2018年4月12日木曜日

【スレアリ】夜伽話sideアリーシャ【TOZX二次小説】

■あらすじ
アリーシャがスレイを夜伽に誘う話。アリーシャ視点。
※アニメ版仕様で、更に設定を捏造しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【pixiv】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。
※注意※2017/07/08に掲載された文章の再掲です。本文も後書も当時そのままになっております。

■キーワード
TOZX スレイ アリーシャ スレアリ

Pixiv■https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8391570
Fantia■https://fantia.jp/posts/12040

■夜伽話sideアリーシャ


「姫様! 今日はスレイさんがお見えになるそうですね!」

イアンが嬉々として声を掛けてきたのを機に、アリーシャは取り掛かっていた執務から顔を上げ、「あぁ、そうだな」と小さく首肯を返した。
スレイは導師として旅を始めた後も、年に数度、レディレイクを訪れては、アリーシャに旅の話を聞かせてくれていた。
今日も前以てスレイから手紙が届き、今日レディレイクに立ち寄る旨がアリーシャに伝わっていた。
「ところで姫様、世継ぎの問題、いつまで先延ばしにされるのですか?」
イアンの容赦無い質問に、アリーシャは思わず飲みかけていたハーブティーを噴き出しそうになった。
「姫様はハイランド王国の国王です。国王に世継ぎがいなければ、何れハイランド王国は潰えてしまうんですよ?」
「……分かってはいるが、まだ私には早い話だろう」頬を桜色に染めながら咳払いするアリーシャ。「それに何でその話が今ここで出るのだ」
「今だからですよ! 姫様には、スレイさんって言う良い人がいるじゃないですか!」イアンが机を叩きながら喚いた。「いつまでスレイさんを放置しておくんですか! このままだとスレイさん、ロゼさんとくっついちゃうかも知れないんですよ!」
「お、落ち着いてくれイアン。スレイも、その……困るだろう」たじろぎながら手で“落ち着け”とジェスチャーするアリーシャ。「それに、ロゼならスレイを任せるに足る相手だと――」
「それです! 姫様は政務や民草のためなら全力で積極性を発揮しますけど、恋愛沙汰になると全然消極的じゃないですか! そんなんだから、スレイさんと進展が無いんですよ!!」
「今日は一体どうしたんだイアン?」
「姫様に見合いの話が来てるんですよ!」
顔を紅潮させて吠えるイアンに、やっとアリーシャは彼女が訴えたがっている話の大本を理解し、筆を戻して溜め息を吐き出した。
「姫様は、スレイさんの事、諦めるんですか?」
「――――」
アリーシャが返事をする前に、イアンが畳みかける。
それ以上、言葉を返す余裕は無かった。
スレイを諦める。
その言葉が脳裏を過ぎった時、言い知れぬ悪寒が全身を駆け抜けた。

◇◆◇◆◇

スレイは、導師だ。
この世界を救う、救世の英雄。
世界を巡り、穢れを浄化する、終わらない旅を続ける、流浪の者。
――……分かってる。判ってるんだ……
俯き、小声を落とすアリーシャに、覇気は無かった。
スレイの事を想っている自分には気づいている。惹かれていると言い換えてもいい。
けれど、スレイには役目が有る。大義が有る。世界を救う定めに有る。
そんなスレイを、己のエゴで引き留めるなど、留まらせるなど、傲岸不遜にも程が有る。
それが仮に一国の主と言えど、だ。いや、一国の主“だからこそ”だろう。
恋慕を懐いているからと、一緒になりたいからと、己の願望を彼に突きつけて、困らせる。それでは童と一緒だ。
そんな事、分かっているし、納得も出来ている。彼には彼の役割が有り、己には己の役割が有る。それを全うするには、彼は旅を、己は王としての責務を熟す、そうするしかないのだ。
――姫様の気持ちは、それで納得するんですか?
イアンの捨て台詞に、アリーシャは胸を痛めたように、苦しげに呼気を吐き出した。
納得する。納得している、つもりだった。
けれど、国王としてこの地に留まるからには、世継ぎを残さねばならないし、そのための夫を迎えねばならないのも、分かっているつもりだった。
つまりそれは、スレイを諦める事になる、のか。
「……アリーシャ?」
スレイが心配そうに顔を覗き込んだのを見て取り、アリーシャは取り繕うように微苦笑を浮かべ、手を小さく振った。
「大丈夫? 体調悪いの?」
「――あ、あぁ、済まない。ちょっと考え事をしていたんだ」
「そう? あんまり背負い込まないようにね、アリーシャがいないと、皆心配しちゃうよ」
そう言って微笑を浮かべるスレイに、アリーシャは胸の底がチクリと痛んだ。
その中に、スレイも含まれているのかな、と、つい感傷的な想いが浮かんでは消える。
「ミクリオ様は健勝か?」
「うん、相変わらずだよ。今は外で夜風に当たってるけど」
「今も二人で旅を?」
「ミクリオが“スレイ一人だと心配だからね!”って煩いんだ」
「ふふっ、ミクリオ様らしい」
「アリーシャも相変わらず?」
「あぁ、毎日目が回りそうだよ」
二人して小さく笑い合う声が、食堂に溶けていく。
導師を招いての晩餐会と言う態だが、食堂にいるのはアリーシャとスレイの二人だけだった。
スレイは皆で一緒に食事でも、と誘ったのだが、王女と導師の晩餐など恐れ多いと、お偉方は皆辞退してしまい、二人だけでささやかな食事会となっていた。
話が落ち着いた頃、スレイは粗方平らげてしまったテーブルの上から視線を上げ、アリーシャに目を向けた。
アリーシャは布巾で口元を拭った後、スレイの視線に気づいた。
「アリーシャ」改まった様子で、スレイは告げた。「何か困った事が有ったら、何でも言ってくれよ! 俺で良かったら、手伝うからさ!」
一瞬惚けてしまうアリーシャだったが、思わず微苦笑が浮かんでしまう。
己が今、何に関して悩んでいるのか分からないが、何かしら悩んでいると言うのが表情に出てしまったのか、スレイなりに気を遣ってくれたのだろう。
――夜伽に誘いましょう!
不意に、イアンに言われた台詞を思い出し、顔に血液が集まる感覚に見舞われた。
――スレイさんも姫様の事をきっと想ってる筈ですから、大丈夫です!
そう、イアンは豪語していたが、アリーシャは実のところ、スレイに関しては別の意味で疑念を感じていた。
……けれど、もうそんなチャンスも、今回を逃せばもう無いかも知れない。
明日にはまた渡り鳥のようにレディレイクを出立し、穢れ浄化の旅に戻るだろう。
そうなったら、また何ヶ月、いや、もしかしたら何年と言う年月、彼とは逢えなくなる。
渡り鳥は、世界を渡るから渡り鳥。籠に閉じ込めてしまえば、もうその翼は意味を無くす。
一言、言うだけで、彼の気持ちを推し量れる。断られても、構わないとさえ思っていても、アリーシャは喉に異物が詰まったように、言葉が胸を閊えて出てこなかった。
彼を束縛したくない。彼は誰よりも自由に、この世界を渡って欲しい。だからこそ、アリーシャは、小さく首を振って「有り難う、でも私は大丈夫だ」と微笑を返した。
「……本当に?」
「あぁ」
「アリーシャは、嘘を吐くの、下手だよね」
真剣な表情で見つめてくるスレイに、アリーシャは息を呑んだ。
「……いや、ごめん。言いたくない事を言わせるつもりは無いんだ」小さく頭を振ってから頭を下げるスレイ。「でもアリーシャ、何だか辛そうだったからさ……」
「……」
全てお見通し。そう言われたようで、アリーシャは小さく俯いた後、口唇を引き結び、全身が緊張する感覚に身を浸しながら、顔を上げた。
「スレイ。私に……夜伽を、してくれないか?」
「えっ?」
決死の想いで告げた言葉だったが、スレイは間の抜けた声でそれに応じた。
全身を血液が巡る、灼熱感に満たされるアリーシャ。王女が何て事を発言してしまったんだ、思考が目まぐるしく回り、混乱と羞恥で眩暈がしそうになりながら、アリーシャは思わずスレイを遮ろうと両手を上げて「い、いや、今のは忘れ――」と口にしたところで、「アリーシャが良いなら、良いけど……」と言うスレイの返事に、アリーシャは顔を真っ赤にして、彼をまじまじと見つめてしまった。
スレイも頬を赤く染めて、ぽり、と、その充血した頬を掻いていた。
「い、いい、のか……?」確認するように、アリーシャが間の抜けた声を落とした。
「うん、アリーシャの頼みだからね、言わせたのも、俺だし」
「そ、そう、か……で、では、その、お願い、します……」
「う、うん」

◇◆◇◆◇

気まずい晩餐を終え、寝衣姿で閨房に佇んでいるアリーシャの顔は、熟れたリンゴのように真っ赤に染まっていた。
まさか本当にスレイが誘いを受けるとは思っていなかった。……と言えば嘘になるが、あのスレイと同衾する事になるなど、想像もしていなかった。
鼓動が鳴り止まず、アリーシャは心臓が喉から飛び出そうな程に緊張していた。
一つになる。それは天族と融合する神依化とは全く意味を異にする。
……それでも、
スレイが己を受け入れてくれた事に、深い感謝と、愛情が膨らんだ事は、確かだった。
「アリーシャ? 入るよ」
控えめなノックの後に、寝衣姿のスレイが姿を現した。
その時点でアリーシャの心臓は爆発しそうな程に高鳴ったのだが、彼の手に有る分厚い書物を目にした時、その書物が何を意味するのか瞬間理解できてしまい、すっと鼓動が落ち着いていった。
スレイはアリーシャが微苦笑を浮かべて待っているのを見て、天蓋の寝台に歩み寄ると、「じゃあ、夜伽、始めるよ!」と分厚い書物を紐解き始めた。
「……スレイ。確認したいんだが、夜伽とは、どういう事を差す言葉だっただろうか」
「えっ? 寝る前に物語を読んで、寝かしつける事でしょ?」不思議そうに書物から顔を上げるスレイ。「まさかアリーシャからそんな事言われるなんて思ってなかったから、俺ビックリしちゃってさ」
そう言ってはにかむスレイを観て、アリーシャは(やっぱり)と落胆と一緒に、安堵を覚えた。
スレイは、物を知っているようで、その知識には偏りがある。夜伽には、確かにそういう意味も含まれているが、この場合の正しい意味は――
「もしかして、俺何か勘違いしてる……?」
不安そうに顔を覗き込むスレイに、アリーシャは小さく頭を振って微笑んだ。
「いいや、何も間違ってない。聞かせてくれないか、スレイの夜伽を」
そうだ、己とスレイの関係は、これでいいんだ。
そう、アリーシャは己の中で何かがすとんと腑に落ちた感覚に満たされ、瞼を下ろす。
「うん、じゃあ始めるよ!」
嬉々として、スレイは語り始める。今は昔。導師がいました……
長い長い物語は、何度も聞いた事が有る、耳に馴染む声で、アリーシャの中に広がっていく。
そうして暫く話し続けていたスレイだったが、途中で「……アリーシャ? 寝ちゃったかな」と、小さな声で確認するように呟いたのが聞こえた。
アリーシャは夢と現実の狭間でうつらうつらしていたが、寝ている事にして、このまま幸せな夢の中に――――と思っていたら、額に、柔らかな感触が触れた。
ぼんやり瞳を開けると、スレイの顔が眼前に有った。
「今はこれが限界。ごめんね、アリーシャ」小声で呟くスレイ。「いきなり夜伽って言われてビックリしたけど、ミクリオに相談して良かった……これで誤魔化せたよね」
そう言って、スレイが離れていく。
無意識に、アリーシャは彼の服の袖を握り締めていた。
驚いた様子で振り返るスレイに、アリーシャは顔を真っ赤に染め上げて、呟いた。
「……ズルいぞ、スレイ」
「……もしかして、今の、聞こえてた?」
涙目で訴えかけるアリーシャに、スレイは冷や汗を流したが、観念したように、アリーシャに向き直るのだった。
「……今夜は、帰さないからな?」
「……本気?」
「……本気だ」

◇◆◇◆◇

――そうして。
盛大な祝賀会が始まるのは、もう少し先の話。

【感想】
時折甘々の恋愛モノが綴りたくなる時が有ります。そんな折、友達が「スレアリの話描きてえんだ……!」って言ってたのを思い出して、うっかり触発されて綴りきってしまった作品がこちらです。
ゲームは未プレイなのですけど、アニメ版とだいぶ異なる話のようなので、あくまで当作品はアニメ版準拠で、且つ設定捏造と言う前提でご理解して頂けると幸いです。こういう両想いだったらいいな……! 幸せになれよ……! って妄想でした。
因みにタイトルに「sideアリーシャ」とあるように、もう1話投稿する予定の物語が有りますので、そちらもお楽しみに!

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