2018年5月2日水曜日

【夢幻神戯】第5話 リスタート〈2〉【オリジナル小説】

■タイトル
夢幻神戯

■あらすじ
「――君の願いを叶えてあげると言ったんだ。対価として、私の願いを、君が叶えるんだ」冒険者ロアは理不尽な死を迎え、深紅の湖の底に浮かぶ少女と契約を交わした。それは、世界を滅ぼすゲームの始まりであり、長い長い旅路の幕開けだった。
※注意※2017/07/22に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
R-15 残酷な描写あり オリジナル 異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公

■第5話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885747217
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/13370

第5話 リスタート〈2〉


「姉ちゃんよ、お前さん、仲間が欲しいと言ったが、仲間はお前さんのお手伝いさんではないよな?」

広場に鎮座する掲示板の前で、ロアが確認の意を込めてユキノに声を掛けると、彼女は「えっ? 当然だよ、お手伝いさんなんかじゃないよ!」と憤慨したのか、ぷぅ、と頬を膨らませて反論した。
「そうじゃよな」ホッとロアが胸を撫で下ろした瞬間、「仲間って言うのは、いつだって一緒にいて、励まし合って、研鑽し合う、素敵な関係だよ!」と会心の笑みを見せてサムズアップしてくるユキノ。
「……つまり、何じゃ。その……ワシは、お前さんにずっと付き合わねばならんのか……?」ゲッソリと窶れた表情を覗かせるロア。
「ずっと? ほんとに!? わぁ、嬉しいなぁ!」言葉通り、嬉しそうに頬を染めて小躍りし始めるユキノ。「初めての仲間が、ずっと一緒にいてくれるなんて、心強いよ! 有り難う、爺ちゃん!」と、ロアの手を握り締めてブンブン振り回し始めた。
「あぁぁ……また余計な事を言うてしもた……」がっくりと肩を落として魂が抜けかけているロア。
「にゃははは! にゃはははは!」
ひたすら笑い転げているアキが小憎らしくて仕方ないロアは、彼女を憎悪を以て睨み据え続ける。
「爺ちゃん! この依頼とかどうかな!」
掲示板に張り出されていた依頼の一つを持ってくるユキノに、「もう完全にワシと一緒に行く流れなんじゃな……とほほ……」と疲れ果てた様子で目尻に涙が溜まっているロア。
依頼書には“薬剤師のミクと言います。解熱剤を作るための薬草である“火消草”の在庫が減ってきたので、その採取をお願いします。数は三十も有れば暫くは保存が効くと思います。報酬は二万ムェンですが、数次第では追加報酬も考えます。”とあった。
「薬草採取か。まぁ新人冒険者なら妥当じゃろうな」やっと失意の淵から復活したロアは、面倒臭そうではあったが依頼書をピンッ、と指で弾いた。「分相応な依頼を受けるのなら、ワシも文句は無いわい。手伝ってやろう」
「やったぁ! じゃあ早速受けに行こう爺ちゃん!」と言って依頼書を手に持って駆け出すユキノ。「速く速く!」その場で駆け足しながら手招きしてくる。
「子供か全く……」面倒臭そうにのんびりとユキノを追うロアの視界に、再びアキが映り込んだ。「……お前さん、世界を滅亡させたいとか吐かしとった割には、あんな子供の手伝いをしろとか、支離滅裂にも程が有るじゃろ」
「にゃはは、君も言ってたでしょ?“世界を滅亡させるゲームをして欲しい”って言うのが、私の願いだ、って」ふわりふわりとロアの周りを浮遊するアキ。「別に滅ばなくてもいいんだよ、私は君がゲームさえしてくれたら、何も文句は無いんだ」
「おかしな奴じゃのう」遥か彼方から「速くぅー! まだぁー!?」と手を振って駆け足している子供のような女を見つめながら、ロアは呟く。「ではお前さんは、何だって世界を滅亡させようとするんじゃ? アレか? 人類は世界にとって悪だから滅ぼすとか吐かす奴か?」
「にゃはは、逆だよ逆。“人類は世界にとって悪だから、存分に生き延びて貰わないと、世界は滅びないよ”」邪な笑みを覗かせて、アキはロアの顎をふわりと撫でた。「……と言ったら、君がどういう存在になるか、想像ぐらいは出来るかしらん?」
人類は、世界にとって悪。
人間が生き延びないと、世界は滅びない。
それが前提条件なら、世界を滅亡させるゲームとは、つまり――
「……ワシに、“人類を滅ぼして世界を守れ”、或いは“世界を滅ぼすために人類と戦え”――と?」鼻で笑うロア。「人類はそう簡単に死滅せんのは、お前さんもよく知っとる事じゃと思うておったがの」
「そうだね、“人類はそう簡単に死滅しないね”。だから君がこれからするゲームって言うのは……まぁ、その辺は実際に相対したら嫌でも実感すると思うから、それまで楽しみにしてておくれよ! にゃはは」
意味深且つ不穏な発言を残して、アキは空高く舞い上がってしまった。
勿論ロア自身、彼女が放った言葉を断片的には理解しているし、把握も出来ていた。
彼女が告げたゲームと言うのは、人類が簡単に死滅してしまうような事態から、ロアが救うか否かを判断する……否、“人類を滅ぼすか否かを決めなければいけない”、そういう選択肢に迫られる類いだと判別できる。
仮にそういう場面に立たされたとして。ロアは考える、そんな状況下で己に出来る事など有るのか? ――と。
ロアは、己が特別な人間ではない事を理解している。熟知していると言い換えてもいい。どこにでもいる冒険者の一人で、力が有ると言っても、他の冒険者同様、ダンジョンで手に入れた代物だ。中堅以上の冒険者なら、誰しもが有する力である以上、特別とは言い難い。
他の冒険者と異なる経験が有るとしたら、禍神に蘇らせて貰った事、それに尽きる。その経験が今後活かされる事は無いだろう。だとしたら、一介の人間が、他の人間と比較して差異らしい差異も無い人間が、果たしてそんな大それた選択肢を選ぶ権利を有しているのだろうか。
「爺ちゃん、もっと早く! 若く見えるけど、本当に爺ちゃんなの?」
冒険者ギルドの前で、ぷぅ、と頬を膨らませて仁王立ちしているユキノを見上げて、考えるのがより一層アホらしくなってくるロア。
「戯け、ワシゃまだ十八歳じゃよ」吐き捨てるように応じて、ユキノから依頼書を掠め取りながら冒険者ギルドに入って行くロア。「入り口でもたつくでないわ、他の利用者の邪魔になるじゃろ」
「あっ、そうだね! ごめんね利用者さん!」すすすっと素早くロアの後を追って冒険者ギルドに入るユキノ。「爺ちゃん、新人冒険者なのに凄いね! ちゃんと周りに気を遣えて、更に同輩に注意も出来る……新人冒険者の鑑だね!」
「分かった分かった、分かったから静かにしとくれ、注目を浴びて敵わん」
カウンターに辿り着くと、今朝接客をした受付嬢だと気づき、ロアの表情に一瞬曇りが浮かんだ。
「あっ、今朝の冒険者の卵さん!」
すっかり顔を覚えられている事に焦燥感を隠せないロアだが、ぎこちない姿を緊張のせいだと勘違いしたのか、受付嬢は自信満々な様子で依頼書を受け取り、「なるほど、この依頼を、そこのお嬢さんと受けられるのですね? 畏まりました! 今申請を受理しますからねー!」と朗らかな笑みを浮かべて奥に消えていく。
「あの受付嬢さん、感じが良くて素敵だよね! わたしもあんな風になりたいなぁ~!」キラキラと瞳を輝かせて受付嬢を見送るユキノ。
「……ワシは何か苦手じゃ。お前さんが二人おるようでの……」ゲッソリと窶れ気味に視線を落とすロア。
「はーい! 依頼は確かに受理されましたー! 依頼の期限は明後日までなんですけどね、先に依頼主さんに“火消草”がどんなものか確認して、それと、追加報酬はどれくらいで支払われるのか、これもちゃんと確認してから、依頼を始めてくださいね! それでは、行ってらっしゃーい!」
ヒラヒラとハンカチを振って送り出す受付嬢に、ロアは全く気が晴れない様子で冒険者ギルドを後にする。
「はーい! 頑張ってきまーす!」と大声を張り上げて冒険者ギルドを出てきたユキノは、「よし! 早速この薬剤師さんの元に行こうよ!」
「何でそんな元気なんじゃお前さんは……」元気を絞り出されたような声で応じるロア。「この薬屋の場所は知っとるのか?」
「困った時は人に尋ねるのが早いんだよ! 見てて、爺ちゃん!」と言ってトテトテと通りを行く侍と思しき小柄な女に声を掛けるユキノ。「済みませーん! この“薬屋・アプリコーゼ”ってどこに在るか知りませんか!?」
「怖いもの無しじゃなあやつ……」呆れた様子でユキノを眺めるロア。「見とる方がドキドキするわい……」
「アプリコーゼですか? 私も今から向かう所だったのです、良かったらご一緒しますか?」
侍と思しき女――小さな帽子、衣袴に下駄、扇子に傘に花の簪と、【竜王国】の貴族かと見紛うような礼装の女だ。身なりがしっかりしている事から、よほど裕福な生まれなんだろうな、と思いながら眺めていると、彼女はロアに気づき、静かに脱帽して一礼した。
「私、無迷(ムメイ)トウと申します。以後お見知り置きを」柔らかく微笑む侍のような女――トウ。「貴方はこちらのお嬢さんの保護者、で宜しかったでしょうか?」
「まぁそんなとこじゃが」溜め息交じりに応じるロア。「……因みに、何で保護者じゃと?」
「お爺様と呼ばれていたので」「それあだ名じゃからな? 言うとくけど」「あら、それは失礼致しました。では、えぇと、何とお呼び致しましょうか?」「……爺ちゃんでいいわ」「では、お爺様とお呼び致します」「……」
――また変なのが増えたぞ……
心の中で頭を抱えて蹲っている己を意識しながら、ロアはトウと名乗った女に告げる。
「呼び名はどうでもええんじゃ、早う案内を頼む」
「ええ、心得ました」おっとりと頷くトウ。「ではその前に一つ良いですか?」
「何じゃ」
「私、お腹が空いて動けないのです」
世界が真っ白になる間が有った。
ロアは眉間を揉みながら渋い表情を浮かべていた。
「…………何て?」
「済みません、淑女でありながら、私、空腹で目が回りそうなのです」目がぐるぐる回り始めるトウ。
「大変! 爺ちゃん! この人、お腹を空かせて倒れそうなんだよ! 早くご飯食べさせてあげなきゃ! トウ……さん? 父さん! 父さん、何食べたい?」ユキノが必死にトウを揺さ振り始める。
「淑女は好き嫌いしないものですから……ご馳走して頂けるのでしたら……私、何でも……あっ、海鮮丼……いえ、何でも美味しく頂きますので……」零れそうになる涎を上品にハンカチで拭き取りながらブツブツ呟くトウ。
「爺ちゃん! 海鮮丼だよ! 早く海鮮丼を用意しないと! あ~っ! そんな事言ってたら、わたしもお腹空いてきちゃった! 爺ちゃん! わたし達も一緒にご飯にしようよ! それがいいよ!」
「……」
この時ロアは思い知った。
面倒臭い事柄と言うのは、雪だるまのように転がれば転がるほど、面倒臭さが大きくなっていくのだと。
仏のような顔になって二人を見つめるロアに、上空で笑い転げるアキの哄笑が降り注ぐのだった。

【後書】
素敵な仲間が増えました!(満面の笑み)
1~3話のシリアス展開どこ行ったんだよ! ってレヴェルのほんわか展開ですが、読者様が忘れないように何度も触れておきます。この物語は“冒険者の日常”を描いた物語です。色んなシーン、色んな展開をご用意する予定ですので、どうか彼ら彼女らの奮闘っぷりをお楽しみ頂けたらと思います!
爺ちゃんに、姉ちゃんに、父さん! 三人の冒険はここから始まり、どこに向かうのか! 次回、第6話「リスタート〈3〉」……願いを叶えてくれる少年に願う願いとは? お楽しみに!

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