2021年4月30日金曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第11話【FF14二次小説】

■あらすじ
(虫を素手で殺れる人なんだ…)


【第11話】は追記からどうぞ。

第11話


「タムタラの墓所は元々、地下都市ゲルモラ時代に作られた地下墓所なんですけど、今でも森都グリダニアの死者を葬る場所として使われ続けてるみたいでして」

 エレット殿が纏めてくれた依頼書を、更に抜粋して読み上げるユキミ殿の話を聞きながら、ワシことヤヅル、サクノ殿、クロス殿の四人は、グリダニアからベントブランチに向かって更に南下し、三叉路を右に曲がって見えてくる石壁の通路を緩やかに下っていく。
 そこに見えてくるのは、薄暗い石室と、骸骨の化け物や揺らめく火の玉と言った、暗がりに巣食う魔。
 ワシらを外敵と認識した傍から襲い掛かってくるそれらを一蹴しつつ、墓所の入り口に立つ鬼哭隊の男に挨拶をする。
「この奥、タムタラの墓所はグリダニア、鬼哭隊弐番槍の管轄である」鬼哭隊の男が厳かに宣言し、警戒した様子でワシらに厳しい視線を飛ばす。「なんだ、冒険者。用件を簡潔に述べたまえ」
「フリーカンパニー【オールドフロンティア】の代表者のヤヅルと申す。双蛇党達ての依頼で、タムタラの墓所の警邏、及び、地下墓所に出入りしていると噂されているカルト集団、最後の群民なる者らの掃滅に参った次第」一歩前に出て口上をサッサと言い切ってしまう。「お上から連絡を受けてはいないだろうか?」
「……」鬼哭隊の男はユキミ殿から受け取った依頼書を一瞥すると、小さく空咳を落とした。「タムタラの墓所は、特別危険区域に指定されている。人数と参加資格に制限があるため、気をつけよ」
「四人以上の探索は認められてないんですよね。ヤヅルさんならご存知かと思いますが」ひそひそとサクノ殿が耳打ちしてくれた。「丁度四人の編成ですし、今回は問題無いかと!」
「うむ、では通して貰って良いかな?」
 人数も、参加資格も問題無いと向こうも認識したのだろう、扉を開けつつ、「気をつけて参られよ」と小さく目礼を見せてくれた。
「では参ろうかの、皆の者」
 振り返りながら扉を潜ると、「が、頑張ります……!」緊張した面持ちのサクノ殿、「どきどきしますねぇ……!」ゴクリと生唾を呑み込んだ様子のユキミ殿、「先導と戦端を開くのは任せてください!」主張するように胸を叩くクロス殿と続いた。
「頼りにしておるぞ」三人に微笑みかけ、いよいよその内部機構へと足を踏み入れる。
 薄暗い地下通路。湿り、淀んだ空気が辺りに蟠り、不気味な気配が漂っている。
 元々は綺麗に張られていたであろう石壁や石畳からは、随所に蔦や根が飛び出し、迂闊に走ろうものなら転倒は避けられないだろう。
 罅割れた石畳、ボロボロに剥がれた石壁を確認しながら、クロス殿が先頭に立って緩やかな下り坂を下りていく。
「地下墓所って言うからには、何か出そうですよね……」
 小声で陰鬱な声を漏らしたのはサクノ殿だった。辺りを見回しながら不穏な眼差しを注いでいる。
「確かに……エーテルの揺らぎで、こう、何か、良くないものとかが……」
 同調するようにおどろおどろしい声で返すユキミ殿に、サクノ殿が「ひゃぁぁ……」と小さな悲鳴を上げている。
「で、出たーっ!」
 不意にクロス殿の大声に、サクノ殿とユキミ殿が「「わあぁぁーっ!」」と悲鳴を上げ、その二種類の喚声にワシの心臓が思わず口から飛び出るところだった。
「本当に出るのか!? お化けが!? ナムアミダブツナムアミダブツ!!」
 思わず合唱して念仏を唱え始めるも、すぐにクロス殿が「アレです! 黒いアレです!!」と指差して吠えている。
「「黒いアレー!!」」サクノ殿とユキミ殿が合唱するように悲鳴を上げている。
「何じゃァーッ!? くくく黒いお化けかーっ!? どうしたら祓えるんじゃァーっ!!」
「いやいやお化けじゃなくて、虫ですね」
 クロス殿の戦斧が指し示す先には、膝下ぐらいの大きさの、黒い、虫。
 カナブンのような形状の、黒色の虫だ。
 見ようによっては、台所などに潜伏していそうな、太古の昔から存在するゴキなブリに見えない事も無い。
「……」ワシは合唱していた手をそっと下ろし、ペキポキと指の骨を鳴らして、黒い虫に歩み寄る。
 黒い虫はワシが接近してきたのに気づくや否や、音を立てて羽ばたき、滑空してきた。
「「来たーっ!」」サクノ殿とユキミ殿が叫んだ。
「フンッ!」
 名状し難い音と共に、黒い虫は粉々に吹き飛んだ。
 ワシは拳にへばりついた虫の体液を振り払うと、落ち着いた所作で三人を振り返った。
「……ヤヅルさん、アレを素手で撃滅するとは……剛毅ですね……」ゴクリ、とクロス殿が生唾を呑んでいる。「いや、斃すのは難しくないですけれど、その……生理的嫌悪とか、無いんですか……?」
「害が無いのであれば殺生はせぬが、アレは人と見るや襲い掛かる魔物であろう。ならば累が及ぶ前に誅す。それが冒険者じゃろう」
 ……いや、本音を言えば、ゴキでブリな形状の虫を素手で仕留めるのは、こう、確かに、生理的嫌悪が凄まじくは有るのだが……
 そう思いながらもクロス殿に再び先導を頼むと、三人からの「ヤヅルさんって、虫を素手で殺れる人なんだ……」と言う、名状し難い想いを感じさせる視線と意識を万遍無く受ける事になった。
 その後、三人の動きを観るに、先程のゴキのブリのような虫が現れたらしっかり対処しているところから察するに、もしやワシが試されていたのだろうか……? などと思ってしまうのだった。

◇◆◇◆◇

「いましたね、カルト集団の団員」
 先導してくれていたクロス殿が真っ先に気づき、敵に見つかる前に場所と人数を確認させてくれた。
 チェーンコイフにホーバージョンを纏った槍兵が二人。通路を交互に警邏している姿が見受けられる。暗がりでも分かる程に青白い肌をしているのだが、元々そういう地肌なのか、生気が抜けているのか、それとも……
 二人の槍兵の動きには迷いが無く、確固たる意志を以て警備を行っている事が窺える。警備と言っても、彼らが鬼哭隊の隊員ではない事は明白で、やはり地下墓所を屯していると言う噂は真だったのだと理解するには充分だった。
「四対二と言う数的有利は有りますが、向こうには地の利が有るでしょう。油断せず速攻で叩き潰しましょう」
 クロス殿の提案に、ワシを含む三人は無言で首肯を返す。
 戦斧を握り直したクロス殿を観て、ワシは拳を、サクノ殿は刀を、ユキミ殿は細剣を、それぞれに構え直して戦闘準備を整える。
 本来であればヒーラー……幻術士などと言った回復の専門職を編成に組み込むべきだったのだろうか、今回に限ってはその役割を果たせる者がいなかったため、敵視を集める者として戦士のクロス殿、敵視を集めている間に敵を殲滅する者として侍のサクノ殿、赤魔道士のユキミ殿、そして格闘士のワシと言う編成で臨む事になった。
「――行きます!」
 戦斧を肩に担いだまま猛進するクロス殿に続いて、ワシとサクノ殿が根が盛り上がった石畳を駆る。背後からはユキミ殿が青い豚の被り物の奥から詠唱を唱える声が聞こえてくる。
 いよいよ本格的な戦端が開く。熟達の三人に後れを取るまいと、双眼を見開き、戦場を隈なく見晴るかす。
 槍兵――イクニヴァーレットなるカルト教団の尖兵はワシらに気づくと、「冒険者かッ! 生かして帰さん!!」と即座に臨戦態勢を取り、二人が同時に襲い掛かってきた。
 応戦する形で槍を振り回すも、クロス殿の膂力には敵わないのか、穂先が刹那にへし折られ、返す刃でその肉体はホーバージョンごと両断――蔦に覆われた壁面に思いっきり叩きつけられ、刹那に染みになった。
 もう一人のイクニヴァーレットは同胞の死など眼中に無いのか、意に介した様子も無くクロス殿に襲い掛かり、その穂先を心の臓に突き刺す――事は能わず、その穂先は寸前でサクノ殿の白刃が刈り取り、涼やかな音と共に天井深く突き刺さった。
「なッ――」イクニヴァーレットが驚きの声を上げたのが断末魔となる。ユキミ殿の詠唱が終わり、全身に落雷を叩きつけられたイクニヴァーレットはそれ以上の抵抗も出来ず、膝から崩れ落ちて動かなくなった。
「ふぅ、有り難う御座います、サクノさん」戦斧を肩に担ぎながら小さく目礼を見せるクロス殿。「早業でしたね!」
「クロスさんなら避けただろうなぁと思いながらも手を出してしまいました……!」照れ隠しに頬を掻くサクノ殿。「早業と言うなら、ユキミさんも適確な一撃でしたね……!」
「フフフ……」豚の被り物の下から不敵な笑声を覗かせるユキミ殿。「って、済みません、ヤヅルさん! ちょっと出番欲しさに出張っちゃいました!」
「いや、構わぬよ」何も出来ないまま拳を下ろす事になり、ちょっとした手持ち無沙汰を感じてしまう。「流石は歴戦の冒険者。その片鱗を窺い知れただけでも儲けものじゃ」
 相手が極端に弱かった訳ではあるまい。単純に、三人の力量が相手を遥かに凌駕していた、それだけの事。
 三人も恐らく、互いの力量を確かめるために、互いに試していたのだろう。どういう行動に対し、どう反応するのかと言う、今後背中を預けるに足るかの、連携の確認。
 三人とも納得したのか頷き合うだけでそれ以上の確認は取らないようで、それすらも熟達の冒険者ならではの所作に思えて、ワシはただ感嘆する他無かった。
 何れワシも、この領域に到達できるのだろうか。そんな感慨に耽ってしまう。
 いや、ならねばなるまい。フリーカンパニーの長として、――もう何物も奪われない、奪わせない、確たる力を有する者として。
「――進もう。カルト教団が巣食ってると分かった以上、掃滅は急を要する筈じゃ」
 ワシの言に、三人も表情を引き締めて首肯する。
 双蛇党の調べでは、危険な終末思想を懐いていると記述が有った。救世神の降臨を阻止した者達に復讐するために、この地下墓所に屯して何を為そうとしているのか。手遅れになる前に阻害する必要が有る。
 そうしてワシらは更に歩を進める。闇夜よりなお暗い深淵へ、呼び寄せたる邪悪を止めるべく――

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