な魂を持つと言うではないか。完璧だ、最後の最後に《贄巫女》の儀式も完了できたと言う訳だ」
長かった……と空殻がやけに懐古的に呟く。
「二十年だぞ? 二十年もの間、純潔の魂を創り続け、漸くそれが実を結んだのだ。……何とも素晴らしい時に貴様は訪れたものよのう。今を逃せばもう、二度と眼に掛ける事は無かったろうしなぁ」
……馬鹿な。
俺は腹を抱えながら、必死に思考を纏めていた。
……もう、止められないのか?
練磨を、《滅びの王》になんてさせたくない。
《冥王》を復活させた時点で、練磨は完全に《滅びの王》として死んでしまう。それだけは、絶対に許せない。
たとえ《滅びの王》になっても、世界を滅ぼさないと宣言したのに、守れない練磨。その宣言をぶち壊そうと、練磨を《滅びの王》にしようとする空殻。そのどちらも容認する世界、そして俺。全部許せない。
俺が止めねばならない。
ここで奴を殺さねば、どうしようもない。
……最後の戦いだ。俺は死んでも構わない。練磨を《滅びの王》になんかさせない……っ!
「――空殻!」
背後から強張った声が聞こえて振り返ると、――首筋に細剣の刃を突き付けられた鈴懸と、細剣を握る室崎の姿が映った。
「見ろ! 女を捕らえた! こいつを《贄巫女》に代用できないか!?」
室崎が血走った瞳で大声を張り上げる。
俺が腹を抱えたままそれを見据えていると、空殻の物憂げな溜め息が聞こえてきた。
「《贄巫女》の儀式は既に完了済みだ。その女に用は無い」
「そ、そうか。……ならば、ようやく目覚めるのだな、《冥王》が!」
鼻息も荒く室崎が叫ぶと、空殻は無表情で頷く。
「……室崎、お前も冥王の復活を……?」
俺が痛む腹から手を離しつつ尋ねると、室崎は鈴懸から細剣を離して、低く笑い出した。
「狙っていたとも。私と空殻の二人で《冥王》を復活させ、王国を滅ぼすのだよ!」
「室崎、お前は……!」痛みと怒りで俺の顔が歪む。
「そして行く行くは帝国を再建するのだ! 我らが母国を再建させ、今一度、大陸を統一するのだよ! ふははははは!」
室崎の強張り気味の哄笑が響き渡り、
「帝国の再建? 大陸の統一? ……懐かしい事を言っておるな、室崎。誰がそんな下賤な真似をすると言うのだ?」
「ははは! ――――は?」
――不意に室崎の哄笑が途絶える。
またも静寂に満たされた空間で、室崎が固まった顔のまま、空殻を見やる。
「何を、……言っておるのだ、空殻? 我らが至上の望みは、帝国の再建であろう?」
「寝言は寝てから申せ、室崎。《冥王》は王国だけでなく、大陸をも滅ぼすのだよ。……帝国の再建? そんなものに何の興味も無いわ」
空殻が無感情な眼差しを向けつつ、口許に歪んだ笑みを浮かべ始める。
「貴様の役割は、二十年の間、王室を管理する事だけだ。偏に《贄巫女》を永続させるためにな」
室崎の顔から血の気が引いていくのが見て取れた。
そして、その顔に再び血色が戻った瞬間、それは爆発する。
「謀ったのか、空殻ッ!」
「謀る? ……利用させて貰っただけだ、それ以上の働きなど固より期待しておらぬよ、室崎」
室崎の細剣が唸りを上げ、――直後、室崎は空殻へと突進していた。
「貴様ァァァァ!」
対する空殻は錫杖を下ろし、右手のひらを室崎に向けて、静止した。
室崎の細剣が空殻を捉え――
「――〈放てよ斬衝(ざんしょう)〉」
空殻が唱えた瞬間、右手のひらから見えない斬撃が飛び、――室崎の胴を薙いだ!
「己ェ……ッ、空殻……ッ、地獄に……ッ、堕ち、ろ……ッ」
呻きながら室崎が崩れ、大量の血液が台を濡らしていった。
「――さて。邪魔者は消え去るのみ。《蒼刃》に女、貴様らもいい加減失せよ。今よりこの場は聖域と化す。世界は浄化されるのだ。他ならぬ、私の手によってな……!」
「――そうは問屋が卸さねえぜ!」
――不意に聞こえてきた声に、俺も鈴懸も、何より空殻が驚いた。
辺りに視線を配り、――その出所を知った瞬間、誰もが我が目を疑った。
「小僧……!」「練磨君……?」「――練磨!」
三人が三様にその名を呼び――
「おう! 地獄の淵から戻って来てやったぞ、空殻!」
練磨は、間儀を抱き抱えて、《和冥の門》より飛んで帰還した。
【後書】
クライマックス間近なのでね、王道ファンタジーでやりたかった事、言いたかった事をふんだんに詰め込んでありますw
次回からは再び視点が戻って練磨君が何とかしてくれる…かな!? いよいよ最終決戦! 最後までお見逃しなくぅーっ!
ところでまさか令和初の更新が【滅びの王】になるとは、これも何かの縁のような気がしますw 令和になっても変わらぬご愛顧を頂けますよう、宜しくお願い申し上げます!(*- -)(*_ _)ペコリ
ではでは次回も! お楽しみに~♪
更新お疲れ様ですvv
返信削除クライマックス間近のやや詰め込み過ぎ加減がハラハラ・ドキドキと、
心地よい疾走感を味あわせてくれてます( ´∀`)bグッ!
練磨君かっちょいーvv
空殻さんの悪役っぷりがもうなんともwこうでなくっちゃw
練磨君…今度はねっw
今回も楽しませて頂きましたー
次回も楽しみにしてますよーvv
感想有り難う御座います~!
削除>クライマックス間近のやや詰め込み過ぎ加減がハラハラ・ドキドキと、
心地よい疾走感を味あわせてくれてます( ´∀`)bグッ!
わたくしの伝えたかった事がこの一文に全部載せ状態です!(笑) 狙い通り楽しんで頂けているようでこれにはわたくしもニッコリ♪
練磨君かっちょいいですよねっ!w 王道ファンタジーのカッコよさを詰め込みましたよ!w
空殻さんもね~わたくしの好きな悪役像を詰め込んだ奴ですw「こうでなくっちゃw」でもうニヤニヤが止まらない奴ぅ!ww
そう! 今度こそ、練磨君なら…!w
今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~♪