2021年2月13日土曜日

【浮世の聖杯組の話】ヴァレンタインバトル編【FGO二次小説】

■あらすじ
マスター・浮世のカルデアの聖杯組のお話。
「チョコを貰えるまで出られない部屋」に閉じ込められる奴。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Pixiv】で多重投稿されております。


【浮世の聖杯組の話~ヴァレンタインバトル編~】は追記からどうぞ。

浮世の聖杯組の話~ヴァレンタインバトル編~


「――――ん? 何だここ? マスター?」
 マスター浮世に連れられて来た或る一室に、超人オリオン、マーリン、李書文、オジマンディアス、ニコラ・テスラ、蘆屋道満が一堂に会し、互いに顔を見合わせて扉を振り返るも、既に閉じられた後だった。
「オリオン君、君は何も聞いていないのかい?」マーリンがしたり顔で微笑んでいる。「浮世ちゃんが私達にもヴァレンタインを楽しんで貰おうと、余興を用意してくれたんだよ」
「いや何も聞いてねえけど」初耳顔をする超人オリオン。「つか、むさ苦しい野郎共しかいねえじゃねえか、女っ気が欠片もねーぞ」
「ンンン! 拙僧は性別不明なれど」「やめろ俺の価値観をグチャらせるのは!」
 蘆屋道満が妖艶な笑みを覗かせた瞬間、超人オリオンが顔を両手で覆って視線を遮った。
「フン、臣下の計らいとは言え、神々しきファラオと下民を一緒にするのは解せんな」吐き捨てるようにオジマンディアス。「余興にしても下賎も下賎。疾く終わらせて欲しいものだ」
「カカッ、そう急くな太陽王」壁に寄りかかったまますまし顔で笑う李書文。「泰然自若で座す度量こそファラオの骨頂であろう。主の与太に付き合うのも悪くあるまい」
「オジマンディアス殿。李書文殿の言う通りですぞ」ハハハ、と軽快に笑うニコラ・テスラ。「生前では体感せし得なかった貴重な経験を積ませようと言うマスターの心意気を買う、それこそが我らサーヴァントの務めではないかね?」
「……貴様らに言われては立つ瀬が無いではないか」退屈そうに溜め息を漏らすオジマンディアス。「貴様らにそこまで言わしめたのだ、無聊を慰めるに一理あるか見届けようぞ」
「……何かとんでもねー事になってきてねーか? 俺知らねえぞ」「まぁまぁ、浮世ちゃんの計らいだから私達に責任は無い訳だし」「そうですぞ、拙僧にも責任は無い訳ですし」「お前らはどっかしらで責任を感じて欲しいところだが……」
 超人オリオンの呆れた声に、マーリンと蘆屋道満が顔を見合わせて笑い合っている。
「お待たせしました! 浮世ちゃんの聖杯組が送るヴァレンタインバトル! 始まるよ~!」
 突然部屋中に木霊するマスター浮世の声に、男性陣が意識を音源に傾ける。
「ルールは簡単! これから一騎ずつ聖杯組の女性サーヴァントが入室するので、彼女らからチョコを受け取ったサーヴァントから退室してください! 以上!」
 ぷつりと音声が途切れ、男性陣の居た堪れない空気だけが取り残された。
「そこなる老師。余が激怒しても構わんよな?」オジマンディアスが額に青筋を走らせて李書文を睨み据える。
「そうさな、神なるファラオを以てしても激昂を抑えられぬか。どうだ、儂と共に忍耐力の鍛錬にでも勤しむか?」片眉を持ち上げて剽げた表情を覗かせる李書文。
「李書文殿も、扇動は宜しくないですぞ。余興は余興、我らは心行くまで楽しんだ後に、然るべき対応をマスターに求めるのが道理ではないですかな?」二人を仲裁するようにニコラ・テスラが挟まった。
「……予想は出来てたけどよ、相変わらず碌でもねーなウチのマスターは」呆れ果てた様子で嘆息を零す超人オリオン。「いや、併しだ。ウチの聖杯組の女性陣と言えば、モードレッド、エレシュキガル、清姫、加藤段蔵、ジャンヌ・ダルク、紫式部の六人いるんだぜ? つー事はだ。あぶれる者がいねえ……全員確実にチョコを受け取れるって寸法だろこれ……!」
「ンンン、然り! 誰も不幸にならない算段を構築してからの余興とは……マイマスターも人が悪い。こういう事ならもう一騎男性サーヴァントに聖杯を捧げていて欲しかったところですが……」難しい表情を見せる蘆屋道満。
「いやいや、君達、気づかないかい? 先ほどの六名の女性サーヴァント、確かに皆魅力的で蠱惑的でチョコを受け取れると言うだけで最高のご褒美では有るのだけれど、君達、誰から貰いたいんだい?」マーリンが人差し指を立てて尋ねる。
 六騎の男性サーヴァントは顔を見合わせ、難しい表情になった。
「誰、などと。全て余に献上すべきであろう」オジマンディアスがやれやれと言った態で呟いた。
「主の一人勝ちと言う訳か。それもまた面白かろうな」思わずと言った態で笑う李書文。
「誰から貰っても生電流で返すほかあるまい……」むむ、と困った表情のニコラ・テスラ。
「拙僧は……フフ、よもや加藤段蔵殿から賜れる、などと。考えるだけで……昂らずにはいられませんな……!」興奮した様子の蘆屋道満。
「お前どの口でンな事言ってんだよ……」呆れ果てた様子の超人オリオン。「俺は誰から受け取っても体で返すしかねーな! ぐはは!」
「うん、良かった。皆、清姫から受け取ってもちゃんと応えてあげるんだよ?」
 マーリンが笑顔で告げた瞬間、場が凍り付いた。
 …………あぁー……そういう事か……
 皆、納得顔で黙り込んだ瞬間、再びマスターの声が響き渡った。
「まずは一人目の入場デース! どうぞー!」
 ゴクリ、と生唾を呑み込んだ一同の視線の先の扉が、そろりと開いた。
 顔を出したのはエレシュキガルだった。
「ど、どうもなのだわ……」
「お、おう……そんなおっかなびっくり来られたら反応に困るぜ……」
 怯えた様子のエレシュキガルに、超人オリオンも釣られるようにオドオドとした反応になってしまう。
「えぇと……チョコを渡しに来たのですけれど……誰とも被らないように……と思って、貴方に決めました」
 トコトコと歩み寄った先は、――――オジマンディアス。
「はい、オジマンディアス王。冥界の女主人の、手作り槍檻チョコなのだわ。ちゃ、ちゃんと味わって食べなさいよ!」
 そっと手渡された槍檻の形状をしたチョコに、オジマンディアスは暫し惚けた表情を見せた後、顔を押さえてくつくつと笑い声を漏らし始めた。
「オジマンディアス王……?」エレシュキガルの不安そうな声。
「良い! 許す! 疾く許すぞ冥界の女主人! 余は今、大層気分が良い! そうか、なるほどな! 真っ先に余に尽くさんとするその意気や気に入った! 貴様には特別にスフィンクスを撫でる権利を、本日に限りくれてやる! フハハハハ!」
 オジマンディアスはいつにない上機嫌で笑い転げながら部屋を出て行き、エレシュキガルも「ええっ!? ス、スフィンクスを撫でられるのだわ!? ちょっ、ちょっと待ちなさいよ~!」とワタワタと追い駆けて見えなくなった。
 残された一同は、ひとまず安堵の吐息を漏らした。
「太陽王にいつ癇癪を起こされるかと危惧しておったが、まずは杞憂に終わったか」李書文が苦笑を滲ませた。「マスターもその辺は意識しておったと言う事か」
「我々としても爆弾を抱えたまま余興を楽しむと言うのも中々心胆に来ますからな」釣られるように苦笑を見せるニコラ・テスラ。「オジマンディアス王も大変喜んでいた事が、私としても嬉しい限りである」
「ンン~……拙僧としては更なる混沌を形成して欲しく……」「お前は黙ってろ」不満そうな蘆屋道満の頭をはたく超人オリオン。
「……いや、いやいや、待ってくれ待って欲しい」思わずと言った態で口を開くマーリン。「今のは私に渡す流れではなかったかい? エレシュキガルだよ? 同じ特異点を救った同士だよ? 私に渡して、じゃあねみんな~頑張ってドロドロしてくれたまえよ~って去るところだったよね?」
「お前はお前で良い性格してるよな……」呆れた様子の超人オリオン。「いやまぁ……これ絶対アレだろ、最後に清姫配置してるよなマスター……」
「さて二番手の登場だーッ!」場の空気を読む気が無いマスター浮世の声が響き渡る!
「失礼します」扉が正常に開いて入ってきたのは、ジャンヌ・ダルクだった。
「ジャンヌ! おおジャンヌ! 同じアルトリア顔だから私にくれるよね!?」「必死過ぎるだろお前……ジル・ド・レェかよ……」マーリンが慌てた様子で突っ込んで行くのを見て、超人オリオンが呆れた様子で呟いた。
「? 貴方にチョコを渡すのは私ではありませんよ?」不思議そうに小首を傾げるジャンヌ・ダルク。「ちゃんと六騎全騎にチョコは渡されますので、心待ちにしていてください。そして、私がチョコをプレゼントするのは――――李書文様、貴方です」
「ぬ? 儂か」
 包装されたチョコレートを手渡し、ジャンヌ・ダルクは微笑んだ。
「普段、お茶を共にしてくれているお礼も兼ねて、です。またお邪魔しますね、李書文様」
「礼を兼ねて、か。悪いな、拳を振るう以外に茶でも飲むしかない老骨の相手をさせるのは」
「何を仰いますか。老練たる李書文様の含蓄ある話を聞きながら嗜むお茶が良いのです。加藤段蔵様、そして清姫様と共に場を和ませてくれる李書文様が良いのです」
「そう煽てるな、流石に面映ゆいわ」
「ふふっ、ではそういう事で」
 ジャンヌ・ダルクが立ち去った後、李書文も立ち去ろうと扉に手を掛け、一同を振り返った。
「先に失礼する。何、思いのほか楽しめた余興であった。皆も心行くまで楽しんでいけ」
 ふっとすまし顔で微笑むと、扉が閉まった。
「おかしいおかしい!」マーリンが暴れ出した。「李書文! いつの間に女性陣の心を鷲掴みにしているんだ! お茶会なんて呼ばれた事が無いぞ私は! モテモテじゃないか! 許さないぞ私は!」
「確かに意外だったぜ……あの老師、意外に策士だな……いや策士なのは意外でもなんでもねーか」超人オリオンもブツブツと呟き始めた。「ちょっと待てよ、読めなくなってきたぜ……ジャンヌちゃんはてっきり俺にくれるものとばかり……」
「ンン~、徐々に混沌が滲み出て参りましたな! 拙僧、昂って参りましたぞ……!」「「喧しいわ!」」蘆屋道満が興奮した様子で叫んだ瞬間、マーリンと超人オリオンの裏拳が飛んできた。
「ハハハ、皆存分に楽しんでいるようで何よりだ!」愉快そうに頷くニコラ・テスラ。「さて、そろそろ次の者が来るのではないかな?」
「イエス! 三番手登場だ~!」マスター浮世の声が弾け飛んだ。
 扉は開かなかった。
「……あれ? マスター、三番手が来ねえーんだけど」「ここに」「うわっ!」
 超人オリオンが不思議そうに小首を傾げていると、いつの間にか視界に加藤段蔵が降り立っていた。
「ンン! 段蔵殿でありまするか……やはり拙僧にチョコレートなるものを……?」「ほざけ外道」「ンン~! 辛辣ゥ~ッ!」絶頂した様子でビクンビクンし始める蘆屋道満を、冷ややかな眼差しで見つめる加藤段蔵。
「私のチョコレートは、ニコラ・テスラ様。貴方に捧げまする」スッと仰々しく団子を差し出す加藤段蔵。
「なんと!」刹那に破顔するニコラ・テスラ。「いや! 感謝する、ミス段蔵! これは……ダンゴ、と言うものだったかな?」
「はっ。風魔の一族に伝わる団子にて御座る。ぜひご賞味頂ければと……!」
「ハハハ! これは是非堪能させて頂くほか無いな! ミス段蔵、そこでなのだが、以前話していた電流の出力を上げる手段の話、改めて良いだろうか?」
「! 雷の術を授けると言う話にありまするか……? 算段が付いたと言う事で有りますでしょうか……! であれば、ぜひ!」
「うむ! では早速河岸を変えようではないか、良きコイルを取り寄せたのだ、これでミス段蔵の性能は更に向上する筈……!」
「なんと! それは素晴らしい……! 早く参りましょう早く!」
 いそいそと立ち去ってしまった加藤段蔵とニコラ・テスラを見送るマーリンと超人オリオンの表情はだいぶ深刻な色になっていた。
「おい、あの碩学のおっさん、いつの間にからくり忍者に手を出してたんだ?」「言い方には気を付けようかオリオン君! 気持ちは分かるけども!」超人オリオンのキレかけの発言に思わずツッコミの手を入れるマーリン。
「ンンン! 段蔵殿の新たな性能……試してみたくなりますなぁ」「お前が言うとやべーんだから良いから黙ってろ」蘆屋道満が舌なめずりするのを見て今度は超人オリオンがツッコミの手を入れた。
「次は四番手だよー!」そしてマスター浮世の声!
 静々と扉が開き、現れたのは紫式部だった。
「式部ちゃん! 私私! 同じキャスターのマーリンだよ! 私にチョコをおくれよ! 頼むよ!」「最早グランドの面影欠片も感じねーぞお前……」土下座まで始めかねないマーリンに、醒めた視線を注ぐ超人オリオン。
「え、えぇと……ご、ごめんなさいっ。私はその、法師様に……」
「ンン~! でしょうとも! そうでありましょうとも香子殿! ささっ、私にはアレでしょう? あやつの……いえ、何者かの想いを込めたチョコレートなのでしょう?」
「清明様の事ですか? いえ、その……これは私の想いだけが籠もったチョコレートでして……」
「……」
「……」
「……そうですか、ええ、そうでしょうとも。道満、勿論心得ておりますとも。ええ、それはもう……(そうか……清明め……儂にはチョコをくれなんだか……そうか……)」
「す、すみませんっ! 法師様! 心の声がその……っ!」
「ンン!? ――それでは失礼! 拙僧は先にお暇させて頂きたく!」
 スゥーッと掻き消えた蘆屋道満を見届けて、紫式部は「わ、悪い事をしてしまいました……後でお詫びに新たにチョコを届けますね……」と、改めてぺこぺこ頭を下げて去って行った。
 残されたのは、超人オリオンとマーリンだけ。
「……オリオン君」「……おう」「これは……モードレッドがどちらに気が有るか、そういう戦い、そういう事だね?」「お前自分で言ってて気持ち悪くならねーの?」
「さぁーっ! 最後は五番手と六番手同時にどうぞー!」「「なにーっ!?」」
 バァーンッ、と扉が吹き飛び、モードレッドと清姫が入室した。
「おう、来たぜ!」「ご機嫌麗しゅう、オリオン様、マーリン様」快活に手を挙げるモードレッドと、淑やかに頭を下げる清姫。
「お、おう」「や、やぁ……」表情筋が引き攣っている超人オリオンとマーリンである。
「モ、モードレッドは、私にくれるんだよ……ね……?」
「は? 何でクソマーリンにやらねェーといけねえんだよ。ほらよオリオン」
 モードレッドからチョコを投げ渡され、超人オリオンは瞠目した。
「俺にか!? 俺にチョコをくれるのか!?」
「何だお前、要らねえの? なら返せよ」
「いや嬉しいんだよ! 嬉しいけど、ほら、俺アレじゃん? アルテミ……ごふんごふん、ほら、いるじゃん?」
「ウチのカルデアにはいねーだろ」
「そうだけどさぁー! いるんだよ分かるだろー!? だからこれ、受け取って良いのかどうか……」
「だから要らねえなら返せよ」
「でもほらー! 俺こういうの全然貰えないからさー! どうしたら良い!? お前抱けば良い!?」
 超人オリオンにクラレント・ブラッドアーサーが突き刺さり、星になった。
「じゃあな、ったく下らねえイベントだぜ……」
 不貞腐れた態で立ち去って行くモードレッドを見送り、マーリンは改めて清姫に視線を戻した。
「わ、私にチョコを……?」
「……えぇ、本当は安珍様に捧げるこのチョコを……マーリンに……マーリンなんかに……あぁ……安珍様……私は……私、は……」
「良いよ良いよ! 私にチョコ上げなくても良いよ! 無理してあげるもんじゃないしねうんうん! だから竜になって私を締め上げるのはやめるんだ! お願いやめて! コロサナイデ!」
「ああ……安珍様……ごめんなさい……安珍様……」
「ぎょえええええええ!」

 ――――斯くしてヴァレンタインバトルイベントは幕を閉じ。
 そこここで仲が深まったり禍根が大変な事になったのでした。

 おしまい。

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