2021年6月1日火曜日

【ワシのヒカセン冒険記】番外編「JK(地獄の恋バナ)麻雀その1」【FF14二次小説】

■あらすじ
忘れられねえほどに魂に刻み込まれた話をすべきだろぉ~。


【番外編「JK(地獄の恋バナ)麻雀その1」】は追記からどうぞ。

番外編「JK(地獄の恋バナ)麻雀その1」


「――――麻雀大会?」

 今日も今日とて裁縫師で縫製活動を行っていたところ、先日加入した団体のリンクシェルから、「そうそう。ヤヅさん、麻雀できるって言ってたし」と野太い男声が流れてきた。
【シューティングスター】と呼ばれる組織……いや、集まりと呼称すべきだろうか。志を同じくした者の話し合いの場として、リンクシェルを渡されて交流を図る集まり……エオルゼアではそういう集まりが数多存在するようで、ワシも見聞を広めようと入ったのが、この【シューティングスター】だった。
 ワシの属するフリーカンパニー【オールドフロンティア】とは異なる活動を行うため、新鮮な気持ちで参加している訳だが……
「ゴールドソーサーのドマ式麻雀の卓に集合な。面子は兄弟とチャンパスだから。待ってるぜぇ」
 豪快に笑い出しそうなこの男声の主こそ、この【シューティングスター】の長であるポヨ殿だ。その声に違わぬ巨漢――ルガディン族の冒険者である。
 ワシは「相分かった。今向かうわい」と承諾すると、テレポでゴールドソーサーへ。そこから簡易エーテライトを使ってワンダースクウェア東の、ドマ式麻雀の卓が並ぶ一角へ。
 昼夜を問わず賑やかな催しで溢れ返る遊技場・ゴールドソーサー。ウルダハの富と財を搔き集めたかのような煌びやかな施設は、一種の賭場だ。毎日のように多額のギルが上から下へ、右から左へ忙しく、白昼夢のような快楽に身を浸し尽くすと、いつの間にか身包みを剥がされる……
 と言う、そんな恐ろしい場所……ではない。ウルダハの民に限らず、冒険者や市井を問わずに開かれたこの遊技場は、皆の憩いの場として清い運営がなされている。勿論、驕り昂った問題児がどういう扱いを受けるかは、言わずもがなだが。
 さておき、そのドマ式麻雀の卓が並ぶ一角には、既に【シューティングスター】のお三方が待ち侘びた様子で待機していた。
「おっすおっす、待ってたぜぇ」
 豪快に手を振った後に投げキッスを見せるルガディン族の巨漢――衣服が金色のシャツと言う威圧感も加わり、その風貌はまさに裏社会のドンと言うに相応しいこの男こそ、【シューティングスター】の長のポヨ殿だ。
 全自動の麻雀卓をチラリと覗くと、その縁にジョッキが置かれているのが目に付く。ポヨ殿の口の周りに付着している細やかな泡から察するに、酒精……エールだろう。
 もう出来上がった様子でニヤニヤ笑っているポヨ殿に一礼し、「済まぬ、待たせたか?」と空いている席に着くと、ポヨ殿の対面に座る、これまた大柄な――ルガディン族の、これまた金色のシャツを纏った成金感の漂う男こと、通称カボ殿が「いや、実はさっき別の面子で一戦交えてたところでね。ヤヅさんが来るって言うからもう一戦どうよって誘った訳さ」と、これまたエールの入ったジョッキを傾けながら応じた。
「なるほど……そんな出来上がった態で勝負になるのか?」
「大丈夫大丈夫、その時は私らが有り金巻き上げれば良いだけだから」
 ワシの懸念に反応したのは、ワシの対面に座る黒衣のアウラ族の女――パスト殿だ。
 醒めた眼差しで二人のルガディン族に視線を注ぐ彼女だけは酔いを感じさせない……いや、そもそも飲酒していないのだろう、ジョッキは二人分しか窺えない。
「それもそうだの」首肯を返し、ワシは改めて三人を見回した。「して、何か縛りは有るのかの?」
「おーう、それがなぁ、レートは百で、更に最下位は恋バナも話さにゃならねえって言う地獄のルールだぜぇ」ポヨ殿が下卑た笑みを覗かせて腕を組む。「三位の野郎も二位の奴に十だからな、覚悟しとけよぉ?」
「百? 百ギルで良いのか?」要領を得ずに小首を傾げてしまう。
「ガキの使いじゃねぇんだから分かるだろぉ? 百万だ百万」グビグビとエールを煽るポヨ殿。「負けたら百万ギルを勝者に。更に恋バナも披露。堪らねえな」
「恋バナは私が提案したんだ、その方が楽しいだろ?」カボ殿がニヤリと笑った。「惚気話でも良いぜ、幸せな気分に浸りたいんだ私は」
「近日エタバンするから惚気話なら幾らか……」パスト殿が俯いて考え込んでいる。
「惚気話なんて面白くねぇだろー、ここはよぉ、恋バナだよ恋バナ! 忘れられねえほどに魂に刻み込まれた話をすべきだろぉ~」
「ポヨの兄貴が完全に出来上がってるな」やれやれと肩を竦めるカボ殿。「まぁそんな訳だ、ヤヅさんいいかい?」
「構わぬよ。冒険とは違う危機感と言うのも養うに越した事なし」首肯を返し、三人に先んじて全自動卓を起動させる。「いざ始めようか、お手柔らかに頼むぞ」
「いえー、そうこなくっちゃなぁ!」グッと肯定の意を示すポヨ殿。「裏社会メンバーの地獄麻雀の始まりだぁ」
「はい、チキチキJK麻雀杯始めるよー!」バンッ、と手を合わせて豪快に笑うカボ殿。
「J(地獄の)K(恋バナ)麻雀杯ね……」やれやれとパスト殿が肩を竦めて真剣な表情になった。
「カカッ、負けられん戦いとはこの事よのぅ」
 ワシも何だかんだで乗り気になってしまった。
 冒険者として、魔物の巣窟に飛び込んで死線を掻い潜るような、満身に危機を感じてひりつくような緊張感を浴びる事は有るが、こういう遊びの場でもそれは例外ではあるまい。
 真剣に挑むからこそ、得難き称賛と褒美を掠め取った時の法悦は筆舌に尽くし難い。全力を尽くしたにも拘らず敗北した時の痛惜と悔恨とて、勝利以上の得難き報酬に違いなく。
 故にこそ、全霊で楽しまねば損だ。負けたくない、勝ちたいと言う気持ちも嘘偽りなく、されど何よりその遊戯を髄から楽しむべきだと、ワシは痛切に思う。
「さてっと、どんな配牌かなぁ」カボ殿が楽しそうに呟く。「ん、私が親か。どうすっかなぁ」
「おいおい、へへっ、こりゃいいや」ポヨ殿が顎を撫でながら笑声を漏らしている。「兄弟、今回は俺がお前から尻の毛まで毟り取ってやるよ」
「こーわ。じゃ、はい」
 カボ殿が打牌したのを見計らって、次はワシが自摸る。
「……」無言のまま即打牌。
「ヤヅン、早いねぇ。何も言わないところも怖いわぁ」ニヤニヤ笑いながらジョッキを口元に宛がい、空いた手で打牌するポヨ殿。
「沈黙は金ですよポヨたろ」パスト殿が呆れた様子で苦笑する。
 淡々と自摸、打牌を続けていると、――聴牌になった。
「リーチ」点棒を置きながら宣言すると、「まじかよぉ」「えええ、その捨て牌でぇ?」ポヨ殿とカボ殿が同時に呻き声を上げた。
「後は振り込み待ちじゃな?」
 ニヤリと笑いかけると、三人の表情にあくどい笑みが宿った。
「いいねぇいいねぇ、勝負師じゃんかヤヅルンよぉ」ポヨ殿がシャツの袖を捲り、挑発的な笑みを覗かせた。「楽しませてくれよぉ存分によぉ」
「じゃあ私もリーチと」カボ殿が点棒を投げた。「さて、どうなるかな?」
「まじで……」パスト殿が怪訝な面持ちで川を眺めている。「うへぇ、危険牌しかないぞ……」
「チャンパスが振り込まねえと俺がやべぇんだよ、安牌ねえんだって……」
「ほい、ツモ」カボ殿がバラリと牌を並べた。「満貫だから4000オールね~」
「まじかぁ……」「はぁ~!? 親で満貫とかやめてくれよぉ!」「くっ……」
 パスト殿が嘆息を零し、ポヨ殿が喚き声を上げ、ワシが悔しさで拳を固める。
「はっはっは、そう何度も飛ばされませんて」牌を卓に吸わせながら笑うカボ殿。「ヤヅさん、そう簡単に勝たせませんよ?」
「……くくっ、そうだの、勝負事とはそういうものよ」
 この場の空気に当てられてか、ワシも段々と白熱してきたのを感じていた。
「東風戦じゃったの。勝負はここからよ!」
 そう勢い込み、ワシは勝負勘を頼りに更に深みに嵌まり――――

◇◆◇◆◇

「くそがああああ!」
 ワシの目の前で、ポヨ殿がパンツ一丁になって土下座をしている。
「はーっははは! ポヨさん百万もありがとな~!」
 カボ殿が大笑しながら大金の詰まった小袋を掲げている。
「と言う訳で、はい、ヤヅさん」
 パスト殿はワシに十万の入ったギル袋を手渡してくる。
「うむ、首の皮一枚繋がって助かったわい」
 ワシはホクホク顔でギルの入った小袋を懐にしまうのだった。
「いやぁ~熱い戦いだったなぁ。私の一位は揺るがなかったけれど、まさかあそこでヤヅさんがポヨさんから12000も毟り取るとはね~」カボ殿が楽しそうに笑っている。「しかもポヨさんのリーチで、リーチ一発! こんな美しく跳満が出たらそりゃ最高でしょ~」「ぐああああうるせえええええ」ポヨ殿が半裸の態で絨毯を叩いている。「ヤヅルンお前覚悟しとけよおおおお! この借りは必ず返すからなお前ええええ!」
「かっかっかっ! その時を楽しみにしておるよ」
 二位とは言え賞金まで頂いてしまったら嬉しいに決まっている。ワシは今、喜悦と快感で満たされていた。
「さてと、そんじゃま聞かせて貰いましょか」カボ殿がポヨ殿に向かって跪く。「ポヨさんの恋バナって奴をさ」
「何だようくそぉ……」やれやれと立ち上がり、ひとまずそこに座ろうぜと顎で示すポヨ殿。「仕方ねえな、言っとくけど、これ他言無用だからな? こんな話をウチの女性陣に聞かれたら、ドン引きってレヴェルじゃねえからな」
「おいおい、私は女性陣じゃないってか」「ワシを何だと思っとるんじゃお主」
 パスト殿とワシからの非難の視線にも構わず、「まぁお前らは大丈夫だろ、精神年齢的にもよぉ」と手を振って委細構わずの態のポヨ殿である。
 ワシとパスト殿は目を見合わせて、互いに肩を竦め合うも、特に問題無しと話を聞く事にした。
 ポヨ殿から語られる、誰にも聞かせられない恋バナを……

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