2018年5月2日水曜日

【神否荘の困った悪党たち】第14話 ひゃー、告白を聞いてしまった【オリジナル小説】

■タイトル
神否荘の困った悪党たち

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。
※注意※2017/02/03に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
日常 コメディ ギャグ ほのぼの ライトノベル 現代 男主人公

■第14話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881797954
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9106

第14話 ひゃー、告白を聞いてしまった


 夜の街が映っているのは分かるのに、高速でカメラが移動しているのか、夜景がモリモリ後方に流れていく。

「もしかしてシンさん移動中なのかな」新幹線の速度のような気がする。
「あー、やっぱり。これもう日色さんと戦ってる所だよ」適当に応じるシンさん。「今光ったあの辺にいるよ」
「えっ? どこ?」全然分からない。
 夜景が凄い勢いで流れていく以外に何も見えない。
「この辺になると、ヒーさんも流石に寄る年波に勝ててないっすねー」しみじみと呟くラヴファイヤー君。「だいぶ大人しい風貌になってきたっすよ」
「えっ、どこに祖母ちゃんが」全然見えない。
「本当ですね~、この辺になると自分の知ってる日色さんだぁ~!」嬉しげな砂月ちゃんの声が聞こえる。「可愛らしいお婆さんですよね!」
「皆何を見てるの? もしかしてバカには見えない人だったの俺の祖母ちゃん」
「亞贄君が見えないって言うから、体感速度を変更してみるわねぇ」マナさんが何かをぺたぺた触ってる。「これでどうかしら~?」
 風景が流れる速度が物凄く遅い……と言うか止まっているのに、そこを高速で動く人達がいるのをやっと視認できた。
 俺の知ってる、大人しそうな、優しそうな風貌の祖母ちゃんが、人間を超越した動きで誰かと戦っている。
 相手は――今よりちょっと若い、真っ黒なスーツに身を包んだシンさんだ。
「殺し合いをしてるんですか?」凄い動きで駆けっこしてるように見えるけど。
「追い駆けっこしてるんだよ」シンさんの欠伸交じりの声が聞こえた。「日色さんに追い駆けっこで勝負を決めようって提案されてさ」
「殺し屋とは思えない平和的な解決を図ったんですね」追い駆けっこで勝負を決めるって、まるで小学生みたいだ。
「それがさー、日色さんってアレじゃん? 刃物通らないし、薬物効かないし、爆破も溶解も通じないし、鋼って言うかオリハルコンの心してるし、家族に手を出そうとしたら雇い主全員ぶっ飛ばされるしで、打つ手なしだったんだけどさ、日色さんから“私は殺せないから、追い駆けっこで負けたら死んであげるよ”って提案されちゃってさー」
「今まで人間辞めちゃってる部分ばかり見て聞いてましたけど、もう人間辞めちゃってる通り越して、祖母ちゃんは人間性をどこに置いてきたんだろうって感想しか出てきませんね」俺の祖母ちゃんがこんなに頭おかしい訳が無い。
「でもこれ……日色さん、手加減してますよね?」砂月ちゃんの感嘆した声が聞こえる。
「そうなんだよー、あたしの目算じゃ、本気の二割も出してないんじゃないかな」シンさんの落胆した声が聞こえる。
「これで二割」言葉が無くなる。「ところでこれ、追い駆けっこって、スタート地点はどこでゴールはどこなんですか?」
「スタート地点は適当に決めたんだけど、ゴールは世界三周して、スタート地点に先に立った人が勝ちってルール」
「フルマラソンの何十倍の追い駆けっこなんだろう」俺の頭もおかしくなりそうだった。
「勝ったー」ゴールと思しき場所に立った、見覚えのある祖母ちゃんが両手を挙げて万歳している。「これで私の勝ち、いいな?」
「……あぁ、あたしの負けだ」若干若いシンさんが祖母ちゃんの前で大の字に倒れる。「チクショウ、それであたしに何をさせたいんだ?」
「何か約束したんですか?」悔しげなシンさんを眺めながら虚空に尋ねる。
「あたしが勝ったら日色さんに死んで貰う約束だったんだからさ、相応のリスクをあたしは背負わないといけないだろ?」ポリポリとポップコーンを食べる音が聞こえる。「あたしの命を自由にする権利を約束したんだよ」
「人はもう殺したらダメ。いいな?」若かりし頃のシンさんを見下ろしながら呟く祖母ちゃん。「暇なら私と一緒に暮らさないか?」
「ひゃー、告白を聞いてしまった」照れ始めるよ。
「婆さんから告白されて何が嬉しいんだよ」苦笑を浮かべてる気がするシンさん。「まぁ嬉しかったけどね。暇だったし」
 映像が切り替わり、神否荘に戻ってきた。
「祖母ちゃんが最初から最後まで人間辞めてるんですけど」どうしたものかと腕を組んでしまう。
「あら~、亞贄君、最初はまだ知らないでしょ?」マナさんが頬に手を当てて小首を傾げる。「次は私の人生を覗かせてあげるわ~」
「えっ、マナさんのはさっき見ませんでしたか?」爆撃ばっかりだったけど。
「アレは私の分だったじゃないですか!」式子さんが俺の周りをふわふわ回り始めた。「マナさんはもっと昔から日色様と交流が有ったんですよ!」
「えっ、そうなんだ」それは驚きだ。「因みにいつから交流が有ったんですか?」
「うふふ~、それは見てのお楽しみよ~」朗らかな笑顔で人生体感VRに触れるマナさん。
 神否荘の景色が切り替わり、周りには着物を着た人間がたくさん行き交っている。
「えっ、これいつですか?」明らかに昭和とかの映像ではない。
「今から百五十年ほど昔かしら~」マナさんの懐かしむ声が聞こえる。「確か~、江戸時代だったかしらねぇ」
「マナさんも人間辞めちゃってたんですね」もう驚きが麻痺してる。
「ほら、アレよアレ~」嬉々としたマナさんの声が聞こえる。「あの小さいの私と日色ちゃんよ~」
 着物姿の人間が行き交う路地の一角に、確かに小さな幼女が二人並んで歩いている。
 既に風格を漂わせている黒髪の幼女が、すぐに祖母ちゃんの幼い頃の姿なのだと分かった。
「可愛い~!」砂月ちゃんの嬉しげな叫びが聞こえた。「幼児化した日色さん可愛過ぎでしょ~! ハスハスしますねハスハス!」
「幼児化って言うか幼児の頃の祖母ちゃんだよねこれ」勝手に祖母ちゃんを幼児化させないでほしい。「小さくても何かもう風格漂わせてますね」
「それはそうよ~、日色ちゃん、もうこの頃には辻斬りとか野伏せりとかボッコボコにしてたんだもの~」マナさんが懐かしそうに呟いてる。
「この頃からですか」さぞ恐れられただろうなーと他人事のように思ってしまう。
「あいつ、悪い人だ」幼い祖母ちゃんが誰かを指差して呟いた。
「退治しちゃうの?」幼いマナさんが小首を傾げる。
「ぶっ飛ばしてくる」幼い祖母ちゃんが腕まくりして誰かを追い始める。
「行ってらっしゃい~」小さく手を振る幼いマナさん。
「あぁ~、いいっすねぇ~」ラヴファイヤー君の感動してる声が聞こえた。
「あっ、もしかしてラヴファイヤー君ってロリコンなの?」うっかり尋ねてしまった。
「小さい子って、美味しそうっすよね!」この人そう言えば悪魔だった。
 幼い祖母ちゃんが手を真っ赤にして帰ってきた。「ぶっ飛ばしてきた」
「おてて、真っ赤じゃない~、そんな時は~、わたしの作った~、おててキラキラ絡繰りの出番よ~!」幼いマナさんが手袋みたいな装置を取り出した。「これを嵌めるの」
「嵌めたぞ」幼い祖母ちゃんがおててキラキラ絡繰りを両手に嵌めた。
「おい駆動!」おててキラキラ絡繰りのスイッチを押す幼いマナさん。
 シャキーンッ、と言う音が鳴ると、おててキラキラ絡繰りが吹っ飛び、下からピカピカに輝く幼い祖母ちゃんの手が現れた。
「キラキラだ」自分の手を見て感動している幼い祖母ちゃん。
「当然よ~、私ってば何でも作れちゃうんだから~!」えっへんと胸を張る幼いマナさん。
 そこで映像が切り替わり、神否荘に戻ってきた。
「めっちゃほんわかしましたね~!」顔が緩んでる砂月ちゃん。「日色さんもそうですけど、マナさんも可愛かった~!」
「そうだね」コックリ頷く。
「めっちゃ美味しそうだったすね~!」頬が緩んでるラヴファイヤー君。「ヒーさんもそうっすけど、マナさんも美味しそうだったっす~!」
「ラヴファイヤー君にロリっ子を見せたらいけないって俺今学んだから」コックリ頷く。
「あの頃から強いのかよー、タイムスリップして殺そうって考えたけど無理かー」ポップコーンを食べながら不服そうに呟くシンさん。
「時間遡行してまで約束破ろうとする人初めて見た」こわっ、近寄らんとこ……
「さて、いよいよ残りは二人だけよ~」うふふ、と頬に手を当てて俺と砂月ちゃんを見据えるマナさん。
「あっ、もしかして俺も見せなきゃダメですか?」思わず姿勢を正してしまう。
「最後は嫌なんで自分から行きます!」しゅばっと奪い取るように人生体感VRに手を置く砂月ちゃん。
「あっ、狡い」俺も最後嫌なのにー。
 神否荘の映像が切り替わり、どこかの校舎の中が映し出された。

【後書】
 健全にも程が有るシンさんと、寿命すら凌駕するマナさんの回でした。
 お姉さんとお婆さんとの健全な女の友情……アリ、ですね!(唐突に
 ラヴファイヤー君に小さい子は見せちゃいけない、ここテストに出まーす。
 と言う訳で次回、「ひゅーっ!」……砂月ちゃんと亞贄君の回で、人生体感VR編終幕です! お楽しみに!

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