2021年5月19日水曜日

【三モー短編】御仏の加護とギフト【FGO二次小説】

■あらすじ
御仏の加護とギフトの違いを聞きたいモードレッド。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Pixiv】で多重投稿されております。


【御仏の加護とギフト】は追記からどうぞ。

御仏の加護とギフト


「坊さんよ。テメエがよく言う御仏の加護って奴は、そんなにすげーもんなのか?」

 食堂で紅閻魔が拵えてくれた御膳をバクバクと平らげていた玄奘三蔵に影が差したかと思いきや、視線を上げると甲冑姿のモードレッドが冷たい眼差しで見下ろしている姿が映り込んだ。
 ゴクリと口の中の御馳走を嚥下すると、「ん~」と顎に拳を添えて俯く三蔵。
「凄い……よね、うん。凄いよ。だって御仏の加護だもん」
「具体的には?」腰に手を添えて呆れた表情を覗かせるモードレッド。「例えば――父上のギフトと比べて、どうすげぇんだ?」
 眼光鋭く、モードレッドは問いかける。
 どんな返答をするにせよ、暴力は避けられないと言った雰囲気を漂わせる彼女に対し、三蔵は「そうねぇ~」と気負う気配すら見せずに呑気に天井を仰ぎだす。
「モードレッドのお父さんのギフトって、騎士を騎士たらしめんとした……何だろうねぇ、誓約って言うのかな。あたしと一緒に円卓を囲んで欲しい、って性質の約束……ううん、愛情ってイメージで観てるけど、モードレッドの認識は違う?」
「お、おう……?」
 三蔵の返答が想像と異なり、モードレッドは躓くように言葉に詰まってしまう。
 父上の、愛情。それがギフト。そんな風に考えた事は無かった。あれはあくまで最後まで残り、選ばれた円卓の騎士だからこそ与えられた力、施された権能と言う感覚しかなかった。
 故にこそ、絶大なまでの力を誇り、容易く悪漢を捻じ伏せるだけの力が有ったのだと。
 けれど、彼女は――玄奘三蔵は、それを愛だと。親子の情だと、そう言うのか。
 モードレッドに聖城キャメロットでの記憶は無い。けれどカルデアの記録として、獅子王からギフトを施されたモードレッドが、マスターに牙を剥き、やがて討ち取られたと言う事だけは、知っていた。
 その時の己の所業に対して罪悪感など無く、仮に同じ環境が整いさえすれば、簡単にそうなる事も想像に難くないとさえ、モードレッド自身は思っていた。
 今この場で三蔵から「それは獅子王からの愛情だったんだよ」と言われるまで、そんな事を考える余地など無かったに違いない。
 モードレッドにとっては未知の感覚だ。あの父上から――獅子王から、愛情を貰っていたなどと、脳裏の片隅ですら過ぎる事が無い妄言だ。
 けれど、何故だろう。どうしてなのか分からないが、あの場にいた――聖城キャメロットで立ちはだかったモードレッドと言う影法師が、今はとにかく、恨めしい……いや、羨ましかった。
「……分からねえ。お前に言われて、何か訳が分かんなくなっちまった」
 何を聞こうとしたか失念する程に衝撃的な返答だった。モードレッドは頭を殴られたようにふらつき、頭を支えて何とか崩れ落ちないように膝に力を込めた。
「親御さんからの愛情って、中々気づけないものよ~」微笑を浮かべて三蔵は手振りを交えて続けた。「特にモードレッドみたいなやんちゃ坊主にはね♪」
「ンだこら、今喧嘩売ったよな? 言い値で買ってやるぞ表出ろコラ」思わずクラレントを抜刀しかけながらメンチを切るモードレッド。「名の通り袈裟懸けにしてやるからなテメエ」
「ぎゃてぇ……よく分かんないけど怒らせちゃったみたい……」悄然と人差し指を突き合わせ始める三蔵法師。
「正気かお前……今ので怒らねえ奴いねえだろ……」唖然とするモードレッド。「ちッ、何か問答がアホらしくなってきたな……結局、御仏の加護っつーのは何なんだよ、俺の父上のギフトの話は置いといてだ!」
 そんな尊いものなど一度たりとも感じた事は無かったのに、当然愛情だの言われても困るだけだ。それよりもまず問い質したい問題を解決したかった。
 そんなモードレッドの気迫に、三蔵は箸を口に銜え、「ん~」と唸りながら腕を組んで瞑目する。
「さっき言った、モードレッドのお父さんの愛情みたいなものよ。衆生を見守り、導き、悟らせる。弱い者も、愚かな者も、道を違えた者だって、等しく導いてくださる……あたし達もそうなるように、功徳を積み、善徳を為し、悪逆を滅す」
「つまり……どういう事だ?」
「つまり…………つまり、まぁ、モードレッドのお父さんの愛情みたいなものよ!」
「分からねえ……結局よく分からねえのか……」
「えっ、もっとよく知りたいなら、あんたも仏門叩いてみる? 叩いてみちゃう?」
「おい、勝手に信徒にするんじゃねーよ。宗教には興味ねーんだよ、ただテメエが毎度毎度口癖のように御仏の加護やら御仏パワーやら唱えてるから、どんなもんか気になっただけだ」
 はぁ、と一つ嘆息を落とし、モードレッドは明後日の方向に視線を向ける。
「……そこに、俺が納得できる答が有るのかと思っただけだ」
 カルデアに来てからも、父上――アーサー王こと、アルトリアは連れない。
 廊下で遭遇する事は有れど、話す事も無いまま擦れ違うだけ。
 このどこに愛情などが介在する余地が有るのだと思わずにいられないが、或いは聖城にいた獅子王に関して言えば、モードレッドの影法師に愛情を一片でも覗かせていた、と言うだけの話なのだろうか。
 聞くだけ無駄足だったと、諦めて踵を返そうとしたモードレッドだったが、玄奘三蔵の「さっきも言ったけど、きっとあんたが気づいていないだけよ」と言う小声で足が縫い止められた。
「……何だと?」
「獅子王は確かにギフトって力で、あの場に居合わせたモードレッドは強化されて、愛情を得られていたかも知れないけれど、だからと言って今のあんたにそれだけの愛情が注がれていない理由にはならないわ」玄奘三蔵は肩越しにモードレッドを振り返り、にま、と意地悪な笑みを覗かせた。「お父さんにはお父さんの考えが有るって事よ。さもなけりゃ、自分を破滅に追いやった相手を何もせず放置するなんて事、有り得ないわ」
「…………」
 詭弁だ、とは分かっていた。
 アーサー王は完璧な王。故にこそ、不穏分子がいたとしても正常に政を行うし、戦術も作戦も卒無く熟すに違いない。
 モードレッドに対し一切のアクションを起こさない理由としては、あまりに弱い。
 故に――この坊主の説法には、甘い毒が仕込まれているように感じられた。
 思考を鈍らせる、けれど少しだけ快方に向かわせる、苦くない薬、問題を先送りにする甘い毒――――
「あんたも一端の騎士様なんだったら、あたしなんかにウダウダ管を巻いてないで、直接お父さんにぶつかりなさいな。それだけの胆力は持ち合わせてるんでしょ?」
「ぐッ。それが出来ねえからテメエなんぞに声掛けたんだろうが……」
「だったらあたしが念を押してあげる。――モードレッドは強いよ、あたしが保証する。有りっ丈の愛をぶつけた結果が、その血塗られた剣でしょ? だったら、その剣の代わりに体でぶつかってきなさいな。きっとお父さんは、それに相応しい形で応えてくれるわ」
 ……この法師は、あの惨劇を家族間抗争か何かと勘違いしていないだろうか。
 怒りは有る。苛立ちだってする。アレはそんな生易しい問題ではなく、モードレッドの根幹に係わる問題ですらある。それを、そんな表現で表してしまうこの坊主が、あまりに憎らしい。
 けれど、何とも小気味良い感覚に浸っていた。であれば、きっと解決する道筋は有るのだと、そんな夢さえ見させてくれそうな――
「……けッ、テメエに保証されなくても俺ァ最強の騎士、モードレッド様だ」カンッ、と甲冑の胸元を叩いて踏ん反り返るモードレッド。「だが、……礼を言う。礼節を欠いては、騎士の名折れだからな」
「何だ、ちゃんと騎士してるじゃん」
「何だとテメエ!?」
「あはは! ごめんごめん、普段あんまりにもお子様って感じがしてたから、つい!」
 けらけら笑っていた三蔵法師だったが、モードレッドから返答が無いのに気づき、目元を擦ってから、「あ、あれ……? モードレッド……?」と恐る恐る声を掛けると、彼女の目の前で赤雷が弾けた。
「説法はそこまでだ生臭坊主……シミュレーターに来い……足腰立たなくなるまでしばき倒してやる……ッ!」
 凄烈な怒髪天を見せられ、三蔵は「ぎゃてぇ……」と引き攣った笑みを浮かべて逃げようとしたが、結局七時間に及ぶ戦闘シミュレートに付き合わされ、本当に足腰が立たなくなるのは、もう間も無くの事だった……

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