2021年6月3日木曜日

【ワシのヒカセン冒険記】番外編「JK(地獄の恋バナ)麻雀その2」【FF14二次小説】

■あらすじ
“アトモス”って聞いた事ねぇか?


【番外編「JK(地獄の恋バナ)麻雀その2」】は追記からどうぞ。

番外編「JK(地獄の恋バナ)麻雀その2」


「あれはよぉ、クガネに出張してた頃だなぁ。仕事先に良い子がいたんだよ、そいつと出掛ける約束したんだけどさぁ……」

 ゴールドソーサーの一角、休憩用のソファに腰掛けて話し始めたポヨ殿の視線はどこか遠い。言うまでも無く、当時の景色に想いを馳せているのだろう。
 ワシとカボ殿、パスト殿は口を挟まずに耳を傾けていた。
 騒々しいゴールドソーサーの歓声も今はどこか遠い。これからどんな恋バナが語られるのかと、ワシら三人は胸を膨らませて静聴している。
 ポヨ殿はエールで舌を湿らせると、懐かしむように記憶を舌の上で転がす。
「六時間経っても来ねえのさ。あぁ、そういう事なんだって俺ァ泣いたよ」
「そりゃキツいっすなぁ」カボ殿が合いの手を差し込む。
「おおよ、六時間だぜ? 春先の、クガネのあの風光明媚な景色を眺めながら六時間。虚無だったねぇ。こんな事、許されるのかよぉってさぁ」
 ジョッキが空になるとすぐに注ぎ直し、ポヨ殿は据わった目で溜め息を漏らす。
「そうなったらよぉ、男ってもんはよぉ、飲んでスッキリするか、アレしてサッパリするしかない訳よ」
「そうだの、風呂でも入ってサッパリしたいところよな」ワシもジョッキを傾けて意地悪な笑みを覗かせる。
「ケッ、分かってる癖にヤヅンと来たらカマトトぶりやがってよぉ」呆れた様子で吐き捨てるポヨ殿。「お前ら知ってるか? クガネの小金通りから少し外れた場所によぉ、表に出せねえ飲み屋やウフフなお店が在る通りがあんのよ」
「あぁ、地元民に裏金通りって言われてるとこですかい?」カボ殿が片眉を持ち上げて剽げた表情を覗かせた。「確かにそこならポヨの兄貴の不満を解消できそうすね」
「治安悪そうだなぁ」パスト殿が苦笑を浮かべてツッコミを差し挟んだ。「それで? そこで飲み明かしたって?」
「馬鹿野郎お前、それだと俺がただフラれただけの話になっちまうだろうが」パスト殿をギラリと睨み据えるポヨ殿。「そう、その裏金通りだけどよ、俺ァ前にダチに聞いたのよ。そこにいーい店が在るってさ」浴びるようにエールを干すと、人差し指を立てて続けた。「“アトモス”って聞いた事ねぇか?」
「アトモス?」ワシが小首を傾げる。「確か……ヒューラン族の古い伝承に登場する魔物の事じゃよな? 闇の世界でも見た記憶が有るが……」
「あの冒険者を吸い込んでは吐き出す奴すよね」カボ殿も不思議そうに続ける。「それが?」
「アトモスってサーヴィスをしてくれる店があんのよ」
 ポヨ殿が下卑た表情で宣言したのを聞き、ワシらは暫し思考が硬直した。
「アトモス……? と言うと、アレですかい」笑いを堪え切れない様子でカボ殿が呟く。「吸ってくれるんです? 何をとは言いやせんけど」
「ぐはは! 普通はそう思うだろ? ただ、そんな単純なものじゃねえんだ、アトモスはちょっと変わったマッサージと言うかな、まぁ聞けよ!」楽しそうに笑声をぶちまけるポヨ殿。「俺ァそのアトモスって奴がさ、とにかく俺もよく分かんねえけど俺にはこれが必要だ! って思ってなぁ、探し出して入ってみた訳よ、その店に」
「チャレンジャーだなぁ」パスト殿も笑いを堪え切れない様子で呟く。
「だっておめぇ、六時間だぜ? 六時間」ポヨ殿が不満そうに手振りを交えてパスト殿を見やる。「六時間も約束すっぽかされてクガネの景色を眺めてみろよ、もうメンタルぐっちゃぐちゃだぜ? こりゃもう普段以上に飲み明かすか、綺麗サッパリ揉み出すしかねえだろ。男ってそういうもんだろ?」
「否定はせんがな」コホンと咳払いするも、ワシも口唇に笑みの波がやってくるのを止められなかった。「それで辿り着いた訳か、そのアトモスの店とやらに」
「おおさ、見つけた訳よそのアトモス。見た目そこらに在るウフフなお店とあんま変わんねえから分からなかったけどな。入ってみてよ、小綺麗なミコッテが出てきて間違えたかと思ったよね」
「アレでしょ、ポヨの兄貴はその時そういう気分じゃなかった的な」含み笑いを見せるカボ殿。「ちょっとこう、場末的なものを想像してたんでしょ?」
「そりゃおめぇ、もうダークサイドに堕ちてる身でよぉ、澄ました顔の子にマッサージとかやってられねえべ。アレだよ、心に傷を負ってる時は相応の子に相手されたい訳よ、分かるだろぉ?」
「歪んでるなぁ」パスト殿が乾いた笑声を落とす。
「でまぁアレよ、アトモス、有りますか? って聞くとよ、畏まりましたってさぁ、当たりだった訳だよ。そのアトモスする子も選べる訳でさぁ、アレだよ、スコーピオン交易所にいるイメってかわええ娘いるじゃん。あの子に似たサミネって子を選んでさぁ……」
「イメってそんなに可愛かったか……?」「シッ、今はそういう事にしとこう」カボ殿が小首を傾げた瞬間、パスト殿が人差し指を口元に宛がって鋭く呼気を吐き出して制止した。
「そのイメに似た子がやってきた訳か。ここまで聞いた分だとお主、愛想を尽かされた腹いせに、よく分からん店でサッパリしただけになっとるが」
 醒めた眼差しでポヨ殿を睨み据えると、「まあまあ聞けよ話はここからなんだよ」と何度目になるか分からないエールを呷る。
「アトモスってさ、吸うって話だったろ? 別にサミネが吸う訳じゃねえんだよ、アトモスの幼体がいてよ、そいつに吸って貰うんだ、エーテルを」
 間。
「……は?」思わず噴き出すカボ殿。「いや待ってくれよポヨの兄貴、それって――」
「しかもケツから」「ケツから!!」ポヨ殿の発言に間髪入れずに笑声を挟むカボ殿。
「まじかよポヨさんそれは流石に……」もう笑いが止まらず腹を抱えているパスト殿。「何てこと話してくれたんだあんた……」
「んでよ、マッサージってさ、てっきり服を脱がなきゃいけねえのかと思いきや、脱がなくても吸えるんだってよ、エーテルって」「そりゃそうじゃろ」ポヨ殿が畳みかけるように話を進めるため、ワシも思わず笑い声交じりに合いの手を入れてしまう。
「んでまぁパンツ一丁で部屋で待ってたらよ」「結局脱いでんじゃねえよ!」「何で脱いでんだよ!」ポヨ殿がガンガン話を進めるため、カボ殿とパスト殿の合いの手も加速していく。
「出てくる訳よ、サミネちゃんがよぉ」「そりゃ出てくるじゃろうな、指名したんじゃから」
「んでさ、ワイの字になれって言われるのよ」「「「ワイの字……?」」」
 ワシはカボ殿とパスト殿と目を見合わせて不思議そうに復唱する。
「こう、アレだよ、両足をさ、こう……」寝転がりながら大きく股を開くポヨ殿。
「「「あああ~」」」納得するワシらである。
「んで、サミネちゃんが持ってくる訳よ、幼体のアトモスを。そこからアレよ、あの口でな、凄いのよ、ヒーラーの救出でもそこまで吸われねえだろってぐらい吸われる訳よ、エーテルを」
 ワシを含めて三人は最早笑いが堪えきれず腹を抱えている始末である。
 知りたくなかった。アトモスと言う単語にそんな意味を付加したくなかったと。
「で、何だ。エーテルを吸うって言っても、命を奪われる程じゃねえっつーか、洗浄みてえなもんでさ、俺の心に渦巻いていたどす黒いドロドロした奴が綺麗サッパリ無くなってさぁ、とにかくあらゆるなんもかんも全部吸われてよぉ。そんでぽけーッとしてたらサミネちゃんに言われたのよ。イイ顔になったね、ってさぁ」
「エーテル吸われて何元気になってんすか」爆笑しながらカボ殿が膝を叩いている。
「それで俺ァアレだよ、そんなサミネちゃんに惹かれちまう訳だよ……」
「どこに惹かれてるんだよ!」パスト殿が思わず噴き出した。
「で、ここまでで一章完、だな。もし続きが聞きたかったらまた地獄麻雀で俺に勝てたらな」
 ふぃーっと満足した風に酒精の混ざった嘆息を零すポヨ殿。
 ワシはもうどう表現したら良いのか分からず笑いを堪えていたが、やがて出てきた感想を吐き出した。
「それは恋バナ……なのか……?」
「恋バナだろう!? こんな言うのも恥ずかしい話、恋バナ以外に有り得ねえだろ!」
「判定はそこなのか……」
 ワシは何とも言えない想いを懐きながらも、それはそれでと呑み込む事にした。
「純粋な想いの結晶だろぉ?」満足したのか瞑目してソファに背中を預けるポヨ殿。「まぁ、そんな訳でさ、俺からの話はおしまいだぁ。ほら解散だ解散」
「純粋……まぁ確かに純粋っちゃ純粋かなぁ……」納得の水準が曖昧なのか、カボ殿が悩ましい声を上げながら腕を組んでいる。「しかもこんな話をしながらポヨの兄貴、未だにチェリーなんすよね。そこがもう二度三度と笑えるっつーか」
「これアトモスって単語が汚染されないか心配だな……」パスト殿が憂鬱そうに鼻息を落とす。「アトモス系の魔物見る度に思い出すぜこれ……」
「確かにのう。とんでもない話をしてくれたもんじゃ」やれやれとワシも肩を竦める。「要らん知識が増えてしまったとしか思えん」
「何だお前ら人の恋バナ聞いといてその感想はよぉ。もっと言う事があるだろがよ、ええ?」
 ポヨ殿の不満が沸騰しているその声を聞きながら、麻雀大会は閉幕と相成った。
 冒険業をしていれば様々な経験が養われ、知識も膨大に膨れ上がっていくと言うが……
 今日の記憶は、ワシもエールで洗い流したいのう、と思いながら寄合所へと足を運ぶのだった。

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