2018年5月2日水曜日

【余命一月の勇者様】第8話 ヨモスガラの山林〈3〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2016/11/22に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第8話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9007

第8話 ヨモスガラの山林〈3〉


「夜藤さん家の子、魔族だったんですって」

 幼少の頃に聞き慣れたそのセリフは、呪詛として体内に溜まり続けた。何度も何度も嬲られるように刻まれ、打ち込まれていく楔のようなそれは、生きている事自体を投げ出したくなるほどに辛く、苦しい言葉だった。
 魔族。人族と敵対する存在。それは、魔力を有するだけの人族……なのに、人族は魔族を敵視し、排斥するように行動する。
 親に捨てられ、石を投げられ、何度と無く死を覚悟した。それでも生きているのは、ただ運が良かったから。
 盗賊として生きようと思ったのは、それしか食べていける道が無かったから。併し、それすらマトモに熟せず、やがては首領にすら見咎められ、最後のテストだと言われた盗みにすら、失敗しそうで。
 だからレンは、ここで彼らを助ける事に躊躇は有れど、希望は無かった。

◇◆◇◆◇

「おい、泣いてるのか?」
 目覚めて早々にミコトの顔が飛び込んできて、レンは大いに慌てた。顔を持ち上げようとして額と額がぶつかり、「ってぇ……」「いったぁい!」と互いに顔を押さえて悶絶する。
「どうしたー? 朝からケンカかー?」「あうぅ……」
 ビシャビシャに濡れた顔で現れたマナカと、その傍に寄り添うように二人を窺うクルガ。ミコトは「ケンカじゃねーよ」と言いながら額を指で擦る。
「でもレンの奴泣いてねーか?」服の袖で顔を拭いながら呟くマナカ。
「! な、泣いてないわよ!」思わず目元を乱暴に擦るレン。
「そうか、ならいいんだけどよ」そこでもう関心が無くなったのかミコトに向き直るマナカ。「今日はどうするんだミコト? オワリグマの痕跡はねーぞ」
「そうだな……これ以上奥地には入りたくねーから、来た道を迂回しながら戻るしかないな」そう言って立ち上がるミコト。「レンも顔を洗うか? タオル貸すぜ?」
「あ、ありがと……」釣られるように立ち上がるレン。「って何であんた人の寝顔を覗いてた訳? 張り倒すわよ」
「済まん、何か泣いてたみたいだったから、魘(うな)されてるのかと思ってな」タオルを手渡しながら畔に向かって歩いて行くミコト。
「……」
 レンは何も返さず、ミコトの後を追う。
 やがて湖面に辿り着くと、ミコトは水を掬って顔を洗い始めた。レンはそれを眺めてるだけで、顔を洗い始める素振りを見せない。
「……? 顔、洗わないのか?」不思議そうに振り返るミコト。
「……あたしはまだ、納得してないから」
「何をだ?」
「あたしは……魔族なのよ? 人族の敵で、忌み嫌われてる、あの……」
「俺は魔族を敵だと思ってないし、忌み嫌ってもない。それじゃダメなのか?」
 もどかしそうにレンはミコトを見据えるが、言葉に出来ないのか、フルフルと小さく首を振るだけだった。
「だっておかしいじゃない! 魔族は敵なんだよ? それを嫌わないって、おかしいじゃない……!」
「俺がおかしいって言いたいのか?」
「そうよ! あんたはおかしい!!」
「それは何か悪い事なのか?」
 レンは二の句が継げなくなって、ミコトを見つめる事しか出来なくなった。
 ミコトは顔を拭き終わると、普段の表情でレンを見据える。
「お前を嫌う理由を考えるより、お前を好きになる理由を考えた方が楽しいと思わないか?」
「なッ」突然の発言に顔が真っ赤に染まるレン。
「俺達の中に、魔族って理由だけでお前を嫌う奴がいるなら、話は別だ。だけど、俺達は誰もお前の事を、魔族って理由だけで嫌っちゃいない。それ以上に何を示せば、お前は納得できるんだ?」
 普段と変わらぬ沈着さで、ミコトは語る。
 レンはそれがどうしようもなく歯痒く、もどかしい。
 詭弁(きべん)でしかないと思っていたのに。言い訳でしかないと思っていたのに。丸ごと呑み込むように言われてしまっては、返す言葉が無かった。
「……あんたの事、誤解してたみたい」俯いたまま、ぽつりと呟くレン。
「なら誤解が解けて良かったよ」レンの頭をポン、と撫でて通り過ぎて行くミコト。「早く顔を洗って来いよ、朝飯にしようぜ」
「……うん」
 一度だけ目元を擦った後、顔を洗いに湖面に向かったレンが見たのは、自分のグチャグチャになった顔だった。
「……かっこわるっ」
 呟くと、その顔を何度も水で洗うのだった。

◇◆◇◆◇

「さて、いよいよ時間が無くなってきた。今日中にオワリグマを見つけない限り、俺達に報酬は無い」朝飯の干し飯と塩鮭をお腹に収めながら告げるミコト。「今日やる事も単純だ。昨日使った道を迂回するように戻るだけ。以上だ。何か質問は?」
「はぁい!」ズバァッ、と挙手するマナカ。
「何だ」マナカを見据えるミコト。
「傷はもう良いのか?」
「問題無い」右手を開いたり閉じたりするミコト。「レンの治療もそうだし、痛み止めの薬も効いてる。助かった」
「やったなぁクルガ! 俺達の努力は報われたぞ!! ばんざああああい!!」クルガの両手を引っ張って無理矢理万歳するマナカ。
「ば、ばんざあああい??」訳も分からず万歳させられているクルガ。
「あたしも良い?」そっと挙手するレン。
「何だ」レンを見据えるミコト。
「あたし、足を引っ張ってるみたいだから、ここでお別れした方が、いいんじゃない?」
「ぇええ!?」
 レンが呟いた瞬間、マナカが跳び上がるように立ち上がった。
「お前足引っ張ってねえよ!! 本当だからな!? 俺は嘘ついてねえからな!! お前凄い頑張ってるよ!! ミコトの傷だって、お前がいなけりゃどうなってたか分からねえんだぜ!? なのに!! なぁ!? そんな事言うなよ!? 俺、悲しくなってきちまうよ!! なぁ!?」
 レンの前で大声で喚き始めたかと思えばそのまま号泣に入るマナカ。
 レンは戸惑いを隠せない様子で、「な、泣かないでよ……」とマナカの頭を撫でる事しか出来ない様子だった。
「レ、レンは、がんばってるよ! だ、だから、お別れは、い、嫌だよう……!」トテトテと歩み寄り、泣きべそを掻きながら顔をレンの腹に埋めるクルガ。「あうぅ……」
「……ミ、ミコトぉ……」困り果てた様子でミコトを見やるレン。
「そういう訳だ。お前と別れると困る奴らがいるって事を覚えていてくれ」すまし顔で頷くミコト。「勿論俺もだ。お前が盗賊見習いからちゃんとした盗賊になれるまで見守りたいからな」
「……あぁもう、分かった! 分かったから離れろ! もぉ~! 泣くなぁ~!」
 二人分の泣き顔に迫られ、泣きそうになっているレンだった。

◇◆◇◆◇

「……! おいミコト! やっと痕跡を見つけたぞ!」
 出立してからすぐの事だった。マナカが指差す場所には、樹木を何かが抉った跡が見受けられる。
「でかした」ポン、とマナカの頭を撫でるミコト。「傷が付けられてからあんまり時間が経ってないな。近くにいる筈だ。マナカ」
「おうよ!」と言って再び木の上にするすると上って行くマナカ。「見つけた!」と言う声と共に落下してくる。「あっちの方向!」と山林の先を指差す。
「よし、ここからは俺とマナカの出番だ。二人は俺達から離れずに付いて来てくれ」片手剣を抜き放ち、ミコトは駆け出す。「マナカ、初太刀は任せた」
「おうよ! 一発かましてやらぁ!」大剣に指を添えながらミコトの先を行くマナカ。
「初めてマナカが頼りになりそうに見えたわ」感心するように呟くレン。
「あいつはいつだって頼りになるさ。――見えたぞ、あれだ」
 山林の只中に佇む巨獣。全長三メートルは有ろうかと言う巨体に、鋭利な爪と牙が覗く。マナカに気づいた瞬間、大きく右腕を振り被ってマナカを切り裂こうと薙ぎ払い――
「よっとぉ!」
 一瞬だけ歩調を狂わせ、一瞬早く薙ぎ払われた右腕に足を掛け、跳び上がりながら大剣を抜き放ち――その頭に向かって斬撃を放つが、オワリグマは右腕を蹴られた反動で若干体勢が崩れ、頭ではなく左肩に斬撃が走る。
「グォォォッ!」
 オワリグマが喚声を上げながらよろめくさまを見つつ、マナカは着地しながら既に次の攻撃モーションに入っていた。着地の反動を活かして右回転に大剣を振り回し、今度こそオワリグマの首を刎ねんと斬撃を走らせる。
 オワリグマは振り返りながらそのまま襲い掛かろうとして――マナカの大剣が左肩に突き刺さる。
「やっべっ!」突き刺さった大剣を即座に引っこ抜けず、思わず手を離して距離を取るマナカ。
「グゥルルル……」
 仁王立ちしたままマナカを睨み据えるオワリグマ。左肩には大剣が突き刺さり、鮮血が溢れ出ていたが、その瞳には煌々とした敵意が宿っている。
「グワゥッ!」
「おっとぉ!」
 跳びかかりながら噛みついて来るオワリグマの一撃をバックステップで回避――そのまま近くの木の枝に飛び乗るマナカ。
「頼むミコト!」「おうよっ!」
 樹上で拝む姿勢を取ったマナカに応えるように、オワリグマの背後から頭に向かって斬撃を叩き込むミコト。――が、不運にもマナカの大剣にぶつかり、斬撃を叩き込むどころか倒されてしまうミコト。
「うおっとぉ!」
 尻餅をついた所にオワリグマのパンチが叩き込まれたが、辛うじて転がって回避、透かさず武器を構え直す。
 背後ではクルガとレンが怯えた様子で窺っているが、二人とも既に現状がかなり“不味い”状況である事を肌身に感じていた。
 初撃で動きを封じて二撃で仕留める。それが二人の狩りの基本であり、それ以外の術では倒しきれた試しが無い。
 併も今回は二人の観客がいるため、逃走もままならない。二人は互いにアイコンタクトを飛ばし合い、オワリグマを牽制し合う。
「クルガ! レンを連れて遠くに逃げてくれ!」
「ミコト! 頼んだッ!」
 ミコトとマナカの声が重なった瞬間、オワリグマがミコトに向かって跳びかかる。
 ミコトは咄嗟に右に向かって飛び込み、それに合わせるようにマナカが樹上からオワリグマの背に飛び乗る。
「うおおおおっ!!」
 大剣の柄を握り締め、全力でオワリグマの肉を引きちぎる。オワリグマの口から叫喚が漏れ、振り回す腕に引っかかれそうになった瞬間、大剣が剥がれ、その腕に引っかかれる形で大剣ごと吹き飛ばされるマナカ。
「マナカ!」「大丈夫だ!」
 簡素な掛け声に応じ、二人はオワリグマを囲うように武器を構える。
 互いに初撃を躱された者同士、次に必殺の一撃が来る事を既に予見している。
 二対一とは言え、分が良いとは決して言えなかった。相手は自然界の猛獣で、ここは自然界の只中。彼の領域で戦っているのだから、慢心など出来る訳が無い。
「グゥルル……」
 唸り声を上げ、オワリグマは前後に立ち開かる人族に敵意を向ける。殺意の奔流とも言える害意を浴びて、二人はじりじりと後じさりする。本能的な恐怖が二の足を踏ませる。
「俺が仕掛ける! ミコト、後は任せたぜ!」「あいよ!」
 端的な合図を交わすと、マナカが樹木を蹴って跳び上がり、オワリグマを正面から叩き伏せようとした――その時。
「ま、待ってぇ!」
 不意に、クルガの声が反響して聞こえてきた。

【後書】
 いよいよオワリグマと遭遇! 戦闘開始です、が! はてさて。
「○○だから嫌う」って勿体無いと思いはすれど、中々難しいですよね。
 と言う訳で次回、ヨモスガラの山林編、もう少し続きます。

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