2018年5月1日火曜日

【夢幻神戯】第4話 リスタート〈1〉【オリジナル小説】

■タイトル
夢幻神戯

■あらすじ
「――君の願いを叶えてあげると言ったんだ。対価として、私の願いを、君が叶えるんだ」冒険者ロアは理不尽な死を迎え、深紅の湖の底に浮かぶ少女と契約を交わした。それは、世界を滅ぼすゲームの始まりであり、長い長い旅路の幕開けだった。
※注意※2017/07/07に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
R-15 残酷な描写あり オリジナル 異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公

■第4話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885747217
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/11931

第4話 リスタート〈1〉


「冒険者ギルドへようこそ! 初めて見る顔だけど、新人冒険者さんかな?」

 地図に記載されている都市であれば、どんな小規模な村でも必ず建設されている施設、“冒険者ギルド”。
 正式名称は“冒険者ギルド○○出張所”と呼び、“○○”にはその都市や村の名前が入るのだが、冒険者もその集落の住人も、今では誰でも“冒険者ギルド”と呼称するのが常識となっていた。
 中は受付嬢が立っているカウンター以外に、待合席しか用意されていない簡素な造りで、冒険者の姿は多く見られるが、殆どが入ってすぐカウンターで用事を済ませ、すぐに立ち去ってしまう。
 冒険者ギルドで行える事は、掲示板に張り出された依頼の受諾金の支払い、報酬の受け取り、そして冒険者として登録する事、これぐらいだ。
 カウンターにやってきた若そうな少年を見て、受付嬢が無邪気に尋ねると、彼は「はい、この町で冒険者として活動しようと思いまして」と頷いた。
「やっぱり! じゃあこの書類に記帳してね! 名前と、年齢と、あと使える武器とか~、あと補足の欄に“こんな事が出来るよ~!”って書いておけば、特別な依頼が君に舞い込んでくる事が有るかもだよ!」
 受付嬢の話を聞いているのかいないのか、少年はすらすらと申請書の空欄を埋めていき、「お願いします」と差し出した。
「は~い♪ えーと、お名前は……亞凪(アナギ)ハロ君ね。年齢は十五、特技は……読書? へぇ~、君、本を読むのが好きなんだね?」
 コックリと頷く少年――ハロ。
「じゃあ確かに申請、承りました! 今冒険者の証明書、ギルドカードを発行するから、ちょっと待っててね~!」

◇◆◇◆◇

 カウンターの奥に消えて行った受付嬢を見送り、ハロ――と偽名を使い、全身を擬装していたロアは、小さく溜め息を吐いた。
「結局この【黒鷺】って町に入るんなら、昨日のうちに入っておけば良かったんじゃないの~?」
「別に昨日でも良かったんじゃがの、ワシと昨日行方不明になった少年を関連付けられたくなかったんじゃよ」
 ふわふわと漂うアキに視線を向ける事無く、誰にも聞こえない声量で呟きを返すロア。
 昨日、二人組の冒険者に連れられて【狛鳥】の町を出て行く姿を知っている者がいて、その同じ日に【黒鷺】に似た冒険者が訪れると言う事実は、己が死んだ事にしたいロアとしては、念を入れて揉み消したい事実になる。
 尤も、翌日に訪れたとしても事実は然して変わらないし、気にする者は気にするだろう。だからあくまでこれはロアなりに念を入れたに過ぎない。
 そんなロアを「ふ~ん、そんなに自分の事を嗅ぎ回られたら困るのかい、君は?」ニヤニヤと悪い笑みを浮かべてつつくアキ。
「そりゃあのう。悪い事をしたなら、墓の下まで持って行かねばじゃろうて」
「お待たせしましたー!」受付嬢が持ってきたのは、小さな証明書である金属製のカードだった。「はい、ギルドカードですよ! 絶対に失くさないでくださいね? これが今からあなたの、ハロ君の身分証明書になるんですから! いいですね?」
「はい」コックリ頷くロア――もとい、ハロ。
「ウフフ、良い子ですね! では冒険者として、今後のご活躍を期待しています! またのお越しを~♪」
 手を振って見送る受付嬢を背に、ハロ――もとい、ロアは欠伸を浮かべて冒険者ギルドを後にする。
「さて、まずは当面の拠点を用意せねばな」ギルドカードを腰のバッグに入れながら広場へ向かって歩いて行く。「幸い、数日分の食費なら間に合うとるから、宿さえ確保できれば暫くは不都合あるまいて」
「なにその“前のセーヴデータから引き継ぎしますか?”みたいな冒険者の始め方~? 金も装備も無しから始めてよ~」空中でジタバタし始めるアキ。「って、拠点? こんな地方都市で活動するの君?」
「地方都市の方が冒険者に対する要求値がそもそも高くないからの、その割に地方の人間は、地元に冒険者に居座って欲しいから、報酬は要求値に対して割高。こんな美味しい生活は、大きな町では難しいからのう」
「……君、何て言うか、冒険者としてはだいぶクズよりなんじゃないの……?」
「禍神に言われたらおしまいじゃのう」
 怪訝なアキの視線を物ともせず【黒鷺】の町を散策するロア。青果店に立ち寄り、店主から果実を買う代わりに宿屋の場所を聞き出すと、熟した若菜色の果実を齧りながら路地を突き進んで行く。
【黒鷺】の町は【狛鳥】と対して変わらない、貧富の差が有る事が一目で分かる通りになっていた。
 海風が吹き荒ぶ町の南側――つまり【燕海】に面する海岸側の家々は、木製の建造物が多く、大体が廃屋と言っても過言ではない退廃的な空気を漂わせるものばかり。逆に北側――【梟山(フクロウヤマ)】に面する山の手の家々は、大きさこそ様々だが、殆どがコンクリート製の、しっかりした造りで統一されている。
 このコンクリート製の家々に住むのは、この土地で暮らす元々豪族であった者達か、或いは稼ぎの良い冒険者、と言った塩梅だろう、とロアは軒下を眺めながら通り過ぎていく。
【燕帝國】が特別貧富の差が激しい訳ではない事を、ロアは書物の中で見知っていた。遥か遠国に当たる、大陸の両端に位置する【竜王国】も、過去に【燕帝國】と戦争をして勝利を収めた大国でありながら、今では王族は廃れ、貴族による圧政が酷いと言う噂がここまで届いていた。
 国であれ人であれ、何れは衰退し退廃していくもの。そんな情勢の中で、如何に楽に生きるか、それだけがロアにとって、日々頭を悩ませる問題だ。
 道端に甘い蜜を含んだ果実が生る樹木が立ち並ぶ舗装された道には、海風によって運ばれてきた砂や砂利が多く含まれている。そんな、踏み締める度に音が鳴る通りをのんびり歩いていると、目当ての建造物が見えてきた。
「――ここじゃな」
 シャクリ、と果実を齧りながら見上げたその建造物は、この辺の住宅と様相を同じくする、コンクリート製の建物で、築五年と言った所だろうか。真新しい塀で、壁も綺麗に塗装されている。立て看板には“ゲストハウス・ツークフォーゲル”とあった。
 入り口に扉は無く、暖簾が掛かっているだけ。暖簾をくぐると、中は手前にカウンター、奥に数人の客がテーブルを挟んで談笑している姿が見えた。
 カウンターの隣には上階へ続く階段。奥で談笑している客の近くにはトイレの札が下がっているのが見えた。
 カウンターには十代後半と思しき少女が立っていて、ロアに対して何故か期待の眼差しを投げていた。
「……?」その視線を不思議そうに思いながら、カウンターに歩み寄るロア。「済みません、今日から暫く宿泊したいのですが」
「あなた、もしかして新人の冒険者さん?」ことりと小首を傾げる少女。
「はぁ、そうですが」
「やっぱり!」パァ、と表情を華やがせる少女。「わたしも新人の冒険者なの! 宜しくね!」と、握手を求めてくる。
「よ、宜しく」不思議そうに握手を返すロア。
 ――新人冒険者が宿屋でバイトとはの。
 よほど戦闘に自信が無いのか、冒険の経験が少ないのか。ロアは咳払いをして、改めて少女を見やる。
 目鼻立ちの整った、愛らしい少女である。腰に二振りの短剣を差している事から、恐らくは双剣使いなのだろう。白と青が基調になっている、巫女装束とも冒険者の装束とも違う、けれど両者の特徴を含んだ異装を纏っている。
 白と青が基調の衣装、となれば、【中立国】の僧兵を連想するが、ロアには一見して彼女が冒険者である事ぐらいしか判断が付かなかった。
「えぇと、一泊幾らですか?」小さく首を傾げるロア。
「一泊千五百ムェンだよ!」と言いながら記帳の準備を始める少女。「ここに名前を書いてね! あとギルドカードのコピー取るから、貸して欲しいかな!」
「はい、どうぞ」ギルドカードを手渡し、少女が奥に行ったのを見計らって記帳を済ますロア。「亞凪ハロ、っと……」
「はい、ギルドカード!」すぐ戻ってきた少女にギルドカードを返却され、ロアはすぐにバッグの中にしまい込む。「ハロ君って言うんだね! じゃあ今日の分の千五百ムェン、ギルドカードから差し引いておくから!」
「はい、分かりました。それでは――」「もしかして早速冒険に出るの!?」「――えぇ、そうですが」
 踵を返して即刻立ち去りたかったロアだが、少女の声に足止めされるように振り返る。
 振り返った先の少女は、やはり、瞳をキラキラと輝かせていた。
「わたしも一緒に付いて行っていいかな!?」
「……えぇと、あなた、そこで受付のバイトをしているんじゃ……?」
「おっと、そうだった! 名乗り忘れていたね! わたしはユキノ! 天羽(アモウ)ユキノ! あなたと同じ、新人の冒険者なの!」
「ワシの話聞いてる?」
「ワシ?」
「僕の話聞いてました?」
「あっ、誤魔化した!」
「僕の話を聞いてください」
「同じ新人同士なんだから、遠慮はいらないよ! あなたも敬語なんか使わずに、もっと砕けた感じでさ! さぁさぁ!」
「……」
 だいぶ面倒臭い想いで一杯になってきたのか、ロアは溜め息を大きく吐き出すと、少女――ユキノを指差して睨み据えた。
「あのな姉ちゃん、ワシはお前さんみたいな新人に構ってる暇は無いんじゃ。冒険仲間を誘いたいなら余所を当たってくれんか?」
「やっぱり、お爺ちゃんみたいな口調なんだね!?」嬉しそうに手を合わせるユキノ。「わたしの事、姉ちゃんって呼ぶのなら、わたしはあなたの事、爺ちゃんって呼ぶわ! 決まり!」
「話が通じん奴じゃな……」イライラしながらこめかみを押さえるロア。「ワシの事はどう呼んでも構わんが、ワシに構わんでくれ、面倒じゃ」
「ねぇ爺ちゃん、その腰に差してるのは短剣? あなた、短剣使いなの? それとも、双剣使いだったけれど、片方失くしちゃったの? 或いはこれは護身用で、他の――」「ダァァァァモォォォォーッ! 喧しいわ!!」
 腰に差していた魔剣に触ろうとするユキノから逃れるように振り払うと、振り返らずに宿を飛び出すロア。
「何なんじゃあやつは! とんでもない奴に捕捉されたぞ!」通りを速足で進みながら呟くロア。「あぁもう幸先悪いのう、別の宿を探した方がいいか……?」
「にゃははは! 最高に面白かったよー! にゃはははは!」ロアの頭上を浮遊しながら腹を抱えてゲラゲラ笑い転げるアキの姿が有った。「決めたよ決めた! 私の願い!」
「何じゃ、言うてみぃ」駆け足で広場までやってきたロアは、面倒臭そうに空を見上げる。「ワシが断らん願いを考えたんじゃろうな?」
「さっきの娘――天羽ユキノの願いを一つ、叶えてやってよ」
 ロアを見下ろすアキの瞳には、邪気が色濃く浮かんでいた。
 それを見透かすように見上げるロアの瞳には、呆れ果てた憐憫が滲んでいる。
 併し――ロアは思索する。あの娘の願いを叶えるだけ、と言う内容であれば、易い案件だ。
 新人冒険者なら、不味い願いも言うまい。精々で、依頼を手伝ってくれと言う位だと、ロアは想像する。
 勿論それは、あの娘がこのアキと係わりの無い、無辜の冒険者であると言う前提が必要になるが。
「断ってもいいけど、私の第二の願いが叶うまで、君の第三の願いを叶えられないから、そのつもりでね?」ニヤァ、と邪気をふんだんに載せた笑みを見せるアキ。「勿論、あの娘と私が無関係であるか否かは明かさないし、君の判断次第だけどねぇ?」
「いよいよ以て本性を現しおったな……?」額に青筋を走らせた笑みを覗かせるロア。「……ワシも、そう簡単にお前さんを使役できるとは思っておらんよ。――呑もうか、その願い」
「何を飲むの?」突然顔を覗かせたのは、ユキノだった。
「~ッ!?」驚きのあまり身を仰け反らせるロア。「いきなり近づくで無いわボケェ!」
「えー? 独り言ブツブツ言ってた人に言われたくなーい」ぷぅ、と頬を膨らませるユキノ。「それで、誰を使役するって?」
「それはお前さんとは関係無い話じゃ」はぁーっと重たい溜め息を吐き出しながら眉間をマッサージするロア。「……お前さん、さっきから何かとワシに突っかかってくるようじゃが、一体何の用じゃ?」
「爺ちゃんも新人冒険者なんでしょ? わたしも一緒に冒険したいの! 新人同士なら、偉い人に気を遣わなくてもいいでしょ? ほら、わたしってば天才! ぶい!」ヴイサインを見せて得意気に笑むユキノ。
「……じゃあお前さんの願いと言うのは、ワシと一緒に冒険に行く事じゃな?」やれやれと肩を竦めて歩き出すロア。「今掲示板で適当な依頼を見つけてくるから、待っ――」「えっ? わたしの願い? わたしの願いは、冒険者として一緒に切磋琢磨する仲間が欲しいっ、これだね!」「――と、れ、よ……?」
 真顔で見やるロアと、ニコッと微笑を見せるユキノの目が合った。
 ロアの顔から緩やかに血の気の引いていくのを見て、アキが爆笑していた。
「今のは、ノーカンじゃろ……?」アキを見上げて小さく口を動かすロア。
「いやいや、今の願いを叶える以外に無いでしょ! にゃははは!」ゲラゲラ笑い転げるアキ。「確かに聞いたよユキノの願い! そしてロアはその願いを叶えると、“私と”約束したんだからね!? これは君の意志を蔑ろにした訳ではないと言えるだろうさ! にゃははは!」
 その場で崩れ落ち、ロアは顔面蒼白になった。辛うじて漏れた呟きが、「嘘じゃろ……」と言う、天にも届かない唾だった。
 こうしてロアは、智識も、経験も、特殊な技能も有する、最高のリスタートを切る事になった。
「宜しくね、爺ちゃん!」
 この、明るく無邪気で元気一杯の新人を抱えて……

【後書】
 3話までのシリアス展開をぶち壊すような新キャラの登場です。ほら! 冒険者の日常って言ったでしょ!(取り繕うように)
 かと言って、惨たらしい事態が無くなる訳ではないのでご安心を(?)。わたくしの好きな要素を鏤めつつ、冒険者がどんな日常を送るのか楽しみに追って頂けると幸いです。
 次回、第5話「リスタート〈2〉」……更に素敵な人物が登場する予感です。お楽しみに!

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