2021年2月21日日曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第3話【FF14二次小説】

■あらすじ
野宿卒業祝いにカーラインカフェに来たヤヅル爺ちゃんとツトミちゃん。


【第3話】は追記からどうぞ。

第3話


「――ヤヅル爺ちゃん、野宿卒業おめでとう~」

 場所は森の都・グリダニアに構えるカーラインカフェ。
 グリダニアの住人が食事に訪れる場所だけに非ず、冒険者が仕事を求めて来訪したり、その冒険者に仕事を提供する者が会合を開いたり、国外の脅威に対処する遊撃部隊である神勇隊や、国内の治安維持を担う遊撃部隊である鬼哭隊などの、グリダニアは固より、その近隣一帯――黒衣森全体を守護する隊員達が作戦会議や飲み会などにも用いる場所でもある。
 当然、グリダニアに住まう住民も会食に使う場所であるため、厳かな雰囲気自体は無いし、店主のミューヌ殿も人当たり良く、ムードのある落ち着いた雰囲気の店も相俟って、ちょっと軽食でも摘まみたい時に訪れる事が多い。
 名物料理のラプトルシチューが並ぶのを眺めつつ、いつもの相席仲間、ツトミちゃんに祝いの言葉を投げられるワシである。
「“電波の都”と脅された時は如何様な有様かと縮み上がったものだが、自然に溢れた良い土地ではないか」ラプトルのモモ肉をフォークで口に運びながら苦笑を漏らしてしまう。「双蛇党の党首も、想定した以上にマトモな思路を有していると感じたが」
「そう~? だってほら、精霊の声が聞こえる~とか、まさにそれ! って感じじゃない?」
 ラプトルシチューに入っている香り高いキノコ――シャンテレールと呼ばれるそれをフォークに差して指揮棒のように振るうツトミちゃんに、思わず苦笑が濃くなってしまう。
「確かに、世が世であるなら、良からぬ霊にでも憑かれていると訝しむ事も有ろう」身がホクホクのラプトルのモモ肉を歯の上で楽しみながら、ツトミちゃんに改めて視線を向ける。「エオルゼア。神々に愛されし地。そう呼び親しまれた世界なのだ、精霊の声の一つや二つ、聞こえても眉を顰める程のものではなかろうに」
「そうだけど~……」
 納得がいかないのか、ツトミちゃんは不満そうにもう一種のキノコ――濃厚な風味の小さな丸いキノコ――ギルバンと呼ばれるそれを頬張って、「むぅ~」と頬を膨らませている。
「――ともあれだ。ワシもこれで雨風を凌げる寝床を確保できた次第……だが、冒険者としての活躍が認められた、と言うのは、どうにも腑に落ちなくてのう」
 海の都・リムサ・ロミンサと呼ばれる地でも冒険者として様々な仕事を請け負いはした。サハギン族なる、蛮族の一種とされる魚と人を足して二で割ったような種族が悪事を働いているやも知れぬと通報を受け、海賊の住処を襲撃したりもした。
 刃傷沙汰は避けられまいと、格闘士ギルドで培った拳技を期待されての事だったが、本当に海賊一派を全員敵に回した上で大立ち回りをする事になるとは露にも思わなかった。
 お陰で箔が付いたとでも言うのか、大立ち回りの噂を聞きつけた依頼人がひっきりなしに現れては、武力行使を伴う仕事を散々斡旋して、その何れもで数えるのも嫌になるぐらいに殺陣を繰り広げた結果……が、宿の利用許可だった。
 一歩間違えればまさしく落命の途であったにも拘らず、その報酬は幾許かの金銭と……名声と呼ぶには小首を傾げざるを得ない、無尽蔵に湧き続ける危険な依頼の申し込みだった。
 今日はそんな冒険稼業の中休みとして設けた休息日だった。
 ツトミちゃんも最近は忙しくしているのか、「婆さんは草刈りで忙しい!」と、リンクパール越しにも聞こえる音量でエオルゼアの各地で草を刈ったり樹木を伐採したりと言う業務に励んでいるようだった。
 ――園芸師、と言う冒険者が兼業している事業の一つらしく、ツトミちゃんの働きを観るに、木材や草花を採集する事を主に行う稼業との事。
 ワシも今まで拳一つ――格闘士として拳を振るうだけの冒険業だったが、いよいよ危険に過ぎる依頼が舞い込む前に、一つ箸休めとしてそういう稼業に手を出すのも悪くないな、と思っているところである。
「冒険者ってそういうところあるよね。危険な仕事の割には、得られたものってちっぽけ」カモミールティーを傾けながら、ツトミちゃんは優しく微笑んだ。「でもさ、そういうちっぽけな報酬って、悪くないよね」
 報酬は、幾許かの金銭と名声。けれど手に入るのは、そればかりではない。
 困っていた依頼人が喜ぶ姿を見るのも、悪事を働いた者が処される姿を見るのも、問題が起こっていた部分が改善される光景を見るのも――全て、尊き報酬に他ならない。
 悪事とは何か、善悪とは何を以てするか、などと考えても、答は出ない。けれど、虐げられた者に、困り果てた者に救いの手を差し伸べる、それに善も悪もあるまい。
 ああ、或いはもしかすると、冒険者はその何物にも代え難い報酬のために力を振るっているのだろうか。
「ヤヅル爺ちゃん、次の目標とか有るの?」
「ん?」
 空になった皿を下げるミコッテの給仕が離れてすぐ、ツトミちゃんが興味津々と言った態でワシの顔を覗き込んでいた。
 次の目標、か。確かに、今まではまず雨風を凌げる場所を手に入れるため――宿の宿泊利用を許可される事を目標にあくせく依頼を熟していた訳だが、遂にその許可はお上から下りたのだ。
 であれば。次は如何とする?
「……宿を借りるも、銭が足りねば泊まれまい」カモミールティーを音を立てて啜ると、ワシはツトミちゃんに涼しげに笑いかけた。「安定して宿を借りれるよう、銭を稼ごうと思う。拳一つで切り拓いてきたが、それにも無理が有ろう。手に職を持つのも悪くない」
「うんうん、新しいギルドに入門するって事かな? 良いと思う!」
 屈託の無い笑みを覗かせるツトミちゃんに、ワシも腹が決まった。
 エオルゼアと言う、ワシにとって未知なる世界で生きていく以上、衣食が出来ているのであれば次は住。
 拠点は特に決めてはいないが、この地には恐らく安定した職など存在しまい。
 脅威となる蛮族の襲来、エオルゼア支配を目論むガレマール帝国の侵攻、貧困や難民などの問題……需要も供給も変動し続けている。その中でワシが何をしたいか、となれば。
 一通り触ってみるのも、悪くないかも知れぬ。
「あー、ヤヅル爺ちゃん、何か企んでるでしょ? 悪い顔してるよ~?」
「うん? そうか?」
 冒険業とは己の拳で切り拓くものと言う認識でいたからこそ、それとは異なる道が開けるかも知れないと思っただけで頬が綻んでいたのかも知れない。
 或いは、そう。
 少し血を見るのに飽きてきたところだっただけに、人を害せずに稼げる方法が有ると思えた事こそが、今夜の会合の大きな収穫だったようだ。
 明日から、きっと今まで以上に忙しくなる。そんな予感を覚えながら、ワシは今夜もツトミちゃんと和やかに語り明かすのだった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    週末怒涛の更新ラッシュ!読者としては大変喜ばしいのですが、お体お気をつけくだされ。

    そんなこんなでついに電波の都にやってきた爺ちゃん!
    隠しきれないガチ勢の本性的なものが漏れ出し始めてますねw
    いいぞぅ!やっちゃれぃ!!
    婆さんは草刈り忙しいからしっかりな!

    基本ふんわりながらも、エオルゼアの抱える問題などさらっと触ってたりしてなかなかに読み応えありw
    爺ちゃんの活躍から目を離せません!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!

      意図せず怒涛のラッシュになってしまいました…!w お気遣い感謝致しまする…! とみちゃんもお読み頂けるだけで幸いですので、どうかご無理はなさらぬよう…!

      電波の都www 遂にやってきてしまいましたね!ww
      隠し切れないガチ勢の本性wwwそそそそんな事無いよ!?www
      草刈りめちゃんこ励んでるので、この辺も再現せねばと思ってのアレでした…!ww

      ですです! 何かこう、確かにそういう事が遭ったよね~、みたいな回想を含めてのお話にしたかったので、そう感じて頂けた事が嬉し過ぎまする…!
      ぜひぜひ今後とも爺ちゃんの活躍をお見逃しなくっ!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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