2018年3月6日火曜日

【ベルの狩猟日記】026.連続狩猟【モンハン二次小説】

■タイトル
ベルの狩猟日記

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【鎖錠の楼閣】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G



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始話(第1話)■

ハーメルン版■https://syosetu.org/novel/135726/



 夜の帳に包まれた雪山は、風が雪を運ぶ音以外、無音の檻に閉ざされていた。
 頂上から降りてくる凍えるような冷気を纏った風が吹き抜ける、雪原地帯。生物が棲みつくには些か環境が厳し過ぎる場所だが、ランポスの亜種であるギアノスや、牙獣種のブランゴは、人間にとっては厳し過ぎる環境の中でも逞しく順応している。
 だが、現在見える範囲にそういった小型のモンスターは影も形も映らない。生物の営みが絶えた白い空間には、唯一つ、その巨躯を誇示するように闊歩する、大猪が存在していた。
 大猪ドスファンゴ――その固体の中でも、現在雪山を闊歩している奴はキングサイズに分類される程の、圧迫される位の巨躯を有している。人のおよそ三倍近く有るだろうか。二つの大きな牙は、大人の胴の太さを軽く超えていた。まるで巨大な岩石が動いているような趣が有る。
 その巨躯を確認した三人は、横穴から飛び出し、フォアンを中心に展開して行く。
 まず、ベルがけむり玉をドスファンゴへ向かって投げつける。球体はドスファンゴの足許に落ちると破裂し、辺りに白煙を撒き散らす。一瞬にして、吹雪を超える白さが、辺りを静かに包み込む。
 ドスファンゴにはそれが自然現象なのか、人為的に起こった現象なのか把握する術は無い。瞬く間に視界が白く塗り潰される中で、素早く蠢く三人のハンターの姿が、白闇の中に紛れる。
 ドスファンゴの脇にまで接近したフォアンは、斧剣・ジャッジメントを抜き放ち、担ぐような体勢で力を溜め込んでいく。限界にまで溜め込んだ力を放出すべく、一気に斧剣を振り下ろし、ドスファンゴの胴をぶった切る。
「どぅるりゃー!」と言う喊声が響き渡ると同時に、ドスファンゴの体から鮮血が噴出した。
「ブルフッ」とくぐもった呻き声が、牙に挟まれた口から発せられる。
 突如として湧いた激痛に驚くドスファンゴだったが、その視界にはすぐさま脅威の許を映し出す事は出来なかった。困惑を伴った唸り声が両牙の間から湧く。
 ――ざすっ、という擦過音と共に、幾つもの矢がドスファンゴの硬い皮を貫いていく。その度に傷口から火の手が上がり、大猪はあまりの激痛に体を悶絶させた。
 視界に映らぬ脅威に、ドスファンゴはひとまずその場を脱しようと、比較的速い動きで歩き出す。突進しようにも、場所に因っては断崖が広がっている雪原地帯である、視界の晴れぬ今、崖下に滑落してしまう危険性が有り、迂闊に走り出せない状況を作り出していた。
 急いで別の雪原地帯に逃げ込む。そして、追ってくる脅威と、真っ向から対峙する。恐らくドスファンゴは、そんな計略を練っていたのかも知れない。――だが、それは脅威に対してあまりに甘く見積もった計略だった。
 ドスファンゴの体が動きを止める。足許から電流に似た痺れが駆け抜け、全身を一瞬にして束縛されたのだ。突然の事にドスファンゴは何が起こったのか分からない。体を動かそうにも麻痺したように動かず、その場に縫いつけられたように固まってしまった。
 それがシビレ罠と言う、猟人が考えた罠だと気づく事は、永遠に無いだろう。
 シビレ罠の前に回り込んでいた、ネコの被り物のみを装備した少女が、回転式弾倉の拳銃のシリンダーを象ったハンマーを手にして、ドスファンゴの眼前へと現れる。
 一瞬、けむり玉が齎した白い煙幕が晴れ、その姿が露になったが、本来なら感じる事の無い感情が、ドスファンゴの中に降って湧いた。取るに足らない、捕食される物である筈の人間が、今は何がどうしてか分からないが、――――“怖い”。
 眼前に佇む、ハンマーを持っただけの少女が、堪らなく怖く、映った。
「――フォアン君の痛みを、思い知るのにゃ!」
 ――振り上げたハンマーが、ドスファンゴの頭蓋骨を破砕するのに、二撃目など必要無かった。


「……ザレア、フォアン。これはちょっと……やり過ぎじゃない?」
 けむり玉の張った煙幕が晴れると、雪原に現れたのは、血塗れの肉塊だった。
 勿論、元はドスファンゴだった。だが今は、頭蓋は陥没し、牙は破砕し、硬かったであろう毛皮は鮮血に塗れ、納まっていた臓物は撒き散らされ、鮮烈な光景を晒していた。ハンターとは言え、感情を懐く人間には違いないベルにとって、流石に吐き気を誘われざるを得ない光景だった。
「そんにゃ事無いにゃ! こいつは、フォアン君を吹っ飛ばした、酷い奴にゃ! 許す事は出来にゃいにゃ!」
「タダも同然で売られた喧嘩だ、言い値で買っただけさ。そういう奴は、二度とそういう物を売れなくするんだ」
 憤然と、或いは平然と言い放つ二人のハンターを見て、若干畏怖に似た感情を懐かざるを得ないベル。
 冷気とは別種の震えが体を駆け抜けたその時、ベルは頭上を見上げて溜め息を漏らした。
「あの馬鹿……ここには来ないって、やっぱりガセじゃないのよ……!」
 聞こえるのは、翼がはためく時の、風が殴られて発する唸り声。
 夜の闇が敷き詰められた空に浮かぶのは、異形と呼べる白い塊。
 言わずもがな――帯電飛竜・フルフル――それが、雪原に舞い降りるところだった。
 三人はそれぞれに移動を開始し、ベルは刹那に矢を番え、着地する前に先制攻撃として、翼を射抜く。
 ばすっ、と矢が翼膜を貫通すると同時に火の手が上がり、フルフルの巨体が突然の攻撃で落下する。地鳴りがする程の衝撃が辺りを駆け抜けると、フォアンとザレアの二人が一気に震源へと接近する。
 フォアンは攻撃を溜め込む隙を見せる事はせず、すぐに斧剣を振り下ろし、フルフルの柔らかい皮を切り裂いた。斧剣の重量と、フォアンの膂力、そしてフルフルの皮が鱗や甲殻に守られていない事が重なり、あっさりと胴体が切り裂かれ、鮮血が裂傷から迸る。ただ、切り落とす事は出来ず、皮の弾力で跳ね返されて、少し後退を余儀無くされるフォアン。
 まだ立ち上がらない内に、フォアンの反対側へと回り込んだザレアが、正式採用機械鎚を思いっきり振り被り、横薙ぎに叩きつける――と、あまりに強烈な一撃により、フルフルの巨体が転がるようにして移動――胴体が思いっきり凹み、フルフルの口から透明な涎と共に、大量の血液が吐き出された。
 ――フルフルもその時点になって咄嗟に全身に電気を身に纏い、それ以上の攻撃を強制的に中断させる。
 が、それは二人のハンターに対して有効であるだけで、ベルにとっては何の脅威でもない。矢を番え、貫通する威力を込めて弦を引き、――放つ。フルフルの胴を尻尾に掛けて貫通し、フルフルも堪らず踏鞴を踏む。
「ヴァォオオオゥゥオオオオゥゥオオオゥオオオオッ!!」
 怒りに任せた咆哮が、フルフルの長く伸びる首の先端から発せられる。〈バインドボイス〉――あまりに凶暴過ぎる咆哮に、ハンターは動く事すら許されない。だが、それはフルフルにとっても同じ。あくまでそれは、相手を地面に貼りつかせるだけの威力しかなく、それを行っている最中はモンスターも同様に動けない。
「ザレア、罠!」
 咆哮が止むと同時に、ベルがザレアに檄を飛ばす。それを瞬時に汲み取ると、ザレアは道具袋の中から平べったい盤上の道具を取り出し、フルフルへ向かって急接近する。
 その間にベルは同じくポーチから角笛を取り出すと、それをすぐに口に当て、ハンターにとっては何とも感じない音色を、そしてモンスターにとっては非常に不快な旋律を響かせる。
 フルフルが嗅覚に特化したモンスターとは言え、音が全く聞こえない訳ではない。ベルが掻き鳴らす不快な旋律を即座に聞き分けると、顔をそちらに向ける。すぐさま排除しようと尻尾を白い地面に下ろすと、口許へと青白く発光する塊を向かわせる。
 その間にザレアの接近を許してしまったフルフルは、まさか自身の足許に罠を仕掛けられているとは露知らず、突如として全身に走る電流に行動を拘束されても、何が起こったのか咄嗟には分からない状態だった。
「今にゃ、フォアン君!」
「おうとも、任せとけ」
 フルフルの正面に立ち塞がり、斧剣を担いで力を溜め込み始める。その間にもベルは矢を番え、ザレアはハンマーを構えて、万が一への備えは怠らない。
「これで――」フォアンが溜めに溜めた力を、斧剣の先端へと全て注ぎ込み、全力を持って、フルフルの頭へと振り下ろす。「――終わりだ!」
 フルフルの頭へと振り下ろされた斧剣は容易く首を断ち切り、刹那にしてフルフルを活動停止させる事に成功した。
 ……そうして、雪山の長い夜は、徐々に白んでいく――――

【後書】
 連続クエスト、つまり多頭クエって、モンスターの体力が少なめに設定してあるので、一頭クエよりも早く達成する事が有りますよね!
 その辺を意識して綴っていた訳ではないのですが、結果としてモンハンの仕様に近い展開になりましたね!w(ここまでご挨拶)
 と言う訳で第2章フルフル編(ウェズ編と言うべきか?w)もいよいよ次回でクライマックス! ぜひぜひお見逃しなく! 次回、第2章第14話にして第27話「帰る場所」…お楽しみに!

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