2018年5月4日金曜日

【余命一月の勇者様】第10話 深き森の半竜〈1〉【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2016/12/11に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第10話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9007

第10話 深き森の半竜〈1〉


「おーい、ミコトー? お前何してんだー??」

 崖の下から聞こえてきたマナカの声に、ミコトは「レンの治療だー」と大声を張り上げ、足場になりそうなポイントを目視する。
「まじかー! 頑張れよー!」再び崖下から応援の喚声が飛んでくる。
「おう、頑張るぜー」足場になりそうなポイントを見つけると、跳ねるように岩を掴み、駆け上がるように崖を登って行く。
 既に山林の枝葉の高さを越え、下を見ても山林が広がっている景色が有るだけで、マナカの姿を確認する事は出来なかった。
「流石マナカだな、よく俺を見つけられたもんだ」
 感心しながら、再び足場になりそうなポイントを探し、反動を付けて跳び上がる。この高さまで来ると、恐らく落下したら良くて大怪我、運が悪ければ助かるまい。
 恐怖は有る。ここで失敗すれば、レンを助けられないと言う恐怖が。自分の命は、本来なら既に尽きているのだから、換算に入れる必要は無い。仮にここで自分が命を落としたとしても、レンが助かるのであれば何も問題は無いとさえ言える。
 せめて火の花と言う薬草を見つけるまでは落ちられないな、と慎重に且つ素早く足場を定めて崖を登り詰めて行く。もう少しで頂上に辿り着きそうだが、そこまで行っても無かったら範囲を縦から横に広げねばなるまい。それは現在の探索範囲が倍以上に膨れ上がる計算になる。
 時間が惜しい今、早急に火の花を見つけて戻りたいが、それは焦りとなって行動を鈍らせる事を、ミコトは把握していた。急ぐのは良いが、焦るのは良くない。可能な限り余裕を持って事に当たるべきだ。
「――っと、頂上に着いちまったな」
 切り立った円錐状の山のようで、頂上のスペースは極僅かだったが、そこには先刻書物で見た薬草――火の花が咲き乱れていた。

◇◆◇◆◇

「誰だお前?」
 古びた小屋の中でレンの汗を拭いている半竜の青年に声を掛けるマナカ。それを見てクルガが思わず、「あ、あの、ま、魔族に、詳しい人、だと、思う」と焦りながら返した。
「お前がそうなのか! 俺はマナカ! 追瀬マナカだ! 宜しくな! 魔族に詳しい人!」
「……で、そのマナカとやら。その脇に抱えてる木片は何だ?」半竜の青年がジト目で尋ねる。
「おう、それがよー、この小屋の扉壊しちまってさぁ、今新しく作ってやったんだ! これなら丈夫だからそうそう壊れねえよ!」ドン、と元扉が有った場所に木片を立て掛けるマナカ。
「……こいつはバカなのか?」疲れ果てた様子で頭を押さえる半竜の青年。
「ぼ、僕もそう思う」苦笑を浮かべるクルガ。
「それでレンの様子はどうなんだ? 助かりそうなのか?」
「助かりそうなのか、か。そもそもこいつは……」
「持って来たぞ」
 立て掛けてあった新しい扉(木片)を退かして戻って来たミコトの手には、確かに先刻の書物に記載されていた薬草――火の花が一輪握られていた。
 それを見た半竜の青年は一瞬瞠目し、それから火の花を受け取る。矯めつ眇めつし、状態を確認し終えた半竜の青年は改めてミコトに向き直った。
「確かに火の花だ。併し、よく分かったな? 頂上まで行くだけの胆力は有るだろうと思っていたが、頂上は火の花と酷似した炎の花と言う薬草の群生地でも有る。素人目じゃ見分けられないと思ったが」
「すげーなミコト! お前薬草の目利きも出来るのか!?」
「いや、適当に摘んだら偶々当たってたみたいだ」
 数瞬の沈黙が小屋を襲った。
「……くっ、はははは!」突然笑い始める半竜の青年。「ははは、くはははは! 面白い奴だ、いや面白い面子だよお前らは」腹を押さえて笑いを堪えると、タオルをレンの腹に載せ、キッチンに向かって行く。「折角だから茶でも飲んで行け。どうせ今日はもうどこにも行けまい」
 ミコトとマナカとクルガは顔を見合わせ、不思議そうに半竜の青年を見つめる事しか出来ない。半竜の青年はキッチンで茶の準備を終えたのだろう、盆に四つの茶碗を載せて戻って来る。
「まぁ座れ。久し振りの客人だから、色々話を聞きたいし、色々話をしたいんだ」
「話よりレンの容態の方が気になるんだが」と言いながらソファに腰掛けるミコト。
「場所無いからクルガは俺の膝の上な!」ミコトの隣に座り、膝の上にクルガを載せるマナカ。
「ぼ、僕別に、地べたでもいいのに……」若干恥ずかしげに俯くクルガ。
「そうだな、お前らが一番気にしてるであろう魔族の娘の容態だが、命に別状は無い。疲れてるだけだ」半竜の青年は茶碗を左手で掴み、ちびりと舐めた。「魔族と一緒にいるだけで、魔族に就いては詳しくないと見たが、違うか?」
「その通りだ。そもそも俺達は村から出た事が無いような田舎者だから、外の世界の情報は殆ど知らない。人族と魔族が敵対している事だって、話半分くらいにしか聞いていなかった」ミコトは真剣な表情で半竜の青年を見据える。「じゃあレンはただ疲れて眠っているだけ、と言う認識で良いんだな?」
「より正確を期するなら、魔法を使った事による魔力の喪失を、生命力が代替して埋め合わせているから、肉体が慢性的な疲労状態に陥り、昏睡から覚醒にシフトする事が出来ない、と言う状態だ」茶碗をテーブルに戻す半竜の青年。「時間が経てば自然と起きるし、後遺症も無い。ただ、今の娘の状態を見て、お前はどう思った?」
「魔法は極力使わせない方が良いとは感じたな」やっと安心したのか、茶碗に手を付けるミコト。「大切な事を教えてくれて有り難う、お陰で少しはレンの事を分かってやれると思う」
「……つくづく思うが、お前は不思議な奴だな」半竜の青年は片眉を持ち上げて剽げた表情を作った。「魔族の娘にここまで気を遣う人族は初めて見る」
「そうなのか? 人族だから魔族に気を遣わないなんて、変じゃないか?」
 茶を啜りながら応じたミコトの発言に、半竜の青年は一瞬呆気に取られた後、優しく思いやりの有る微笑を浮かべた。
「……そうだな、その通りだ」再び茶碗を手に取り、ちろりと茶を舐める半竜の青年。
「なぁなぁ、それよりもさ、俺すげー気になってる事が有るんだけど、いいか?」はいはい! と手を挙げて身を乗り出すマナカに、潰されそうになっているクルガ。
「何だ?」茶碗を置いて応じる半竜の青年。
「あんた、ドラゴンなんじゃないか?」
 間。
「……ドラゴン、ではないな」苦笑を浮かべてソファに凭れ掛かる半竜の青年。「半竜の亜人族さ。厳密には亜人族でもないんだが、形式上は、な」
「半竜って事は半分ドラゴンなんだろ!? 聞いたかミコト! こいつドラゴンなんだってよ! お前のやりたかった事、一つ叶っちまったな!! ばんざああああい!!」「ばんざああああい??」クルガの手を一緒に挙げて万歳するマナカ。
「――お前、ドラゴンに逢いたいのか?」
 半竜の青年が冷静な口調で、ミコトを捉える。ミコトは淡々とした態度で「あぁ、あと四週間くらいの間に、ドラゴンに逢いたいと思ってる」と返した。
「ドラゴンを斃して富と栄誉を受けるためか?」
「どんな奴なのか逢って一目見てみたいだけだ」
「ドラゴンを斃せば、生涯を楽して暮らせる程の富が得られるのにか?」
「そんなもの、俺には必要ないからな」
 半竜の青年はミコトの中から虚偽を暴こうと言うのか、真剣な表情で睨み据えていていたが、やがてお手上げだと言わんばかりに諸手を挙げてソファに凭れ掛かった。
「お前みたいな人族は本当に初めてだ。……条件付きで、教えてやってもいいぜ」
「何をだ?」
「ドラゴンの居場所だ」
「まじかよ!?」「まじか」「あうぅ……?」跳び上がりそうになるマナカ、瞠目するミコト、マナカに弾き飛ばされそうになるクルガ。
「条件って何だ?」
「一つは、俺の話を聞く事。もう一つは、お前達の話を聞かせる事。それだけだ」
「それだけでいいのか?」
「それだけで充分だ」
「やったなミコトぉ! これで……何だっけ? 何かの情報を得るためのお金が必要で無くなった……のか?」うろ覚えの様子で顎を摘まむマナカ。
「ドラゴンの情報を得るためのお金な。確かにそうだが、現状塩鮭が枯渇して、干し飯も残り少ないから、急いで金を稼がないといけない事には変わりないぞ」
「あうぅ……ごめん、干し飯食べ過ぎた……?」おどおどとミコトを上目遣いに見上げるクルガ。
「寧ろクルガはもっと食え。お前はもっと大きくならなくちゃならねえんだから」ポン、とクルガの頭を撫でるミコト。「心配しなくても何とかするさ。俺達は普段金の無い状態で生活してるようなもんだしな」
「そうだぜクルガ! 俺とミコトは二週間ヨモスガラの山林の樹液だけで過ごした事も有るからな!」ナハハハと笑い飛ばすマナカ。
「す、凄いね……!」瞳をキラキラ輝かせるクルガ。
「金にも困ってるのか」半竜の青年が苦笑を覗かせる。「そんな気にさせるような面子ではあるが、まさかその通りだったとはな」
「あと、あんたには悪いが、今回ヨモスガラの山林を訪れた理由でもある、オワリグマ退治の件の関係で、俺は急いで街に戻らなくちゃいけない。冒険者ギルドに報告に行かなくちゃいけないんだ」
「そう慌てるな。折角の客人を見す見す逃したくないんだ」腰を浮かしかけたミコトに手で制止を掛ける半竜の青年。「冒険者ギルドへの報告なら代わりに俺がやっておこう。それで問題無いか?」
「問題無いと言うか、それだと俺達はお前の帰りをここで待っていれば良いと言う事か?」イマイチ要領が掴めず小首を傾げてしまうミコト。
「風ノ音鳥(かぜのねとり)と言う名前は聞いた事が無いか?」と言いながら半竜の青年は立ち上がり、階段を上って行く。三人がその様子を見送ってすぐに彼は戻って来た。その腕には水色の毛並みの小鳥が佇んでいた。「こいつは人の声を運ぶ鳥だ。手紙が使えないような環境で重宝される伝達手段なんだが、知らないか?」
「知らないな」「聞いた事ねーな」「し、知らない……」
「……お前ら本当に何も知らないんだな」苦笑を禁じ得ない半竜の青年。「それで、冒険者ギルドに何と伝えればいいんだ?」
「そうだな……」顎を摘まんで一瞬沈思するミコト。「オワリグマは退治ではなく森の奥地に帰らせた。もうオワリグマが人族に危害を加える事は無いと思うから、この依頼は破棄してくれ。……と、伝えてくれ」
「ええぇ……? そ、それじゃあ報酬が貰えないよ……? ぼ、僕が変な事しちゃったから……?」涙目になってミコトを上目遣いに見るクルガ。「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「クルガが謝る事なんて何もねーよ。お前が頑張ってくれたからこそ、オワリグマは死ぬ事無く森へ帰れたんだし、これ以上無為に依頼を受ける人間が出なくて済む事になったんだからな。お前は凄い事をやったんだ、もっと自分に自信を持て」ポンポンとクルガの頭を撫でるミコト。
「で、でもお金……」
「お金は後で幾らでも稼ぎようが有るだろ? それにその時はお前にももっと頑張って貰うからな、覚悟しとけよ?」クシャクシャっとクルガの頭を掻き混ぜるミコト。
「う、うんっ! 僕、次はもっと頑張るから!」
 嬉しげに微笑むクルガを見て、ミコトは「その調子だ」と頷いて返した。
 丁度その時風ノ音鳥がパタパタと羽ばたいて空洞と化している入り口から出て行くのが見て取れた。
「冒険者ギルドには今し方お前が言った言葉をそのまま伝えた。後で確認のために寄ると良い」
「あぁ、助かったよ、有り難う」改めて半竜の青年に向き直るミコト。「それで? 俺は何の話をすれば良くて、何の話をあんたから聞けばいいんだ?」
 半竜の青年はソファに座り直すと、茶碗を手に取ってちろりと茶を舐めた。
「まずは俺の話から聞いてくれ。お前らがこの世界に就いて何も知らないなら、その話をさせて欲しい。お前らがドラゴンに逢いに行くと言うなら、この世界に就いての情報は多い方が良いだろう?」
「それは構わないと言うか願ったり叶ったりなんだが……何であんたそこまでしてくれるんだ?」
「それをお前が言うのか?」笑いを堪えきれない様子で噴き出す半竜の青年。「そんなお前に感化されたからだ、とは言わんが、単に話し相手が欲しかった所なんだ、茶でも飲みながら付き合ってくれ」
「なるほどな、任せとけ。茶飲み話なら村で婆ちゃんや爺ちゃん相手によくしてたからな」茶碗を手に取って茶を啜るミコト。「あんたの淹れる茶、中々美味しいな」
「だよな!? 俺もそう思ってたんだよ! ミコトレヴェルの茶淹れ名人だぜこいつァ……! あんたすげーよ! 俺に認められるなんてそうそう無いからな!」マナカが頻りに頷いて賛嘆の声を上げる。
「そりゃどーも。ってそれ褒めてるんだよな?」苦笑いを禁じ得ない半竜の青年。「さて、何から話し始めるかな……」
 昼下がりの古びた小屋の中で、座談会が始まる。

【後書】
 作中に出てくる「風ノ音鳥」と言うのはツイッターの青い鳥をイメージして綴りました。
 この異世界にはインターネットやパソコン、携帯電話やメールが存在しない代わりに、風ノ音鳥を代用して連絡を取り合っている、と言う設定です。情報の伝達が遅い分、私はこの世界で暮らしてた方が心穏やかに生きられるんじゃないかなーと勝手に思っております。
 次回、深き森の半竜〈2〉――半竜が語るお話の始まりです。お楽しみに!

0 件のコメント:

コメントを投稿

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!