2021年1月24日日曜日

【浮世の聖杯組の話】キングメイカーと、最強ではない陰陽師【FGO二次小説】

■あらすじ
マスター・浮世のカルデアの聖杯組のお話。
道満とマーリンがうっかり遭遇したら。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Pixiv】で多重投稿されております。


【キングメイカーと、最強ではない陰陽師】は追記からどうぞ。

キングメイカーと、最強ではない陰陽師


「おや、こんにちは、リンボ君。改めて自己紹介していこうか。私はマーリン、花の魔術師マーリン。マーリンお兄さんと気軽に呼んでおくれ」

 ――一目見た瞬間から、この男の胡散臭さは花の香りでは隠し切れない程に満ちていると認識した。

 リンボ――蘆屋道満は薄ら笑いを浮かべたまま恭しく頭を垂れ、「これはマーリン殿。よもやグランドキャスターともあろう御仁にお声を掛けられるなど、拙僧、感激の極みでございますれば」と、愛想良く笑いかけた。
 対するマーリンも詐欺師のように微笑みかけ、その内心では(これがアルターエゴ・リンボか。何ともまぁ、こんな怪僧ですら受け入れてしまうのか、カルデアは)と呆れと感心の入り混じる想いを懐きながら、「ははは、日ノ本の魔境と称される平安京から罷り越した最強の陰陽師に、こうも担がれるのは悪い気分じゃないなぁ」と、ふわふわの髪を撫でる。

「ンフフ」「ハハハ」

 互いに笑い合いながらも、互いに腹の底が見えないなりに、その瞳には無数の思惑が渦巻いていた。

「あぁそうだ、この場では道満君、と呼んだ方が良いかな?」
「えぇ、えぇ、その方が拙僧としても座りが良く。……マーリン殿の千里眼を以てすれば、如何な妄言であれ、余す事無く見通せるものかと思いますが」
「まさか。そんな便利な機能ではないよ、千里眼は。ただ……そうだね、例えば君がこれから成すかも知れない事、為そうとしている事を俯瞰的に識る事が出来る……その程度のズルは、可能かな」
「ンン~、素晴らしい技能ですなぁ。拙僧の内面を知らずとも、人となりではなく、その所業、その末路を予め視てしまえるなど……まるで……」

 まるで――――その先を口にしようと思った道満は、静かに口を噤み、「……まるで、神の如き御業ですなぁ」と、別の単語に摩り替えて舌に載せて吐き出した。
 マーリンはその言葉の真意を、予め得ている情報群から推察できていたが、藪蛇だろうと突く真似はせず、咳払いして空気を挿げ替える。

「ともあれだ、互いに聖杯を捧げられた身として、仲良くやっていこうじゃないか」ポン、と道満の肩を叩くマーリン。「君の力は、今後マスター君にとって必要不可欠になる。陰陽道を極めし、君の力がね。それは当然、君が異界の神の使徒だった時のあれこれは水に流して、さ」
「マーリン殿、それは買い被り過ぎですぞ。拙僧は有り触れた影法師。世界有数のキングメイカーにそう持ち上げられては、流石に面映ゆい。無論、助力は惜しみませぬが、些か拙僧を誇張している節が有りまするぞ」
「私が道満君、君を信頼している理由は一つだ」スッと人差し指を立てるマーリン。「君、私のような術師に目を掛けられていただろう?」
「――――」
「何、それを詮索するつもりも、茶化すつもりも無いから安心してくれたまえ。私はただ、そういう君だからこそ、私の発言には色の付いたフィルターを通して認識しないのではないかな、と思ってね」立てた人差し指を己の口元に宛がうマーリン。「敢えて言っておこう。私は、君とは馬が合わない。だけれど私は、君に対して好意的な視線を向けているのさ。それは君自身に、平安京最強の陰陽師として成れる可能性を見出している事と、そのために克服すべき相手が確然と存在している事を視ているからに他ならない」

 マーリンを見つめる道満の視線に敵意は無かったが、仄かな嫌悪感を滲ませている事を、花の魔術師は気づいていない訳が無かった。
 恐らくは名を告げるのも腹立たしい、真の平安京最強を誇る陰陽師の事を示唆しているのであろうが、それをわざわざ言の葉に載せる事の嫌忌に、道満は珍しく沈黙を返す事で答とした。
 マーリンは困った風でも無く肩を竦め、「何せ、君が絶対的に敵視している者と私は、あまりに似ているんだ。それ故に、思わず君に対しては助言を口にしてみたくなるのも、仕方ない事と思って欲しい。勿論、気に障ったのなら謝ろう。私の謝罪にどれ程の意味が有るか、それは分からないけれどね」と、やはり人を喰ったような微笑を浮かべるのだった。

「……えぇ、拙僧も薄々とは感づいておりました。故にこそ、貴方とは直接係わらないように立ち振る舞っていたようにも思いまする。ですが――」ふと、憑き物が落ちたような微笑を零す道満。「万が一にも有り得ますまいが、貴方と同族であろう彼の者が、似通った思想、似通った通念であるのであれば。……何とも、下らぬ無稽で先走ったなと、今更のように悔悟が湧きだしますなぁ」

 何か大切なものを諦めたような、己の中に在るぐつぐつと煮え滾る何かが削げ落ちたかのような面持ちで呟く道満に、マーリンは安心したように再び肩をポン、と叩いた後、彼の傍を通って歩き出した。

「私の言葉だけで納得も得心もしないでおくれよ、君が本質的に抱える憎悪と焦燥は、あくまでも君が羨望と嫉妬で狂わされた彼の者のためだけに消費すべきだ。私が認めたのは、それを糧に君が成そうとした事、為した事だけ。これから君の力を借りる事が有るのは確かだし、逆に私の力が必要なら惜しみなく貸すさ。君はカルデア最強の陰陽師に成り得る者なのだから」

 マーリンは好きなだけ語ると、そのまま姿を消した。
 残された道満は見えなくなったマーリンを追う事もせず、あの悪辣な笑みを滲ませて、その大きな手で己の顔を覆った。

「えぇ、えぇ、その時は、その時こそは! あの最強を謳う陰陽師を屠り、拙僧こそが――当代最強の座を手にし、臓腑を焼き炙る憎悪を溶かし――認めさせましょうぞ、是が非でも……ッ!」

 ――あぁ、けれど。

 本当に、彼の陰陽師は、この蘆屋道満在りしカルデアに赴いてくれるのだろうか。
 願わくは、二度と顔を合わせたくないとも思えど、今度こそ儂をその両眼に焼き付かせたいとも、思ってしまう――――

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